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第157話 突然の提案

「最近、クエストに行く回数増えましたね」


「まぁ、出来れば事情聴取みたいのは避けたいしな」


 ガリアから忠告を貰って、数日が経過していた。


 ダンジョンで行方不明になったA級パーティの行方を探していると、そこにモンドル王国の元研究者がいて、国家研究の機密情報のようなものを聞かされてしまい、そのことに対して、その国の人が俺たちに話を聞きに来るかもしれないという状況。


 ……なんでこんなことになったんだ。ていうか、なんだこの状況。


 まぁ、俺があの研究者から何も話を聞き出さなければ問題はなかったのかもしれないが。


いや、それはそれで問題のような気がするな。


 話を聞きに来たモンドル王国からの使者を邪険に扱うことはできないので、俺たちは朝から夕方まで適当な依頼を受けて、そもそも会う機会を失くしてしまおうと考えた。


 簡単な依頼だけを受けて、あとはいつものように食材の回収を行っていた。


 のんびりと狩りをして、昼にバーベキューのような食事をとって、またのんびりと狩りをして、夜には屋敷に帰ってくる。


 ここ最近はそんな日々を過ごしていた。


 オラルにある屋敷の方に行ってしまおうかとも思ったが、それだとさすがに怪しまれる気がしたのでやめておいた。


 しかし、そんなのんびりとした楽しい時間も今日で終わりみたいだ。


「あれ? 屋敷の前に誰かいますね」


「いつもよりも、少し早く帰ってきたからか?」

 屋敷の前には見慣れない馬車が二つ停まっていた。


 長旅に備えてできたような頑丈な造りをしている馬車。


 こんな馬車に乗ってくるような知り合いはいないし、状況的にもこの馬車がどこから来たのかは察することができた。


 そして、今さら逃げるのも怪しいだろうと思って、屋敷の門の前に近づいていくと、そこにいた二人の女性がこちらに振り向いた。


「ん? 失礼、あなたがアイクさんという方ですか?」


 深い赤色のポニーテールを揺らしながら、俺たちと同年代くらいのその女性は落ち着いた声色でそんな言葉を口にした。


 それに倣うように、その奥にいた栗色をした髪の短い女性もこちらに振り返った。こちらの女の子の方が、少し幼い気もする。


「そうですけど。えっと、あなたたちは?」


 俺がそう返答すると、二人は少しだけ姿勢を正してから小さな笑みを向けて言葉を続けた。


「モンドル王国から参りました。……憲兵のモルンと申します。エルシルでのダンジョンの件で、少しお話を伺ってもいいですか?」


「同じく、ノアンと申します」


 よくこんな時間まで粘っていたなと思いながら、俺はその感情を極力隠して何も知らなそうな表情を返した。


「モンドル王国からですか? お話ですか……何か話せることなんてありますかね?」


「はい。ぜひご協力をお願いします」


 どうやら、この場で誤魔化して終わりという訳にはいかないらしい。


 まぁ、それもそうだよな。


 俺たちは往生際よく諦めて、二人を屋敷の中に入れることにした。




「いいお屋敷ですね。冒険者で王都にお屋敷を持っているなんて、珍しいですよね」


「知り合いから安く譲ってもらっただけですよ」


 リリに入れてもらったお茶を囲んで、俺たちはリビングでミノラルからやってきた二人をもてなしていた。


 モルンが落ち着いた様子で屋敷をゆっくりと見渡しているのに対して、ノアンの方は俺の太ももの上にいるポチに触りたいのか、うずうずとしている様子だった。


 もっとお堅い感じかと思ったけど、そんなこともないようだった。


「それで、お話というのはなんですかね?」


 俺は雰囲気に誤魔化されてしまわないうちに、お茶を一口飲んでから話を切り出してみた。


 世間話をするような仲ではないことは明確だったので、この切り出し方で間違ってはいないだろう。


 こんなに早く話が始まると思っていなかったのか、モルンは少し目を大きくした後、小さく咳ばらいをしてからゆっくりと口を開いた。


「そうですね。では、単刀直入に。エルシルにいた研究者の男から、何か聞きましたか?」


「A級パーティが捕まっていたので、その場所くらいですかね」


「他には?」


 じぃっとこちらを追及するように向けられた瞳。思わず逸らしてしまった視線をそのまま上に向けて、俺は思い出す素振りをしながら言葉を続けた。


「他、ですか? いや、特には聞いてないですね」


 俺がそんなふうに返答をすると、モルンはしばらく俺のことを見つめた後、小さくため息を一つ吐いた。


「聞き方を変えましょう。モンドル王国の噂についてはご存じですか?」


「え?」


 まさか、自分からそのことについて触れてくるとは思わなかった。


思わず出てしまった小さな声を引っ込めるように、俺は咳ばらいでそれを誤魔化した。


俺の反応を見て、こちらに向けている目が少し険しいものに変わった気がしたが、それに気づかないフリをして俺は言葉を続けた。


「いえ、知りませんね」


「『非道徳的な方法で、力をつけた兵士達がいる』っていう噂のことです。知りませんか?」


「……初めて聞きました」


 畳みかけるように言及してくるような言葉を前に、俺は思わず視線を逸らしてしまった。


 この聞き方をしてくるということは、初めから俺たちが何かを知っていることに気づいているんじゃないだろうか?


 そうでなくては、こんなものの聞き方はしないだろう。

 

 そう思って視線をモルンに戻すと、モルンはこちらに聞こえるような、少し大きなため息を吐いた。


「やっぱり、あんな実験者を見たらそれが本当だと思いますよね」


「え?」


 モルンはそこまで言うと、先程とは違う柔和な笑みを浮かべていた。こちらが先程までとの態度の違いに困惑していると、モルンはそのまま言葉を続けた。


「それ、根も葉もない噂なんですよ。でも、誤解を与えたままにしておくのも良くないですよね」


「あっ! 別に、アイクさんたちが良くない噂を広げようとしてるとか、疑ってるわけじゃないんですよ!」


 ポチをただ眺めていたノアンが、モルンの言葉に合わせるようにそんな言葉を口にしてきた。


 急に緩んだような空気。なんだろうか、まるで話が見えてこない。


「なので、その誤解を解くためにも、一度モンドル王国に来ていただけませんかね?」


「「……え?」」


 思いもしなかった提案に、俺もリリも間が抜けたような言葉を漏らしていた。


 あまりにも急すぎる展開に、ポチはついていくことを諦めたように大きなあくびをしていた。


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