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即決タイトル短編集

作者: 蓮悠介

 ある日の放課後、一つ上の手島先輩と一緒に町にある大きなおもちゃにやってきている。今日の目的は俺が所属している手品部の備品の購入だ。

「ほら、行くわよ」

「は、はい」

 先輩はすたすたと足早に店内に入っていくので、俺も急いで追いかける。なんでこんな事になったんだ。これも茶島先輩のせいだ。俺はこの場にいない裏切り者に怒りをぶつける。

 茶島先輩は手島先輩と同期であり、手島先輩とは違って明るくて素直な性格なのだがなぜか手島先輩ととても仲が良い。本来であればここには茶島先輩もいるはずだった。だけど、突然外せない用事があるからとか言って来なかったのだ。

 正直俺は手島先輩のことが苦手である。まず俺にたいして口数が極端に少ない。茶島先輩や他の人には俺よりも口数が多い。テンションじたいは元々クールなタイプだから、そこまで変化はないように見えるが、それでも俺の時は少し怒っているような気もする。別になにか気に障るようなことをした覚えはない。それとも気付かないうちにやらかしていたのか。

 ただ今は余計な刺激は絶対にしないようにと心に強く誓う。

 本題に戻り、今日買うべき道具は主にトランプなどの小物の道具だ。手品部自体は出来てからは新しい方の部活ではあるのだが、部室もあり練習も平日は毎日する部活なので、練習の頻度が多いものはすぐに壊れてしまう。このおもちゃ屋には手品の道具が多く取りそろえられており、値段もそこまで高くないので俺たちにはかなりお世話になっている。

「さっさと探すわよ」

 先輩の短くトーンのない一言に少しビビりながらも、俺も必要な道具を探し始める。あ、これとかよさそうだな。値段もちょうど良いし、メーカーも聞いたことがあるだし。

「先輩、これとかどうですか?」と声をかけながら商品を持って後ろを振り返る。

「「!」」

 振り向くと目の前には先輩の顔があった。商品棚の間の通路は狭く、人が一人通れる間よりもほんの少し広いだけだ。予想外の状況に俺と先輩が硬直していると、先に我にかえった先輩はパッと持っていたトランプを取って背を向ける。やっば・・・ 絶対に怒ってるよ。耳まで赤くなってるしまじで怒ってるそうだな。

「ちょっと」

「は、はい!?」

「同じくらいの値段で他の商品ある?」

「えっと・・・これとかですね」

 俺が言われたまま商品を手渡そうとすると、先輩はそっぽを向いたまま商品をとる。俺と先輩の間に気まずい雰囲気が流れているが、もう耐えられそうにない。気まずぎて今すぐにでも走ってこの場から走り去りたい。その時、俺のスマホに救済の音が鳴り響く。

「先輩、ちょっと電話かかってきたんで少し失礼します!」

「え、ええ」

 俺はすぐにその場を立ち去って電話の相手を確認すると茶島先輩からだ。あの人、なぜ電話してきたんだ。とにかく気持ちを落ち着けろ。

「もしもし」

「お疲れ! 楽しんでる?」

「楽しんでるように聞こえますか?」

 俺の疲れた返答に先輩は「楽しんでるじゃんw」と電話越しからでも笑みの声が聞こえている。

「それでどうしたんですか?」

「実は、君に重要な任務を任せたいと思ってるの。君には手島にプレゼントを買ってもらいます! 実は今日、彼女誕生日なの。だからあなたからプレゼント買ってあげてね」

 今日、先輩誕生日だったのか。というかなんで俺がプレゼントを? 茶島先輩はときどきワケの分からないことを言う時はあるが、今回のはマジで理解が追いつかない。

だが先輩は「それじゃあ頼んだよ! 買うのは動物のぬいぐるみが良いと思うよ!」と言うだけ言って電話を切ってしまった。

「ちょ、ちょっと!」

 先輩に俺からプレゼントだと? ハードル高すぎだろ。俺の頭にプレゼントを渡したときに気持ち悪いものを見る目を向けられるのが簡単に想像出来る。でも、ここでやらなかったら後で茶島先輩にドンぁ目にあわされるか。いいや、もうここは割り切るしかない。お世話になっているプレゼントということにしたら良いだろう。誕生日は偶然聞いたとかでもしておいたら良いだろう。よし、大丈夫だ。

 手島先輩のもとに戻ると、すでに必要なものを決めてカゴに入れていた。

「ほとんど決まったんですか?」

「あなたが長電話してるから全部決めたわよ。後はパフォーマンス用のアクションアニマルだけね。ささっと行くわよ」

 なんて良いタイミングだ! アクションアニマルの所に行くにはぬいぐるみのコーナーを横切る必要がある。その時にそれとなーく聞くしかない。ここだ!

「先輩ってどんな動物が好きなんですか?」

「動物? なんで突然そんなこと聞くの?」

「い、いえ。ちょっと気になっただけです。すいません。気にしないでください」

「・・・ネコよ」

 先輩は俺に顔は向けず。ぽつりと答える。あれ? 今ネコって言った?

「ほら、さっさと行くわよ」そう言って先輩は足早に歩いて行く。

 予想外にすんなりと第一関門は突破できたけど、この後が勝負だ。俺は理由を作りながら、その場を離れてネコのぬいぐるみを見つけると、先輩が会計を済ませている内に先輩の視覚になり出来るだけ遠い所に位置するレジでぬいぐるみを購入する。

 先輩が会計を終えて、俺も無事バレることなく袋に入れてもらい店前で先輩と合流する。

「何か買ったの?」

「は、はい。ちょっと買うべき物があって」

「あっそ・・・ 戻って買ったやつ片付けるわよ」

「あの、先輩」俺が先輩を呼び止めると、振り返った先輩の前にプレゼントを差し出す。先輩は目の前に出されている袋と俺の顔を交互に見ながら「どういうこと?」と尋ねてくる。

「え、えっと誕生日プレゼントです。実は茶島先輩から聞いて。それに日頃のお礼をかねてということで」

 先輩は黙ったままかと思うとプレゼントをやさしく手に取る。あれ、受け取ってもらえた?

ゆっくりと先輩の方に目を向けると、先輩はすでに俺に背を向けていたが片手にはぬいぐるみが抱えられていた。ぬいぐるみを持つ先輩は俺の方に少し顔を向けながら「ありがとう・・・」と一言呟くとそのまま俺を置いて歩き始めてしまった。そんな先輩の耳はさきほどと同じように赤い。

まだ怒ってるのか。でもそうじゃなさそうだし。やっぱり先輩は何を考えているのかよく分からない。

今回のテーマは「ツンデレな手品部の先輩」×「おもちゃ屋」でした。

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