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 暗闇の中に現れた光を僕自らの手で消すことは出来なかった。少なくとも自分の意志で行うことは出来ない。そう思っていたけれど、少女はその命を僕に捧げようとしていた。


「私はもともと死んでいるようなものだし、このままこの闇の中で生き続けている事に意味なんて見出せないの。それに、君ならこの世界を抜け出して元の世界に戻れると思うんだよね。君がこの闇の中にいる君が何も見つけられないのと同じで、闇の中にいる君を外の世界の人達も見つけられないんだよ。私に出来る事は光を与える事だけだし、君はその光を何倍にでも大きく明るく輝かせることが出来るんだからね。そうすれば、外にいる君の仲間が君の事を見つけてくれると思うよ」

「じゃあ、さっきみたいに少しずつでいいから僕にその光を分けてよ」

「ごめんね、私の光は命の輝きなんでこの命を渡す以外に君が手に入れる方法はないんだよね。今までも君は他の人の能力を手に入れることも出来たんだし、私のこの光の力だって自分のモノに出来るはずだからね。君ならきっとこの光を世界中に届けてくれると信じているからね」

「そんな事を言われたって僕が君を殺すことなんて出来ないよ」

「大丈夫、君にこの命を捧げたとしても君の中で私の光は輝き続けるんだからね。それに、こうしてお互いを知り合おうとすると辛くなるだけだと思うし、何も知らないうちに私の命をその中に受け入れてね」

「無理だよ。こうして助けてくれた人に対する恩返しがその命を奪うなんておかしいじゃないか」

「それは仕方がない事なの。私は君に私の代わりに復讐をしてもらいたいだけなんだよ。本当は、私をこの闇に閉じ込めた神に対する復讐を君にしてもらいたいだけなんだ。他にも何人かこの闇に閉じ込められているんだけど、私の光を受け継いでもらえそうなのは君だけなんだよ。君みたいな人は今まで誰もいなかったし、これから先も現れることは無いだろうね。だからだよ、私が君を見つけて助ける事にしたのは。お願いだから私の代わりに復讐をしてもらえないかな」

「その復讐を終えたとして、君はそれで満足なのかな?」

「ええ、私をこんな闇に閉じ込めた神を殺せることが出来るならこんなに愉快なことはないわ。それも、君の手でそれが実行されると考えていると笑いが止まらないわ。今から私は君に殺されるとしても、闇の中で恥辱にまみれて生きながらえてきた意味があるというものよ。さあ、その手で私の命を受け止めて」


 僕は初めのうちは恩人の命を奪う事にためらいを感じていたのだけれど、神に復讐するという言葉を聞いていると、不思議とためらいの気持ちが薄らいでいった。いまだに神がどのような存在なのかはわからないけれど、神という言葉に反して悪い印象しか持てなかった。それがなぜなのかはわからないけれど、僕にとって良い事ではないのだろう。


「わかったよ。とても心苦しいけれど、君のその命を貰う事にするよ」

「ありがとう、これで私の復讐の物語が一段落ついて新しい段階に進むことが出来るよ。あとは全て君に託してしまうんだけど、出来るだけ多くの悪魔と天使をその手で殺して力を手に入れてね。私の光を手に入れた君は今まで以上にその命を狙われると思うんだけど、君ならそれらに打ち勝てると思うから大丈夫よ。きっと君が神を殺して新しい世界を創造してくれると信じているからね。その時には私も君の中で新世界を照らす光の一部として役に立てるといいな」

「うん、新しい世界を創造した時には君のその光を世界中に届けるよ」


 この手で命を奪えと言われたものの、一体どうやって奪えばいいのかと考えていた。すると少女は僕の手を取って自分の胸元に持っていくと、そのまま胸の上に手を持って行っていった。


「ここに君の持てる力を注いでね。あんまり痛くないと嬉しいんだけど、それはきっと大丈夫だよね」


 覚悟は出来ているのだろうけれど、少女は少し怯えたような表情と声で僕に懇願していた。僕もそれに出来るだけこたえられるように手加減はせずに持てる力を全て使ってその命を奪う事にした。


