いつもの時間
数日前・・・・・・俺はいつも通り学園に通っていた。
このスタンレー国立学園は13歳から15歳までの平民以上の少年少女が通う事を義務とされており、一般常識から歴史、その他適性能力に沿って剣技、魔法の訓練等を受ける。また学園にはもちろん貴族階級の生徒も多数通っている。
「おい、あいつはどこに行った? 早く探せ!」
身なりの良い学生を筆頭に数人の生徒達が誰かを探していた。偉そうに指揮をとっているのは、この学園に通っている皇族の息子クライス・スタンレー、つまり王子である。
「ハァハァハァ、なんでいつもいつも俺に絡んでくるんだよ」
どうやら物陰に隠れているこの少年を探しているようだ、いわゆるイジメの対象にあっているのだ。規則上学園内では能力差や身分の差による侮蔑、つまり権力による横暴は禁止されている。しかしながら皇族の息子に目をつけられた少年は、事あるごとにイジメを受けていた。
見つかったら大変と隠れながら時間が過ぎるのを待っていると、ようやく昼休み終了の鐘がなる。彼らがいなくなるのを待って少年が教室に向かうと、もうすでに授業が始まっていた。
「遅いぞハルバート、早く座れ」
「はい、申し訳ございません」
先生に注意され席につくと、後ろに座っていた女の子に声を掛けられた。
「もう遅いよハル、何してたのよ」
小声で俺にそう言ってきたのは幼馴染のリーナ・ファンデロール、背丈は俺と同じくらいだが学園内で1・2を争う可愛さで有名だ。別に何もないと言うと彼女はフンっとそっぽを向くのが解る。
実は俺がイジメられているのは彼女が原因だ。といっても彼女は何も悪くないのだが・・・・・・王子は1度彼女に自分の婚約者になるように迫ったのだが、断られている。そんな彼女と親しげにみえる俺の存在が、あの王子には鬱陶しくてしょうがないようだ。
王子に迫られたら断れない思うかもしれないが、彼女は気にせずに断った。というのも彼女の家系はこの国において重要な役割を担っており、国王でさえ気を使うほどだ。その為、王子といえど無理強いする事が出来ない。
「さて明日から3日間、とうとう郊外の森で探索だ。その上で必ず守る事が3つある。1つ、必ず仲間と一緒に行動する事。2つ、弱い魔物だからといって決して侮らない事。3つ、森の奥には立ち入らない事だ。特に森の奥の崖付近には絶対に立ち入るな、知っての通り崖下には魔族の国に繋がる森が広がっているからな」
そう先生が告げると、生徒達は楽しみだとか少し怖いねっと、色々と憶測しながらザワザワしている。
「先生、お小遣いはいくらまでですか?」
1人の少年が冗談をいうと、ハハハハっと教室内に笑い声が起こった。郊外の森での探索は毎年上級生が行なっている為、大体の事は知っているのだろう。実際森に生息する魔物はゴブリン等の下等魔物しかおらず、近年この探索で事故は起きていない。
ザワザワとしている教室で先生だけが真剣な顔を崩さず声を発する。
「解っているとは思うがこれはいつもの訓練ではない。学園内では怪我をしても魔法医師に診てもらえたり、回復薬で治す事はできるが、万一郊外の森ではぐれたり、魔物を舐めてかかると・・・・・・死ぬぞ」
先生が少し脅したこともあるが、今まで騒がしかった室内が急に静まり返った。
「今日はこれで終了だ。明日の探索のためにまっすぐ家に帰って体力を温存しろ、以上だ」
すると教室から先生が出て行き、生徒達も帰路につく。
「さーてハル、私たちも帰ろうか、今日はまっすぐ帰るでしょう?」
「ああ」
俺はリーナの家に居候させてもらっている。理由は子供の頃に俺の両親が無くなってから、元々両親と仲がよかったリーナの父親が引き取ってくれたらしい。実は俺にはこのあたりの記憶がない。両親の顔も覚えてなければ、どんな生活をしてて、どんな子供だったかも覚えてない。いわゆる記憶喪失だ。
リーナが言うには昔俺は活発的な子供だったらしいが、記憶喪失になって以来自分でも嫌になるほど引っ込み思案で臆病なのが俺だ。実際今の俺は何にも興味が湧かないし、嫌な事からはすぐに目を背けてしまう。そんな俺でも気を使ってくれるリーナやその家族にだけは、いつも感謝している。
「お帰りなさいませ、リーナお嬢様、ハルバート様」
「ただいま、お父様達はまだお帰りではないよね?」
「はい、夕刻過ぎにご帰宅される予定とお聞きしております」
「じゃあ私とハルはそれまで訓練所にいるわ」
「かしこまりました」
執事にそう言うと俺とリーナは屋敷内に設置されている訓練所に向かう。リーナの両親は国の重要機関で働くだけあって、大きな屋敷に住んでいて執事やメイドも沢山いる。
「さあ、いつも通り魔法の訓練をするわよハル」
