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僕と太陽と

 見慣れた太陽を越えてからも上空を目指しているとより大きな太陽が僕を強く照らしていた。その光は今まで慣れ親しんできた太陽とは異なり暖かく柔らかい日差しが僕を包みこんでいた。その光を受けて僕の羽は優しく輝いてはいたのだけれど、その羽の色は光を受けた白ではなく光を反射するような漆黒ではあったのだが、僕はその黒い羽からは柔らかく暖かい感じを受け取っていた。

 太陽に近づくにつれて僕の羽は少しずつ抜け落ちていったのだけれど、羽が減っているはずなのに太陽へと近づくにつれてそのスピードは速くなっていった。そのスピードはどんどんと加速していき、周りの空が青から段々と薄くなって黒に近くなるころには羽は半分ほどに減っていた。それでも太陽に近づくスピードは速くなっていた。

 少しだけ息苦しくなっているような感じは受けていたけれど、僕の体はどんどんと軽くなっているようで、遠くにあった太陽が僕の体よりも大きくなった時には僕の羽は三枚だけになっていた。それでも太陽に近づくスピードは速さを保っていた。


 太陽がその大きさを僕に示した時には今までにない力強さを感じていた。今まで戦ったどの天使や悪魔とも違う圧倒的なその力強さは僕の心を引き付けていた。誰よりも強い力を感じてはいたけれど、その強さは全くの悪意も無くそうとうはなれている距離にいるはずなのに僕の体を優しく包み込んで離さなかった。

 ついに背中に生えていた羽は全て抜け落ちてしまったのだけれど、僕はそのまま太陽へと近づいていっていた。自分の意志とは裏腹にそのスピードはどんどんと速くなっていき、太陽が目の前に迫って来た時にはその全貌を拝むことも出来ないくらいの大きさに少しひるんでいる自分がいた。


 僕の体が太陽に近づいた時には僕の体をジリジリと焼いているのだけれど、その感覚はどこか心地よいものであって不快な感じは受けなかった。その焼かれている感覚が一段と強くなっていった時に、僕の意識はどこか遠くへと移っているように思えていた。自分と太陽の位置関係を俯瞰で眺めているような状態になっていたのだけれど、僕は自分の体が太陽に飲み込まれていったのだ。その瞬間、優しく明るく輝いていた太陽が黒い炎に包まれていた。

 黒い炎が太陽から縦横無尽に伸びていって遠くにある星を飲み込んでいくと、太陽の大きさはどんどんと大きくなっていった。僕が見ることのできる星を全てのみ込んでいった太陽は僕がいた星も包みこむと、激しい閃光が僕を包みこんでいた。


 意識を取り戻した僕は自分の体の感覚を取り戻している事に気付いて自分の体を確かめていた。特に異常は見られなかったし、背中に生えている羽は右の七枚が漆黒に染まっていて左の六枚は純白に輝いていた。どちらの羽も自分の指を動かすように自由自在に動かせるようになっていた。


「お久しぶりですね。ここに戻ってくるのはもっと先だと思っていたんですけど、アレは自殺と受け取ってもいいのかな?」


 光の柱に包まれている女は僕を見ながらそう言っていたのだけれど、その表情は明らかに戸惑いを隠しきれていなかった。そして、何か続けて言いそうになっている時に奥から杖をついている若い男が歩いてこちらに向かってきた。


「そうだね、アレは自殺に近いけど自殺ではないかもしれないな」

「自殺じゃないって言いきって大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃないけど、これを自殺に認定してしまうと自分より強い相手に立ち向かうのも全部自殺になっちゃうからね。太陽に飛び込むきっかけはルシフェル君が宇宙に飛び出した事ではあるけれど、太陽の引力に引かれる前にルシフェル君はその推力を失っていたのだからね。難しい問題ではあるけれど、これは自殺には限りなく近いけれど自殺ではないと思うよ。何より、ルシフェル君は本当に死ぬとは微塵も思っていなかったようだからね」

「そうなんですか?」


 そう言われてみると僕は自分がそんな簡単に死ぬとは思っていなかったし、今でも死んでいたという実感はもてなかった。そもそもここがどこなのかもわかっていないのだ。


「あれ、ルシフェルさんは何か考えているみたいですけど、何か気になる点でもありましたか?」

「さっきまで太陽に向かっていたと思うんですけど、ここはどこなんですか?」

「あら、質問に質問で返されてしまいましたね。なんて説明すればいいのかちょっと待ってくださいね」

「いや、それは俺が代わりに答えますよ。ここはルシフェル君がいた世界の人達が言うところの神の神殿とでも言えばいいのかな。君達の世界を創った神々がいた世界になるんだよね。ま、今では残っているのも僕一人になってしまったんだけどね。でもさ、ルシフェル君はきっと俺を殺してしまうんだろうし、君達の世界に神はいなくなってしまうだけだからさ。別にそれでもいいんだよ。今までの神様ごっこも楽しかったし、後悔はきっと無いと思うからね」

「ルシフェルさんはこの方を本当に殺してしまうんですか?」

「正直に言うと迷っています。ここにきてその姿を見て感じて思ったのですけど、僕があなたを殺したとしても何も変わらないだろうし、サクラが本当に元に戻るのか疑問なんですよ」

「サクラさんは俺が創った存在じゃないから俺を殺したところでどうにかなるもんでもないんだけど、君はその点をどう思うかな?」

「私ですか? 私はここから見守っているだけなので何もわかりませんが、最後の神様がいなくなったら何か変わるんですかね?」

「一通りプログラムも完成しているし、俺がいてもいなくても何も変わりはしないと思うけど、君は今までと変わらずにあの世界に転生者を送り続けることが出来るかな?」

「言われればやると思いますけど、あなたがいなくなったらそれはわからないですね。例えば、ルシフェルさんがあなたの代わりに神になったとしたらルシフェルさんの命令に従うと思いますよ」

「あはは、俺が死んだら自由になれる君が誰かに従うなんて凄いな。長い間そこに居て考えでも改めたのかな」

「そうかもしれないですね。でも、案外この中って快適だったりするんですよ」

「さあ、他に聞きたいことがあればなんでも答えるよ。ルシフェル君にかけていた呪いも解かれて俺に攻撃が出来るようになっているし、俺がルシフェル君に勝てる可能性なんて万に一つも無いんだからね」

「じゃあ、いくつか質問させてもらいますね」


 僕はこの人達に聞かなければならないことがあると思った。その事を聞いてからでも殺すのは遅くないだろう。

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