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金髪の魔女とアリス

 冒険者は基本的に定住の地は持たない。1か所に留まるのはその町と契約を交わしているモノくらいなので、よほど名の通った冒険者化、その土地での実績が物凄いものに限られる。

 僕達は割とその条件には当てはまっているのだけれど、二人の性質もあるが1か所に留まっても期待以上の成果は上げられないのだ。僕がいればその地の魔王はいなくなるし、魔王がいなくなれば配下の雑魚もいなくなる。結果的には僕らはその町で余生を過ごせそうなものなのだが、他の町からの要請が無くならない限り移動し続ける。

 最近では、魔王を数体残して次の町に行く事が多いのだけれど、これは僕達が所属している組合の決定事項なので守らなくてはいけない。魔王がその土地からいなくなると、それ以外の土地から魔王がやってくることになるのだが、それがいつになるかはわからないし、どんな魔王がやってくるのかもわからない。

 魔王を生み出し続けている元凶がいるのだが、そいつを探し出して殲滅するのが組合の悲願でもあり、全人類が切望する事なのだ。その元凶の居場所はわかっているのだけれど、そこは特殊な装備かアビリティが無いと辿り着けないのだが、サクラは魔王に対してダメージを与えられないので行ってもほとんど意味は無いのだ。今までも何度か行っているのだけれど、何も出来ずにただ状況を確認してくるだけで終わっていた。


「ささ、金髪の魔女と銀翼の狩人ならどっちに会いたいのかな?」

「僕はどっちにもこだわりはないけど、遠くない方がいいと思うよ」

「そうね、歩きだとそれなりに時間もかかりそうだし、ここは馬車を頼もうか」


 組合に所属している利点はいくつかあって、一番大きいのは仕事の斡旋だろう。組合から斡旋された仕事の場合、手数料は多少引かれてしまうけれど自分で一から探してくる手間を考えると安いと思えるくらいの割合だ。次に重要なのが、組合の管理している家に住むことが出来る。組合の管理している家は消耗品や衣類及び戦闘用品以外は備え付けられているので最低限の暮らしは食べ物さえあれば出来るのだ。各町にいくつかあるのだけれど、治安維持の観点からなのかわからないけれど、その家は町の外周に沿って点在している事が多いと思う。魔物が町中に入らないための最終防衛ラインとしての役割もあるだろう。そして、あまり使う機会は無いのだけれど、今回乗っている馬車も組合員だけが乗れる仕組みになっている。依頼を受けるたびに手数料は取られているけれど、全体的に見ると快適な暮らしを送ることが出来ているのだけから決して無駄な費用ではない。

 俺も荷物は少ない方だと思うのだけれど、サクラはほぼ紙袋1個で足りていたようだ。引っ越しの時に必要なモノだけ持っていくのだが、残っている荷物は売ってしまったり欲しい人にあげたりもしているみたいだ。

 それにしても、サクラの荷物は少なすぎると思うのだけれど、次の町で必要なモノを買い直すことになると思うのだが、それは僕も同じなので気にしないでおこう。次の町から引っ越すときもきっと同じ感想を抱くと思うのだから。


 馬車に揺られてもう少しで次の町に着くと言ったところで急に馬車が止まった。何かあったのかなと思って入り口から顔を出してみると、周りを無数の魔物に囲まれていた。僕は見てきた状況を軽くサクラに説明すると、最後まで話を聞かないまま飛び出してしまった。馬車の中から見た感じでは、魔王タイプも何体かいるようだけれど、それ以外の雑魚をサクラが倒したら僕の出番になるだろう。

 当然の話なのだが、サクラは全くけがを負う事も無く、全ての雑魚を倒していた。何度攻撃してもサクラの攻撃が無効化されているようなので、残す敵は魔王タイプが3体。ここは僕の出番だなと思っていると、残った魔王の体に光の矢が刺さっていた。矢の飛んできた方向を見ると、そこには金髪の美少女が立っていた。残された2体の魔王を片付けると、僕はサクラと二人で金髪の美少女のもとへと歩みを進めた。


