決戦前夜
あいつとの戦いに先駆けてやっておくべきことはもう残されていないと思うのだけれど、念には念をいれておいた方がいいだろうと思っていた。そんな時にヒントをくれたのはサタンだった。
「あいつはほぼ精神体に近い存在だから魔法に気を付けておいた方がいいな。俺が覚えているのはそれくらいだけど、エリスはどう思う?」
「私もサタンと同じ意見ですね。ルシファー様の魔法防御力だと長期戦になった時に少し不安があるかもしれませんが、短期決戦なら何の問題も無いと思います」
「それなら僕も魔法耐性を上げたりした方がいいってことだよね」
「残念な話にはなってしまうけれど、お前の魔法耐性はもう限界値まで上がっていると思うぞ。それ以上上げたいんだったら何かを犠牲にしないといけないんだけど、そうするとあいつに攻撃が効かなくなるかもしれないんだよな。本当にバランスが難しい話だよ」
「それはそうなんですけど、あのお方の力を取り込むことが出来たら魔法耐性ももっと上がると思いますよ。問題はもっと大きくなっちゃうと思いますけど」
「やっぱり、あいつの力だけでも取り込んだ方がいいのかもしれないんだね。僕が完璧に制御できるようになればいいんだけど、それは今のままじゃ無理っぽいよね」
「あいつと同格の神にでもなれればいいんだけど、あいつは最高位の神なんだよな。それと同格になるにはもっともっと信仰心と経験を積まなきゃいけないんだよ。俺が見たところだと、信仰心はもう少しでいい感じになると思うけれど、神としての経験が少なすぎるよな。少なすぎるって言い方じゃなくて、全く足りていないと言った方がわかりやすいかもしれないな」
「確かに、ルシファー様は今でこそ創りかえた世界のお陰で信仰心は相当集めていらっしゃいますが、神としての自覚も足りていませんからね。神にも色々いると思いますけど、他のどの神とも違っているんですよね。それがルシファー様の良いところでもあると思うんですけどね」
「そうは言っても何も結論は出ないだろうし、他に何かいい方法が無いか考えてみようぜ。俺は攻撃の事しかわかってないから防御面は苦手なんだけど、昔の記憶でも探って使えそうなのが無いか探してみるよ」
「私も色々と調べてみますね」
三人はそれぞれ違ったアプローチで進めていった。僕は他の二人と違って何も思い浮かばないし頼れるような経験もしていない。何かいい方法が無いかと考えていると、あいつから力を奪うのではなくあいつの使った魔法の威力を弱めてみるのはどうだろうかと考えてみた。何の根拠もないけれどこの計画は上手くいくような予感がしていた。それを二人に説明してみると、二人ともえらく感動したようで僕の案に全面的に乗ってくれることになった。
「魔力を下げられないのなら魔法自体を弱くすればいいって事ね。いいんじゃないかな」
「そうですよね。直接下げられないなら使っている魔法を弱くするのが一番ですね。どんな魔法がいいんでしょうね」
「ソレについてなんだけど、何かいい方法あるかな?」
「そうですね、一番簡単なのはあのお方の魔法を結界で閉じ込めちゃうことですかね」
「良いね、それって凄く良いよ。完璧な作戦だよ」
「でも、魔法が一発じゃなくて連発してきたらどうしようか」
「その時は天に運を任せるしかないね」
運任せの勝負になってしまうと僕よりもあいつの方に分があるのではないかと思ってしまうのだけど、そんな作戦で上手く行くのだろうか不安になってしまう。そんな運任せではなく勝利を近付ける方法は他にもあると思ってもう少し考えることにしよう。
魔法を一つ一つ結界で封じるのは効率も悪いと思うのでもっといい方法はないだろうかと考えてみることにした。魔法を受ける場所を一か所に誘導することが出来ればそこだけを強化出来るのだけど、そんなことが出来るのだろうか?
「例えばなんだけど、あいつの攻撃を受ける場所を一か所に集中させることって出来ないかな?」
「それって弱めなくても大丈夫ってことなのかな?」
「威力を落とせるに越したことはないけれど、それでも大丈夫だよ」
「それならさ、結界の一か所をあけてそこに誘導するようにしたらいいんじゃない?」
「結界の一か所を開けるなんて出来るの?」
「俺には無理だけど、お前なら何とかなったりするんじゃないかな。どうやるのかは知らないけどさ」
「それなんですけど、一か所だけ展開しないってのは出入り口を作る要領でやれば良さそうだと思うんですよね。それだけだと直接威力が高いままになってしまいそうですし、位置をずらして少しずつでも威力を弱める必要があるんじゃないですかね。でも、それだとルシファー様の攻撃も弱くなってしまいそうですね。攻撃をするたびに結界を解くのも変な話ですし、こうなったら短期決戦に賭けるしかないんじゃないですか。どっちにしろあのお方を倒すのにそれほど時間をかけることは出来ないと思いますからね」
「そうだね。戦うならその方が僕もいいと思うよ。でも、最初の一回だけその多重結界を展開してみようかと思うんだよね。それを見たとしたら相手の出方も変わってくると思うし、上手く行ったら攻撃方法が変わるかもしれないからさ」
「お前が決めた事ならそれが一番だろうさ。失敗したとしてもリンネが何とかしてくれると思うし、俺はお前の中から見守る事にするよ」
多重結界は意外とすんなり展開することが出来た。結界の外に結界を新しく作るのは強度に不安があったのだけれど、結界の中に新しく作っていく事には問題も無かった。入り口を少しずつずらすことで魔法を誘導することが出来るのと同時に、入り口の弱い結界を破壊するたびに多少は威力も落ちているのでそれなりに威力を落とすことが出来るのだった。
「思っていたよりも上手くいきそうですね。この調子なら少しは善戦出来そうですけど、もう一工夫星ですよね。ルシファー様にしか出来ないような事を何かしといたほうがいいですよね」
「そうだね、それなら戦う舞台は俺が整えておくよ。色々と仕掛けを用意しても無駄だと思うし、普通に戦いやすい舞台にしておくかな」
神との戦いに向かう僕は今までにない緊張感に包まれていたのだけれど、心のどこかではそれほど苦戦する事も無いのだろうと楽観していた。負けたとしてもまた生き返ることが出来ると聞いているし、それなら気楽に何度でも挑めるというものだ。





