TKG〜卵かけご飯〜
しゃかしゃか、と力を入れずに米を研ぐ。
最近は、底にとぎ汁が流れ落ちる穴があるボウルがあるらしいが、
その為だけのものを買うのがもったいないので、うちは銀ボウルに水を張ってやる。
「の」の字を描き、コメ同士が擦れるように混ぜる。
二度、水を入れ替えて炊飯器にセット。
お腹が空いているので、早炊きに。
ピ、と高い音を鳴らして炊飯器が起動した。
『明日の天気予報』『今日の魂情報』『美味しい魂の選び方』
『今年の流行ファッション』『人間にモテる!メイク』……
シューッと鳴る炊飯器をBGMに、SNSを確認する。
いつも通り、代わり映えのしない見出しだが大事なことではある。
新しいものが好きな人間に、私たちも合わせなければ。
流行り廃りは、最近特に早いものであるから。
そうこうして、「しか勝たん」の使い方を覚えた頃に
米が炊けた。
少し大きめのお椀に、ご飯をよそう。
いい艶具合だ。
スカスカの冷蔵庫から卵をひとつ、かんかん、と小気味良い音を立てて片手で割る。
「あ」
運の良いことに3つ卵黄が出てきた。
流石に黄身の味が強くなりすぎるのでひとつだけにして、醤油をひと回し。
「いただきます」
面白い意味を知ってから、食べる前の儀式に取り入れた言葉を唱えて手を合わせる。
ご飯の上に鎮座する黄身にそっと箸を入れて、膜からこぼれた橙を絡ませる。
熱で白くなった部分とまだ透明の部分も混ぜてかき込む。
熱々のふっくらした米にとろりとした黄身、そこにふんわりと白身が口の中で溶け合う。
あぁ、今日も一日頑張った。
唇の端についた米粒を舐めとって、箸を置く。
「ごちそうさまでした」
さて、洗い物しないとね。
美味しそう、が難しいですね……。
もっと上手くなりたい。