花伝説
これは、完全なるフィクションです。
「花伝説?」
何それ、と私は思った。
だが彼は真面目な表情を崩さない。
至ってこれは真剣な話だと私は居ずまいをただした。
「いやね、これは僕が名付けたモノなんだけど」
と彼は前置きをして語りだした。
前から彼は思っていたらしい。
花は何の為に咲くのだろう、と。
それは自然の摂理だというのが簡単な理由だろう。
だが。
神話の時代から花は咲いては枯れていった。
本当に何の為だろう。
そこで花伝説は始まる。
花物語には、人が花になったという小話は幾らでもある。
そもそも、人は花になんかなれない。
では、どうしたら花となれるというのか。
「――花は、人の血肉から誕生したんじゃないか、っていうのが僕の想像の伝説なんだ」
ほら、何かの伝説では怪獣の血からペガサスは生まれたというではないか。
だから花も同じではないかと。
「人の血肉から生まれたから、あんなに綺麗で儚く、そして一部は毒を持っている。まるで―」
人間の性格や一生と一緒ではないか。
「……無茶苦茶だね」
私は冷ややかに言った。
突然何を言い出したかと思えば、こんな今の研究に全く関係ない事を持ち出した彼。
よっぽど、今の感染症のワクチンの開発に行き詰まったのだろう。
解らなくもない。
感染症は日々感染者を増やし、人々を混乱と恐怖と苛立ちに巻き込んでいるのだから。
私達、研究者は一刻でも早く国産の安全で確実なワクチンの開発に勤しまなきゃいけない。
先の見えない闘いであった。
「いいじゃあないか。研究者が花に夢と想像を持ったって」
「だから、それがもう無茶苦茶で現実逃避なのよ」
「……」
「さあ、午後からも頑張りましょ」
「そうだね」
彼は頷いた。が、まだ何か言いたそうだ。
「ねえ、」
「何?」
「君は、花は何の為に咲くのだろうと思う?」
「……さあねぇ」
私は、研究室に飾られている絵の花を見やる。
「誰かの思いを受けて、じゃないかしらね」
私は小さく呟く。
「え、何だって?」
「何でもないわよ」
さあ、行った行った、と私は彼を追い払う。
花伝説、あなたなら、花は何の為に咲き、何の為に生まれたのだろうと説きますか?
この話は、わたしの勝手な想像力で書き上げました。
事実と異なる事が沢山の筈です。
大目に見てやってください。
お読みくださり、本当にありがとうございました。