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純白の天使

「諸君らの誰か一人でも良いので魔王を討伐して帰ってきてくれることを期待している」


 一生続くのではないかと思っていた長い演説の終わりはこれから僕達が戦う相手がいかに危険な相手かという事を物語っていた。だが、僕は魔王が相手ならば負けることは無いし、サクラは相手が魔王でなければ圧倒的な力の差を見せつけて生き残るだろう。状況次第ではあるけれど、僕とサクラがペアを組んでいる限りは負けることはあり得ないのだ。

 その事を知ってか知らずかは不明だが、僕とサクラが二人組だという事もあって共闘を持ち掛けられることが多くこの場から移動する事も出来ずにいた。


「こうなったら誰かと一緒に行動した方が良くないですか?」

「そうかもしれないけれど、あっさり死なれると困るんじゃないかな?」

「私がルシフェルさん以外の人も守れたらいいんだけど、実戦になったらそんな事を考える余裕はないんですよね。それが出来ていれば城砦が三つも墜ちることは無かったんですよね」

「アレはサクラのせいってよりも、僕の判断ミスだと思うんだよね。あの中に魔王が紛れているとは夢にも思わなかったし、サクラの攻撃も効いているように見えたからさ」

「そうですね、過ぎたことはいつまで蒸し返してもいいことは無いですし、一緒に前を向いて行動していきましょうね」


 相変わらず僕達の周りには勧誘してくる者たちが諦めもせずに様々な条件を提示していた。中には魅力的な条件もあったけれど、僕とサクラの戦闘スタイルに対応してもらえないとスタートラインにすら立てないと考えている。考えてはいるのだけれど、今の状況を鑑みると多少は妥協してもよいのではないかと思っていた。それでも譲れない部分はいくつかあるのだけれど、それを満たす事すら出来ない者の方が多くて他人ごとではあるけれどこれからの活動が不安になるような人もいたのだった。

 僕達は二人でもお互いの欠点をカバーし合う事で今まで生き残ってきたのだ。不思議な事に何度か僕自身は死んでいるような気もしているのだけれど、今の世界では失われた魂を取り戻す魔法は存在しない。何百年も前に書かれている魔法解説書には一応載っている事は載っているのだけれど、現代の魔法とは様式も使う媒介も異なるゆえに蘇生魔法に辿り着くことも出来ないのだ。

 もしも、この中の誰か一人でもいいので蘇生魔法を現代によみがえらせることが出来たのならば、闘い方も大きく変化していくのだろう。そうなってしまうと今よりも人の命の重みはなくなってしまいそうではあるが、大きな平和を勝ち取ることが出来たのならば人の命はいくらでも投げ売りされても変わらないだろう。


「君たち二人は他の誰かと協力するつもりはないみたいだけれど、二人だけでこれからの戦闘を乗り切っていけると思っているのかい?」

「そうですけど、何か問題あるでしょうか?」

「問題は無いのですが、他の者たちも少数精鋭を目指してしまう可能性があるんですよね」

「己の力量も見定められないのでしたら遅かれ早かれ死んでしまうと思いますよ。私だってルシフェルさんがいなければ死んでると思いますからね」

「ま、人数は少なければ少ないほど成功報酬を多くもらえる計算もあるみたいだな」

「それで死んでしまったら意味ないですよね」


 演説が終わって十分もしていないと思うのだけれど、目の前に二本の大きな炎の柱が現れた。その炎は触れただけでも全ての物を蒸発させる勢いで天へと昇っていった。しかし、炎に触れさえしなければ近付いても熱くはなかった。

 どこまで伸びているのだろうと思って見上げてみると、そこには空しかないはずなのに何となく違和感を覚えてしまった。サクラにもその場所を教えてみると、周りにいた人達も一斉にそれを確認しだした。誰かがその違和感を覚えたところに向かって魔法を発動させると、それに同調した多くの者も魔法を放っていた。

 決して褒められるような行動ではないのだけれど、色々な種類で強さも異なる魔法をぶつけ続けた結果、そこにあったと思われる結界が破壊されて異様な姿の大男がこちらを睨んでいた。


「さすがはルシフェル様。私の結界に気付くとは恐れ入った。私は見ての通り魔法は苦手ではあるのだけれど、それでも人間にまで堕ちたあなた様が私に気付くとは思いもしませんでした。一刻も早く全てを取り戻してまた一緒に天界で筋肉をぶつけ合いましょうぞ」


