バカな王子
ゴブリンキングは怒り狂うが如く大刀を振り回す。これがゴブリン程度なら問題ないが、いかんせんゴブリンキングはゴブリンとは比べ物にならないほどにスピードとパワーが違う。その上、先程まで虎視眈々とゴブリンキングを倒そうと王子連中が狙っていたが、数人味方がやられたのを見て完全に腰が引けてしまっている。
攻撃しようにも怖くて出来ないのだ。その時、バシュッと音がする。リーナが一瞬の隙をついて煙玉を放っていた。煙玉は空で花火のように拡散され、俺達の居場所を周りに教える。
「何をやっている! まだゴブリンキングを倒してないんだぞ!」
王子は俺が倒すんだと未だ息巻いているが、リーナはそんな所の話じゃないと煙玉を打ち上げた。するとゴブリンキングは静止する。敵を睨みつけながら、何か考え事をしているようだ。その隙に俺は先ほど助けた生徒を少し離れた場所まで連れてきた。
「ゴブリンキングを連れてきたって言ってたが、何がどうしてこうなったんだ?」
彼は王子の方を見ながら、こう言った。
「・・・・・・はじめ僕達王子パーティーは普通に探索をしていた。でも王子がよほどリーナ嬢に断られたのが気に食わなかったようで、ずっとイライラしていたんだ。そんな時に君達を見つけたんだよ」
解らないでもないなと思った。リーナのあの断り方は王子のプライドを傷つけたはずだ。
「君達のパーティーはゴブリン相手に苦戦していた。それを見た王子がほら見た事かと言いながら戦況を見ていると、君が皆を守り活躍してただろ? それをリーナ嬢が褒めていたのがよほど気に食わなかったようだ」
だから何だと俺は思った。俺達は俺達なりに必死に戦っていた。それが気にくわないと言われてもどうしようもない。それにそれとゴブリンキングがどうつながる? そう考えていると彼は続きを話だした。
「王子がイライラしているのをみて一人の生徒がこう言ったんだ」
「王子、あいつらのパーティーの邪魔をしてやりましょう。その上リーナ嬢が困っているのにハルバートが何も出来ない事を認めさせて、そこに王子が駆けつけて助けるというのはいかがでしょうか?」
「おお、ナイスアイデアだな。しかしどうする? 何かいい方法があるのか?」
「はい、郊外の森の奥には魔族の国に繋がる崖があると先生も言ってました。情報では崖下にいかなくても、その辺りは強い魔物が稀に出るそうです。その魔物を引き連れ、あいつらに当てれば良いかと」
王子は一瞬躊躇したがよほど頭に血が上っていたんだろう、すぐに向かうぞと王子パーティーは強い魔物を探しに崖付近までいったようだ。
「なんだその話は? 俺が悪いのか?」
「いや君が悪いわけじゃないんだけど、何かとリーナ嬢の近くには君がいつもいるだろう? それがどうしても嫌らしいんだ」
そんな事でこの大惨事か・・・・・・
「崖の近くに行くまではゴブリンしか出なかったんだけど、崖付近に着くとあいつが寝てたんだ」
「あのゴブリンキングがか?」
「そうだ。ゴブリンの群とゴブリンキングはただ寝ていたんだ。」
「すると王子が攻撃しろと言ってきたんだ。僕達は王子の危機に際してそれぞれ万一の為に、爆発系の中級魔法を込めた魔石を持たされていて、それを投げつけろと言われたんだ」
一人の生徒が投げつけると、魔石が拡散し魔法が展開した。するとゴブリンキングの足元で大きな爆発が起こった。とっさにゴブリンキングは危険を感じたのか?回避が成功しそれほどダメージは受けてなかったようだ。
「ゴブリンキングの目は真っ赤になっていて、大刀を振り回し始めた。そこに僕達が再度魔石を投げつけた。それに気づいたゴブリンキングがゴブリンを引き連れて、こちらに向かってきたんだ」
「バカな事を・・・・・・」
「解ってるさ、でもどうしようもなかった。王子を止めはしたんだけど、やれと言われたらやるしかない」
「それからは付かず離れずの距離から、魔石を投げつけては逃げてを繰り返し、君達のいる道まで誘導してきたんだ」
やっと謎が解けた。なぜこんな所にこんな強い魔物がいたのか? なぜ王子がこれ以上ないタイミングで助けに来たのか? 要するに俺への嫉妬心からだった。リーナが俺に構うのを嫌ってるのはなんとなく気づいてたが、これほどとはっと思っていると、王子がゴブリンキングに飛びながら攻撃を仕掛けた。
ゴブリンキングはその振り下ろされた太刀を大刀で受け止め、王子の足を掴んで投げつけた。投げつけられた先には大きな木があり、王子はぐったりとしていた。するとゴブリンキングがある方向に視線を預けた。なんだ? 俺はそう思い視線をその先に移すとリーナが居た。
「っまずい! リーナ逃げろ!」
しかし俺が声をかけるのと同時にゴブリンキングは駆け出していた。リーナはなんとか魔法を放とうとするが、それよりもゴブリンキングの足の方が速かった。ゴブリンキングはリーナの腹部に拳を打ち出すと、リーナが吹き飛んだ。
「リーナ!」
おれがそう叫ぶが、リーナは気を失っているのか? 動かない。そう思った瞬間、ゴブリンキングはリーナを片手で掴んで森の奥に走り出した。
「待て! リーナをどこに連れて行くんだ!」
そう叫ぶがゴブリンキングは止まらない。ゴブリンキングは煙玉が打ち出された際に思案していた。もしかして敵の仲間が駆けつけるかもしれない。殺してやってもいいが人数が多いと面倒だと思う。しかしここまでやられて、このまま立ち去るわけにもいかない。つまり戦利品が欲しい。
ゴブリン種族は魔物の中でも人族の女性を好む種族だ。繁殖の為に女性を攫って子を産ませるという。特に魔力を多く持っている女性が産むゴブリンの子供は総じて強くなるらしい。そうなると魔力を多くもっていそうなリーナはうってつけだったのだろう。
すぐに俺はパーティーメンバーにもリーナを追うぞと言うが、誰一人動かない、いや動けない。今しがた死ぬかもしれない状況にあった。その元凶がたった今、目の前から去ったのだ。誰かが連れて行かれたようだが、自分はもう安心だ。もう死ぬことはない。そうそれぞれが思い誰も顔を上げず、こちらに耳をかさない。
誰も動かない状況を見て無駄だと悟った俺は、ゴブリンキングの跡を一人で追いかけて森の奥へと向かっていった。
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