大きな変化
自分で予想していたよりも羽の出し入れはすぐに自分のものにできた。苦労することはほとんどなく、今では気軽に羽を出してその辺へ行く事も出来た。
戦闘時ではない平時では集中力が違うためか自由に飛ぶことはおろか浮くことで精一杯だったけれど、何度か浮いたり飛んだりを繰り返していると水の中を泳いでいるように空を自由に飛ぶことが出来ていた。さらに慣れてくると人を抱えたまま空を飛ぶことも出来るようになっていた。今ではちょっとしたアトラクション感覚で気軽にお願いされたりもしているのだけれど、その事がプラスに働いたとはハッキリと断言は出来ないのだが、魔王との約束の日が目前に迫って来た時にはかなりのスピードで空を飛べるようになっていた。もちろん、スピードを出すときは一人で飛んでいる時限定なのだけれど。
僕が最初に訪れた魔王の城なのだが、結果から言ってしまうと期待外れに終わってしまった。良くも悪くもいたって普通の攻撃しかしてこなかったのだ。ただ黙って立っているのも退屈になってしまったけれど、攻撃を何度も受けているとその一撃一撃の間がスムーズに繋がっていくようになっていって、魔王に疲労が溜まりきって動けなくなる直前には一番最初とは比べ物にならないくらい素早く重い攻撃に変化していた。お互いに初めての経験だったので至らない点は多くあったと思うけれど、それなりに収穫はあったと思う。これを何度か繰り返すことがあったのなら、何人かでチームを組むと天使の一体くらいなら倒せそうになるのではと考えてしまった。
次に訪れた魔王の城も特に目立った成果は上げられなかったのだけれど、この魔王も著しい成長を遂げていた。そのような事が約半年ほど続いたのだけれど、魔王全体の力を底上げしただけに終わってしまった。当初の予定では僕が強くなるための計画だったのだけれど、魔王サイドが成長するだけに終わってしまったのが嬉しいやら悲しいやら複雑な心境だった。
と言っても、魔王が成長したのは今後の事を考えるとプラスだと思うし、魔王同士でチームを組ませて僕に攻撃させるのも面白そうに思えていた。
さっそくその提案を魔王達に伝えると、いつの間にか親交を深めていた魔王達が自主的にチームを組んで練習を始めていた。今回は複数の場所に出向くのも面倒だったので、ただひたすら何もない土地を帝国領に用意してもらってそこで戦う事にした。戦うと言っても今回も僕は一切手を出さない予定なのだが。
僕に挑んでいない時でもそれぞれは研鑽を積んでいたようで、僕が体感した攻撃のままで成長をしていないものはいないように見えた。そのうえ、今度は一人の攻撃ではなくチームとしての攻撃を受けることになるのでほんの少しではあるけれど緊張しているようだった。緊張している自分が何となく面白く感じてしまっていた。僕が軽く笑っている様子が魔王達には好意的に映ったようで、みんなのモチベーションも上がっているようだった。
個人ではなくチームでの攻撃はチームの練度によっても大きく異なるようで、五分以上も攻撃が途切れないチームもあれば、一撃一撃の重みを重視しているチームなどもあって大変に学ぶことが多かった。そう思ってみたものの、僕が戦うときは一人だけだと思うのであまり参考にはならないだろう。天使を従えているとはいえ、神が自らの手を汚さずに天使を大量に投入する事も無いだろうし、魔王達の攻撃は多くの攻撃パターンを見る事が出来るしその事はこれから戦うときの参考にさせていただくとしよう。
一通り戦いも終わると、僕の体に少しだけ変化があった。その変化は目に見えてわかるもので、僕の羽の一枚が白ではなく漆黒の羽に変化していた。色が変わっただけでそれ以外には身体的にも精神的にも目立った変化は見られなかった。
「あの、ルシファー様さえ良ければまだ続けていただきたいのですが、その羽は大丈夫でしょうか?」
「ああ、これは色が変わっただけで特に変化はないけれど、良かったら三チームで一緒にかかってきてもらってもいいかな?」
「私は構わないのですが、他の人達にも聞いてみますね」
よく話しかけてくれる彼がいなければ僕は今みたいに魔王達とスムーズに会話も出来ていなかったかもしれない。何となくやたらと話しかけてくるのが引っかかってはいるけれど、それでもお互いにとってメリットがあるのは良い事だろう。
イメージ的には小隊から中隊になった感じだと思ったのだけれど、さすがにそれをやるには練度が低すぎたようだった。攻撃は何とか形にはなっているのだけれど、各チームの距離感や攻撃後の隙が大きかったりで、こちらがその気にならなくても簡単に墜とすことが出来そうだった。とは言え、この魔王達は戦闘に関しては本当に優秀でいた。攻撃を一時間も繰り返しているとほとんど隙らしい隙は見えなくなっていた。その分攻撃の激しさも増していって普通にしていたら反撃は出来なさそうだった。
他の中隊も同じような結果に終わったけれど、今の力なら天使とも渡り合えるのは確実に思えた。さらにここから大隊、大連隊と話を進めておきたいのだが、それを行うには少しばかり食料と水が不足しているように思えた。
戦いを終えた後で気付いたのだけれど、僕の背中の羽が漆黒の羽三枚とやや薄いグレーの羽へと変化していた。攻撃を受け続けたことによるストレスによるものかもしれないけれど確かに僕の羽は変化していた。それ以外に何か変わったところが無いか探してもらったのだけれど、目に見える変化はそれ以外には何もなかった。
僕に変化はなかったのだけれど、いつもならとっくに日没を迎えて暗くなっている空に太陽が光り輝いていた。
「今までも何度か太陽が増えることはあったけれど、今回はやたらと近いような気がする。太陽がここから凄く近いけれどそこまで暑くないのも不思議だけれど、どうしてここに現れたんだろう?」
「さあ、僕にもわからないけれど、もしかしたら僕が創りだしていたのかもね」
僕はちょっとした冗談のつもりだったけれど、魔王達にはそれが真実のように思っているのだった。
「私達の持てる力を全て使ってでもルシファー様のお役に立てるようにより一層精進いたします」
彼らが強くなっているのは紛れもない事実のなのだが、それ以上に僕が強くなっているような気がしてならない。魔王達の訓練が始まって以降は一度も攻撃していないので確かめようは無いのだけれど、それなりに強くなっている実感はあったりする。それを実践するのは神の時まで我慢しておこう。そこまで自分が我慢できるとは思わないですが、楽しそうな計画を立てている時は本当に幸せそうですね。





