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魔王会議

 悪魔が滅びたこの世界において人々の脅威は魔王だけであった。もっとも、人々が生活している区域の多くは神の使徒たる天使が守護しているため力のある魔王だとしてもそう易々と人々の生活圏に入り込むことは出来ないのであった。

 そんな中、この世界に残っている魔王がある目的のために一堂に会することになったのだ。その目的とは、他でもない、神の討伐なのである。もちろん、悪魔を滅ぼしたルシファーの力をもってしても神と対等に戦うことなどできないだろうし、残された魔王と共闘したところでほんの少しだけ戦える時間が延びる程度の力にしかならないだろう。人間に対して絶対的な力を持っている魔王ですら神の使徒たる天使に太刀打ちできないのだから、神と戦うことなど夢のまた夢である。

 謁見の間に集められた魔王の数は約六百人ほどなのだが、その誰もが借りてきた猫のようにおとなしくなっていた。僕としてはリラックスして話を聞いてもらいたいのだけれど、多くの魔王が僕の方を見ようともせず、僕を見ている魔王を見つけて目を合わそうとしてもすぐに逸らされてしまった。

 和やかなムードは簡単に作る事は出来ないようだけれど、せっかく集まって貰ったのだから有意義に過ごしたいものだ。


「君達はご存じだと思うんだけど、僕は神を倒してこの世界を創りかえる事にしました。君達はもともと他の世界から転生してきたと思うんだけど、その理由も置かれていた立場もそれぞれ違うと思います。そんなに異なる君達はそれぞれに備わっている力も違うと思うし、得意な戦い方だって一人一人違うと思います。そこで、皆さんにお願いがあります。僕が強くなるために君達の力を貸していただきたい」

「力を貸すのは構いませんが、一体何をすればいいんでしょうか?」


 僕の近くにいた魔王の一人がそう答えた。僕もハッキリと何をしてもらいたいのか決めていなかったので困ったけれど、単純に僕と戦ってもらえればいいのではないだろうか。


「そうだね、一人ずつで良いので僕と戦ってもらいたい」


 僕のその言葉を聞いた魔王達は一斉に戸惑っていた。中にはその場に座り込んでしまうものもいたし、立ったまま意識を失っているらしき者もいた。


「天使どころか悪魔ですら太刀打ちできないルシファー様に我々魔王が太刀打ちできるわけないじゃないですか。一方的に蹂躙されて無残に散るだけですよ」


 その言葉に「そうだそうだ」と多くの者が同調していた。


「戦ってもらうと言っても、こちらからは攻撃はしないので安心してもらいたい。僕が望んでいるのは、君達の持っている多くの戦闘スタイルを体験したいってことだからね。それぞれ得意な事があるだろうし、出来る事なら僕に致命傷を与えてもらえると嬉しい限りだよ。致命傷じゃなくても何か得られるものがあればそれだけで満足なんだけどね」

「あの、それって私達が一方的に攻めて良いって事でしょうか?」

「ああ、出来ればそうしてもらいたいね。魔王の底力ってやつを見せてもらえると嬉しいんだけどね」

「じゃあ、君達の住んでいる城に僕が出向いていくので準備していただけると助かるかな」

「はい、その期間はいつからいつまででしょうか?」

「じゃあ、今から45日後から開始ってことにしよう。とりあえずは全員の城を回りたいのだけれど、どれくらいの期間がいいのか見当もつかないな。今年中には全員の城に行けると思うんだけど、もしかしたら二回目もお願いするかもしれないな」

「ルシファー様にお尋ねしたいのですが、我々各自の城は隣接しているわけではありませんし、辺境の地に住むものも多くおります。それ故移動に大変時間がかかると思うので年内に全ての城を回り切るのは不可能かと思いますが」


 うん、それはもっともな意見だと思うけど、今の僕には空を自由に飛べる羽があるのだから大丈夫。と言っても、いまだに自由に使いこなせてはいないので、そのための準備期間として45日もあけているのだ。


「それなら問題ないよ。みんな見ててね」


 僕は玉座から立ち上がると背中に羽が生えている事を強くイメージした。皆に見せる時の為に何度か試してみたのだけれど、回数的には上手くいかない時の方が多かったりしていた。それでも、最近はほぼ五割くらいの割合でちゃんと羽が生えていた。今回は、その上手く行った方だった。

 僕の背中から生えている純白と呼ぶには少し大げさかもしれないけれど、天窓から差し込む光を吸収して輝く羽は自分で見ても神々しさを感じてしまった。何となく神々しいという言葉は神に負けている事を認めてしまっているようで好きではなくなっているのだけれど、それ以外に相応しい言葉が見つからなかったので今は我慢しておこう。


「ああ、何という事だ。我々と違う次元の強さを持っているとは聞いていましたが、その十二枚の羽はどの天使よりもどの悪魔よりも強い事の証明になりましょう。そのお姿を拝見したからには我ら一同誠心誠意各自の役目を全ういたします」


 羽の数が直接の強さを表すわけではないと思うのだけれど、ある程度の強さの目安にはなるのだろう。今まで戦って強かったと感じた天使は羽の数が多かったと思うけれど、悪魔にはそれは当てはまらなかったので、羽の数で強さが変わるのは天使特有の変化なのかもしれない。


「では、45日後からそれぞれの城を訪ねていくので宜しくお願いします。順番は適当かもしれないと思うので、昼くらいまでは体を休めておいてね」


 僕のその言葉を聞いた魔王達は一斉に自分の城へと戻ってそれぞれの準備を始めていた。正直に言って、魔王程度の攻撃をいくら受けたところで大きな成長は見込めないと思うのだけれど、様々な攻撃方法を体験できるのはとても有意義な事だと思う。もしかしたら、どこかの魔王の攻撃と神の攻撃が同じパターンの可能性もあるのではないだろうか。万に一つも無いと思うけれど、やっていて損はないだろう。


「さて、僕も自分の羽くらい自由に出せるようにしとかないとね」


 45日間ではなくもう少し長くしておけばよかったと後悔しないためにも、羽を出す感覚から覚えることにしよう。この行動もプラスにはなれどもマイナスにはならないと思うのだから。

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