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エグゼクティブ・チーム  作者: しんた☆
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エピソード 2

エピソード2


「ねえ、見て見て! ほら、今入ってきた人!彼が美月さんよ。 はぁ、いつ見てもかっこいいわねぇ。」

「へぇ。金髪なんだ。」

「そ、イギリス人のおばあさんがいるって聞いたよ。クォーターなんだって」

「かっこいいー!」


 前髪を巻き上げて着飾った女たちが目を潤ませて見つめる先にいる男は、美月司。金髪にブルーグレイの瞳が目を引く。すらりとした体格で、少女のような長めのボブスタイルにしているが、一度その瞳に射抜かれたら、逃げられないと噂になるほどの美丈夫。もちろん、そんな彼に射抜かれるような女は、ほんの一握りだ。


ビジネス街と観光地が隣り合ったこの都市は、夜も眠らないと言われている。腹に響くような重低音でカルチャークラブが鳴り続くクラブハウスは、危険な夜遊びの相手を探す若者であふれていた。


美月は慣れた様子でカウンターに腰かけると、ブランデーをロックでオーダーする。細目の葉巻をくゆらせて、ふわっと煙を吐き出すと、スツールをくるりと回して店内をゆっくり見まわした。色気だだ洩れのそのしぐさに、女たちのため息があふれる。


「どうぞ」


 すーっとカウンダ―を滑らせて、グラスが掌に届く。

 カランっと氷が転がる音が小気味好い。美月は葉巻を消して、ゆっくりと氷の解けるさまを鑑賞した。


「ねえ、今日はお一人?」


 とさかのような前髪をゆらして、ソバージュヘアに胸の広く開いた肩パット入りのワンピース、煽情的な上目遣いで一人の女が声を掛けた。


「ああ、そうだけど」


 その姿を目の端に捉えつつ、ブランデーの香りを楽しんだ。その様子を見て、口角を微かに上げた女は、ぐいっと距離を詰める。


「ねえ、私のお店に来ない? ここじゃ女の子の露出も少ないし芋っぽい子が多いじゃない?」

「マスター、これ、ヘネシーじゃないね。レミーなの?」

「はい。ちょっとお客さんの反応見てみようかと、レミーマルタンを入れてみました。いかがですか?」

「うん、悪くないね」


 美月はグラスを傾けながら言う。


「ねえ、聞いてる? もっとおいしいお酒、あるわよ」


 隣のスツールに座り込んで、尚も続ける女をちらっと眼の端にとらえ、ふっと笑った。


「遠慮しておくよ。ここは僕の店なんだ。お客さんを悪く言われるのは不愉快だ」

「え?」


 女はしなだれかかっていた体をすっと離した。


「あ、あら。ごめんなさい。」

「それに、違法薬物を扱う店になんて出入りしたくないからね。君、気を付けた方がいいよ。ここは警察官立ち寄り店だからね」


 女の眉間にしわが入るのと、肩を叩かれるのが同時だった。


「2丁目のスナック「粋」のママ、吉川忍だな」

「え?そ、そうよ」

「違法薬物所持、および強要の疑いで逮捕する」


 女はすぐさま立ち上がり、美月を睨みつけたが、相手にされることはなかった。


「ご苦労さま」

「ご協力、ありがとうございました。」


 客を装った警察官が、女を連行していった。その様子はまるで客が帰っていくような手際の良さだった。



「美月―!久しぶりだな」

「やあ、仁!」


 ずかずかと近寄って、遠慮なく隣にドカッと座り込んだ男は、ご機嫌な様子で同じものをオーダーする。


「いつ帰ってきたの?」

「ん、さっきだ。羽田から直行だよ。美月、お前に会いたくて!」

「寄るな、触るな。僕は女の子しか相手にしないから。」


 仁に抱きつかれた腕をメリメリとはがしながら言う。


「ふふ、今回はちょっと面白い情報が手に入ったんでな。藤森も呼んで、作戦会議だ」

「じゃあ、貴絵も呼ばないと。彼女、メスは持たないけど薬物は好きなだけ手に入れる人だからね。」

「やだー。俺、突然死は嫌だよぉ。」


 おどける仁、こと、奥平仁は、がははと笑う。奥平の専門は外科手術だ。都内の病院に勤務していたが、他国からの依頼が多くなって、今ではフリーの外科医となっている。無造作に伸ばした髪をオールバックにして後ろでまとめている。ワイルドな風貌だ。

 一方、美月は大学時代の後輩にあたる。時代の流れに敏感で、いくつかの企業を立ち上げている起業家だ。この店もその一つなのだ。


 二人がそっと席を立つと、女性客たちが寄って来て声を掛ける。


「美月さん、もう帰るの? 一緒に飲みたかったわ」

「ごめんね。急用ができたんだ。またここに来るよ。じゃあね」


 美月は女たちを軽くあしらうと、カウンター内のバーテンダーに目配せして、そっと店を出た。


******


 大通りに面したビルを小さな路地へと曲がり、勝手口のような小さなドアを開くと、細い階段を下りていく。まるで隠れ家のようなこの店は、藤森のお気に入りの場所だ。薄暗い店内には、静かなジャズが流れていた。


「あ、やっぱりここにいた。んー、ジャズもいいね。これ、ビル・エバンス?渋いな。」

「涼、久しぶり!」


 二人はするすると階段を降りると、藤森をはさんでカウンターに座った。


「仁、いつ帰ってきたんだ?」

「はは、今日だ。で、ちょいと相談があるんだ。ねえ、部屋、空いてる?」


 奥平は、今夜二度目の質問に笑いながら答え、後半をバーテンダーに向かって言った。無駄のない動きでVIPルームへと導かれると、オーダーもそこそこに、いきなり本題に入った。


「涼、ついにボルドー氏から了解を取り付けたぜ。」

「え、本当に?」

「ああ、ヤツからの条件は、本人の住まいの近くに研究施設を建てること。涼がチームに入っていると言ったら、医療機器なんかは、向こうが提供してくれるってさ。」

「僕が調べたところによると、サイエン王国の国立病院の隣に製薬会社が撤退した跡地があるから、そこが有力候補だね。」

「なるほど。で、国立ってことは、サイエン王国の王室の許可が必要ってことだろうけど」

「ああ、それは俺が手を打ってある。今回の海外遠征は、なんとサイエン王国だったんだ。王室にもしっかり恩を売ってきたから話は早いだろう」

「篠原教授と貴絵にも連絡は取ってあるよ。教授からは、慎重に動くようにって指示が来てる。まあ、ちょっと技術的に、一般の企業とは大きくかけ離れるからね。貴絵は、ん、まぁ、呆れてた。あはは」

「了解した。仁、王室の許可が下りたらすぐに連絡してくれ。土地と建物の売買については、こちらで手配しよう」


 美月の報告に頷いていた藤森は、それだけ言うと満足気にゆったりとソファに体を沈めた。


 一通り話が付いたところで、酒が運ばれてきた。3人はそれぞれグラスを手に取ると、「チア!」と声を掛けて酒を煽った。


つづく

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