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第143話 アディショナルタイム

「おいっ! 今すぐ王城へ俺を通せ!」


 エリスの屋敷があるオリスとかいう田舎町から数日間馬車を走らせて、俺はワルド王国に帰還していた。


 王城にいる門番にそう告げると、その門番は急いで王城の中に伝令に向かったようだ。


 数日前、俺はオリスの屋敷から何とか逃げてきたのだ。


 もちろん、ただ逃げてきただけではない。


 念のために、もう一度見ておくか。


 俺は王に捧げるお土産を確認するために、馬車から下りて荷台を確認した。


 すると、そこには、縄で両手を縛られている一人の少女がいた。


 嫌味なくらいに綺麗な金髪は数日間何もしなくても、手入れを行った後のように埃一つ付いていなかった。


 それでも、荷物を運ぶための乗り心地が悪い馬車で数日走ったせいか、その顔には微かに疲れの色が見えていた。


「エリスお嬢様。もう少し我慢してくださいね」


 口を塞がれて何もしゃべれずいるエリスは、何も言うこともできずに静かに俺を睨んでいた。


 盗賊団と裏傭兵団どもがバケモノみたいな冒険者に倒されて、俺もその後に捕まっていた。


しかし、何の偶然か縄の縛り方が甘かったみたいだ。


 他の盗賊たちをその場に放置して、俺は何とか部屋を抜け出すことに成功した。


 部屋の外で騎士団の奴らが話していたが、あのバケモノみたいな冒険者は力を使い果たして、しばらく動けなくなっているらしい。


 その看病とやらで結界魔法を使う女も、エリスの部屋を離れることが増えてきているとのこと。


 あいつらがいないのなら、エリスを誘拐するのは簡単だ。


 捕まっていた部屋を出て広間を覗くと、そこであのバケモノみたいな冒険者たちとハンスで話し合いをしているらしかった。


 多分、また今夜も盗賊団と裏傭兵団が襲ってくると思っているのだろう。


 盗賊団はまだしも、裏傭兵団みたいなバケモノたちみたいな戦力がまだいると思っているのだ。


 そんな戦力があったら、普通に正面から戦争を吹っ掛けるに決まってんだろ、とツッコミたくなるが、それに気づかないということは、あのバケモノたちの頭は良くないらしい。


 俺はその隙をついてエリスを攫って、馬車を奪って、このワルド王国まで何とか逃げてきた。


 途中で気づかれて上級魔法をぶつけられそうになったときは、驚いたがなんとか逃げ出すことに成功した。


 あの女、王女が乗っているのになんであんな魔法をぶつけようとしてくるのか、頭おかしいんじゃないか?


 そう思いながらも、その魔法は大きく外れて後から追ってくる騎士たちの追っても巻きながら、俺はなんとかエリスを攫ってワルド王国に戻ってくることができたのだった。


「レオルド様! お待ちしておりました! すぐに王に謁見を!」


「分かった。すぐに向かおう」


 俺は門番にそう告げると、荷台に乗っているエリスの手首に繋いだ縄を引っ張って、エリスを引きずり降ろした。


 少し強引な降ろし方になったが、べつに問題ないだろう。


 雑に扱われることが嫌なのか、こちらにエリスはこちらに睨むような視線を向けてきた。


 今から自分のせいで、国が大変なことになるというのに威勢だけはいいらしい。


 俺はそんな王女のせめてもの抵抗を鼻で笑って、さらに強くその縄を引っ張った。




「王よ、レオルド帰還しました」


「よくぞ帰ったレオルド。褒美を取らせよう」


「ありがたき幸せ」


「……それで、その娘がエリス嬢か」


 しばらく、謁見の間でそんな会話が続いていた。


 レノンに化けていたレオルドという男。王都の会話から察するに、この二人は初めて会った関係ではないことはすぐに分かった。


 多分、この男は諜報部員として重宝されているのだろう。


 そんな会話も人と段落ついて、王がこちらに視線を向けてきた。


 こちらに向けられた視線は下卑た物だった。上から下まで舐めるような視線。


 そんな視線を向けられて反射的に顔を歪めると、それに気づきながらも王はその視線を控えようとはしなかった。


「はい、ミノラルのエリス嬢です。盗賊団、裏傭兵団が殲滅されながらも、依頼を無事に全うしました」


「ほぅっ、随分と大変だったのだな。よくやった。追加で褒美をくれてやーー」


 そろそろいいだろう。


 いつまでもつまらない話を聞いていても退屈だったので、俺は縛られていた縄を無理やり力ずくでちぎった。


 そして、謁見の中だというのに俺はすくっと立ち上がると、【変化】のスキルを解除したのだった。


「な、なんだ! 貴様は!」


 そして、少女から別の姿に【変化】した俺の姿を見て、王は目を見開いて驚いていて、そんな声を張り上げていた。


 それもそうだろう。さっきまでいやらしい目を向けていた相手が俺だったわけだからな。


 素の姿で仮面だけ被ればいいかと思ったが、それだとレノンのフリをしていたレオルドにバレる可能性があるしな。


 これからやることを考えると、まったく違う姿に化けた方がいいだろうと思い、俺は別の姿に化けていた。


「見て分かりませんか? ただの道化師ですよ」


 身長は二メートルほどに伸ばしてひょろっぽく、気味が悪いくらいに長い手足に、以前この国で買ったピエロの仮面。


 その見た目だけで、君の悪さと少しの恐怖心を煽れるような佇まいで俺は立っていた。


 さて、もう少しだけ無茶をするとしますか。


 こうして、少しだけイリスを守る依頼の延長線がスタートしたのだった。




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