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僕が異世界に行った理由と行かない理由

 いくら創りかえたとしても神が創った世界は僕の思い通りの世界になることはなかった。何度繰り返したとしても、僕の望む結果になることはなかったのだ。あの世界の誰よりも強くなって敵なんていないと思っていたけれど、神の力は僕のすべてをもってしてもその一部を見る事しか出来なかったようだ。それでも、神の影響力を減らすことが出来たのは僕にとっては大きな成果となっていた。このまま影響力を弱めていって、最終的には無くすことが出来たならば、僕の本当に望む答えに辿り着くことが出来るのかもしれない。

 そのためにも必要な事はいくつかあるのだが、その一つがこれ以上あの神が創った世界に関わらないという事だ。あの神が創った世界に僕が関わりすぎてしまうとそれだけでもあの神の存在を肯定してしまう事になるらしいので、そうならないためにも僕はある時期からあの世界に関わる事はやめることになるのだった。その時期とは、あの神の痕跡を完全に消し去ってから僕の存在を神と認識するような形で後世に残すという事。つまり、今まで信じられていたあの神から信仰対象を僕自身へと変える必要があるのだ。今までもそれなりにはやって来たと思うのだけれど、直接何かを施すのは良くないらしい。僕の奇跡を体験したものが誰かに伝えるのと同時に、僕の弟子たちがその教えを広めていく事も重要になっていくとの事だ。僕には弟子などいないのだけれど、それは僕の分身たちを使って上手くやっていくらしい。その他にも今まで関わってきた人たちの力を借りることになるようだけれど、僕の影響力がどこまで届くのか心配になってしまった。


 あの神に対する認識が完全に無くなった時には、あの世界一つ一つに悪魔を放って僕がそれを退治する事によって世間の認識が完全に僕を神だと認めてしまうとの事だ。それまでの事もそうだけれど、悪魔を自分で用意してあの世界一つ一つに放つなど完全な自作自演になってしまうと思うのだけれど、世の中は過程よりも結果が全てだという事で上手くいくとの事だ。エリスのその考えが正しいのか間違っているのかはわからないけれど、今僕が出来る事はそれしかないのだ。


 では、僕があの世界へ行ったのにはどんな意味があったのだろうか?

 最初はあの神が気まぐれで僕を送り込んだのかもしれない。それは僕にとってはどうでもいい事であって、恨むような事でもない。それどころか、誰の差し金かはわからないけれどサクラに出会うことが出来たのは素晴らしい事だと今でも思う。僕が出会えたサクラはあの世界で唯一あの神が創りだしていない存在だった言うのだけれど、それもあってか僕は今でも心酔しきっているのだった。その後も僕は何度も何度もあの世界でサクラの手掛かりを探し続けていた。僕があの世界に拘ったのはサクラの存在があったからなのだろう。それが無ければ途中で諦めて投げ出してしまっていたかもしれない。本当の意味でサクラを取り戻すことはまだ出来ていないけれど、このまま神として自分の価値を高めていけばサクラを元に戻せる世界が見つかるかもしれないのだ。そのためにも僕はあの世界に深く関わらないでじっくりと僕の思う通りに人間を育てる必要があるのだ。


「ルシファー様って人間に対する態度がだんだん神っぽくなってきましたよね。それって、とってもいい事だと思いますよ。私もそんな風にしておけばよかったのかなって思うんですけど、今更そうしたって手遅れだと思うんですけどね。それよりも、ルシファー様ってサクラの事になると他の事が見えなくなってしまうみたいなんですけど、もっと近くでサクラの事を見ていたいって思ったりしますか?」

「そりゃ、近くで見たいとは思うけど、僕の知っているサクラはどこにもいないんじゃないの?」

「それがですね、私はサクラのいる場所を知っているんですよね」

「なんでエリスが知っているんだよ」

「だって、サクラは私がルシファーさんの為に創ったんですよ。こんなに上手くいくとは思っていなかったんですけどね。私を閉じ込めた神に対して少しでも嫌がらせになればいいなって思ってサクラを創ったんですけど、ルシファー様には刺激が強すぎたのかもしれませんね。初めて知り合った人間に何か特別な感情を抱いたのでしょうけれど、それも私がそうなるように仕向けただけかもしれませんよ。なぜなら、私は争いを好む女神ですからね」

