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救済

「アマツミカボシは片付いたみたいですけど、ルシフェルさんはこれからどうしたいんですか?」

「当初の予定通りサクラをちゃんとした形で蘇らせたいんだけど。それについてはどうしたらいいかな?」

「そんなのは知らないですよ。私がどうこう出来る問題でもないですし、知っていたとしても詳しく教えるわけないじゃないですか」

「知ってるなら教えてくれよ」

「いやいやいや、教えたとしても絶望するだけだと思うんで、そろそろその夢は諦めましょうよ」

「諦められるわけないじゃないか。僕がサクラを呼び戻す為だけに頑張って来たんだよ。今までの努力は何だったってことになるじゃないか」

「そんなのどうだっていいじゃないですか。私の主に敵対していた最後の悪神もあなたが排除してくれたんだし、全て丸く収まったってことで良しとしましょうね。あんまり聞き分けの無い事を言っていると私も怒りますよ」

「いや、怒るって言われてもさ。悪神ってどういうこと?」


 光の柱に包まれていた女は自由になった今も柱から離れようとはしないのだが、いつの間にか僕を見下すような表情に変わっていた。


「ルシフェルさんは何も覚えていないようですけど、もう主に対する忠誠心とかも無いのですか?」

「忠誠心と言われても、その主ってのが何なのかわからないんですけど」

「ああ、何と嘆かわしい。私の主も悲しんでおられると思いますが、いや、そんなに気にしていないかもしれませんね。とにかく、ルシフェルさんは私の主が創った最初の天使だったのですけど、それも覚えていないんですよね?」

「よくわからないんですけど、天使だって知ったのも最近の話ですし、その主ってのも良くわからないんですよね」

「別に知っていただく必要も無いのですが、私の主がルシフェルさんの行動によってコチラの世界にやってきていただけることになったのです。私の主がこちらに来て下さるのは初めての事なので緊張しますが、どうやってお出迎えしたらいいと思いますかね?」

「普通にしてたらいいんじゃないですか?」

「何言っているんですか、普通ってわけにはいかないでしょ。そうですね、私の主を迎えるにあたって大天使をもう少し増産しておきたいですよね。そのためにはもう少しだけ犠牲になる世界が必要になりますよね。そうだ、アマツミカボシの力を手に入れたルシフェルさんなら少ない資源で世界を創造できるかもしれないです。今のルシフェルさんなら一万人くらいの人間を素材にすれば新しい世界を創れるんじゃないですかね?」

「人間を素材ってどういうことですか?」

「今までだって新しい世界を創るのに人間を犠牲にしていたじゃないですか。アマツミカボシの力を手に入れたことによって今まで無駄にしてきた部分も有効活用できるようになったんですよね。神が創った人間を素材にして天使が新しい世界を創るなんて無茶な事ではあったんですけどね。中村達四人は良くやっていたと思いますよ。私が天使を呼び出して手伝わせていたとはいえ、人間が人間を素材として使う事に多少は抵抗もあったでしょうけれど、それも最初だけで最後の方は人間をただの数字だと思っていたみたいですからね。自分もその数字の一つでしかなかったというのに。さあ、ルシフェルさんは人間でも天使でもなく神に近い存在となっているのですから、これからの為にも新しい世界をどんどん創って私の主を迎え入れる準備をいたしましょう」

「とてもじゃないけれど、そんな事は出来ないです。僕にだって思い入れのある人が何人もいますし、そんな人たちを使って新しい世界を創るなんて、騙して裏切るようなことは出来ません。とてもじゃないけれど、出来るわけがないです」

「ああ、その点なら大丈夫ですよ。人間の寿命なんて百年にも満たない些細なモノですし、あなたが今まで関わってきたような人達は誰も残っていませんよ。もしかしたら、そんなに昔の事は記録にも残っていないのかもしれませんけどね」

