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庭シリーズ

貴方がいる庭だから

作者: リィズ・ブランディシュカ



 その家の横を偶然通りかかった時、庭の様子が目に留まった。


 他の家とは違って、丁寧に手入れがされていたからだろう。


 青々とした芝生に、綺麗にならべられたプランター。


 色とりどりの花々が植えられていて、その上を蝶々が舞っている。


 綺麗だなとそう思って、その庭の作り手の事を思った。


 こんな綺麗な庭をつくるのだから、さぞかし素敵な人に違いない。


 話してみたいなと思った。


 というのも、最近庭づくりが趣味になってきたからだ。


 世間で大勢の人を困らせる病が流行り出して、それで外出自粛になってしまったから。


 暇な時間が増えてしまった。自宅でできる事はないかと考えた末に、行きついたのは庭作りだった。


 幸いにもこの庭は散歩コースにある。


 いつかこの庭の作り手にも会えるだろうと思って、通り過ぎた。






 あれらから、一週間ほどたった後。


 俺はとうとうその人を見る事ができた。


 庭にしゃがみこんで花壇の花の様子を見ている。


 花びらの裏をみたり、葉っぱの裏を見たりしながら、微笑んだり、眉をひそめたり、困った顔をする。


 つぎつぎと変わるその様子をずっと見ていたくて、つい立ち止まってしまった。


 すると、視線に気が付いたのだろう。


 女性が、「あの。なにか御用ですか?」と話しかけてきた。


 俺はとっさの事だったので、どう返していいのか分からなくなった。


 どうにかしてひねりだしたのは、「いえ、あの。庭造りを少々」お見合い途中の人間かと思う様な言葉だった。


 つながってない会話だったが、彼女は不審に思わなかったようだ。


「お庭に興味があるんですね」

「ええ、最近やりはじめて」


 それで、俺はようやくまともに会話できるようになった。


 それから話が弾んで、庭作りのあれこれについて教えてもらう事ができた。


 彼女の知識はとても深くて、専門家も舌を巻くようなものばかりに思えた。


 初心者が耳を傾けるものとしては興味深いものばかりだ。


 不思議に思って訪ねれば、以前花屋に勤めていたのだとか。


 なるほどと思った俺は、「次もまた分からない事があれば聞きにきてもいいですか?」と訪ねた。


 彼女が屈託なく笑いながら「もちろん」と言ってくれたのが、嬉しかった。








 それから何度か散歩の途中に彼女と話す事があった。


 彼女の声は耳に心地よくて、長い説明を聞くのも苦ではなかった。


 打ち解けると、彼女はかなり話し好きで饒舌な方だと分かってきた。


 さらに数度出会いを重ねると、家の中に招かれるまでになってきた。


 食事やお茶を共にする事も増えてきて、俺の中には自然に恋心が芽生えるようになっていた。


 いいや、初めてその存在を知った時から惹かれていたのかもしれない。


 けれど、それがなかなか自分の中で形にならなかっただけ。


 時間をかけてようやく、はっきりとした形になって、その存在を自覚できるようになったのだ。


 出会いの数が、数十回になった頃、俺は勇気をだして彼女に告白した。


 彼女に夫はいないこからこそ、思いを告げる事ができたのだ。


 こんなにも魅力的なのに、相手がいないのがおどろきものだった。


「庭への興味もありますけど、貴方がいる庭だから顔を出していたんです」


 そういった時の彼女は真っ赤になって、けれど嬉しそうに頷いた。


 俺達は無事につきあう仲に進展した。


 それから、二人で様々な庭作りに挑戦した。


 世間では大変な事が起きて、けれどそれもおさまってきて、ゆるやかに外へ出る人達が増え始めたけれど。


 俺達はもうしばらく、小さくて幸福な庭の世界を楽しむのだろう。



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