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僕とあの子のかくれんぼ

作者: ポストマン

『もういいかい?』


『まあだだよ!』


『もういいかい?』


『・・・・・・』


『もういいかい?』


『・・・・・・』


答える声は、俺に届かない。



~2021年 夏~


俺は森里、しがない雑誌記者だ。

俺は廃校になった母校の小学校に来ていた。

古ぼけたコンクリートの校舎を見上げながら、俺は思い出す。

十五年前の夏に起こったあの事件を。

「何黄昏れてるんですか森里さん」

昔のことを考えていると、俺の同期の岡部が話しかけてくる。

「ん?ああ、すまん岡部。ちょっと昔のことを、な」

「へえ、廃校になった母校を前にして物思いにふけっていたわけですか」

「・・・昔ここで起きた事件のことだよ」

そう、この学校では昔事件が起きた。

そして、その被害者は俺のー




~2006年 夏~


『もういいかい?』

『『『『『まあだだよ!』』』』』

小学校五年生だった俺は、友人たちとかくれんぼをして遊んでいた。

俺を含めて六人、その中には俺の初恋相手だった幼馴染の友香もいた。

俺たちは終業式が終わった校舎の中でかくれんぼをしていた。

『もういいかい?』

そしてそれは、俺が鬼のときに起きた。

『『『『もういいよ!』』』』

俺はみんなを探した。

四人は程なく見つけることができたが、友香だけが見つからなかった。

おかしいと感じた俺たちは、大人たちに相談した。

大人たちも含めたみんなで探し回ったけれど、結局友香は見つけることができなかった。

『もういいかい?』

俺は諦めることができなかった。

『もういいかい?』

みんなが諦めても探し回った。

『もういいかい?』

それでも友香は、見つからなかった。




~2021年 夏~


「ああ、あの事件ですか。確か女の子が行方不明になった」

「ああ」

俺が気のない返事をすると、

「でもそれって犯人見つかりましたよね?」

「死後に発覚した、が正しいけどな」

そう、犯人は判明している。

当時近所に住んでいた男が、友香を殺害したことを日記の中で独白していたのだ。

男に身寄りがなく、遺品整理した大家がそれを見つけて警察に駆け込んだことで発覚した。

日記には他に数人の少女を殺害したことも書いてあり、彼女たちの遺品もあったことから、この男が殺したことが事実とされた。

だが、友香の遺体だけは発見されることはなかった。

他の少女たちについては遺体の場所が記入されていたものの、友香だけは『秘密の場所』としか書かれていなかったのだ。

「どうしてその子だけ見つかんないんでしょうかね?」

「多分引っ越しのせいだろうな。他の子は引越し後の犯行だが、最初の1件だけはこの街で行われているからな」

そう、犯人は友香の事件から半年後にこの街を離れていた。

「そうなんですか。って、それより取材ですよ取材!うちはオカルト雑誌なんですからそっちの取材をしないと偏執長へんしゅうちょうに怒られますよ!」

そうだった、俺達が今日ここに来たのは、この廃校の怪談の取材のためだった。

「ああそ、ん?何か編集長の発音おかしくなかったか?」

「どうでもいいですよ!あとはここでの泊まり込みだけなんですからさっさと準備しますよ!」

どうでもいいことか?ということを思いながら、俺は泊まり込みの準備をすることにした。




~その夜~


宿直室で宿泊の準備をしていたとき、俺は気になることを聞いてみた。

「なあ岡部、今更だが聞いていいか?」

「なんです森里さん。今カメラの準備してるんですから」

「いやな、お前なんで廃校の泊まり込みがある今回の件に来たんだ?」

取材前から気になっていたことを聞いてみた。

「別にいいじゃないですかそんなこと。相方がいないって言ってたのは森里さんですよね?」

「そりゃそうだが、お前は女だろう?その貞操の危機とかは」

「貞操の危機?」はんっ

「鼻で笑うなよ」

「別にこんなところで私を襲うほど飢えてるわけじゃないでしょう?それに、」

「それに?」

「~~~なんでもないです!兎に角、カメラの準備もできましたから校舎内を捜索しますよ!」

そう言いながら岡部は鼻息荒く部屋を出ていってしまった。

「何だあいつ?」

そうつぶやくと、俺も彼女の跡を追うことにした。




~深夜~


結局あのあと何もないまま宿直室に戻ることになった。

岡部はトイレにでも行ったのかここにはいない。

そうやってぼんやりしていると、不意にスマホに着信が入る。

見てみると相手は編集長だった。

「はい森里です」

『俺だ、スマンなこんな夜更けに。そっちはどうだ、なにか出たか?』

「出ませんね、一応全くのガセではないみたいですが」

『そうかそうか』

「それよりどうしたんですか?」

『いやそりゃ気にするだろう。今回は一人で行かせちまったんだからな』

「え?」

『いや、人手不足で今回は一人で行かせちまったからな。そっちで何かあったらと思ってな』

一人で?いや、岡部が、


『もういいよ』


不意に、どこからか声が聞こえてきた。


『もういいよ』


「岡、部?」

『は?岡部?誰だそれ?』

何か騒いでいるスマホを置いて声のする方を振り返る。

そこにあったのは、古い木造の倉庫。

フラフラと声に導かれるように倉庫に入ると、


『もういいよ』


倉庫の片隅から声が聞こえてくる。

それは、開かれたロッカーの下から聞こえてくる。

もしかしてと思いロッカーを動かすと、その下には地下に続く開き戸があった。

そしてその地下室には、壁一面に貼られた友香の写真と、

「友、香・・・」

ミイラ化した友香が居た。

「・・・やっと見つけてくれたんだね」

後ろに岡部が、いや、

「友香・・・」

俺の幼馴染、岡部友香がいた。

=この廃校で肝試しすると、いつの間にか一人増えている=

「友香、みいつけた・・・」

涙混じりにそう言うと、

「うん、見つかっちゃった」

俺は友香を抱き寄せる。

「ごめん、見つけてあげられなくてごめん!」

「いいよ、こうして見つけてくれたから」

その声を聞きながら、俺の意識は遠のいていった。



~後日談~


あの後、俺は親戚に保護された。

どうも編集長が俺の両親に連絡して、そこから親戚に連絡が行ったらしい。

その親戚曰く

「倉庫前にスマホが落ちていたから発見できた。それがなければ見つけられなかった」

らしい。

「なあ、スマホを落としたのは友香だろう?」

墓の前で一人つぶやく。

友香はあの後警察の手によって家に帰ることになった。

岡部のおじさんとおばさんは、友香に泣いてすがっていた。

残されていた日記から、犯人はあの地下室をなにかの拍子に見つけて秘密の部屋と呼んでいたらしい。

それを利用して友香をさらったが、抵抗されてはずみで殺してしまったそうだ。

その後は友香を保存処理して鑑賞していたそうだ。

「ありがとう友香」

墓に手を合わせ、心のなかでお礼をいう。

ふと、一筋の風が頬を撫ぜる。

『またね』

何故か、そんな声が聞こえた気がした。

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