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悪魔のいない世界

 あれからいくつかの世界に降り立ってみたのだけれど、当然のように僕の知っている人はいなかった。僕の知っている時間からどれくらい時が経っているのか、それとも時が戻っているのかはわからないけれど、僕の知っている人は誰一人として存在していなかった。

 そんな中、どこかで見たことがあるような金髪の少女が僕の目の前に立ってじっと見つめてきていた。左右の目の色が異なるのが特徴だったけれど、よくよく見ているとエリスに似ているようにも思えてきた。金髪の女性という共通点しかないかもしれないけれど、僕のこの少女に心を奪われているようにも思えてしまった。


「お兄さんお兄さん、もしも暇だったらあたしと遊ばないかい?」

「遊ぶって何をするのかな?」

「遊ぶって言ったらタイマン勝負に決まってるじゃん。勝負方法は交互に決めるとして、あたしが勝ったらそのたびに少しばかりでいいんで小遣いをもらえないかな?」

「お金ならそこそこ持っているから別にいいけど、俺が勝ったら何かしてもらえるのかな?」

「そうだね、お兄さんはなかなかいい男だと思うし、あたしが良い事してあげるよ。あたしに勝てたらね。じゃあ、最初の勝負はお兄さんが決めていいよ。戦うのはちょっと対格差がありすぎるから勘弁してもらいたいけれど、どうしてもって言うなら気にしなくていいからさ。どうしても戦いたいって言うならね」

「別に殴り合いの喧嘩とかじゃなくていいんだけど、逃げた君を探して捕まえるって言うのはどうかな?」

「場所はこの町全体で良いのかい?」

「俺はこの町に来たのは初めてなんだけど、それくらいのハンデはあげてもいいと思ってるよ。じゃあ、君が隠れて三十分経っても見つけられなければ俺の負けでいいよ。三十分後にこの広場に戻ってきてね」

「この町はお兄さんが思っているよりも広いと思うけど良いのかい?」

「さすがに建物の中は禁止にしてもらいたいけど、それ以外ならどこに隠れてもらっても良いし、時間まで移動していてもいいよ」

「OK、お兄さんはあたしが思っていたよりもいい男だったね。この分だとお小遣いも期待しちゃっていいのかな。じゃあ、あたしは今から隠れることにするんで五分後に探し始めてよ。あそこに見える時計塔の時間で三十五分後だから、十一時まで逃げ切ればあたしの勝ちってことだね。町の人にあたしがどこに隠れているか聞いてもいいけど、この町の人は皆あたしの仲間だからお兄さんの味方をしてくれるかわからないと思うよ。じゃ、あたしは隠れてくるね」


 金髪の少女はそのまま細い道をひたすら進んでいった。僕の位置から見えなくなるまでひたすら一直線に進んでいたのだけれど、これが単純に遠くに早く逃げたいからなのか僕をかく乱するためなのかは分からなかった。

 約束の五分は過ぎていたのだけれど、時間はまだあるので焦らずにゆっくりと探すことにしよう。と言っても、僕にはあの子が隠れている位置が丸わかりだったりするので勝負にすらなっていないのだけれど。とりあえず、適当に探しているふりをしつつ、残り時間が少なくなってきたところで一気に近付いて見つけてみることにしよう。その方が反応も面白そうだとは思うのだ。


 残り時間もあとわずかというところで、僕はあの少女が隠れている場所の近くに移動してみた。先ほどまでこの辺りにいたと思ったのだけれど、僕が近付いた時に移動していたみたいだった。この世界の現象で僕が捉えられないものがあるはずも無いのだけれど、僕が感じるよりも早く少女は移動していた。


「お兄さんはなかなか勘が鋭いんだね。見つかるかと思って焦っちゃったけれど、あたしの方が後いう遊びになれている分だけ運が良かったのかもしれないな。もう一回やってあげてもいいんだけど、その前にお小遣い貰ってもいいかな?」

「そう言ったモノをあげたことが無いんで相場がわからないんだけどこの場合はいくらあげたらいいのかな?」


 少女はこれくらいかなと言いながら指を三本たてて僕に催促をしていた。それくらいだったらまあいいだろうと思ってこの国の紙幣を三枚渡すと、少女は目を見開いて驚いていた。


「ちょっと待ってくれよ、こんなにたくさんは貰えないよ。あたしみたいなもんがこんな物騒なもんを持っていたら何があるかわからないじゃないか。もしかして、お兄さんって世間知らずなのかあたしを嵌めようとしてるのかどっちかだろ?」

「いや、そんなことはないんだけど、三本だったから三枚って事かと思ってさ」

「三枚は三枚でも、紙幣じゃなくて硬貨の方でいいんだよ。あたしらみたいのは紙幣を持っていったって怪しまれて買い物も出来ないんだからね。仕事した時の給料だって紙幣で貰う事なんて無いからさ。そもそもそんなに高い給料の仕事に何てありつけはしないんだけどさ」

「そういう事情なら仕方ないけど、僕が持っているのはこれだけなんだよね」

「お兄さんってこの辺の人じゃないと思っていたけど、遊びに行く場所のルールくらい覚えておいた方がいいと思うよ。もしも、この辺で強盗にあったとしても小銭を持っていないんじゃ命を奪われかねないからね」

