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第173話 四度目の空砲


そこに現れたのは、今までのような男たちではなかった。


 先程までの男たちは、まだ自分の意思という物があった気がした。戦闘を好むが故に、自ら実験体になって、戦場を楽しんでいるような顔をしていた。


 それが、こいつらはどうだろうか?


 目の前の男たちの目には何も映っていなかった。


 ねじの一本どころではない。それこそ、全てのねじを飛ばして、敵を倒すことだけに特化したような、それしか考えていないような表情。


 外見は三度目の空砲時に出てきた男たちの方が、人間離れしていた。


 戦闘に不必要な物を捨て去って、空っぽの状態にされたような人間。


 そんな不気味さを感じた。


 なるほど、ミノラルを落とす算段をしている割に対したことないと思っていたが、本当の戦力はこっちだったのか。


 モルンも知らなかった国の最大戦力。


 それが十数人ほど、ぞろぞろと虚ろな目で門から出てきていた。


「これは……結構まずいか?」


 先程まで攻めてきて、逃げ出している男たちとはレベルが違う。


 それを肌で感じられるくらい、四度目の空砲で出てきた男たちは雰囲気が違っていた。


 そんな事を考えていると、うち一人が俺の元に勢いよく突っ込んできた。


 そのスピードは、先程までの男たちと比較にならないほど速い。腰に下げている剣を引き抜いて、そのままこちらに突っ込んでくる男を前に、俺は手のひらを向けて構えた。


「【影支配】」


 俺がそのスキルを発動させると、俺の影が一瞬消えた。そして、こちらに突っ込んで来ていた男に絡みついて、そのままその男を勢いよく地面に叩きつけた。


 問題はそこからだった。


 その男は地面に叩きつけられて、そのまま縛り付けられているというのに、力ずくで立ち上がろうとしていた。


 おそらく、【感情吸収】で恐怖の感情を吸っていなかったら、強引に影による拘束を振り払われていただろう。


「裏傭兵団と同等……いや、もしかしたら、それ以上か?」


 俺がその拘束した男に【精神支配】をかけようと手のひらを向けると、何か目の前がきらりと光った気がした。


「うおっ!」


 顔を上げたと同時にこちらに向かってきたのは、電気が弾けるような音を立てながら向かってくる矢だった。


 反射的に何とかかわすことができたそれの行方を横目で追って見ると、それは遥か後方の岩に着弾して、局所的な雷のような電流を流して、その岩を粉々に砕いた。


 裏傭兵団と同等? 明らかに上だろこれは……。


「リリ! ポチ! 一旦退くぞ!」


 目の前で起きている予期しなかった展開。一度作戦を練る必要があると思い、一旦ここを離脱することを考えた。


 俺の声を聞いて、少し遠くの方にいたポチが攻撃をやめてこちらに向かって走ってきた。途中で回収したリリを背中に乗せて、そのままこちらに向かってくる。


 しかし、四度目の空砲で出てきた男たちは、そのポチに標的を合わせたみたいだった。


 先程の弓を使っている男の矢の先がポチに向いた。それだけではなく、他の男たちの目も一気にポチの元に集められていた。


 今この瞬間なら、ポチとリリは遠くに逃げることができるだろう。ただ、俺を回収する一瞬を狙われたら、ここから誰も離脱することができなくなるかもしれない。


 そう考えたとき、答えは一つに絞られてしまった。


「ポチ! そのままリリを乗せて遠くまで走ってくれ!」


「あ、アイクさんはどうするんですか?!」


「後で追いつく! 大丈夫だ、勝算はあるから遠くの方まで逃げていてくれ!」


 俺の言葉を聞いて、ポチは一瞬迷った顔をした後、大きく頷いた。そして、そのまま方向を変えて地面を強く蹴って走り出した。


 ポチが去った瞬間、その場所には先程の雷の矢と、それとは別の雷の魔法が落ちてきて、地面に黒い焦げと、えぐるような跡を残した。


 タイミングが違っていたらどうなっていたのか。想像しただけで、嫌になるな。


「さて、やるか」


 あまり気は進まないが、現状を打開するにはあのスキルを使うしかない。


 三度目の空砲の時に出てきた男たちもまだ倒しきれてはいない。そこに追加で現れた男たちを上回る力を持った男たち。


 合わせて数十いるであろう圧倒的に不利な状況。


 ただ、勝機があるとすれば【感情吸収】で吸い上げた恐怖の感情。先程までの戦いの中で、恐怖の感情は異常なほど吸い上げている。


それをあのスキルと組み合わせたとき、おそらく想像もできないくらいの相乗効果を生むことになるだろう。


「頼むぞ。……いや、後は頼んだというべきか」


 そして、俺は今回で二度目となるそのスキルを使うのだった。


「……【クラウン】」


 そして、そのスキルを使用した瞬間、俺の意識はぷつんと途切れた。


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