「ありがとう。これからもよろしくね」


 消え入りそうなか細い声で少女がそう呟いたのだけれど、それが本当に少女の声なのか僕の中の罪悪感が創りだした幻聴なのかは判断がつかなかった。

 少女の体から発せられていた光が僕の手を通して体の中に入ってきているのが見た目にもハッキリとわかったのだけれど、その光は目が眩むほど眩しいはずなのに不思議と直視することが出来ていた。その光を取り込んだおかげなのかわからないけれど、今まで何も見えない闇の中だと思っていたのだけれど、ところどころに誰かが漂っているのが見えた。それが僕以外の閉じ込められた人なのだと思ってそちらに行こうとしてみた。進もうとしてみるのだけれど、どうやってそちらに行けばいいのだろうか。地面も無いし水の中でもないこの闇の中で手足が自由に動くとは言っても前に進むことはおろかこの場から動くことも出来なかった。前に進みたいという僕の意志がそうさせたのか僕の中に入った光の副作用なのかはわからないけれど、僕の背中に天使の様な羽が生えていた。今まで見た天使の羽とは少し違うような気もしているけれど、とにかく光り輝く羽が生えていた。


 光に包まれた羽を動かすことは手足を動かす感覚とは違い、頭で考えるだけで自然と動いていた。僕が動いているのか相手が近付いているのかが闇の中ではわからないけれど、僕が目標と定めていた人に近付いた時には他にも多くの人が僕の周りに集まっていた。

 彼らは意識があるのかないのかはっきりしないけれど、触ってみると何らかの反応があったので生きてはいるようだった。話しかけても反応が無く、叩いてみてもリアクションは帰ってこなかった。


 目に付く範囲の彼らの命を頂くと、僕はこの闇の中をある程度見渡せるようになっていた。闇の中とは言え自由に飛び回る事も出来るようになっていたし、何日間飛び続けても全く疲労を感じることはなかった。それでも闇の中からの出口は見つけられなかった。


『闇の中がお気に入りみたいだけど、いい加減こっちに戻ってきてもらってもいいかな?』


 どこからか聞こえてきたその声に反応を示すと、僕の体は何か強いものに引き寄せられていった。とても強い力に逆らうことは出来ず、僕はその力に引き寄せられ続けていた。


 どれくらい時間が経ったのかはわからないけれど、僕が動けるようになった時には今まで感じていなかった草や土の匂いがしていた。


「やっと見つけることが出来たよ。じゃあ、あんまりお前に関わっても良い事無いんで帰る事にするよ。次は失敗するんじゃないよ」


 僕を助けてくれたらしい小さな生物はその小さな羽を羽ばたかせるとその場でクルクルと回って消えていった。


「大きい羽をたくさんつけてるからってビビって消えるわけじゃないからね。お前が神に逆らおうとしてるから関わりたくないだけだよ。今はまだ明確に反旗を翻してるわけじゃないから助けても問題ないし、もしお前が新しい世界を創ったとしても誘ってもらえるかもなんて思ってないからな。あたしの事はもう忘れるなよ」


 捨て台詞には少し長いような気もしたけれど、僕は助けてもらえたらしい嬉しさと同時に懐かしさも感じていた。その感情の正体はわからないが、闇の中ではなくても空は自由に飛べるようだった。空に輝く太陽が僕の羽を照らすと、その光を吸収しているのか羽の輝きはより一層強くなっていった。

 不思議な事に太陽とは別にもう一つ太陽が出現したのだけが、その太陽の中から無数の天使がやって来た。


「おや、あの闇の中から戻ることが出来るとは思っていませんでしたが、その羽を取り戻したのならば納得できますね。さあ、その力を取り戻した今、再び我らが主に忠誠を誓うのです。さあ、さあ」

「申し訳ないけど、その主ってのが何なのかわからないんで忠誠は誓えないですね。それに、この羽をくれた人に誓って神を倒すって決めたから」

「まあいいでしょう。一度堕ちたあなたがそう答えるのも予想の範疇です。主はその事もお見通しだったのですが、かつて一緒に行動した私はあなたが戻ってくることをどこか期待していたのかもしれませんね。では、我が主に逆らう堕天使ルシフェル、いや、堕天使ルシファーよ。その命を持って主に逆らいし罪を償うのです」


 先頭にいた他の天使たちよりも強そうな天使が僕に襲い掛かってきたのだけれど、僕はその攻撃を難なくかわすと、天使の顔と肩を掴んでとても優しく慈愛に満ちたようにその顔を引き寄せた。

 天使の体から顔を引きちぎると、その顔を残っている天使に向けて腹話術の真似事をしてみた。


「我が主はこの者を殺そうとした罪を償うためにその命を捧げることになるでしょう。その第一歩が私の命です」


 あんまりうまくはいかなかったけれど、残っている天使の半分は怯えているように見えた。残りの半分は僕に対する怒りの方が強かったみたいで、一斉にかかってきていた。


 地上からは見えなかったのだけれど、地平線の彼方に沈む夕日はとても綺麗で心が穏やかになった。足元の大地を染める赤が夕日の影響なのか天使の返り血なのかはわからないけれど、その赤く染まった大地はとても美しく感じてしまった。

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