「女神?」

「ええ、あの神によって私の力の大部分は封じられてしまいましたが、私にとって重要な力は残っていたんですよ。その力で最後にあなたを惑わすことが出来て嬉しかったんですよ。あの神が思っている事と違う方向に進んでいくあなたを見るのはこの上ない幸せな時間でした。そして、そのあなたがあの神の力を凌駕して奪う事が出来るなんて想像以上のことが起ってしまって、私の体の火照りはもう治まることはないです。ああ、あなたが創り直したあの世界はもうあなたの手を離れてしまっているんです。あなたが関わる事を止めると思ったその時から、あの世界とは関りもなくなってしまったのです。でもね、それが無ければダメだったのです。あなたが会いたがっているサクラに会うために必要な事だったのです。あなたが神の力を保持していたままではサクラに会いに行くことが出来ないのです。あなたはサクラに会いに行くためなら手に入れた神の力も捨ててしまうことが出来ますか?」

「ああ、サクラに会えるなら神の力なんていらないさ。どうすればいい?」

「簡単な事です。あなたは相手に魔力を与えることが出来ますので、その要領で私に神の力を全て捧げてください。大丈夫です、あなたが神の力を失ったとしても世界最強であることには変わりないのですからね。私が新しく創りかえる世界でも間違いなく最強であることには変わりないのです。あの神の力も及ばないあなたがサクラに会うためだけの世界を創りだしてあげますからね。それはあの神にもあなたにも作ることが出来ない素敵な世界ですよ。さあ、さあ、さあ、私にその力を全て残さずに分け与えてください」

「本当にサクラに会えるんだろうね?」

「もちろん、あなたが行く世界にはサクラがあなたの事を待っているはずですよ」

「わかった、僕はエリスを信じることにする。あの世界だって僕に残っている思い入れだってほとんど過去のものとなっているし、今更どうなろうが関係ない話だからね」

「ありがとうございます。あなたのそういうところは好きですよ。では、さっそくお願いしますね」


 僕は自分の中にあるあの神の力を探し出して、それをエリスの体へと注ぎ込んでいた。自分で思っていたほど時間はかからずに終わったと思うのだけれど、途中からは僕の意志とは関係なく力が吸い取られているように思えていた。


「ああ、これがあの神の力なのですね。私が思っていたよりもなんと禍々しい事でしょう。これならあんな歪んだ世界になるのも納得ですね。もしかしたら、あの神は私以上に争い事が好きなんじゃないでしょうかね。もしそうだとしても、今は驚いたりしませんけどね。それでは、ルシファー様の役目はもう終わったのでご退席願えますか?」

「それってどういう意味なのかな?」

「どうしましょう。ルシファー様は聡明な方であられますので私の言葉を理解出来ていないとは思えないのですが、どこなりと好きな世界へ旅立っていただいて構わないのですよ」

「だから、そうじゃなくてサクラのいる世界に案内してくれって」

「なんで私がそんな事をしないといけないのですか。私はそんなに暇じゃないんですよ。今からあの神を探し出して復讐しないと気が済まないですからね。私をあの空間に閉じ込めたことを未来永劫後悔させてやりますからね」

「約束を破るって言うのかな?」

「どうでしょう。あなたは約束したと思っているようですけど、私にはそのつもりはなかったので約束を交わしたとは言えないと思うんですが。神の力を失った今、あなたが私に勝てる可能性なんて存在しないんですけどね。それでも良ければ挑んでいただいても構いませんよ。何度死んだってあなたは生き返ることが出来るんですし、私も何度も何度もあなたの相手をするのは疲れそうです。そんなわけで、どうかお引き取りくださいませ」

「やっぱりそうなるよな。俺はそうじゃないかと思ってたんだよ。女神が神の力を欲しがるなんておかしな話だと思ったんだよな。お前は本当は女神でも何でもないんじゃないか?」

「いいえ、私はあの神の子であるんですし、女神で間違いないです」

「そんな事はどうでもいいんだけど、あの神もお前も性根が腐っているところは一緒なんだな。そう考えると、親子ってのは真実味が増してくるよ。だけどな、それと約束を守らないってのは繋がらないと思うよ。俺との約束を無かったことにするなんて良くないと思うよ。撤回するなら今のうちにしておいた方がいいよ。俺は割と気が長い方だと思うけど、僕はそうでも無かったりするんだからね」

