表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/79

光の世界

 何度世界を創りかえて僕の分身を倒して強くなったとしても、僕の力があいつに届いているという感覚は一切なかった。エリスに聞いてもはっきりとは答えてくれなかったけれど、僕の考えている事と同じ結論に至っているようだった。

 僕が強い力を手に入れるという事は、新しい世界を創る時の犠牲も少なく済むようになっている。それだけではなく、僕の強さに比例してなのか人類の進化のスピードもどんどんと速くなっていった。あっという間に成長している人々は心の中に信仰心はあるみたいなのだが、神よりも他のモノを信じているようなタイプの人がかなり増えていたのも事実である。

 僕が思っているよりも人類は創造性も豊かなようで、今までになかった文明に発展していく事も多くあった。ただし、あまりにも発展しすぎてしまったり強力な魔法使いが産まれそうになると、僕はその世界を終わらせることにしていた。人類が強くなることは良い事ではあるし、それによって信仰心が薄れることも良い事ではあるのだ。良い事ではあるのだけれど、一人一人は些細な力かもしれないけれど、多くの人が団結してしまうと少しだけ面倒になってしまう。と言っても、どれだけ団結して立ち向かってこようが僕の敵ではないのだけれど、それでも必要のない苦労はしたくないと考えてしまう。


 それでも僕の分身が何度も何度も人類を救っているという事実が全世界共通で刻まれつつあるのだけれど、それによって僕にも熱狂的な信徒が産まれる事となった。強制したわけではなく自発的にそのようなことが起っているのは少し嬉しくあったし、信徒がいる間は僕の力はいつも以上に絞りだせているように思えた。

 これが神の力の源になるのかと思っていると、いつもよりも高い質の力が手に入っているように感じていた。信じられている分の力は最初に思っていた時よりも力強く暖かく感じた。僕も神の一員に加わったという事になるのだが、これからはいかに信者を増やしていくかという方向にシフトする必要も見受けられた。それは同時にあいつの信徒を減らすことにもつながると考えていた。


 僕が強くなっている事とあいつが弱くなっている事がイコールで繋がっているのも面白かったのだけれど、それ以上に人類が己の力だけで悪魔に立ち向かっている姿に感動すら覚えてしまった。どんなに強くなったとしても人類では悪魔に勝てないことになっている。そういう世界になっているのだ。


 ある程度どの世界でも僕の知名度が上がっているためか、僕が地上に降り立つと多くの人が集まる事になってしまった。僕の分身でもそれなりに役には立っていたのだけれど、どういうわけかこの世界の人間たちは僕と分身の区別がしっかりとついていた。それはどこの世界に行っても変わることはなかった。

 頻繁に世界に降り立つとそれだけでも僕に対する信仰心は上がって言っているようで、僕の姿を見た人達はもれなく僕を信仰の対象としているようだった。


 僕の力が強くなっているのをエリスも感じてはいるようだけれど、それでも僕は神に勝てないと思われているみたいだった。どうにかして勝てはしないかと思っていると、一度くらいなら挑んでみて目標の強さがどの程度なのかはかる事も必要だとは思われる。


「じゃあ、ルシファー様が望まれますので、あの方のいる場所に案内いたしますね」

「俺が世界を創りかえて呼び出すのではだめなのかな?」

「ダメではないんですけど、ルシファー様が呼び出した場合はあのお方本来の力を失った状態となりますので、アマツミカボシの時同様何度も戦闘を繰り返すことになりますよ。あのお方はアマツミカボシのように自分を殺すことが出来る者を探しているわけでもないので恐ろしい攻撃が待っていると思います。そちらを体験なさってから戦うという選択肢もありますが、ルシファー様はリンネの力で蘇る事も出来ますので本当の力を体験なさる方がよろしいかと思いますよ」

「俺も相当強くなったと思うんだけど、それでもあいつには勝てないと思うのかな?」

「そうですね、力だけを見るとルシファー様の方が強いと思うのですが、あのお方はルシファー様の力を抑えることが出来ると思いますので、あのお方にルシファー様が挑むのも危険な感じだとは思いますね」


 エリスが長い間入っていた柱の中にはどこかに通じているような道があったのだ。中に入ると入り口は狭かったのだけれど思っていたよりも広い空間が広がっていた。遠くに光が見えているので一本道だとは思うのだけれど、どれだけ歩いてもその光は近付いてこなかった。本当に長い時間歩いていると思うのだけれど、その光に辿り着くことはなかったのである。


「まだまだ遠いと思うんですけど、もう少し歩いたらあのお方がルシファー様よ招いてくれると思いますよ。私はここで帰らせていただくことにしますが、気にしないでくださいね。私はルシファー様と違って生き返れるか不安なんですよね。私は帰りますけど、ルシファー様はこのまま前に進んでくださいね」


 エリスはそう言い残すとこの場から逃げるようにいなくなってしまった。僕はその後姿を見送る事しか出来なかったのだけれど、その後は自然と光に向かって歩き出していた。

 光が近付いている感じはしないのだけれど、前に進めば進むほど背中に冷たいものが走っている感覚が強くなっていった。いつの間にか僕の周りに不思議な靄がかかっていたのだけれど、その靄に包まれている間は暖かい何かに守られている感じだったのだけれど、強い力に引き寄せられていくと全身が恐怖に包まれているような感覚を覚えていた。


 気付いた時にはもう光の中にいたのだけれど、暖かいのに寒気が止まらない不思議な感じになっていた。自然と汗をかいているのだが、寒さで震えも止まらない。そんな不思議な感覚だった。


「我が息子ルシフェルよ。我に挑もうとするその心意気は見事である。しかし、お前には我に勝つことは出来ぬ。如何なる努力をし研鑽を積んだとしても、お前では我に勝つことは出来ぬのだ。それは今のお前が一番よく知っている事であろう。それでも尚も挑もうとするその心意気は見事であるが、勇気と無謀は別物と知るのだ。我が息子ルシフェルよ、お前が何度でも立ち上がり我に挑むことを期待しておるぞ。お前がどのような工作を図ろうとも我の前には無力と思い知るがよい。何も期待してはおらぬが、少しは我を楽しませるのだぞ」


 姿は見えないけれど声だけでも僕は完全に威圧されていた。今までの努力が無駄だったのではないかと思えるような絶望的な力の差を感じてはいたのだけれど、不思議と寒気はおさまっていた。厳しい中にも慈愛に満ちた言葉が僕の心に突き刺さっていた。絶望の中に希望を感じてはいたけれど、結果的には絶望に満ちていたようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