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第113話 【道化師】の覚醒?

「よっし、今日は短剣、ナイフ、あと魔法禁止で修行をしてみるとするか」


「はい?」


 アイテムボックスの新たな可能性を見出した翌日、修行をするために森に入った先でルーロにそんなことを言われた。


 俺の表情を見るや否や、ルーロは破顔させた笑みを浮かべてきた。


 な、なんて楽しそうな顔をしているんだ、ルーロさん。


「いや、それだとルーロさんの攻撃を防げないじゃないですか。S級冒険者の剣士相手に丸腰で戦えと?」


「理解が早いじゃないか。そういうことだ」


 さっそく始めようとしているのか、戸惑う俺をそのままにルーロは鞘から刀を引き抜き始めた。


 まずい、マジこのまま始めるつもりだ。


「本来、君は剣や魔法を使うジョブではないはずだ。そうだろう?」


「そうですけど……いや、そうなんですけどっ」


「本来の道化師としての戦い方。それを本能的に引き出してみようじゃないか。昨日は上手くいったしな」


 ルーロはそこまで言うと、剣を引き抜いて軽く空気を切った。


 それだけで空気が引き締まり、ルーロがふざけているのではないことが分かった。


「そんな近くにいていいのかい?」


 刀を構えたルーロの姿を見るなり、俺は【肉体強化】と【道化師】のスキルを使用して、地面を強く蹴って後退した。


 ただ逃げ回るためではないが、何もアイディアが浮かんでいない状態で、ルーロの攻撃を正面から受け止めるのは馬鹿のやることだ。


 少しでもいいから時間を稼げればーー


「時間を稼ぐにしては、逃げなさすぎだな」


 俺の考えを読むかのようにすぐに距離を詰めてきたルーロは、そのまま刀を振り抜いてきた。


 いつもならここで短剣を取り出して防いでいたが、それをすることができない。ナイフも使えないということは、正面から防ぐなんてできるはずがない。


 ……正面から防げないなら、何か隙をつくような手法でやるしかない。


「【偽装】」


 そのスキルを使ってすぐに、ルーロの剣が俺の腕を深く切りつけた。


「ふんっ! あ、すまん、力を入れ過ぎてしまったか」


 ルーロの目にはそう見えているのだろう。いや、そう見えるように仕向けたのだ。


 アイテムボックスから取り出した適当な解体前の魔物。それに【偽装】のスキルを使用して、俺の姿に見える魔物を目の前に出した。その瞬間に【潜伏】のスキルを使って、一瞬だけ身を隠した。


 一瞬生まれた隙。この隙に【近接格闘】のスキルを使って殴り掛かれれば、一撃くらいは食らわせることができるかもしれない。


 ただ、そのためにはルーロの間合いに自ら飛び込む必要がある。おそらく、間合いに入った瞬間に切りつけられて終わりだ。


 それなら、ここで使うスキルは【道化師】だ。


 道化師らしいことが何でもできるというのなら、剣もナイフも魔法も使わずに、ルーロを倒せる方法を一瞬で見つけ出すしかない。


 俺は脳内に隠れているような道化師に対して、そんな無茶な要求を言葉を投げ捨てるように言い放った。


 すると、どこか不気味な笑み向けられた気がした。


 そして、その瞬間にいくつかのスキルを目の前に垂らされた気がした。俺は垂らされたそれらのスキルをもぎ取って、そのスキルを取得すると同時に使用した。


「【肉体支配】」


 そのスキルを使用した瞬間、真っ赤な丸い形をしたバルーンが何もない所から無数に生まれた。


初めからそこにあったかのようなそれらは、形容しがたい不気味さがあった。


「な、なんだこれは?」


 それはルーロのすぐ目の前や周りにも浮いているそれらは、ただ浮いているだけだった。


 特に害がないように見えたそれらは、攻撃と呼べないものだ。


 少し警戒しているのか、ルーロはそのバルーンに触れようとはしなかった。


 正しい判断だとは思う。そのバルーンの正体を知らないルーロからすれば、それ以外に対処のしようがない。


そのバルーンに囲まれた時点で、すでにアウトだということをルーロは知らないのだから、下手に触らないくらいのことしかできないだろう。


 次の瞬間、周囲に浮かんでいる無数のバルーンが破裂した。


そして、一斉に合図をするかのように割れた瞬間、ルーロの手から刀が落ちた。


 いや、俺が落としたのだ。


「な、なんだこれは?」


 【肉体支配】。バルーンが割れた光景を見た者の体の自由を一時的に奪うことができるスキル。当然、奪うことができるのだから、こちらで操作をすることができるということだ。


 ……何でもありのスキルだとは思っていたが、さすがに何でもありすぎないか? これって。


 そうは言っても、相手は格上。どこまで肉体支配の持続時間があるのか分からないし、早くケリをつけた方がいいだろう。


 刀を手放した状態で動けなくなっていたルーロの体をこちらに向かせると、ルーロは驚きを隠せない様子で目を見開いていた。


「あ、アイク……君は、こんな力を隠していたのか?」


「いや、隠してたわけじゃないんですよ。ルーロさんのおかげで、少しだけ覚醒したのかもしれません」


 そして、このスキルの他にも複数のスキルを取得した。取得したのだが……このスキルって、人間相手に使っていいのか?


「他にもスキルを取得したんですけど、なんかヤバそうなので、試すのはやめときますか?」


「ははっ、安心しろ。ちょっとやそっとじゃ死ぬ気がしない」


「じゃあ、本当に少しだけ。す、少しだけなんで。……【精神支配】」


 俺がルーロの顔の前にそっと手をかざしてそのスキルと使うと、ルーロの瞼がすとんと落ちた。


【精神支配】。このスキルは催眠と似ているスキルだが、完全に上位互換だ。それでいて、支配というくせに恐怖の感情を一時的に高めるだけのスキル。


どのくらい恐怖の感情を高めるのかというと……S級冒険者が気を失うくらい?


そして、そんなチートスキルを手に入れて、俺は静かに一人で思うのだった。


「……完全に悪役のスキルじゃないか」


 人を笑顔にするジョブかと思っていたのだが、恐怖のどん底に落とすようなスキルを手にしてしまった。


 ひどい悪夢にうなされるようなルーロの姿を見ながら、俺はそんなことを思うのだった。


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