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終結の時

 ナイフが神の喉元に刺さっていた。当てるつもりで投げてはいたのだけれど、これほど綺麗に決まるとは思っていなかったので少しだけ自分の才能に驚いていた。神はそのナイフを抜こうともがいてはいるけれど、僕の投げたナイフを抜く前に魔力のすべてを奪われてしまっているようだった。ほぼ、実体の無くなったその体からに刺さっているナイフが落ちていないのは不思議だったけれど、神の体に残されている魔力を吸収している間はその位置に留まっているようだ。


「これで僕の目的は一つだけ達成されたけれど、サクラを戻すって目標はどう頑張っても無理なのかな」


 神との戦いに勝ったのに弱気になっている僕がそこにいた。こんな時にサクラがいればどのような事を言ってくれたのだろう。そもそも、サクラがいれば神と戦う事なんてなかったと思うのだけれど、僕は自分がしていた事の結果にサクラの出す答えを探しているように思えていた。


 突然、金属音が聞こえてきたので何事かと思って振り向くと、神の喉元に刺さっていたナイフが地面に落ちていた。そこにはもう神の姿も無く、僕が投げたナイフが落ちているだけだった。こんな小さなナイフで世界の全てを創り出した神を殺してしまったのかと思うと、小さなナイフに物凄い重みを感じてしまった。

 神がいなくなった世界がどうなるのかと思って心配していたけれど、急に崩壊しだしたり世界のバランスが崩れているような様子もなかったので、そこは一安心することが出来た。他の世界にも影響が出ていないといいのだけれど、僕はその確認の為にエリスのもとに戻る事にした。


 いつもの場所に戻ると、そこには光の柱に包まれているエリスがいた。光の柱に包みこまれているのだけれど、以前との違いはその光がエリス自身から発せられているという事だった。光の柱を纏って歩くその姿は神々しくもあり、この前よりも自信に満ち溢れている表情であった。


「ありがとうございます。ルシファー様が神の力を抑えてくれたおかげで私の力を取り戻すことが出来ました。しばらくの間は神も大人しくしていると思いますし、その間に二人で世界を混沌の渦に巻き込みましょうよ。サクラさんを元に戻すためにはそれが必要なんですよ。どうしてそんな事がわかるのかってお思いでしょうけれど、私にはそれがわかっちゃうんですよ。だって、サクラさんを造ったのは私ですからね。本来なら、もっと好戦的で場を荒らすような人間にする予定だったんですけど、どういうわけか嫌味の無い協調性の高い人間になっていたみたいなんですよ。神と戦わせる予定だったのに弱いままでしたし、本当に役に立たない失敗作だと思っていたんですけど、こうしてルシファー様を堕天させるきっかけになれたのは不幸中の幸いですね。ま、遅かれ早かれあなたは堕天していたと思うのですが、神の計画を狂わせたこともサクラの功績と言っていいでしょうね。どうしたんですか、サクラの呼び戻し方を教えてあげましょうか?」

「教えて欲しいとは思うけど、本当に君がサクラを創り出したのか?」

「ええ、そうですよ。私はサクラを造り出しました。その目的は、人々の世界に混乱を招き込むこと。誰よりも強く、誰よりも好戦的で、誰よりも危険な人物、そうなるはずだったのですが、実際はそううまくいかなかったのです。サクラの失敗を糧に人類にとって大きな火種になるであろう人間を造ろうとしていたその時です、私は不甲斐ない事に神の使徒に捕まってしまったのです。その際に閉じ込められた光の柱はルシファー様と最初に会った時のものです。閉じ込められてからしばらく時間が経った後だと思うのですが、中村達が神によってこの世界に呼び出されたのです。私は中村達を説得して争いの絶えない混沌とした世界を創るように進言したのですが、彼らは私の意見を聞き入れることはなかったのです。彼ら自身は仲が悪く言い争いも堪えない関係だったのに、世界からは争いを無くそうとしていたのです。そんなのおかしいですよね、争いの無い世界なんて何も生み出すことが出来ないのですよ。それでも、彼らを仲違いさせることには成功したんですよ。その時に私の中で何かが育っているのがわかったんです。私がきっかけで争いが起こると、私の中で何かの力が育っているように思えました。それは間違いではなく、その後も多くの人達で試したので間違いありません。神は中村達の失敗を見て異世界の住人に絶望はしたようでしたが、それでも他の世界に招くことはやめなかったのです。それはなぜかわかりますか?」