「そんなに凄んだって無駄ですよ。大体、神の子たる私と神が創りだしたお前が対等に話し合っていること自体が間違っているんだよ。いい加減気づけよな」


 僕はエリスの言葉を遮るかの如く自分の人差し指をエリスの方向へと向けて、それを下から上へ勢いよく動かした。僕の動きに呼応するかのように十三本の柱がエリスを取り囲むと、その柱と柱が光の壁で塞がっていった。初めて見た時のエリスの状況に似ているけれど、エリスを取り囲んでいる壁の強度は以前のものとは比較にならないほど強固なモノになっているのだ。あの神は自分の子供であるエリスを完全に閉じ込めることは出来ずに僕程度でもとけるような結界を作り出したのだろう。僕はエリスに足して何の感情も持ち合わせていない為だろうか、ほぼ動くことのできない空間に閉じ込める事にした。壁の強度も強固になっているし、立てている柱は触れる者の魔力を奪って壁をより強固なモノにするのだ。中からも外からもあけることはほぼ不可能と言っていいだろう。


「ねえ、ルシファー様。さっきの冗談を真に受けなくても大丈夫よ。サクラのいる世界ならもう作ってあるんだからさ。その場所まで送ってあげるからここから出してよ。ねえ、もう閉じ込められるのはイヤなの。私が悪いのはわかっているの、でも、少し調子に乗りすぎただけなんだから悪気があったわけでもないのよね。お願いだからここから出してよ」

「それはサクラの居場所が本当にあればの話だよ。君は僕に対して色々と嘘を重ねてきていたし、信じていいのかもわからないよね」

「そんなことはないわ。ほら、サクラの居場所はあの神もあなたも全く関りの無い他の神が支配する世界よ。あなたの力じゃ探すことも出来ない世界なんだから私が送ります。だからこの壁を消してください。壁があると送ることも出来ないんですよ」

「それも嘘なんじゃないかなって思うんだけど、本当なのかな?」

「嘘じゃないです、信じてください。私はもうルシファー様に嘘はつかないです」

「わかったよ、今度も君を信じることにするよ」

「ありがとうございます。ちゃんとサクラがいる世界に送り届けますから」


 僕はエリスを覆っている壁を取り除くと、少しだけ体に倦怠感や疲労感を覚えていた。エリスは僕が心配していた通りの行動はせずに僕を違う世界へと送り出してくれた。ここは僕の知らない世界だけあって空気も匂いも今までと別の感じがしている。


「無事につけたみたいで安心しました。そちらの世界は私達の世界と繋がっていないのでもう会うことはないと思いますけど、こっちの世界の事は心配しないでくださいね。私がこの世界のすべてをもらい受けますからね」

「そうそう、俺は言おうと思っていたんだけど、結局伝えることが出来なくてごめんな。その柱に触れたら魔力を吸収されてその魔力で壁を作り始めちゃうからね」

「それってどういうことなのかな。もしかして、目の前に出てきた壁って私の魔力を使って出来ているってこと?」

「そう言う事だね。でも、君は何度も僕を騙しているんだから僕だってやり返したって罰は当たらないだろう。神様にいたずらを仕掛けたとしても、その神様はこの世界と関係ないらしいしね。どうだろう、その壁の中で死ぬまで後悔し続けるというのは?」

