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進化

 魔王が強くなったとしても一人一人の力は本当に微々たるもので、僕にかすり傷一つつけることですら命がけの攻撃が必要になっている。そのような状態では僕に致命傷を与えるなんて不可能であるし、少しでもタイミングを間違えてしまうとかすり傷さえつけることが出来ない、それくらいの力の差があった。

 自分で言うのも照れ臭い話ではあるのだけれど、この世界で一番強いのは僕だと思うし他の人達との差はあまりにも大きく差を埋めることは出来ないのではないかとさえ思ってしまう。それくらい大きな差がついているのだけれど、僕と神の差は一体どれくらいあるのだろうか。全く想像もつかなかった。

 天使の上に大天使がいるのなら、魔王の上に大魔王がいてもいいような気はしているのだけれど、天使に対する大天使のように全てを圧倒するような存在の魔王が今のところは確認できていないのでそこは少しだけ悩ましい事だ。

 出来る事ならば、魔王がこのまま強くなっていき各チームの連携も良くなっていって、個では僕に勝てないまでもチームとして僕を恐れさせるような存在になってもらえることが望ましい。そうなれば僕の力ももっと高みへと行けるような気がしていた。


「ねえ、あんたは一体何を目指しているわけ?」


 僕の周りをチョロチョロと飛び回る妖精が僕に尋ねてきているのだけれど、最近の僕は妖精を無視することにしている。無視を続けると意外といい反応を返してくれるからだ。


「ねえ、今日も私の声が聞こえないのかな?」

「そんなわけないよね。あたしの声は聞こえてるんじゃないの?」

「私の姿だって見えてるんでしょ?」

「返事しないとあたしも怒っちゃうよ」

「今目が合ったけど見えてるんだよね?」

「あたしの事見てるけどどうなの?」

「ねえ、無視しないでよ」

「あたしの声届いてるよね?」


 僕には妖精は一体しか見えていないんだけど、話しているのは二体のように聞こえるので多少は土間どっているのだけれど、それも無視をしている理由の一つだ。もう一つの理由は単純に妖精の話が長くて面倒だからという事だ。

 しばらく無視をしていると諦めてくれるのだけれど、その後に僕に伝えるべきことを勝手に喋ってどこかへ行ってしまう。最初からそうしてくれるとありがたいのだけれど、この妖精は僕に話しかけないといけない契約でも交わしているかのように毎回話しかけてくる。僕は三回目から無視をする事にしたのだけれど、最初の何回かは無視をしている事に罪悪感を覚えていた。それは最初のうちだけなのだが。


 誰よりも強くなった僕ではあったけれど、羽の色が上下で異なる事が少しだけ気になってしまっていた。その後も何度か魔王大連隊と戦いを繰り返しているのだが、僕の成長がそこで止まってしまったかのように一切の変化は生じなかった。色々なチームを組み替えてみたりしても結果は変わらなかった。

 僕自身には何も変化はなかったのだけれど、様々なメンバーでチームを組んでいた魔王達はそれぞれに適性がハッキリとしていき、己の役割を認識できたことによって急造チームでもある程度は戦えるようになっていた。これは僕にとって大きな成果になるのだけれど、今はその事に気が付いていなかった。

 さて、色々試してみたものの、僕の成長を促すようなものは存在せず、どうやっても羽の色が綺麗に一色になる事はなかった。ツートンカラーでも格好悪くはないのだけれど、どうせなら漆黒の羽で統一したいものだ。


 試行錯誤を繰り返しては見たものの、これといった成果が出ることはなく、魔王の能力も頭打ちになってきた感すら見受けられた。このままでは神に勝つことが出来るのか判断もつかないし、続けてもいいものなのだろうかとこの事態の打開に苦慮してしまう。


「ルシフェル様とお見受けいたしますが、よろしければ私の話を聞いていただけないでしょうか?」


 魔王の訓練を見ている僕に話しかけてきた見慣れない青年がそこにいた。いつからそこに居たのかわからなかったけれど、話しかけられるまで存在に気付かなかったのは不思議でならなかった。いったいどうやってここにやって来たのだろうか。


「もしよろしければルシフェル様のお時間を少しだけでもいただけないでしょうか。聞いて損はない話だと思いますが」

「その言い方はちょっと気になる感じなんだけど、教えていただいてもよろしいですか?」

「ありがとうございます。私もかつては神に仕えておりましたのでルシフェル様のお役に立てる情報がいくつかあると思います。まず、最初にご確認しておきたいのですが、ルシフェル様が命じられたのは魔王の討伐であって、悪魔の殲滅ではないと思うのですがいかがでしょうか?」

「確かに、魔王を殲滅しろと言われたような気がしているけれど、魔王より強い悪魔を全滅させたのだから問題ないんじゃないかな?」

「悪魔を殲滅させたことは評価されるべきことだと思いますが、生き残っている魔王を育てているのは神の意志に背くことだと思うのです。ですが、私はそんなルシフェル様の行動にいたく感服いたしました。今や魔王の集団は並の天使程度では手も付けられないような存在になっているのです。これはあり得ない事だと思いますよ。プライドの高い転生者である魔王が今やルシフェル様に全幅の信頼を寄せているのです。正に、魔王達にとっての神であると言っても過言ではないでしょう」

「さすがにそれは言い過ぎだと思うんですけど」

「そんな事はございません。神に一番近い存在であるあなたが起こしている奇跡は正に神の奇跡。魔王個人の限界を遥かに超えた成長はそれぞれがルシフェル様を心から信望している証拠のほかありません。限界を超えた成長は魔王達の体を蝕んでもおかしく無いはずなのに心身ともにより強固になっているのも奇跡と言えましょう。すなわち、ルシフェル様こそが新たな世界の創造神となるべきお人なのです。神を越えたその力を持って新たな世界を創造していただきたい」


 神を越えた力?