「そんなに昔って、たかが数年の出来事じゃないですか」

「いいですか、人間と天使は過ごしている時間は違うのですよ。あなたには数年かもしれないですけれど、人間たちの時間で言うと数世紀は経っているかもしれないですね。それに、悪神とはいえ神の世界で長い時間を過ごしていたんですからそれだけの時間経過では済まないかもしれないですよ。ルシフェルさんの知っている人は確実に死に絶えていますね。もしかしたら、転生者ならその命を何度も繰り返しているかもしれませんが、魔王も悪魔も天使すらもいないそんな世界で永遠の命を手に入れても彼らは生きる希望と目的を持てているのでしょうかね。死んでも死にきれない自分の運命を呪っているのかもしれませんよ。一緒に見てみましょうか」


 僕達が見た世界はどこを見ても見覚えのある世界だった。無数にある平行世界のどれを除いたとしても、知っている場所に知っている顔があって楽しそうに笑っている。魔王と呼ばれていた者も普通に町中で見かけることが出来たし、今まで見ることが無かった獣人も町中で生活をしているようだった。


「あれ、もっと世紀末の絶望に包まれている感じだと思ったのにみんな楽しそうにしているじゃないですか、これじゃあ私の主を呼ぶことが出来ないですよ。ルシフェルさんはアマツミカボシの力を使って全人類にどうしようもない絶望を味合わせてきてください。全ての人類が私の主に救いを求めるように願うようになるまでですよ」

「アマツミカボシさんの力ってそう言う事に使う為だったんですか?」

「悪神アマツミカボシは存在するだけで世界に悪影響を与えていますからね。本人にそのつもりはなかったとしても周りに悪影響を与えるんですよ。私の主はそれを程よく抑えていたのですけど、もしかして、完全に存在が消滅してしまったからあんなに和気藹々と楽しそうで平和な暮らしになっているんですか。こうなったのもルシフェルさんのせいですよ。責任取ってください。私の主の為にも世界を恐怖のどん底に叩き落して下さい」

「言っている事が無茶苦茶なんですけど、どうしてそこまでして主ってのを呼びたいんですか?」

「どうしてって、主が来てくれたら私は救われると思うんですよ」

「今は救われていないんですか?」

「意味が分からないんですけど、私は監禁されて無理矢理天使を製造させられていたんですよ。そんな状況から主は私を救ってくれるはずです」

「今は監禁されていないですよね?」

「そうですけど」

「天使を作れって強要もされていないですよね?」

「当り前じゃないですか。ルシフェルさんはどうにかしたんですか?」

「その状況で何から救われたいんですか?」

「さあ、何でしょうね?」


 しばらく考えていたようだけれど、この女は何も思い浮かばなかったようだ。何かを考えてはいるようだったけれど、考えがまとまる前に何かに妨害をされているように見えた。


「俺が代わりに救いましょうか?」

「ルシフェルさんがですか?」

「はい、俺が代わりに」

「ルシフェルさんって俺って言ってましたっけ?」

「前から俺って言ってたよ。お前の信じる見えない神よりも目の前にいる俺という神を信じた方がいいと思うけどな」

「いつになく強気な感じが気になりますが、一体どうしたんですか?」

「お前の言う通り、俺も神になってみようかと思っただけだよ。俺だけの世界を創りだすのも面白そうだしな。お前たちが創ろうとしていた世界は俺が貰う事にするよ」

「そんな事させたくないんですけど、ルシフェルさんがそう言うならそうした方がいいかとも思うんですよね。でも、私には主がいますから、それを裏切る事なんて出来るわけないじゃないですか」

「大丈夫、お前には俺がついているからさ。そうだな、俺はもうルシフェルという名前を捨てよう。これからは俺をルシファーと名乗ることにしよう。エリスもそう呼んでくれていいのだからな」

「はい、ルシファー様の仰ることは私の全てであります」


 僕の考えている事と口から出ている言葉が完全に分離していた。僕が言いたいことはそう言う事ではないし、完全に思ってもいない言葉が僕の口から出ていた。


『俺は完全にお前に吸収されたわけじゃないんだし、これからもこうして助けてやるから安心して過ごせよ。お前も神になりたいんだったら俺のやり方から学んで行けよ』

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