「私は寿命なんてあってないようなものなのよ、そんな時間をこの中で過ごすなんて無理よ。お願いだから助けに来てください」

「ごめんなさい。僕の力じゃそっちの世界に行くことは出来ません。何より,僕はこっちの異世界でサクラを探さなくてはいけないって理由があるからね」

「その理由のついでで良いのでこっちの世界に来て助けてくださいよ」

「そう言われてもね。僕がそっちの世界に行かない理由があるんだよ」

「その理由って何ですか?」

「そっちの世界に行かない理由は、サクラがいないからだね」


 絶叫とも悲鳴とも取れるようなエリスの声が聞こえていたけれど、その声が完全に聞こえなくなった時に僕は周りを見た事も無いような魔物に囲まれていた。

 その中の一匹が僕の顔をまじまじと見回すと、他の魔物に動かないように指示を出していた。


「一つお尋ねいたしますが、あなた様はこの世界の住人ではないですよね?」

「ああ、僕はある目的があってこの世界へとやってきました。もしかして、僕と戦いたいって事でしょうか?」

「いいえ、我々も多少は腕に自信はあるのですが、あなた様は我々よりもはるかに強いとお見受けいたしますが、その目的に我々がお力添え出来る事はありますでしょうか?」

「どうだろう。僕はサクラという女性を探しているのだけれど、心当たりはありますか?」

「あなた様がお探しの女性かはわかりませんが、サクラという名前には聞き覚えがあります。以前ですが、人間の冒険者の中にそのような名前の者がいたと記憶しております。確か、その女性は巫女という職業だったと思います」

「巫女ってことは、神を信じているやつかな?」

「ええ、そうだと思うのですが、その女性はとにかくドジばかりしているようでして、結果的に我々はその者たちと戦闘をせずに済みました」

「ドジな巫女って、僕の差がしているサクラじゃないといいんだけどね」

「何か不都合な事でもおありですか?」

「ああ、僕は前にいた世界では神殺しって言われたりもしていたからね」

「神殺しですか、それなら大丈夫ですよ。この世界は神もたくさんいるので殺し放題です。やりすぎは禁止ですけどね」

「そいつは素晴らしい。僕のいた世界には神が一人だけだったからね」

「一人だと間違っている事も正すことが出来ないですよね」

「いつまでも正しいって事も無いだろうし、神がたくさんいるのは良い事かもね」

「たくさんいすぎるのも問題があるんですけどね、まず、寿命以外では死ななくなっているんです。殺されたとしてもすぐにどこかの神が蘇生の術を使ってくれるのです。その恩で自分の信者を増やそうとしているんですよ。我々も何度か死と蘇生を繰り返した結果が今の姿なんですけど、生き返るたびにその神の見た目の特徴が与えられるので何度も死んでる人はとんでもない姿になっていますね」

「それじゃあ、命は軽いってことなのかな?」

「ええ、少なくともこの世界では命はその辺の石ころよりも軽いです。お互いに殺し合う事なんてほとんどないんですけど、時々あなた様みたいにどこからかやってきて魔物狩りなんて始めてしまう人もいるんですよね。中途半端に強いものの特徴なのかわかりませんが、こちらの話を聞かずに攻めてくるものがほとんどなのですよ」

「そんな事もあるんだね。じゃあ、寿命以外で死なないなら何も食べなくても平気なのかな?」

「生命活動という意味では問題ないのですが、やっぱり腹は減るので何か食べた方がいいですね」

「他にも色々教えてもらっていいかな?」

「ええ、我々に出来る事なら何でもお教えいたしますよ」


 エリスの言葉を全面的に信じたわけではないのだけれど、僕は前にいたあの世界よりも楽しい事が待っていそうなこの世界でサクラを探すことにした。

 魔物から教えてもらって道を進んでいくと大きな岩壁が僕の行く手を遮っていた。僕はこの世界でも空は飛べるのだろうかと思ってみたのだけれど、それと同時に体が浮いていたので空は飛べるようだった。

 岩壁の頂上から見渡すと、眼下に広がる巨大な街があって、その中央にはよく見るようなお城がそびえたっていた。あの街のどこかにサクラがいるのだろうかと思ってみていると、酒場に入って行く一人の女性の横顔が目に留まった。かなり離れている距離で一瞬しか横顔も見えなかったのだけれど、今の女性はサクラで間違いないと思う。


 僕の新しい冒険はサクラと一緒の楽しいものになる事だろう。

未熟でつたない文章ではございますが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

書き始める前に構想していた物とは違った形に進んでいったこともあったのですが、私の考えていた物を作ることが出来たように思えます。


次はルシファーとサクラのコメディ寄りの冒険物を作りたいと思っているのですが、そちらもよろしければご覧いただけると大変うれしいです。

もし、お時間がございましたら私の他の作品も読んでいただけると何よりの幸せでございます。


これからも読者の皆様や作家の皆様が素晴らしい作品に巡り合えることをお祈りしております。

どこかで私の作品に出合っていただき楽しんでいただけるように努力いたします。


では、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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