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意外な方法

 何度倒しても僕の中に戻ってくる事が非常に厄介ではあった。抵抗をしてくる事も無くただその場に立っているだけなのだけれど、倒すたびに僕の中に取り込まれるその力を完全になくすことは出来なかった。切り刻んでも焼いても凍らせても僕の代わりにサタンやアマツミカボシにやらせてみても結果は変わらなかった。僕は結局あいつの力に抗うことは出来ないのだと諦めてしまった。

 諦めた事で何かが変わる事もあるかもしれないと期待してみたけれど、当然のように何も変わることはなかった。ただただ時間だけが過ぎていっていたのだった。このままではどうしようもないだろうと思っていると、エリスが僕の心に語り掛けてきた。


「ルシファー様はまだ戻ってこれないんですか?」

「戻りたい気持ちはあるんだけど、色々あって僕の中にいるあいつの力をどうにかして切り離したいんだよね。でもさ、何度倒しても僕の中に戻ってきちゃうし、サタンやアマツミカボシにお願いしてみても結果は変わらなかったんだよね」

「ああ、あのお方の力がルシファー様の中にある限り安定して戦う事は難しいですもんね。でも、今って切り離すことが出来ているんですよね?」

「うん、切り離すことまでは出来たんだけどさ、そこからどうやって抑え込めばいいのか見当もつかないんだよ」

「そんなに激しく抵抗してくるんでしたら、状況が落ち着いてからまた連絡してくださっても構いませんよ」

「いや、全く抵抗とかしてこないよ。棒立ちでこちらが何かしても反応ないくらいだからね」

「全く抵抗してこないで棒立ちなんですか?」

「そうだよ。抵抗してこないからさ、逆に攻略の糸口も見つけられないんだよ」

「抵抗してこないで棒立ちなら相手をしなきゃいいんじゃないですか?」

「そんな事して大丈夫なのかな?」

「大丈夫だと思いますよ。何か問題があったとしたらまたそこに戻ってどうにかしたらいいと思いますし、それで何か文句を言われたとしてもルシファー様には関係ない話だと思いますよ」

「そう言われてみたらそうかもしれないね。ちょっと別の世界に移動出来るか確かめてみるよ」


 僕は目の前にいる相手の攻略方法が見えなくて困っていたのだけれど、そもそも相手をしないという選択肢がある事に気が付かなかった。そして、それが最適解だったという事が実行してみて初めて理解出来たのだった。


「移動してみたところ、無事に成功しました。適当に飛んできたから今がどこかはわからないけれど、エリスのお陰でこれからの戦いで不利になる事は無くなったと思うよ。それにしてもここはどこなんだろう?」

「おめでとうございます。ルシファー様がいらっしゃる場所なんですが、皇都と呼ばれていた場所のようですね。ルシファー様が以前訪れた時から五世代くらい時間が進んでいるみたいですね。よろしければ以前訪れた際の時間軸にお戻しいたしましょうか?」

「いや、このままでいいよ。ちょっと確かめておきたいこともあるからね」


 僕が以前世話になっていた時と状況が異なるからなのだろうか、結界自体はちゃんと機能しているようだったのだけれど誰かが住んでいる気配はしなかった。空を飛んで上空から見ていたのだけれど、どこを見ても町の様なものはなかった。町は無かったのだけれど、数軒の家が点在していてその周辺には畑や水田が広がっていた。建てられている家屋を見る限りではどこも綺麗で新しいものばかりだったのでここ数年で一気に入植者が増えたのかもしれなかった。空からそれを見ていると、若い親子が僕に向かって手を振っていたのに気付いた。僕はそこにゆっくりと降り立つ事にした。


「ママ見て、空から人が降りてきたよ。凄いよ」

「そうだね、ちゃんとご挨拶しなきゃダメよ」

「そっか、僕はライトって言います。僕はママを守る仕事をしています。お兄さんは空を飛ぶ仕事ですか?」

「初めまして、僕の名前はルシファーだよ。空を飛ぶのは仕事じゃないんだけど、ライト君はママを守る仕事をしていて偉いね」

「うん、昨日もママの為に野菜を運んだりしたよ。でも、空を飛べたらもっとママの事守れるのかな?」

「空を飛べなくても守れると思うよ。ライト君なら大丈夫だよ」

「ありがとう。でも、僕も空を飛んだら今よりもっともっとママを守れると思うんだ」

「もしかして、空を飛んでみたいのかな?」

「うん」

「それならママに良いか聞いてみてごらん」

「聞いてみる!」


 僕の漆黒の羽を見ても物怖じしないこの親子はもしかしたら凄い能力の持ち主であるのかと思って警戒してみたのだけれど、そのようなことはなくどこにでもいるようなごく普通の親子だった。それにしても、この世界でライトという名前には懐かしさも感じていた。


「うちの子がワガママ言ってすいません。でも、本当によろしいのですか?」

「ええ、そんなに高くは飛ばないので安心してくださいね。あと、もしもの時の為に何か体を結び付けられる物をお持ちではないでしょうか?」

「それでしたら、野菜を縛る紐がありますのでこちらでお願いします。でも、どうしてうちの子の願いなんて聞いて下さるんですか。それに、この辺りには有翼種の方はいないと思うのですが、どちらからいらしたんですか?」

「えっと、説明するのはちょっと難しくて理解出来ないと思うのですが、僕はこことは違う時間軸の世界から迷い込んだみたいです。と言っても、過去にこの辺りに来たことがあるんですけどね。その時にライト君と同じ名前の騎士と一緒にいたことがあるんですけど、ライト君の名前を聞いた時にそれを思い出しまして、勝手に縁を感じてしまったんですよね」

