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庭シリーズ

貴方がいる庭だから

作者: リィズ・ブランディシュカ
掲載日:2022/07/28



 その家の横を偶然通りかかった時、庭の様子が目に留まった。


 他の家とは違って、丁寧に手入れがされていたからだろう。


 青々とした芝生に、綺麗にならべられたプランター。


 色とりどりの花々が植えられていて、その上を蝶々が舞っている。


 綺麗だなとそう思って、その庭の作り手の事を思った。


 こんな綺麗な庭をつくるのだから、さぞかし素敵な人に違いない。


 話してみたいなと思った。


 というのも、最近庭づくりが趣味になってきたからだ。


 世間で大勢の人を困らせる病が流行り出して、それで外出自粛になってしまったから。


 暇な時間が増えてしまった。自宅でできる事はないかと考えた末に、行きついたのは庭作りだった。


 幸いにもこの庭は散歩コースにある。


 いつかこの庭の作り手にも会えるだろうと思って、通り過ぎた。






 あれらから、一週間ほどたった後。


 俺はとうとうその人を見る事ができた。


 庭にしゃがみこんで花壇の花の様子を見ている。


 花びらの裏をみたり、葉っぱの裏を見たりしながら、微笑んだり、眉をひそめたり、困った顔をする。


 つぎつぎと変わるその様子をずっと見ていたくて、つい立ち止まってしまった。


 すると、視線に気が付いたのだろう。


 女性が、「あの。なにか御用ですか?」と話しかけてきた。


 俺はとっさの事だったので、どう返していいのか分からなくなった。


 どうにかしてひねりだしたのは、「いえ、あの。庭造りを少々」お見合い途中の人間かと思う様な言葉だった。


 つながってない会話だったが、彼女は不審に思わなかったようだ。


「お庭に興味があるんですね」

「ええ、最近やりはじめて」


 それで、俺はようやくまともに会話できるようになった。


 それから話が弾んで、庭作りのあれこれについて教えてもらう事ができた。


 彼女の知識はとても深くて、専門家も舌を巻くようなものばかりに思えた。


 初心者が耳を傾けるものとしては興味深いものばかりだ。


 不思議に思って訪ねれば、以前花屋に勤めていたのだとか。


 なるほどと思った俺は、「次もまた分からない事があれば聞きにきてもいいですか?」と訪ねた。


 彼女が屈託なく笑いながら「もちろん」と言ってくれたのが、嬉しかった。








 それから何度か散歩の途中に彼女と話す事があった。


 彼女の声は耳に心地よくて、長い説明を聞くのも苦ではなかった。


 打ち解けると、彼女はかなり話し好きで饒舌な方だと分かってきた。


 さらに数度出会いを重ねると、家の中に招かれるまでになってきた。


 食事やお茶を共にする事も増えてきて、俺の中には自然に恋心が芽生えるようになっていた。


 いいや、初めてその存在を知った時から惹かれていたのかもしれない。


 けれど、それがなかなか自分の中で形にならなかっただけ。


 時間をかけてようやく、はっきりとした形になって、その存在を自覚できるようになったのだ。


 出会いの数が、数十回になった頃、俺は勇気をだして彼女に告白した。


 彼女に夫はいないこからこそ、思いを告げる事ができたのだ。


 こんなにも魅力的なのに、相手がいないのがおどろきものだった。


「庭への興味もありますけど、貴方がいる庭だから顔を出していたんです」


 そういった時の彼女は真っ赤になって、けれど嬉しそうに頷いた。


 俺達は無事につきあう仲に進展した。


 それから、二人で様々な庭作りに挑戦した。


 世間では大変な事が起きて、けれどそれもおさまってきて、ゆるやかに外へ出る人達が増え始めたけれど。


 俺達はもうしばらく、小さくて幸福な庭の世界を楽しむのだろう。



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