「先生が明日から森での探索だから体力温存って言ってたよね?」
「まぁそうだけど、こればかりはファンデロール家の宿命よ。魔力を上げる為の身体強化魔法、それを維持した状態で座禅を毎日行う事」
「ほんとリーナは魔法が好きだよね、俺は魔法が苦手だから毎日毎日やりたくないんだけど」
「何言ってるのよ、子供の頃は私よりハルの方が得意だったんだから。いつからそんな卑屈になったのよ」
ほんとにもうっと顔を膨らせながら、リーナは目を閉じ魔力を体に纏わせていく。体の周りにぼやっとしたオーラのような暖かいものが身体を均一に包み込んでいる。対する俺は魔力が安定せず、均一とは程遠い。元々魔力が少ない為だと思っている。
一般的に身体強化魔法はその名の通り体を強くする魔法で、外的な攻撃、魔法の攻撃に対して一定の防御力向上を目的とした初歩的な魔法だ。しかしファンデロール家ではこの魔法で毎日訓練する事が大事な日課になっている。
リーナの親父さん曰く、魔力は魔力が枯渇した状態から回復する事で魔力総量が上がると言う話だ。その為どんな魔法でもいいのだが、魔力総量を上げて無駄のない魔力操作を覚えるには、身体強化魔法を維持し続ける事が最も効率的なんだと教えられた。それ以来ずっと子供の頃から続けているが、未だに俺は安定しない。
「ハルはもっと全体に魔力を纏わせるイメージが必要だと思うわ」
「そんな事いっても出来ないよ、どうしても魔力が均一化出来ないのは昔から変わらないよ」
「まぁいいわ、じゃ座禅でどちらが早く魔力が切れるか勝負よ」
「なんで毎日勝負する必要があるんだよ」
いいからするのよっと、リーナが座禅を組むのを見て俺も座禅を行う。座禅で精神を集中する事で身体強化魔法を長く維持し続ける事ができる。しかしながらリーナよりも魔力の少ない俺の方が、何故か魔力が切れるのが遅く毎回勝負に勝ってしまうのは謎だ。
座禅を組みながら次の日の郊外の森での探索の事を考えていた。森では魔物が少なからず出るとの事だ。嫌だなーっと考えつつ、幼馴染のリーナが危険な目に逢わないようにリスクをできるだけ回避しようと考えていた。そうこうしてる内に魔力が切れた。
「あんたどんだけ長い間、魔力を維持できるのよ」
どうやらリーナはとっくに魔力が切れて、俺の魔力が切れるのを横で待っていたようだ。
「リーナは魔力が多すぎてその分魔力消費量も多いんじゃない?」
「それなら魔力の少ないハルがもっと早く魔力切れをおこしそうなもんじゃない」
「確かにそうだな、まぁ謎だよね」
リーナは理不尽だっと顔を膨らせていると、メイドが夕食の時間だと呼びに来た。その為、俺たちは風呂に入り、さっぱりしてから食事にむかった。
「お父様、お母様、お帰りなさいませ」
「リーナただいま、あら沈んだ顔をしてるわね?」
「リーナ、今日は勝てたのかい?」
「いいえ、いつもの通りですわ。明日こそは私が勝ちます!」
「リーナ明日は森の探索だよ、叔父さん叔母さんお帰りなさいませ」
そう言い席につくと食事が運ばれて来た。
「お父様、いつも思うのですが何故ハルは私より魔力総量が少ないにも関わらず魔力が切れるのが遅いのかな?」
「多分ハルは魔力消費量が低いんだろうね。魔力消費量が低いと言う事はそれだけ効率的に魔力を使えていると言う事だ」
「でもお父様、未だにハルは身体強化魔法で魔力を均一化する事は出来てないわ。そもそも魔力操作が安定しない場合、魔力消費量が高いと教えてもらったはずだけど」
「私もそれは謎でね、ハルはどう思う?」
「いや僕には解りかねます。自分で魔力を使う時のイメージも何となくですし、そもそもそこまで解ってたら魔力の均一化も出来ているかと」
「まぁハルも大事なファンデロオール家の一員だからな、しっかり訓練をして自分の魔力と向き合うといい」
「はい、いつも感謝しております」
「さて明日は森の探索だね。私達も若い頃に体験しているが必要以上に怖がる事はないよ。但し森の中では助けが来ない事もある。その為にも不安を感じたり危険な感じがしたら、迷わずに撤退しなさい。特にリーナは何でも積極的に動きすぎる。ハル、リーナの手綱をしっかりと掴んでいてくれ」
「かしこまりました」
「ハルは逆に消極的すぎるのよ」
「リーナ、明日はしっかりとハルの言うことを聞くのよ?」
「お母様までそんな事を言って・・・・・・」
ハハハハっと笑いながら食事が進み、次の日に備えて早めに就寝した。いつも通りの笑い声、いつも通りの時間の流れ、この大切な時間がずッと続くと俺もこの時は思っていた。
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