考える事
魔王がいない世界を創ろうと思っていると、魔王以上に強い天使がこの世界に誕生していた。天使自体は魔王と違って人に害をなす存在ではないのだけれど、上級の天使ともなると魔王が集団で襲ったとしても太刀打ちできないそうだ。魔王は何らかの能力や魔法を自由に使える人間であって、天使は神がこの世界の秩序を乱している魔王や悪魔に対抗するためにつかわせているようだ。悪魔は魔界と呼ばれる世界からこの世界へとやって来た高エネルギーの生命体なのだが、その魔力は天使が複数体で立ち向かっても及ばない。今のままでは悪魔がこの世界を支配してしまうと思われていたのだが、その事態を重く受け止めた神はこの世界に新たにそれまでの天使とは比べ物にならないくらい強力な力を持った大天使を降臨させる事にした。
天使は通常だと活動範囲がかなり狭い範囲に限定されているため防衛の役割が主になっている。それに対して悪魔は自由に移動することが出来るため、徒党を組まれてしまうと対抗する天使は防衛機能としての役割を果たしきれない場合があったりしていた。そんな悪魔に対抗する手段は二つあって、一つは天使の中でも固有の地域に縛られない天使群の存在だ。能力自体は通常の天使よりも劣ってしまうのは難点だが、天使がやられた場合に次の天使がやってくるまでのサポートとしてエリアを護る事が多い。もう一つは大天使の存在だ。大天使は強大な力を持った悪魔を探して移動を繰り返しているのだけれど、それほど強力な力を持った魔王はそもそも地上に出てくることもまれだった。
それぞれの力の源であるが、天使と大天使は自分の仕えている神に対する人々の信仰心が強ければ強いほど振り分けられる能力も高くなっているのだ。魔王はその大半がほぼ人間と同じなので成長はするのだけれど、多くの天使や人間と戦う事で成長しているようだ。しかし、魔王が成長するほどの経験はよほどの事でもない限り期待できないようだ。悪魔に至っては単純に命を奪うか相手を食う事によって成長している。
僕はいまだに大天使を見たことは無いのだけれど、その力は強大すぎて遠くに降臨しているとしてもハッキリと認識できるほどだった。悪魔の存在はいつも急でどこからともなくやってきて天使や人間を襲い続けるそうだ。全く自由気ままな感じで行動しているのでそれなりに脅威に感じることはあるようなのだが、悪魔自体が他の悪魔の事を信用することは無いので徒党を組むことは無いという事だけが救いなのかもしれない。個で勝る悪魔が集団になった時には今まで以上の脅威になると思われるのだが、幸か不幸か今のところ悪魔たちが手と手を取り合うという事は無いようなのだ。
「世界を変える力を持っているのもよ。悪魔にも天使にもない力を持つ者よ。その力を持って世界を新しい方へと導くのだ」
僕に与えられた限界を超えて成長する力を求めて多くの悪魔に襲われたりもしたけれど、余りにも一方的に片付けてしまっていたためか、今では僕に挑んでくる悪魔もいなくなってしまっていた。当初頼まれていた魔王狩りではあったけれど、時代の変化によって魔王を倒すのではなく悪魔から人間を護って欲しいという事になっていた。僕にとっては戦う相手が魔王でも悪魔でも変わりがないので問題なんて何も無い。そもそも、悪魔と魔王の違いすら理解していないという事もあるのだ。人間を襲うという点では違いのない両者ではあるが、魔王は明確な支配地域を持つことに対して悪魔は自由気ままに神出鬼没なところがあるという違いくらいはあるようだ。
「魔王を倒して得た経験よりも天使や悪魔を倒している時の方が圧倒的に成長しているし、いまだにその存在を確認していない大天使を倒すことが出来たのならばどれくらい強くなれるのだろうか?」
「そうだね、今の君だったら大天使を倒すだけで戦闘力が何十倍にもなるんじゃないかな?」
「そう聞いてしまうと面倒になって獲物を探しに行く事すら面倒になってしまっていた。そんな風に考えてしまうんだけど大丈夫かな」
「それくらいだったら大丈夫だと思いますよ。あなたが今よりももっともっと強くなって神を倒してくれたらそれでいいです」
僕に与えられた仕事は日々変化してしまっているけれど、最終的にサクラが元に戻って幸せに過ごせるといいな。それくらい世界には興味が無かったりする。この世界を救う事が僕の望むことと繋がっているかはわからないけれど、この世界を救うことが出来なければ何も変わらないという事は分かっている。ただ、この世界を救ったとしても僕が救われることなんて無いのではないかという思いは捨て去ることが出来ない。この世界が平和になってもサクラが戻ってくるという保証はないのだが、サクラが戻ってくるという可能性は高くなるだろう。
その時のために、少しでも二人で住みやすい世界にしてしておくのも大事な事なのではないかと思えていた。
悪魔を探しに行こうと思っていると、どこからか鈴の音が聞こえてきた。その音が少しずつ大きくなっていくのと同時に、片足を引きずっているような足音も聞こえていた。





