表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/79

少年と悪魔

「僕の想いが通じたんですね。ルシフェルさんの羽はその方が美しいです。漆黒の羽なんて不気味だし似合ってなかったですよ」


 少年は僕を見て嬉しそうにはしゃいでいた。僕の羽は漆黒から白へと変化しているようで、その羽は陽の光を受けて光り輝いていた。羽の光は僕の影を少年の方へと伸ばしていたのだった。


「堕天したのだと思っていたんですけど、ルシフェルさんみたいに偉大な力をお持ちの方なら闇落ちしたとしても戻ってこられるんですね。今まで堕天したやつらは何体も見てきましたけど、こちら側に戻ってきてくれたのはルシフェルさんが初めてですよ。それにしても、ルシフェルさんの羽は本当に美しいですよね。ちょっと近くで見せてもらってもいいですか?」


 少年は手に持っていた大鎌をその場に置くと僕の近くへとゆっくり進んできた。その動きには一切の警戒心を感じられず、僕の事を信頼しているようにすら感じていた。この少年は僕とどんな関係だったのか思い出すことは出来ないけれど、きっと何かこの少年にとって大事な事を積み重ねてきたのだろう。その事だけではなく少年の事を何も覚えていないことは僕の心に小さくはない罪悪感を生じていた。


「あれ、ルシフェルさんの目ってそんな感じでしたっけ?」


 手を伸ばせば触れられそうな距離まで来た少年はその場に留まると僕の顔をまじまじと見つめていた。その表情を見るからに困惑しているのが手に取るように分かった。


「そうか、そうだったんですね。天使の心と悪魔の心がルシフェルさんの中で戦っているんですね。僕が悪魔の心なんて打ち砕いてあげますよ。まずは、その悪魔みたいな瞳をとっちゃいましょうね」


 少年はそう言いながらもそのか細い手を僕の顔まで伸ばしてきた。その指先は確実に僕の目を狙っていたので僕は顔をそむけた。少年は不思議そうな顔で僕の顔を両手で包み込むように持っていた。


「ダメですよ。そんな悪魔みたいな目はとっちゃいましょうね。大丈夫です、新しい目なら我らの主がどうにかしてくれますからね。ルシフェルさんならすぐに天使の頂点に舞い戻れますから。僕を信じて全部任せてくださいね」


 少年の目は僕を見ているように思えるのだけれど、僕の中を見透かしているようにも見えた。僕の中にいるサタンを見ているのじゃないかと思っていたけれど、それは僕の思い過ごしかもしれない。


「ちょっと待ってくれ、僕の目をとろうとしているみたいだけれど何の理由があってそんな事をするんだ?」

「何言っているんですか。そうか、自分の瞳って自分じゃ見れないですもんね。どこかにイイものなかったかな。そうだ、僕の鎌に映してみてみるといいですよ」


 少年から大鎌を受け取ると、僕はその鋭く輝く刃に自分の顔を映してみた。自分の顔は見慣れていない事もあって不思議な違和感もあったけれど、その瞳を見た時には今までで一番の衝撃を受けてしまった。

 僕の瞳は今まで見た時と異なっていた。僕の虹彩は真紅に染まりその周りの角膜は漆黒に変化していた。今まで見てきた悪魔ともサタンとも違うその瞳は自分で見ても天使のものではない事は確実に理解出来た。


「あれ、僕の鎌ってそんなに鋭く光ってましたっけ?」


 言われてみて気付いたのだけれど、先ほどまで少年が持っていた時の刃は斬ることが出来ない鈍らと言われても誰も否定できないような代物だったはずだ。そんな刃に映っている僕は何の揺らぎも無くハッキリと自分の顔を映しだしている。まるで研いだばかりの様な輝きをはなっていた。この鎌を持っていると何か試しに切って見たくなってしまう、そんな衝動に駆られてしまった。


「ちょっといいですか。あれ、おかしいな。ルシフェルさんが持っていた時ってもっと綺麗な刀身になっていたように見えたんですけど、何かしました?」

「いや、普通に持っていただけだけど」


 僕は再びその大鎌を受け取ると、少年が持っていた時とは刃の輝き方が全く違っていた。今なら何でも切れそうな感じが持っている手に伝わってくる。ちょっと試してみたいと思いながらも、僕の手はその大鎌を少年の膝裏にそっと当てていた。優しく手前にその鎌を手前に引いてみたのだけれど、何の感触も覚えないままだったけれど、大鎌は僕の手前まで戻ってきていた。


