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第142話 次なる一手

「なるほど、情報を渡していたのはレノンさんだったんですか」


 イリスを狙う盗賊団と裏傭兵団の撃退に成功した後、俺は広間でリリ達から報告を受けていた。


 俺が裏傭兵団を撃退してすぐ、レノンがイリスを誘拐しようとして部屋に押し入ってきたらしい。


 よくリリ達相手に一人で向かったなと思ったが、多分気が動転していたのだろうな。何が彼をそうさせたのかは、俺には分からないが。


 そして、今はそのレノンも他の盗賊団と同じ別室に閉じ込めているとのこと。


 盗賊団と裏傭兵団からイリスを守り、内通者も見つけ出すことができた。護衛の依頼を無事に全うすることができたと言えるだろう。


「いえ、あれはレノンではありませんでした」


「レノンさんではない? どういうことですか?」


 ハンスの言っている言葉の意味が分からず小首を傾げると、ハンスはそのまま言葉を続けた。


「レノンはあのような顔をしていません。先程、あの者が倒れたときに顔が全くの別物に変わっていました。おそらく、何かしらのスキルで姿を変えていたのでしょう」


「私も見ました。一気に、歳が一回りくらい老けましたね」


「そんなスキルもあるのか」


 別の物だと勘違いさせるスキルは俺の持つ【偽装】でもできるが、自分の姿を変えることができるスキルもあるとは。


 リリからハンスが殴って気絶させたと聞いたから、そこまで強い敵ではなかったのかと思ったが、それだけ便利なスキルを持つのなら、たとえ弱くてもワルド王国には重宝されていた人物なのだろう。


 まぁ、それも無事にお縄についたわけなのだが。


「じゃあ、本物のレノンさんは?」


「分かりませんが、おそらくは……」


 途中で口をつぐんだハンスの反応から見ると、どうやら、レノンが生存しているという可能性は低いようだ。


 入れ替わりがバレないようにどうすればいいか。


 簡単なのは、その入れ替わる人物を殺してしまうことだろう。


 一体、いつから入れ替わっていたのか分からないが、多分俺たちが屋敷に着いた頃にはすでに入れ替わっていたのだろうな。


 その辺の情報は、後から本人から聞き出すことにするか。


 他に欲しい情報としては、今後の展開がどうなるのかといったことなのだが、捕らえた盗賊団はその辺の事情をあまり知らない様子だった。


 そうなると、頼みの綱は裏傭兵団なのだけども。


「すみません、裏傭兵団を生きて捕らえられていれば、もっと詳しく情報が得られたのかもしれなかったんですけど」


「いえ、一人で強者六人を相手に撃退されたと聞きました。それだけで、十分すぎます」


俺が倒した裏傭兵団の面々は、息をしていなかった。


 ギリギリの戦いだからと言って、重要な情報源を潰してしまったのは少し痛いな。


 ハンスは気にするなと言ってくれているが、今後の作戦を立てる上で情報は欲しい所だった。


 今夜はなんとかイリスを守ることができたが、明日以降も同じように攻めてくるつもりなのだろうか?


 いちおう、開戦までイリスを守ることができれば手を引くだろうという話だが、本当に手を引くだろうか?


 もしも、今日みたいな実力者をもっと従えていたとしたら、そんな簡単に手を引くなんてことあるのだろうか?


 それに、こんな襲撃が毎日続くようなら、戦力的にもじり貧になって負けてしまう気もする。


 ……何かしら、手を打たないとだよな。


「えっと、アイクさんは大丈夫ですか?」


「大丈夫と言うと?」


「今って、全く体が動かないんですよね?」


 リリはずっと気になっていたようで、こちらに心配そうな視線を向けながら、そんな言葉を口にした。


 そう、さっき裏傭兵団を倒して力が抜けてしまってから、まるで体に力が入らないでいた。


 玄関から広間に来るのも騎士団の人に肩を借りて歩いてきたし、椅子に座っている今だって、座っているというよりは椅子に体を預けているような状態だ。


 それでも、悲しそうに眉をハの字にしているリリに見つめられると、なんとなくその状態を隠さなければという気持ちが僅かばかり働いた。


「全くってほどではないぞ。……ただ一人で歩くのが、少し困難なくらいだ」


「全くじゃないですか」


 リリに回復魔法をかけてもらって、外傷はほとんど完治している。それなのに、力が入らないということは、体力と魔力が限界近くまで摩耗されているせいなのだろう。


「それだけ、激戦だったんですよね?」


「まぁ、激戦ではあったな。でも、体が動かないのは別の理由だ」


「別の理由?」


裏傭兵団を倒すために使った【クラウン】というスキル。


 何が起きたのかも分からないが、結果として裏傭兵団を撃退することができた。


圧倒的不利な状況を覆すことができるスキル。きっと、想像以上にチート染みていたものだったのだろう。


そして、そのスキルを使った代償が、激しい体力と魔力消費という訳だ。


今日一日寝ても、全回復するか怪しいくらいの疲労感もある。


毎回このスキルを使う訳にもいかないだろうし、長期戦になればなるほど不利になっていくような気がする。


「なんとか、ワルド王国から刺客が送られてくるのを止めたいですね」


「そうですね。このままだと、あまり良くはないでしょう……」


 そうは言っても、どうしたらいいだろうか。


 イリスを誘拐するまで続くであろう一方的な攻撃を、なんとか食い止める方法はあるのだろうか?


 それに、仮に今回襲ってくる刺客を全員なぎ倒したとして、ワルド王国が敗北を認めたとして、その後イリスを誘拐して来ない可能性はゼロではない。


 最悪、誘拐してからまた戦争を吹っ掛ければいいわけだしな。


 そうなると、その可能性ごとたち切れるような一手が欲しいよな。


 ……方法は、なくはないのか。


「誘拐、させてみますか?」


「はい?」


 思いもしなかった提案に対して、ハンスは間の抜けたような声を漏らしていた。


 リリも俺の言葉を予期していなかったのだろう。少し驚いたように目を見開いて、ぱちぱちと瞬きをしていた。


 このままだとじり貧になって負けてしまう。それなら、こちらから攻めるしかないだろう。


 俺は少し無謀かもしれないと思いながら、その作戦の内容をリリとハンスに伝えたのだった。



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