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サクラを元に戻すため

 天使と戦う事はそれほど辛い事ではなかった。一対一なら負ける要素はほとんど無いし、何か失敗してしまったとしても上手く乗り切ることが出来ていた。目の前に魔王がいたとしても今の僕はより高エネルギー体である天使の命を奪う事にしか執着していなかった。


「お前の連れを元の状態に戻したかったら魔王とか天使を殺すのが一番だぜ。魔王もそれなりにエネルギーを蓄えてはいるけれど、純度や総質量で言うと天使はその何十倍も優れているんだけどな。今のお前だったら魔王でも天使でもそんなに変わらないくらいの手間で倒せるんじゃないかな。俺様的にも天使の総量が減れば減るほど嬉しかったりするし、お互いにとってメリットしかないと思うんだよな。今のお前はまだ神の頂には届いていないと思うんだけど、天使狩りを繰り返していけばお前が神になる事も夢じゃないと思うぜ、そうなったら俺様がお前の命を貰いに行くがな」

「あの、僕に色々教えてくれているのは嬉しいんですが、あなたは誰ですか?」

「俺様か? 俺様は通りすがりの悪魔だ。悪魔と言われてもピンとこないかもしれないけれど、俺様の名前はお前らの言語では発声できないと思うし聞き取る事も出来ないだろう。お前は俺様に興味なんか持とうとしなくていいし、俺様の言う事を聞いて天使を殺しまくれば上手く行くもんだぜ。お前は俺様やクソ天使どもと違って成長することが出来るんだからな。ただ、自分より極端に弱いものを相手にしたって成長なんかしないぜ。今のお前だったら三流の魔王を倒したところで何の成果も得られないと思うぞ。成長以外で得るものがあるかもしれないけれど、そんなものに賭けるくらいだったら天使どもを狩りまくった方がいいと思うぜ」

「よくわからないんですけど、僕が成長しているのは変わっている事になっていて普通は成長しないって事なんですか?」

「まあ、全く成長しないってわけでもないんだが、お前に比べると俺様たちやクソ天使は極端に成長する事なんてないぞ。成長するにしたって魔法の詠唱速度が速くなったり疲労が抜けやすくなるくらいの成長しかないな。お前みたいに基礎魔力から身体能力まで何百倍何千倍と成長する事なんてありえないな」

「自分より強い天使を狩ればその分成長の度合いも高まるってことですか?」

「実際問題として、その可能性は大いにあると思うのだけれど、そんなに強いやつを相手にするよりも手頃なやつを数多く相手にした方が得だと思うぜ。今のお前の戦闘力は天界や魔界を含めても下位ニ十%くらいの位置にいると思うぜ。ちなみに俺様はお前とは逆の上位の中でも一桁割合の場所にいるはずだな。さすがに最強とは言えないけれどお前の代わりに天使を殲滅する事だって出来るのさ」

「よくわからないけれど、サクラを元に戻すためにはある程度の強さを持った命を奪えばいいって事でしょ?」

「そう言う事だ。より強いものの命を奪うことが出来ればそれだけ早くサクラの自我を取り戻すことも出来るだろう」

「じゃあ、僕があなたの命を頂くことが出来ればサクラが戻る可能性も高くなるって事ですよね」

「そう言う事にはなるのだけれど、お前ごときが俺様の命をとろうなどとは思わない方が身のためだな。俺様はクソ天使どもが束になってかかってきても瞬殺する事も出来るのだからな。何より、お前ごときが俺様と会話をしている事ですら奇跡に近い事だと身をわきまえよ」


 やけに現実味のある夢を見ていたような気がするのだ。


 僕はいつの間にか戦闘用のマスクを着けて天使のいる宿場へと向かった。いつもと変わらない宿場ではあるけれど、いつもより少しだけ多くの人が宿に泊まっているようだった。それはどこの宿も同じようで、三軒ある宿はどこも満員を知らせる傘がかけられていた。


「ちょっとそこのお兄さん。今夜の宿をお探しでしたらこちらへどうぞ。あら、探してるのは宿じゃないのかしら?」


 穏やかな口調で話しかけてきていた客引きの男は僕と目が合うと二歩分距離を開けてどこかに隠し持っていた細剣を僕に向けてきた。先ほどとは違って穏やかさは微塵もなく、その口調は完全に荒々しくなっていた。荒々しい口調で何度も僕に質問をぶつけてきていたのだけれど、僕はそのどれにも答えることが出来ないでいた。


「もしかして、お前は胡散臭い予言者が言っていた天使様を狩るものだな。そんな事はさせるわけにはいかない」


 男は細剣を両手でしっかりと握って僕に向かって突進してきた。僕はごく自然に無駄のない動きでそれを躱すと男は体の向きを変えて再び僕に向かってきた。今度は突進ではなく右手でしっかりと握って何度も何度も僕の体を突こうとしていた。全ての突きは空を切っていたのだけれど、避けるのも面倒になってきた僕は男の方に向かって攻撃の姿勢をとっていた。魔王殺しの技が普通の人間に効くとは思えないのだけれど少しは牽制になるだろう。なるべくなら派手な技の方がいいと思い男を中心に光の柱が出てくるようなイメージで技を展開する事にした。

 男には何の影響もなく恐怖心を与えられればいいと思っていたのだけれど、男の左右にそれぞれ半身だけになった天使の残骸が落ちてきた。この宿場にいる天使とは大きさも羽根の数も違っているようではあったけれど、間違いなく天使の体であった。それが左右に一体ずつ落ちているので、計二体の天使を屠ることが出来たらしい。天使の残骸をゆっくりと確認した男は僕の事を完全に無視して走って消えてしまった。


「その調子でどんどん天使を殺してしまうといいよ。そうすればお前も俺様も幸せになれるからな」


 その声が僕にしか聞こえないのかはわからないけれど、少し離れた場所で先ほどから僕を監視している視線の主には聞こえていないようだった。


「死ななくても成長することが出来るんだったら前より楽に戦えるかも」


 僕はなぜかそう呟いていたけれど、その意味は自分でもわからなかった。とにかく、今は高エネルギーの天使や悪魔の命を奪ってサクラを元に戻すことに集中しよう。

 もう少し強くなったら偉そうなあいつもどうにかしてやりたいと思っていた。

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