「今なにしたんですか?」


 少年が僕に詰め寄ろうとしていたのだけれど、膝から下だけがその場に残って膝から上の体は僕の方に倒れかかってきた。斬ったという感覚は一切なかったけれど、その切り口はあまりにも滑らかでそのまま戻せば体がくっつきそうな感じを受けた。


「え、え、え。どうしてその鎌で斬れるんですか。その辺に生えている草だって刈ることが出来なかったのに。僕の脚ってその程度の存在だったんですか」

「えっと、よくわからないけど、この鎌って切れ味が凄すぎるんじゃないかな」

「なんで僕の時はその切れ味を味わえないんだよ」

『それは私がお答えいたしましょう』


 サタンの声が聞こえてきたのだけれど、今度は僕の体の中からではなく僕の口から発声されていた。僕の声も同時に聞こえていていたのが我ながら不気味だった。


『ルシフェル様は全ての武器や道具の力を引き出す力をお持ちなのです。したがって、あなた様がお使いのその鎌も本来の力を発揮しているだけなのですよ。その鎌はあまりにも強力で凶悪で狂暴だったためにその力を封印されている状態なのですが、本来の切れ味はあなた様自ら体験なされたように見事なモノなのですよ。それに、この鎌で斬られたものは確実に死ぬことが出来ますのでお喜びくださいませ』

「そんな話は聞いてないぞ、僕は堕天使ルシフェルをいたぶって殺せって言われただけだし、そもそもお前は僕を攻撃することが出来ないはずじゃないか。それはその鎌がどれだけ素晴らしい切れ味を誇っていたとしても、攻撃できない事には変わらないんだし意味がない事のはずじゃないか」

『それは大変申し訳ございません。あなた様の仰る通り本来でしたらルシフェル様の攻撃は当たらないはずでした。が、今回攻撃させていただいたのはルシフェル様ではなく私だったのですよ。作られて間もないあなた様にはその違いがわからなかったのでしょうね。もっとも、あなた様を創造した神でもその事に気付けるかはわかりませんが』

「我が主を愚弄する気か。俺の本当の力を見せてやるから死んで後悔しやがれ」


『申し訳ございませんが、ルシフェルさんもそれほど暇ではございませんのでここで終わらせていただきますね』


 少年が何かをしようとして無防備になっていたのだけれど、それを見逃さなかったサタンは僕の持っている大鎌を少年の股下に入れるとそのまま一気に少年の頭上まで振り上げた。

 少年の体は中央から綺麗に二つに分かれてそのまま左右にわかれて崩れ落ちていった。少年は崩れ落ちながらも僕をしっかりと見つめてきた。その瞳には憎悪の念がこもっているように思えるような鋭さもあった。


『ルシフェル様の代わりになれたかはわかりませんが、この感じでルシフェル様が私の力を取り込んでいけば近いうちにルシフェル様の攻撃もこの少年や神に届くようになるでしょう。今回はまだその域に達していなかったと見受けられましたので出過ぎた真似をしてしまいましたがお許しくださいませ』

「いや、助かったよ。僕一人だったら何も出来ずに殺されていたかもしれないからね」

『ご謙遜なさらなくても結構ですよ。あの程度の少年でしたら触れることなく殺すことも出来たでしょうに』

「いや、さすがに触れずに殺すとか無理でしょう」

『いえ、あの少年は天使ではない人間種でしたので簡単に殺すことも出来たと思いますよ。例えば、ルシフェル様の持っている炎の柱で周りを囲んで熱を加え続けてみたり酸欠にしたりといった方法もあると思うのですが。お気付きではなかったのですか?』

「うん、お気付きではなかったです」


 僕は自分の中にいるサタンと会話をしているのだけれど、知らない人が見たら声色を変えて独り言を言っているおかしな人に見えてしまうかもしれない。それにしても、僕はどんな武器でもその力を引き出すことが出来るのは嬉しい発見だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