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第114話 修行の最終試験

「死ぬかと思ったぞ」


「いや、本当にすみませんでした」


 森で悪夢に数時間うなされるルーロが起きるまで待った後、俺たちはルーロの家で夕食を囲んでいた。


 ルーロと朝森に行く前に釣ってきた魚と、アイテムボックスに入れていた魔物肉が食卓に並ぶという宴会のような食事が連日続いていた。


 そして、俺は修行に付けてもらった師匠に【精神支配】というスキルを使って、恐怖心を高めて気絶させてしまった件について頭を下げていた。


「まぁ、私が自分でかけてみろと言ったからいいんだがな。いや、なんというか、初めての感覚だったな」


「ちなみに、【精神支配】のスキルって、使われた側はどんな感じになるんですか?」


 酒を呷っている様子を見た感じ、そこまで怒っているようには見えかったので、俺は今後の参考にするためにもそんなことを聞いてみることにした。


 すると、ルーロはやや渋りながらも仕方なしといった様子で口を開いた。


「暗い、暗い何もない闇の中に落とされて、夢だと思って起き上がって安心していると、また深くて暗い闇の中に落ちる。そして、また夢だと思って起き上がる。そうしていくうちに、徐々にーーいや、なんでもない。やめよう、この話は」


 ルーロは【精神支配】のスキルを使われた時のことを思い出しながら話していたが、やがて身をブルッとさせて口をつぐんでしまった。


 お酒を飲み続けているから気にしていないのかと思ったが、これは思い出さないために酒を飲んで忘れようとしているみたいだ。


「とにかくだ。徐々に道化師らしい戦い方になってきたんじゃないか?」


「そうですね。……道化師らしいんですかね、今の戦い方って」


 道化師らしい戦い方を身につけるための修業なのだが、この戦い方が道化師らしいのかと言われると素直に頷けないでいた。


「追い込まれて、本領を発揮してきたのだろう? それならば、それが道化師らしい戦い方なのだろう」


「そう、ですよね?」


 道化師としての見本がいないという現状。道化師らしい戦い方は自分で見つけていくしかない。


 そうなると、やっぱり今日みたいなのが道化師らしい戦い方になるのかな?


「連れのお嬢さんは一週間帰ってこないのだろう? それなら、それまでにもっと道化師らしい戦い方を身に着けておこう」


「そうですね。また明日から修行をお願いします」


「……修行の間は、【精神支配】のスキルを使うのも禁止にしよう。あれは……よくない」


 少し遠くを見ながらそんなことを口にしたルーロの姿を見て、俺は人間相手にあのスキルを使用するのはしばらく控えることにしたのだった。




 それからルーロに数日修行をつけてもらい、リリが帰ってくる日の前日。


 ルーロと朝ご飯を食べていた所、街の住人がルーロの元に助けを求めに来た。


 どうやら、港付近に以前ルーロが話していた凶暴な魔物が出たらしい。


 その討伐を頼みに来たので、ルーロの代わりに俺がその魔物を相手にすることになったのだ。


 それがルーロとの修行の最終試験ということになるらしい。


「ん? 見えてきたな」


「あれですか。うわっ、なんかすごい魔物ですね」


 ルーロと共に急いで港まで向かうと、そこには水面から長い首を伸ばしている魔物がいた。


 太くて長い首を水面から出して、鋭い牙を剥き出しにしている様はドラゴンを思わせる佇まいをしていた。


首の太さと長さからして、その大きさはワイバーンと同等かそれ以上だろう。


 鱗がない分、厚そうな皮膚と脂肪が体を守っているようで、剣を突き刺しても簡単には内臓まで届かいないように見えた。


「今日は好きに戦うといい。まぁ、水中にいる魔物相手に短剣で戦うとは思えんしな。最後に魔物を道化師らしく倒してみなさい」


「道化師らしく、ですか」


 未知の魔物相手にどうやって戦うか。そこを含めてのテストなのかもしれない。


「ギァアアア!!」


 こちらに気づいた魔物は大きな口を開けて威嚇共に、こちらに突っ込んできた。


 すごい勢いで港に突っ込んで来ようとする魔物を前に、俺は【道化師】のスキルだけを発動させた。


 体を港に乗り出すようにしながら、こちらに長い首で突っ込んできた首長竜の攻撃に合わせて、俺は新たに取得したスキルを発動させた。


「【影支配】」


 大きく開いた口が俺に届く数メートル手前。俺がそのスキルを発動させると、突然魔物が黒い鞭のような物に縛り付けられた。


 急激に動きを止められた衝撃で揺れる波を眺めながら、ちらりと足元に視線を向けていると、俺の足元にあった影がなくなっていた。


その代わりに、俺の影は魔物の足元にまっすぐに伸びていた。そして、そこから伸びる鞭のような物が魔物を強く縛り付けていた。


「ギィ……」


 命の危険を悟ったのか、影で縛られて上手く口を開けなくなっているのか、その魔物は初めに感じていたような勢いが完全に失せてしまっていた。


 そんな魔物の頭に触れて、俺はそのまま別のスキルを発動させた。


「【痛覚支配】」


「ギィヤアアアア!!!」


 俺がそのスキルを使用した瞬間、魔物が影で縛らながら断末魔と共に一瞬暴れた。いや、暴れたというよりは神経を無理やりいじられて、強制的に体を大きく跳ね上げさせられたような動きだった。


 それも一瞬のこと。その魔物は、それきり動かなくなって力なく倒れたのだった。


「いやはや、アイク君の成長には本当に驚いた。見事な道化師っぷりだな」


「……これ、完全に悪役の倒し方じゃないですかね?」


 修行で得た力は人を笑顔にする力ではなく、人が苦しむ様を見て笑う悪い道化師のような力だったみたいだ。


こうして、俺は一週間のルーロとの修行を無事に終えて、道化師として新しい力を得たのだった。


 ……なんか、思ってたのと違うんだけどな。


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