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第155話 知らない話

「なんか随分開けてきましたね」


「入り口はあんまり広くなかったのにな」


 引き続き、俺たちはアングラマウスの案内に従ってダンジョンの中を潜っていた。いや、もうここはダンジョン中ではないのかもしれない。


 アングラマウスが罠に見立てたギミックを押して、現れた道の先に続いていたのは、人工的に彫られたような洞窟だった。


 初めは荒っぽい造りに少し躊躇いを覚えたが、中に進んでいくとその道も整えられていった。


 ギミックを罠にカモフラージュして、ここへの侵入を防ぐほど見られたくない場所。その場所にいる魔物達のリーダー。


 良そうもしなかったことが立て続けに起きているので、慎重に歩みを進めていくことにして、しばらくの間その道を歩いていった。


 そして、徐々に景色が開かれていった。俺たちの目の前に広がった光景はーー


「なんだこれ……」


「研究、施設ですか?」


 目の前に広がる景色は、どこかの実験室を彷彿とさせるものだった。


 洞窟に灯してある光に照らされている試験管やフラスコは、錬金術の際などに用いるもので、実験台にはあらゆる色をした試験官が置かれていた。


 しかし、実験施設というにしてはあまりにも簡素で、必要最低限の物しか置かれていない。


 ただ個人が実験するためだけの物のようで、こんなダンジョンの奥にあるのは違和感しかない。


「ご苦労様、また実験体を持ってきてくれたのか?」


 すると、突然どこかからそんな声と共に、コツコツと足音が聞こえてきた。


洞窟内に音を響かせて近づいてきた影は、すぐに俺たちのことに気づいたのか、その足音をピタリと止めた。


「ん? な、なんだお前たちは?!」


 姿が見えるくらいまで近づいてきたその影の正体は、初老を迎えた体の線が細い男だった。


 髪が薄いその男は、汚れた白衣姿で俺たちの前に現れると、俺達の侵入を予期しいていなかったのか、目を見開いてこちらを見ていた。


 となると、先程の言葉は俺たちではなくアングラマウスに言ったのか?


「もう追手が来たのか? くそっ……まだ、完成してないというのにっ!」


 こちらに向けられている目は血走っていて、どこか今まで相手をしてきた魔物達と近いものを感じた。


 恨みや憎悪の感情などによって芽生えたような殺意。初めて会う人間に向ける者ではないことだけは確かだった。


 ……何か様子がおかしい。


「リリ」


「はい」


 リリは俺の短い言葉で俺の考えを察してくれたようで、その男にそっと手を伸ばした。


「ひぃっ!」


ただ手の先を向けられただけだというのに、その男は必要以上に脅えて、それに比例するように殺気立った視線を向けてきた。


 そして、後退しようとした男は、そのまま何かに当たって動きを取ることができなくなっていた。


「くっ! なんだこれっ! う、動けないっ! な、なんでだ?!」


「結界をあなたの体の大きさに合わせて張りました。多少は動けますよ、指と足首くらいは」


「くそっ! くそっ!!」


 体の自由を奪われた男は、こちらにその怒りをぶつけるというよりも、動かない状況に怒りをぶつけるように、大きな怒鳴るような声を上げていた。


 感情的な性格として片づけられないくらい、情緒が安定していない様子。口の端から涎を垂らしている様からも、その男から異常性を感じた。


「そうだっ……テイマーのスキルだ! いい、いけるっ、使えるっ!」


 その男は何かに気づいたのか、急にそんなことを呟くと、焦点が合わなくなった目をこちらに向けてきた。


「来い、オーガァァ!」


 突然大きな声でそんなことを叫び出すと、その男の後方から大きな影が姿を現した。


オークよりも一回りほど大きな体をしており、不自然なほど大きく膨れ上がった筋肉をつけているオーガ。


目の前の男の二回りほど大きな体を揺らしながら現れたそれは、ダンジョン内で対峙してきた魔物と同じように興奮状態だった。


「オーガをテイムしてんのか。随分と凄いテイマーなんだな」


 オーガ使いのテイマーなんてのは聞いたことがない。


そう思って純粋にそんな言葉を口にしたのだが、俺の言葉を聞いた男はこちらにも聞こえてきそうなくらい、大きな歯ぎしりの音を立てた。


「くそっ! おまらが作ったものだって、自慢したいのかっ!!」


「……作った?」


 何を言ってるんだ?


 こちらに強いに睨みを利かせて、男はまるで嚙み合っていない言葉を口にしていた。


 それだというのに、勝手にその会話は進んでいく。


「どうせ安い偽物も作れない俺を馬鹿にしに来たんだろ!」


「いや、何を言ってーー」


「やれっ! オーガ、こいつらなんて、ぶっ潰せ!」


 おかしい。全く嚙み合っていないはずなのに、会話が成立しているように話が進んでいく。


 俺たちを何かと勘違いして、俺たちが知らない何かの話が勝手に進んでいく。


 その男は異常な態度を取っているはずなのに、不思議とその会話は不自然なものには思えなかった。


 なんだ? 本当に、この男は何の話をしているんだ?


「ウガァァ!」


「邪魔だな……【精神支配】」


 俺は掴みかかってくるオーガの一撃をひらりとかわして、そのまま額を鷲掴みにして、そのスキルを使用した。


「ウガァァァァ!!」


 そして、オーガは断末魔のような声を叫びながら、力なく俺の足元に倒れ込んだ。


それから、ピクリとも動かなくなったオーガをそのままに、俺は男の方に近づいていった。


「……へ?」


 何が起きたのか分からないよう男は、間抜けな声を上げるとそのまま静かにオーガの方をただ眺めていた。


 何が起きたのか分からないような顔をしているが、抵抗をしようという意思は削ぐことができたみたいだった。


「まずは、A級パーティの居場所を。そのあとは……ちょっと、色々と教えてもらうとするか」


 リリの結界が解かれると、男はそのまま力なく膝から崩れ落ちた。ちょうどいい位置に下りてきた額に手のひらを向けて、俺は続けてスキルを使用した。


「【催眠】」


 俺がそのスキルを使用すると、男の目は虚ろな物に変わった。それを確認して、俺は続けて命令するように口を開いた。


「『まずは、自己紹介から始めようか』」


 俺たちの知らない所で何かが起きている。


嫌な速度で刻む鼓動の音に、俺は微かに不安を感じ始めていた。


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