「そんなに物騒な町だったの?」

「前はそんなんじゃなかったら死んだけど、どっかのバカが悪魔を退治しちまったもんだからそうなっちまったって話だよ。あたしが産まれる前の話なんで詳しい事は知らないけれど、悪魔に仕えてた人間どもがいたら死んだけど、悪魔が消えたらそいつらが好きかってやり始めたって話だよ。それだけならまだ良かったんだけど、そいつらの真似事をし始めた子悪党どもが膨れ上がってしまって、この町みたいなスラムが色んな所に出来ちまったって寸法さ。悪魔がいた時も命は狙われることがあったらしいんだけど、今の時代の方がずっと生きにくいって話だよ。悪魔を倒すことってのは良い事なんだろうけれど、どうせならその後の責任も取って欲しいって大人たちが文句言ってたくらいさ」

「そう言う事もあるんだね。悪魔の下で働いてたやつらが悪魔の支配から離れたとたん、悪魔みたいに豹変したって事か。そいつは何とかしなくちゃいけないな」

「お兄さんがどうにかしてくれるなら願ってもいない話だけど、そんなのは無理な話だと思うよ。あの宮殿に住んでるやつは悪魔よりも悪魔っぽいって噂だぜ。後いっちゃ失礼な話かもしれないけれど、お兄さんって戦っても弱そうだし、交渉事とか苦手なんじゃないかな?」

「それはどうかな、意外と君も人を見る目が無いのかもしれないね。でもさ、俺が良い人だって言うのは間違ってないと思うよ。これからあの宮殿に行って親玉とお話ししてくるからさ」

「いやいやいやいやいや、お兄さんはあたしの話をちゃんと理解していないのかな。あの宮殿には悪魔時代を生き残っている猛者共が何百人っているんだぜ、それも武装した状態でだ。そんな中にのこのこ入って行っても運が良ければ体の一部が敷地から出てくるかもしれないって話だよ。お兄さんがあたしらを助けてくれようとする気持ちは本当にありがたいと思うよ。でもさ、お兄さんがそんな事の為に命を落とすことなんてないさ。あたしらは意外と楽しく暮らしているんだからね」

「ま、お兄さんに全部任せておいても大丈夫だから安心して待っててね」

「ここから宮殿に向かうのだって命がいくつあっても足りないんだよ。お兄さんの命はそんな事に賭けられるほど軽いものじゃないだろ。それに、せっかく知り合った人があたしの目の前から消えて死にに行くなんて嫌だよ」

「大丈夫、次の勝負は俺があそこの宮殿に入ってもちゃんと帰ってくるかどうかってことにしよう。そうだな、時間は十二時まででいいかな?」

「良くないよ。命は大事にしてくれよ。あたしの負けで良いからあそこに行くのだけはやめておくれよ」

「じゃあ、俺の大事なモノを預けておくからさ、俺が帰ってくるまでそれを大事に持っててくれないかな?」

「イヤだよ、そんな大事なモノなんか預かれないし、お兄さんが死んじゃったら処分していいのかわからないだろ」

「それもそうか、じゃあ、十二時半になっても戻らなかったら捨てていいよ」

「その時は捨てないでもらっておくよ。せめて、名前だけでも教えてもらえないかな?」

「そう言えば名乗っていなかったね。俺の名前はルシファーだよ」

「あはは、何言ってんだよ。ルシファーと言えば伝説の神殺しの大悪党の名前じゃないか。あの宮殿にいるのは悪党だけど神じゃないんだぜ。でもさ、そう言って強がっている姿も割といいと思うよ。あたしの名前はね」

「君の名前は俺が戻って来た時に聞くことにするよ。十二時半までここで待っててもらっていいかな?」

「ああ、その時まであたしの名前を知らないってわけだね。もしかして、お兄さんって自ら死にに行くものは最後に触れあったモノの名前を考えてしまうと、その相手を道連れにしてしまうって信じてるのかな?」

「そんな話は聞いた事も無いけれど、そう言うのもあながちあり得ない話ではないかもね。じゃあ、行ってくるよ」


 少女は何度も僕を止めようとはしていたのだけれど、僕は少女を無視してそのまま宮殿へと向かっていった。宮殿に着くまでの間に何体かの人間が現れていたのだけれど、所詮はただの人間が僕にどうこうする事なんて出来ないのであった。本当は少女を連れて行ってその眼で確かめてもらいたかったのだけれど、少女たちはあのスラム街から一歩も外に出ることが出来ないらしい。そのルールのお陰で僕はこうして宮殿に一人で向かうことが出来ているのだ。

 宮殿に着くまでの間に襲ってきた人間は割と多かったと思うのだけれど、何人かは残して僕の強さを触れ回って貰えばよかったなと思ってしまった。やってしまったことは仕方ないので気持ちを切り替えていこう。


 宮殿の中は外よりも涼しく、人が襲ってくることを除けば素晴らしい環境だと思った。僕は何度も何度も襲われはしたものの、その全てに抵抗することが出来たのだ。


 この宮殿に残されているのは僕と目の前にいる悪党だけだった。僕は彼の命を助ける代わりに、この建物を一般の人にも開放するようにお願いをしてみた。話してみると意外と話の分かる人だったようで、僕のお願いを快く受けてくれた。そろそろ約束の時間も近付いていると思うので、僕は少女の待っている場所へと戻る事にした。


 僕の姿を見つけると、少女はとても嬉しそうな顔をしているのに泣いてしまっていた。


「ただいま、約束通り戻って来たんだけど、俺の勝ちでいいかな?」

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