「全然わからないけど、サクラを創ってくれるのか?」

「そう焦らないでください。神があの世界に人間を送り込んでいた理由はたった一つ。あの世界が平和で何も起きなかったからです。転生してきた人間が現地の人よりも圧倒的に力を持っていたらどうなると思います?」

「困っていたら助けるとか?」

「中にはそういう人もいるでしょう。でもね、力を持った人は他人を虐げるのです。これは人間に限った話ではないのですが、圧倒的な力を持っていると支配してやろうと思うようになるみたいですよ。神はその後も定期的に様々な人間を転生させては争わせている日々が続きました。徒党を組んでみたり、弱っている相手を探したりと人間の行動は見ていて飽きることはありませんでした。神はそれを見て満足していたようなのですが、そこを乱すものが時々現れていたのです。その時はルシファー様が戦っていたようにどこにでもいる存在ではなかったのですが、あの世界にも悪魔が現れるようになったのです。憎しみ合う力が悪魔を呼び寄せたのか、悪魔が近くにいるからこそ憎しみ合っていたのか、その答えはわかりませんが、神があの世界へ人間を転生させたことがきっかきで悪魔がやって来たことには変わりはないでしょう。あの当時の悪魔は人間はおろか天使ですら太刀打ちできないような危険な存在だったのですが、それを打ち破るために創りだされた天使の存在によって全ての戦況は一変したのです。それが最初のあなたですよ、ルシファー様」

「最初の僕って、今の僕とは違うってことなのか?」

「そうですね。私が見ていた感じですと、あの時のルシファー様は神の言う事を忠実に守って悪魔を殲滅する機械のようでした。神の力を多くいただいているルシファー様は原始の悪魔どもを苦も無く殲滅していたのです。当時は悪魔が出てくる事にも多くの制限がかけられていたのですが、それが原因で数年に一体の悪魔が出れば満足といった状態でした。それでは、悪魔がいない間はルシファー様は何をしていたと思いますかね。その答えは、悪魔の様な思想の人間を狩っていたのです。神に止められてもその行為が停まる事はありませんでした。多くの悪魔を殺したことによってその魂に触れていたルシファー様は心の奥底に悪魔を狩っていたのです。皮肉なモノですよね、悪魔を殲滅するために創られたあなたが体の中に悪魔を育てていたなんて笑い話にもならないと思いますが、神はあなたの中から悪魔を取り出す事にしたのです。それは意外にもすんなりと成功しまして、あなたの人格は二つに分離したのです。その一つが今のルシファー様でして、もう一つはサタンと呼ばれている悪魔です」

「それがまた僕の中に戻っているけど、大丈夫なのかな?」

「大丈夫だと思いますよ。神の力も弱っていると思うし、サタンに体を乗っ取られる事も無いでしょう。夜も安心して眠って平気ですからね」


 僕の中にはサタンの他にもアマツミカボシやその他多くの力が眠っている。サタンやアマツミカボシのように力のあるものだと独立して何かしていてもおかしくないと思う。それが出来ないのは、僕の許可が必要になってくるらしいからだ。


「どんなに凄い力を持っていたとしても、それを抑えつける力の方が強ければ抵抗なんて出来ないんですよ。ルシファー様みたいに神の力を多くいただいている天使だとしたらなおさらですよね。そこで提案なんですが、サクラを呼び戻すために協力していただけないでしょうか?」

「サクラの為と聞いて断るわけがないでしょ。僕はサクラの為に神まで殺したんですからね」

「それはそうでした。でも、神は死んでいませんよ。あの世界に呼び出した神の力を削っただけですからね。それでも、しばらくの間はあの世界にも神の影響力は及ばなくなると思いますよ。それがどれくらいの期間なのかわからないんですけど、神の力を弱めるためにもサクラを呼び戻すためにもあの世界を争いの絶えない世界にしてしまいましょう。憎しみの種をばらまいて世界を混沌の渦に陥れましょう。その力を持ってサクラの魂を再調整すれば以前のように、ルシファー様と過ごしていた時の状態に戻りますよ」

「それならいいんだけど、俺の事を騙そうとしてないよな?」

「騙すわけないじゃないですか、これはルシファー様にとっても良い事だと思いますよ。今やルシファー様に敵はいないと思いますので、これからは転生させた人間を成長させてルシファー様と戦える人材を育てましょう。そうすればサクラをその手に取り戻せる日がやってきますから」

「俺はお前の事を全面的に信用しているわけじゃないんだけど、次でサクラが戻らなかったらお前を殺して世界を創りなおすからな。俺が今お前を殺していないのも、俺にとって“都合が良い”からなんだろうしな」

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