 異常に発達した筋肉で体を構成している大男ではあるのだけれど、それ以上に不思議なのは背中から生えている六枚の羽根だった。その羽根を引き立たせるためなのかはわからないけれど、この男の肌はやや青みがかった茶色だった。その肌と比べているわけではないのだけれど、六枚の羽根はこの世のどの白よりも純白という言葉がしっくりくる色合いであった。


「私の羽根に見とれていらっしゃるようですが、ルシフェル様もかつては私の様な羽根をお持ちだったではありませんか。それも、私よりも多い十四枚の羽根をお持ちでしたね」

「ちょっと待ってくれ、僕にそんなものが生えてたなんて知らないんだけど。いったい何の話をしているのだ?」

「我が主によって記憶を書き換えられているので覚えていないのは当然ではありますが、あなた様が持っている力は本来の力のほんの一部にしか過ぎないのですよ。さあ、私と一緒に主の下へと参りましょう」

「ごめんなさい。本当にあなたの言っている事が理解できません。そもそも、あなたはいったい何者なのでしょうか?」

「ああ、私の事をお忘れだという事ですね。主によって記憶を書き換えられているとは言え、少し悲しさを覚えてしまいます。と、言いたいところではありますが、それも想定内の事ですのでお気になさらずに。そうですね、我々は偉大なる主に仕える存在でして、他の方にもわかるように言いますと、天使ですね」


 僕の想像していた天使は可愛らしい男の子の印象であったけれど、宙に浮いている筋骨隆々の大男を見ていると何だか不思議と腹が立ってきた。彼が悪いのではなく、天使に対して勝手なイメージを抱いていた自分が悪いとは思うのだけれど、それが無くてもいきなり現れているのだから驚いてはいた。


「あの浮いてる人って、ルシフェルさんの知り合いなんですか?」

「知り合いなのかもしれないんだけど、覚えていないんだよね。あの見た目なら忘れないと思うんだけど、何も覚えていないんだよ」

「私も覚えていない方がいいと思うんですけど、あの人ってどうしたらいいんでしょうね?」


「なあ、あの浮いてるやつって天使だって言ってるけどどう思う?」

「いやいや、あのガタイで天使は無いだろ。それなら俺だって天使になれるよな」

「ははは、そいつは間違いないや」


 そのような会話がいたるところで交わされているようだった。自称天使の大男が空から何かを確認するように眺めていると、僕の近くで天使の事を悪いように言っていた人が言葉を発する間もなく炎に包まれていた。


「申し訳ない。主から与えられたこの体を侮辱されて許せるほど寛容な天使ではないのです。天使と言えども感情はございますので。では、ついでなんで他の者も焼却いたしましょうね」


 天使は何かの呪文を唱えるでもなく、何かの型を組むのでもなく、ただ歌うだけでこの場にいる者の大多数を燃やしていった。ほとんどの者は影さえ残る事も無く蒸発していたようではあるのだけれど、一部の火や熱に耐性のあるものは炎の中で苦しみながら死んでいっているようだった。

 サクラも炎に包まれていたようではあったけれど、その炎は一瞬で消えていた。なぜかサクラの周りだけは炎がすぐに消えてしまっていた。何度もサクラは燃えていたのだけれど、次の瞬間には何事もなかったかのように立っていた。


「あなたはどうして私の炎が効かないのでしょうか?」


 その言葉を言い終わった大男はサクラの手から放たれた炎に包まれると、その大きな体を反転させてより高く高く上空へと舞い上がっていった。

 その後を追いかけるようにサクラの放った火球がついていったのだけれど、追いつく前に火球は消滅していた。

 僕も何となくではあるけれど、魔王殺しの魔法を使ってみたのだけれど、天使を殺すことは出来ないようだった。殺すことは出来なかったのだけれど、それなりの効果はあったようで、六枚の羽根が全て落ちるとそのまま地面に落下してきた。その後も魔法を使い続けてみたのだけれど、それ以上の効果は見込めないようだったので、後始末はいつものようにサクラに任せる事にした。


 サクラは僕の期待に十分に応えてくれたのだけれど、それに反するように少しずつ雷がこちらに近付いてきていた。何となくではあるけれど、その雷は違う天使が作り出しているように思えて仕方がなかった。

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