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暗闇の中の囚人

上空に現れた天使の大軍勢になすすべもなくやられっぱなしになっていた僕であったが、どうしたらいいのかと考えた結果、空にいる天使たちが降りてこれないように僕の周りを炎の柱をいくつか発生させてみる事にした。炎の柱はそれぞれの高さを自分の身長ほどに制限してみたのだけれど、その事によって炎の密度が上がってしまったらしく物凄い熱量になってしまった。炎の柱を避けるように僕の近くに飛来しては少しずつ攻撃をされてしまっていたのだけれど、その攻撃は僕に何らかのダメージを与えることは出来ていないのだけれど、とにかくうっとおしかった。

 僕の周りを囲んでいる炎の柱はその数を少しずつ増やしていけたお陰ではあるのだけれど、僕の正面と背後以外は完全に炎の柱で守ることが出来た。それでも柱を越えて攻撃をしようとする天使もいたのだけれど、そんな天使たちは炎の柱が発生させている物凄い上昇気流によってバランスを崩して僕の近くに来ることも出来なくなっていた。

 このままでは面倒だと思って空にいる天使に向かって炎の柱を伸ばしてみたりもしたのだけれど、天使のいる位置まで伸ばしてしまうと威力も落ちてしまうようで結局のところ自分の身長くらいの高さに抑えることが一番いいように思えていた。


「貴様は我々に牙をむくのはなぜだ?」


 そう問われても僕が何かする前に攻撃されてしまったら反撃をするしかないと思うのだが、天使はそれが全く分かっていないようだった。


「そう言われましても、こちらが何かする前に攻撃されていたら反撃しちゃうと思うんですけど」

「そのような事を申されても我は貴様に対して攻撃命令は出しておらぬ。さすれば、各天使がそれぞれ自分の意志で攻撃をしていると思うのだが、貴様は神に対して良からぬことを考えておらぬだろうな」

「ああ、そう言われましたら考えていないとは言い切れませんね」

「そうか、ならば攻撃対象とされるのも仕方のない事である。その考えを悔い改めるか諦めて死ぬかを選ぶがよい」

「悔い改めるのはちょっと難しいんですけど、あなた方が僕の命を奪うってのはもっと難しいんじゃないですかね」

「ほう。我らが貴様ごときの命を奪えぬと申すか。では、今から我らが主の名のもとに貴様の命をもらい受ける」


 天使の軍勢が一斉に地上に降り立つと、なぜか僕の周りの炎の柱が徐々に小さくなって消えてしまった。少しずつではあるけれど、空気も薄くなってきているような気がして息苦しくなっていた。


「たかが人間ごときが我らの力に近付いたとしてもその体はか弱きままである。我ら歯向かった事を死んでからも後悔しておくのだ」


 僕の周りを囲んでいる天使が一斉に歌を歌うと、僕の周りが少しずつ闇に閉ざされていって呼吸も苦しくなってきた。手足の先から徐々に冷たくなっている感じがして、その感覚もだんだんと失われていった。反撃をしようにも体に纏わりつく闇が重く感じて体に力が入らなくなってしまった。


「今から貴様に千年間の間苦痛を与え続け、それを千回繰り返したのち、新たな苦痛を千年間与えてやろう。大丈夫、貴様はそれが終わるまでの間は決して死なぬ体にしてやる故安心しておれ」


 僕はかすかに聞こえるその声にも反応することが出来ず、意識は遠くに行ってしまっているのに視界はすぐ近くを見ているような不思議な感覚に陥っていた。こんな奴らに負けるはずがないと思っていたのだけれど、実際に終わりはあっけないものだと思っていたのだが、これから長い時間苦痛を受け続けるのかと思うと何も感じなかった。


『大丈夫、君には私がついているからね』


 どこかで聞いたことのあるような声が頭の中に直接語り掛けてきているように思えた。僕はその声の主が誰なのか思い出すことは出来なかったけれど、とても懐かしい声のように思えた。


『私は君と違って天使と戦うことは出来ないけれど、この闇の中で自由に動けることが出来るの。でもね、動けるだけでどうにかする事なんて出来やしないのよ。それなのにどうやって助けるかって?』


 僕が疑問に思った事を答える前にその声は僕に優しく答えてくれた。


『それはね、この私の力を君に託せばいいと思うの。天使よりも強い君が天使の作り出したこの闇の世界でも行動出来るようになれば怖いものなしよ』


 僕の目の前に小さな女の子が急に現れた。自分の体でさえ見えない暗闇の中で見えるはずも無いのだけれど、その女の子は僕の目を見つめると確かに微笑んでいた。僕がじっと見つめていると女の子は照れ臭そうに顔を背けて僕の手を優しく握ってくれた。握られた手は感覚を失っていたはずなのに少女の優しい手のぬくもりを感じていた。


『これで君の手は自由になったと思うよ。前みたいに思い通りに動かせるようになるまではもう少し時間がかかると思うけど、少しずつ全身の感覚を取り戻しましょうね』


 そう言って少女は僕の方に手を回すと、その口を耳元に近付けて優しく何かを呟いた。言葉はハッキリとは聞こえていなかったけれど、それを両耳にやってもらうと静寂の中にも微かな衣擦れの様な音が聞こえてきた。


「これで音も聞こえるようになったと思うよ。次は君が喋れるようにならないとね」


 少女の顔が僕の顔に近付いてきているのがハッキリとわかった。少しずつゆっくりと近づいているのだけれど、少女の口から零れる吐息がその動きの生々しさを僕にはっきりと伝えていた。口と口が触れ合った時も少女は少しずつ吐息を漏らしていて、僕はその少女を自然と抱きしめていた。そのまま長い時間唇を重ねていたと思うのだが、僕の口の中に少しだけ生暖かい液体が入ってきた。その液体は生暖かいだけで味はわからなかったのだけれど、少しずつ注がれている間に鉄の様な味が徐々に感じられてきた。

 少女は僕からゆっくりと離れると照れ臭そうに微笑みかけてきた。


「私の血を君の体内に取り込んでもらったからもう少ししたら自由に動けるようになると思うよ。本当は耳も手も治す必要はなかったんだけど、私の声を聞いてもらいたかったし抱きしめても貰いたかったからね。それでね、君が完全に自由に動けるようになったらしてもらいたいことがあるの」

「それって何かな?」


 僕は自分が喋れることに気付いてはいなかったけれど、自然と言葉を発している事に驚いてしまった。


「それはね、君の手で私を殺してほしいんだ」

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