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第108話 旅行先で修行開始 リリside

「よっし、これで書き置きも完璧ですね」


 私は誰よりも早く起きると、朝の支度をしてリビングに書き置きを残した。


 アイクさんに言われたやりたいこと。少し前からずっと感じていて、やらなければならないと思っていたこと。


 せっかく時間をくれたのなら、私は私がやるべきことをやらなければならない。


 そう思って、私は一つの決意を胸に、一週間ほどお暇をいただくことにしたのだった。


「くぅん」


「あれ? 起こしちゃいましたかね、ポチ」


 私が置き手紙を書き終えて椅子から立ち上がろうとすると、どこかからやってきたポチが私の太ももの上に乗ってきた。


 じゃれるのではなく、静かに私の目を見つめるポチを前に、私はポチにだけ心の内を話しておこうと思った。


「私はこれから修行に行ってきます。アイクさんのことは、しばらくポチにお任せしますね」


 私がポチの頭を撫でながらそんなことを言うと、ポチは言葉の続きを促すように小首を傾げていた。


 そんな人間みたいな反応を前に、私は微かに笑みを零しながら言葉を続けた。それでも、上手く笑えているのかは、私自身でも分かっていなかった。


「私はアイクさんの助手なんです。それなのに、お姫様の奪還の依頼のとき、アイクさんの力になれませんでした」


 以前にワルド王国に行ったとき、私はアイクさんの力になれなかった。私にもう少し力があれば、アイクさんとあの男の人との戦闘に助太刀できれば、アイクさんに怪我をさせることがなかったかもしれない。


 あの場面で私を先に行かせたのは。お姫様の救出を優先させるためではなく、私を逃がすためだった。


 私に先に行くようにと言ったアイクさんは、どこか必死な様子だった。あの状況で自分の心配ではなく、私のことを心配させてしまったのだ。


 それだけ、今の私は弱いということだろう。


「それに加えて、最近のアイクさんってワイバーンを一人で倒しちゃうんですよ。前は三人で倒したのに、強くなり過ぎです」


 ここに来る道中でワイバーンに遭遇したときも、私はアイクさんとワイバーンの戦いに加わることができなかった。


 加わらなかったのではなく、加わることができなかったのだ。


「足手まといの助手なんていらないんです。このままだと、私はアイクさんの隣にいられなくなる……」


 アイクさんよりも自分が弱いことは知っていた。それでも、初めのうちは少しは一緒に戦えていたと思う。


 それが最近では、足手まといになりつつある気がした。


 完全な足手まといになってしまっては、隣に立つ資格がなくなってしまう。


それだけは、心の底から嫌だった。


 ようやく叶った願いが、手のひらからすり抜けてしまうようで。


「だから、私は修行をして強くなります。アイクさんの助手として、私個人として、アイクさんを支えられるくらいに」


 強く願って奇跡的に叶った私の願い。それを手放さないためにも、今度は奇跡ではなくて、努力をしてその場所を確立させたかった。


「なので、一週間ほど私はあの島に行ってきます。ポチはそれまでお留守番です。アイクさんのこと、よろしくお願いしますよ」


 私はポチに笑みを向けて、そっとポチの体を抱いてから立ち上がった。


「きゃん、きゃんっ!」


 すると、椅子から下ろされたポチは私の周りをぐるぐると回っていた。私が一人で修行に行こうとするのを阻むように回り続けるので、私はそこから動けなくなってしまった。


「ちょっ、あんまりうるさくすると、アイクさんに気づかれちゃいますよ」


 アイクさんとの力の差を埋めるために、一人で修行をするのだ。ここでアイクさんにバレるわけにはいかない。


 それだというのに、ポチは私に道を譲ろうとはしなかった。


「きゃんっ! きゃんっ!」


 私が大人しくするように言っても、ポチは鳴き止むことをしなかった。ようやく、私の前でピタリと止まったが、相変わらず道を譲ろうとはしなかった。


ポチは何かを必死に伝えようとしているようで、その顔はどこか真剣な表情をしていた。


 そこまでしたところで、ようやくポチが訴えかけていることが分かった気がした。


「……ポチも一緒に行きたいんですか?」


「きゃんっ!」


 ポチは食い気味に返事をすると、ただ静かにじっと私の顔を見つめてきた。


 私が少し歩いて玄関の方に向かうと、ポチはその後ろをついてきて、私から離れようとしなかった。


 そうだった。私だけではなかったのだ。


 ポチもアイクさんの強さを目の当たりにしてきた。お姫様奪還の時は、『潜伏』が使えないからと置いていかれて、ワイバーンを一人で倒してしまう所も一緒に見たのだ。


 同じ状況にいるポチが、そんなアイクさんの姿を見て何も感じないはずがない。


「……分かりました。そうですよね、ポチも私と同じ気持ちを抱きますよね」


 私は少しの笑みとため息を一つ吐いて、置き手紙にポチも一緒にお暇をいただく旨を書いた。


少しだけ計画が変わったけど、何も問題はなかった。だって、ただ心強いお供が一緒になっただけだから。


「それじゃあ、行きますか。ポチ」


「きゃんっ!」


 こうして、私とポチはアイクさんに内緒で、こっそりと屋敷を後にしたのだった。


 今度会った時は、一緒に肩を並べて戦える未来を夢に見ながら。


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