 この人は確かにそう言ったように聞こえたけれど、何か言い間違えているのだろうか?


「神を越えた力ってどういう意味ですか?」

「その言葉の通りです。ルシフェル様は今やあの神をも超えた力をお持ちなのです。真正面からやり合っても負けることはないでしょう。しかし、あの神はそれを見越してだと思うのですが、ルシフェル様の心を縛っているのです。どんなに強くなったとしても神にルシフェル様の攻撃が届くことはないのです。心の奥深く誰も覗けないようなそんな場所に神を傷付けてはいけないという想いがあるからです。それはルシフェル様が誕生なさる前から植え付けられているものなのです。それはルシフェル様がどれほど強くなろうが取り除くことは叶いません。ですが、それを取り除く唯一の方法があるのです。心の奥深くから神を憎むことです。今のルシフェル様にもこれからのルシフェル様にもそのような考えを持つことはないでしょう。では、どうすればいいと思いますか?」

「僕にはその答えはわからないです」

「はい、ルシフェル様一人では解決出来ない問題だと思います。そもそも、ルシフェル様がその答えに辿り着けないようになっているのですから」

「答えが見つからないならどうしようもないじゃないか」

「その問いに答える前に一つだけ確認させていただきたいのですが、ルシフェル様は神を討って新たな創造神となる覚悟はおありでしょうか?」


 僕の目的は最初から変わっていない。サクラをちゃんとした形で蘇らせて幸せに暮らすことだ。ところが、サクラの完全復活は神の力で妨害されているらしい。その妨害を阻止する唯一の方法が神を討つことだと思うので僕の意志は揺らぐことはない。


「もちろん、新しい世界を創ってサクラをちゃんと蘇らせるよ」

「自分の為ではなく人の為に行動するという事は大きな力になるでしょう。では、神にその攻撃を届かせる方法をお伝えいたします。その方法とは、神を心の底から憎んでいる悪魔をその御身に取り込むことです」

「ちょっと待ってください。悪魔は全部僕が倒してしまったんですけど」

「大丈夫です。その点は心配いりません。ルシフェル様は大変に運のよい御方ですからご安心くださいませ」

「この世界、いや、今いる次元において最も神を憎んでいる悪魔が目の前にいるのですよ」


 僕の目の前にいるのはこの青年だけなのだが、青年からは他の悪魔の様な力強さは全く感じていなかった。軽く触れるだけでも倒せそうなこの青年がそれほどの悪魔なのだろうか。僕はそれなりに人を見る目を備えているとは思うのだけれど、この青年からはそのような感じは一切受けなかった。


「意外というような顔をなさっているようですが、真実とはいつも思いがけないようなものですよ。その御身に私を取り込んでいただくだけで大丈夫です。恐れることは何もありません。さあ、私をルシフェル様の一部としてお使いくださいませ」


 取り込めと言われてもどうしたらいいものだろうか。戦う事もせずに一方的に攻撃するのも気が引けてしまう。そんな事を考えていると、青年は僕にその方法を教えてくれた。


「取り込めと言ってみたものの、その方法はお分かりではない様子。よろしければ簡単にご説明いたしましょうか?」


 僕はその提案に全面的に乗る事にした。

 青年を取り込む方法はいたって単純なモノで、ただ吸収したいと思えばいいだけだった。


「一応お伝えしておきますが、この方法で取り込むことが出来るのは私だけですので気になさらずに。他のモノで試しても無駄ですので」

「どうして君だけがそうなっているの?」

「そうですね、もともと私はルシフェル様の一部でして、産まれながらに持っている悪の部分ですね。これはどの天使も持っているものなのですが、生まれる前に神の力によって封印されてしまうのです。それによって神を信望する強固な軍隊が出来上がるのです。神の軍勢はそうして作られているのです」

「じゃあ、他の天使も悪の部分を引き出すことが出来れば力になってくれるのかな?」

「引き出すことが出来れば可能だとは思いますが、それは不可能だと思います」

「それはどうしてなのかな?」

「答えは至極単純なのですが、神の力を越えない限りその封印が解かれることはありません。ルシフェル様のように成長する天使なんて他にはおりませんし、他の天使に期待することは酷だと思います」


 そう言われて改めて感じたのだが、僕がこの世界に来た理由は魔王を殲滅する事だった。それが今では魔王を従えて育てているのだからおかしなものだ。この世界にやってきた意味が無いとまではいかないが、ここに留まる理由も無いのだ。

 僕が神を殺して新しい世界を創ることが出来たのならばこの世界に来る理由もなくなるだろう。


「そうだ、取り込む前に聞いておきたいんだけど良いかな?」

「なんでしょうか?」

「君に名前ってあるのかな?」

「私の名前ですか。過去に何度か呼ばれた事はあるのですが、それが私の本当の名前なのかは今となってはわからないのです。それでもよろしければお答えいたしますが?」

「ぜひお願いします。君の事も僕の中で育ててみたいからさ」

「なんとお優しい。では、お答えさせていただきます。私の名はサタンと呼ばれておりました。きっとルシフェル様のお役に立てると確信しております」

「ありがとう。何だかその名前は自分の名前だったような懐かしさも覚えるよ。これから一緒に戦おう」

「そう言っていただけるだけで私は満足であります」


 サタンを吸収した僕にこれといった変化は無いように思えた。自分では変化に気付くことは出来なかったけれど、僕を見ている魔王の反応で何かが変わったことに気付くことが出来た。

 自分では見えなかったのだけれど、僕の羽は全て漆黒に染まっていた。


 そして、新しく羽が一枚増えていた。

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