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エグゼクティブ・チーム  作者: しんた☆
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エピソード 7

エピソード 7


 隠れ家のような小さなショットバーに、本田がやってきた。この店は顔を思い出してもムカつく相手と待ち合わせする場所だ。カウンタ―を陣取って、あごを手に乗せて瞑目するが、眉間のしわが本田の気分を如実に表している。


「やぁ、久しぶりだね。君から会いたいだなんて。あははは。どうしたんだい?」

「ちっ、だから嫌だったんだ。冴子の奴…」

「ふふ、姉上からの依頼だね。そんなに拗ねていないで、まずは一杯どう?」


 楽し気に笑うこの男、60をとっくに過ぎたイケオジだ。金髪、緑の瞳、整った知的な顔立ちで、いつも身なりを気にしている本田でさえ、見劣りするようなハイブランドで固めている。


「はぁ、仕方ない。今日は付き合ってやるか。」

「ほっほっほ。相変わらずだね。それが依頼先に対する態度なのかい?だいたい君は人とのコミュニケーションの仕方が分かってないんだよ。冴子君にも注意するように伝えておいたんだが、どうやらこの坊やには人の意見を聞く能力が備わっていないようだね」

「ミスターK、今、なんと?」


 穏やかな口調でありながら、二人のにらみ合いは熱い。


「あの、お飲み物はいかがいたしましょうか?」


 バーテンダーがさりげなく抑えに来たが、この二人に聞く耳はない。


「おや、坊やは耳が遠くなったのかい?」

「ほう、やはり耄碌してしまったようだな。私の耳は正常だ。ミスターK、バーテンダーを待たせている。まずはオーダーを」


 いきなりの応酬にもすっかり慣れっこのバーテンダーが、二人に水の入ったグラスを差し出した。


「いや、まったく。よく気が利くよね、君。この坊やに爪のアカをわけてやってくれ」

「ミスターK!バーテンダーに爪のアカなどありえない。君、このおいぼれが失礼した。私には山崎12年ものをワンフィンガー、ロックで」


 バーテンダーが頷いてミスターKに目をやると、こちらも「同じものを」という。


「さて、本題に入るが、カームリー小国でなにが起こっている?」

「ふむ、あの国は、面積は小さいが裕福な国だ。王族と国民の信頼関係もある。ルビーやサファイアの鉱脈が見つかって、一層豊かになっている。」

「つまり、問題は何もないと?」


 ふふっとミスターKは笑みを漏らす。


「何かあるから確認しているのだろ?確かに国内は問題ないが、それだけ裕福になれば、どうしても他国から狙われる。それが世の常だ。」


 カランと小気味良い音を立てて氷が踊る。グラスに口をつけて、ミスターKは目を見開いた。


「ほう、日本のウイスキーもうまいねぇ」


 それには答えずに、本田は自分のグラスの中を見つめながら問う。


「なにか、心当たりがあるのか?」

「ん、ラバリー帝国の王族がどうも落ち着かない。地理的には、サイエン王国を挟んだ形で西と東になるが、サイエン王国の北側の山岳地帯の北で、2国はほんの少し隣接している。そして、カームリー小国の宝石の鉱脈もこの山岳地帯にあるんだよ。そして、その両国の細い国土をはさんで、ノーザンディという国がある。こっちもごたごたしていてね。」

「なるほど。それで、ミスターK、あなたが日本に来ている理由を聞いても?」

「ああ、篠原君に声を掛けてもらったんだよ。彼の優秀な教え子たちが、すごい成果を発揮したと聞いたものでね。あ、そういえば、君も彼の教え子だったね。」


 緑の瞳を細めて、意地の悪い笑顔を見せる。カームリー小国やその周辺国の状況は分かったが、彼が日本にわざわざ来たことと関係があるのかと質問したことを、本田は心から後悔した。


 カランとグラスの酒を一気に飲み干した本田を見て、やれやれとイケオジが呆れる。


「君、酒の飲み方も知らないのかい?12年ものだろ?その熟成年数に敬意を表してじっくり味わいたまえよ」

「フン、年寄にはできない飲み方だろうね」

「君、私を老いぼれ扱いするのか?」

「おや、自覚がなかったのか?」

「なんだと?」


 ミスターKは自分のグラスを握り締めると、ぐいっと一気に飲み干し、カウンターにグラスを置いた。


「いやぁ、うまい酒だ。君、もう一杯いただけるかい?」

「はい」


 バーテンダーが2杯目を作り始めると、本田も負けじとオーダーする。そうこうしているうちに、大人げない酔っ払いが2体できあがるのであった。



「ほら、しっかり立って!佐々木君、悪いわね。ホントにどうしようもないわね、いい大人が」

「あはは。いえ、大丈夫ですよ。こうして回収してくださる方がいらっしゃるお客様はマシな方ですから。」


 細身な割に力のあるバーテンダーの佐々木は、いとも簡単にミスターKを抱えて車に乗せる。一方冴子は本田に肩を貸しながら引きずるようにして駐車場までやってくると、後部座席に荷物のように放り込んだ。

 佐々木に礼を言って車を出すと、自宅マンションへと向かう。


「まったく、どういうことかしらねぇ。手伝ってもらおうと思ったのに、とんだお荷物だわ。あら?」


 信号待ちをしていると、反対車線の歩道を見知った後ろ姿が角を曲がっていったのだ。あれは、教授の研究室で見かけた女性だ。以前、教授を訪ねたとき、おいしいコーヒーと焼き菓子をごちそうになった。

 信号が青になって、進み始めるのと同時に、後ろの方で女性の悲鳴と男性のさけび声が聞こえた気がした。しかし、後ろの車に急かされる形で、冴子は車を進めるしかなかった。


「大丈夫だったかしら、彼女」


 妙に落ち着かない気分だった。いそいで自宅マンションまで帰ると、二人を客室用の部屋に放り込み、急いでテレビをつけた。画面に映っているのは、さっき通ったばかりの幹線道路だ。赤色灯でギラギラした街は、さっきとはまるで様変わりしている。

 画面の右上は死者8名、重軽傷者14名と激しい字体で記されていた。画面上ではアナウンサーがさっき分かったと思われる被害者の名前を読み上げている。そして、その中に、あってはならない名前を耳にして、冴子は愕然とする。


「うそ…」


 冴子は、震える指を抑えながら、篠原や仁に連絡を入れた。


つづく

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