「もしかして、救国の三女神の騎士様とお知り合いだったのですか?」

「救国の三女神?」

「伝承によりますと、私の祖母の祖母が幼少の頃にはこの辺りも怪物が跳梁跋扈するような世界だったようなのですが、その親玉から世界を救った三人の女神がいてそれを御守りしていた騎士の名前がライト様だと伺っております。そのような偉大なお方の名前を拝借するのもおこがましいとは思ったのですが、祖父母の勧めもありましたので名付けさせていただいたんです。この平和になった世の中には伝説の騎士のように強くある必要も無いとは思うのですが、逞しく育って欲しいと願いを込めているんですよ。あら、長話をしてしまい申し訳ございません」

「いえいえ、ここが平和になっているみたいで良かったです。それに、僕の知っているライト君もあなたのお子さんのように女神を守っていましたよ」

「ねえねえ、僕も騎士になれるのかな?」

「それはどうかな。でも、ママをちゃんと守らないと騎士にはなれないからね」

「わかった。ママをちゃんと守るよ。だから、空を飛びたいな」

「じゃあ、ちょっとだけだよ」


 僕は万が一にもライト君が落ちないようにしっかりを体を結ぶと、ゆっくりと空を飛んでみた。こうして誰かを抱えながら空を飛ぶのは楽しいものだと思っていると、皇都の結界が揺らめいでいるのが微かに感じられた。


「おばあちゃんが言ってたんだけど、あのお城の中には悪い怪物が閉じ込められているから近付いちゃダメなんだって。僕はその話を聞いて怖いなって思ったんだけど、悪い怪物を閉じ込めている壁が壊れないように毎日お祈りをしてるから大丈夫なんだよ」

「そうなんだ。じゃあ、悪い怪物が出て来ないようにお祈りもしておかないとね」


 時間にして十分程度だとは思ったのだけれど、ライト君はとても楽しかったらしく嬉しそうにはしゃいでいた。その様子を見て母親も嬉しそうにしていた。


「ライト君から聞いたんですけど、あのお城の中って怪物が閉じ込められているんですか?」

「私も詳しい話は分からないのですが、あの結界の内部に世界中の怪物が集められているそうです。本当はこの辺りに住むのも恐ろしいのですけど、この辺りに人が住まないと結界の強度を維持できないそうなんですよね。それで、私達の様な身分の低いものが土地を与えられて生活することになっているのです。ですが、それでも町の中で狭い場所に閉じ込められて暮らしているよりは広くて開放的ですし、何より息子も楽しそうにしてますからね。怪物の近くにいるという事で税金もかからないですから暮らす分には幸せだと思いますよ。ただ、結界が揺れるたびにいつ壊れるのだろうという恐怖に襲われてしまいますけどね」

「この世界にいる怪物が全てあの中にいるんですか?」

「そう聞いていますが」

「じゃあ、ちょっとだけ様子を見てきますね。怪物退治なら得意なんですよ」


 僕はライト君の母親の制止を振り切って結界に近付いてみる事にした。空から見ていると特に不審な点は無かったのだけれど、結界に近い家ほど土地も畑も広いようだった。何人か畑仕事をしている人もいたのだけれど、よほど集中しているのか上空にいる僕に気付いたものは誰もいなかった。ライト君が気付いたのは偶然ではなく運命だったのかもしれないと思ってみたけれど、それはライト君と言うな間を聞いて感じた僕の思い込みであろう。

 結界に近付いてみると、中に無数の怪物がいることがわかった。結界を通しているとは言え、かなり近くにいるのだけれど向こうから何かをしてくる様子もなかったので、向こうからはこちらが見えないようになっているみたいだ。

 結界の入り口を探してみたけれど、当然そのようなモノは無く周囲を見回しても入れそうな場所は見つからなかった。どうしたものかと思って結界に寄り掛かるとそのまま僕の体は結界の中へと吸い込まれていった。

 外からは簡単に入れるけれど中からは出られない仕組みなのだろうか。どんなに頑張ってみても外に出ることは出来なかった。せっかくだからと城に向かって歩き出すと、僕の周りを無数の怪物たちが取り囲んでいた。その中を気にせずに歩いていると、僕の進行方向にいた怪物が道を開けてくれていた。


「ありがとう」

「いえ、あなたからは我々よりも強い力を感じております。その力を持ってこの結界を破壊していただけないでしょうか?」

「そんなことするわけないでしょ。僕にメリットが無いじゃないか」

「この結界さえ破壊していただければ三日と経たずにこの世界をあなたのモノにしてみせますよ」

「そんな事はしなくてもいいよ。大体、この世界も僕のモノには変わりないからさ」

「は?」


 怪物たちは僕の強さは理解出来ているようだったけれど、僕が何者かまでは理解できない様子だった。ここで僕に襲い掛かってくれば面白いなと思っていたけれど、僕が魔鉱石の間までたどり着いても襲ってくる怪物はいなかった。


 魔鉱石はその石に膨大な魔力を蓄えてはいるようなのだけれど、今のままの規模で結界を維持していくのには少し心もとないように思えた。人間たちが毎日の祈りを欠かすことはないと思うのだけれど、万が一忘れることもあるだろうと思って僕の魔力を少しだけ注いであげる事にした。ほんの一日休めば回復する程度の魔力ではあったけれど、これだけでも数百年間は維持できるとは思う。


「ルシファー様、そろそろお戻りになりますか?」

「そうだね。ところで、僕の中にいたあいつはどうなったかな?」

「観測していた結果ですが、相変わらずあの場から動くことはないですね。ルシファー様を探している様子も無いようです」

「それは良かった。じゃあ、あいつと戦う準備も出来たし、今から戻るよ」

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