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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

介抱して解放して~お願い私と結婚して!!!!!

作者: 銘奏的子

 のぼせるまで湯船に浸かることにした。


 その前に体を洗う。執拗にごしごししたいけど、肌荒れがひどくなると格好がつかないか。

 でも髪と頭皮を念入りに洗い、お湯を張った浴槽に足を入れる。

 冬場だとさぞありがたいであろう温度でいれた風呂は、真夏だと自分を拷問して楽しむのにちょうどいい案配だ。

 肩まで浸かる。暫くは熱いより痛いが勝った。それが引いてからも全身隈無く熱いしヒリヒリする。

 もう諸々の経緯も決意も無視して上がらないと私の健康上不安だが、目先の健康よりも健康を害する不安がある以上、ここで引く選択はない。これはプライドを守りつつ目的を果たし私の精神に安寧をもたらすための最善策であり、そもそも体調を犠牲にする前提だったので、つまり全く問題はなかった。

 しかし早くても向こう二時間これは、常人なら(阿呆らしさにも)耐えきれまい。だからもし私が達成したら、いよいよ自分が狂っている証明になってくれるわけだ。

 そのときは精々、馬鹿を晒そう。


 

 責任を私の外に求めるなら、気の利かない親や構ってくれない友達(?)のせいにする前に、姉本人のせいにするのが筋だ。

 私の姉、自慢の美人さんだ。風呂場の私より艶々の黒髪が素敵で、スタイルも頭もいいし、優しいひとだ。

 姉とは双子でなければ年の差があり、幼少期にねーちゃーんすげーだいすき-するのは、妹に課せられた宿命である。

 問題は年齢の補正抜きに姉はデキがよく、私の羨望が持続した結果、たぶん思春期的なあれこれと混ざって若干怪しい感情に至ったこと。その上わりと最近まで妹可愛がりしてくれたことだ。

 無神経な親のお陰で私と姉は同じ部屋なのだが、姉はことある事とに私の机をのぞいたり頭を撫でたり抱きついてきたりした。これが私が中学に入るまで続いてみると、愛情ホルモンのオキシトシンか私の気質かで、姉の体温に依存するような、常に妙な気持ちのまま家で過ごすようになってしまった。

 姉に触れてると落ち着くし、部屋でずっとしゃべっていたいし、できれば布団も一緒にしてほしい。

 これはもう犯罪的なのだ。姉が。妹をだめにした罪で投獄されたら会いたくて耐えられないくらいで、こんなのゆっくり手込めにされたと言っても過言じゃない。年々姉への思いは強まり、もっと密なところで触れていたいと思いはじめた頃。

 姉との触れあいは途絶えてしまった。



 もう二時間は経つたが、まだ姉は帰らない。

 湯気が全身に溜まって、火照る身体を湯水に抱かれてるみたいだ。

 受験勉強が始まり、姉は学校や図書館で自習しているらしく、帰りが遅くなった。私を不意打ち気味に触ることもなくなった。生活リズムが噛み合わなくて会話も減った。

 それは私の気持ちを察しているからか、彼女が県外の大学を志望していることを知っていた。

 浴槽も風呂場も内に広がるようで、二の腕の柔らかさを頬で感じた。曇った視界と茹った頭なら、きっと世界が違って見える。

 悪いのは全部姉ちゃんなんだから、責任とって一生私を飼うべきなのだ。理不尽だ。なんて。

 いよいよ瞼も重くなって、素直に従ってしまいそう。 

 


 姉が帰ったのは、さらに一時間後だった。

「ちょっと何やっってんの?うわぁ!」

 完全に意識が飛んでいた私は姉の声で目を覚ます。頭がぽーとしてるのに、すげえずきずきする。

「早く上がりなさいよ!あっか!あっっつ!」

 姉に湯船から引きずり出され、身体をふかれる。

 久しぶりに姉の優先順位に食い込めて、嬉しい。

 布団に寝かされて、うちわで扇がれて。

 傍らに座る姉を見上げて。制服濡れちゃってる。

「顔真っ赤だし、何時間入ってたのよ」

「なんか考え事してたら寝ちゃってたみたい」

 本当のことだが、寝た理由は嘘だ。

 ふうんなんてあいずちで、会話は途切れる。

 かつてより大分ギクシャクするようになってしまった。姉と一緒にいる時間が減って、素直じゃないまま過ごすのに慣れてしまいそうで。そうなればこの人はどんな回想で私の前に現れるのだろう。

「昔から風呂短かったのに、気を付けないと」

「姉ちゃんがいるから安心してのぼせられるのだよ」

「わけ分かんないな」

 姉以外に長風呂する理由なんてないから。

「今何ときですか?」

「7時半かな」

「放課後、勉強てたん?」

「うん。自習室で」

「受験生は大変ですな-。そういえば志望校どこっけ」

「――大かな。今のかんじだと」

 やはりあそこか。姉の頭のよさがいよいよ開花するな。地元の国立なんて目じゃないようだ。

「じゃあ下宿するかんじ?」

「するかんじだね」

 嬉しいことに、姉は逡巡するところもない。私だってなあなあで済まされるなんて許せない。

「でも私は、家にいてほしい」

「あー…でも、さすがに家から通えないから」

 そんなの全然分かっている。でもこんなの遅すぎるんだ。

 私は今までの人生を掛けてこの人に骨抜きにされてきた。とっくに心底めろめろなんだ。

 私は瞼を閉じた。

「大学なんてどうでもいいから、ずっと家にいてよ。それか私も連れてって――あと結婚したい」

 ずっと一緒、一生一緒を誓うのには遅すぎた。姉妹にしては。でも今を逃すと言えることもないから。

 さっきより告白をした後の、頬の暑さが激しい。 

 見えないから、姉が超赤面しておたおたしてると嬉しい。

「ごめん。でも私は、自分の人生を、そこまであなたに捧げる気はないの」

「分かってる。でも――」

 姉ちゃんのせいだ。あとそう言っても、私には今更どうしようもない。

 頭を撫でる手があった。ただ夢を見ているだけなら、もう少し浸らせてもらえそう。 

 でもいつか、姉のところに追いついて、押しかけて、そのまま押し倒してやろうぐらいは思うけど。

 

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