「あの、もしかしてお二人って、北の最恐コンビの方ですか?」

「そんな風に呼ばれたことは無いんだけど、もしかしたらそうなのかな?」

「でも、私達って北に住んでたこと無いよね?」

「別の人だったらごめんなさい。でも、女の人が雑魚を一掃して男の人が魔王を殲滅するスタイルって他に知らないからそうかなって思っちゃいました」

「その特徴なら私達っぽいけど、どこから北って出てきたんだろうね?」

「さあ、僕に聞かれてもわからないよね」

「あの、馬車に乗ってるんで組合に所属していると思うんですけど、お二人が所属しているところってミハラ会長のところですか?」

「確かそんな名前だったような気がするけど、組合って他にもあるの?」

「有名なところはミハラ会長の北部魔法協会とアヤメ長官の魔王討伐大連隊とマサ君さんの東部魔法協会ですね。他にも小さな団体はたくさんあるのですが、ここ数十年の実績を見るとこの3つで世界の安定はほぼ保たれていると言ってもいいくらいだと思いますよ。ちなみに、私は東部魔法協会に所属しているのでお二人とは姉妹協会の会員なんで仲間みたいなもんですね」

「僕達ってこの世界にきてからどれくらい経ってるんだろう?」

「あんまり考えた事無かったけど、私達ってあんまり年取ってる感じしないよね」

「あの、お二人のうわさを最初に聞いたのは10年くらい前だと思うんですけど、それ以前からこの世界に来てると思って間違いないんじゃないでしょうか」

「そんなに経ってるのか、宿屋のお嬢さんも大人になってたしそんなもんなんだろうね」

「でもさ、私達って見た目変わらないよね。髪も全然伸びてないし」

「お二人は転生してきたんですよね?」

「うん、そうだけど。君もそうなんだよね?」

「ええ、冒険者の多くは私達みたいな転生者だと思うんですけど、転生者が多い理由は2つありまして、一つは転生者に与えられたアビリティがあげられます。お二人のアビリティは転生者の中でも極めて稀なモノですし、そんな二人が出会ったのも冒険者になるのが宿命だったと思われます。もう一つの理由は、転生者は年を取らないんです。これはこの世界に私達を転生させた人達の取り決めでそうなったらしいのですが、寿命で死ぬことが無いようにするために年を取らなくなったみたいです。肉体的にも精神的にも成長はするんですけど、老化はしない代わりに子供を残せなくなってるみたいです。それは特殊なアビリティが原因なのかもしれませんが、転生者は男女どちらでも子供は作れないようになっているみたいです。私の体で何度も試されたので間違いないと思います」

「それってもしかして、酷い目に遭ったってこと?」

「そうです。でも、そこの人達はウチの会長が全員片付けてくれたんで大丈夫です。ショックは抜けきれないですけど、お陰でこうして強くなれましたからね」

「私にはあなたにかける言葉はないんだけど、同じ女性としてそいつらは許せないわ」

「僕もその話は聞いただけでショックだよ。アリスには苦しみや悲しみを2度と味わってもらいたくないな」


 僕は何か変な事を言ったのだろうか。二人が凄い目で僕を見つめていた。


「あの、申し上げにくいのですが、私の名前はアリスではなくソフィアと申します。名乗るのが遅れて申し訳ありません」

「いやいや、そういう問題じゃなくて、ルシフェルが急に名前で呼び出したからびっくりしたけど、その名前が間違っていたのは2度目のショックだわ」

「お知り合いにアリスさんという方がいるんでしょうか?」

「え、いや、そんな知り合いはいなかったと思うけど。いたかもしれないような気もしている」

「ねえ、私はそんな人がルシフェルにいるって聞いてないんだけど。アリスって誰なのかな?」


 この感じは逆らってはダメなタイプのサクラになっているみたいだ。口から自然に出ていたけど、僕にはアリスという名前の知り合いはいないはずだ。転生する前に仲が良かった子かもしれないけれど、それも今では確かめようがないのだから何とか考えてみよう。

 結果的には何も浮かんでこなかった。なぜなら、そのアリスの情報が何一つ得られていなかったからだ。


「でもさ、金髪の美女で紅目ってことはアリスだと思うんだけどな」

「どうしたの、さっきから疲れているの?」

「いや、あの程度では疲れたりしないけど、なんでそんなに怒っているの?」

「私は怒ってないよ。ルシフェルが変な事を言い出すから聞いてるだけだって」


「私ってよく勘違いされちゃうからそれが原因なのかもしれないです。今では金髪の魔女ってのが定着しちゃったんですけど、本当は慈愛の天使とかそういうのが良かったんです。だって、私は魔女じゃなくて魔女を裁く側にいた人間ですからね」

「金髪の魔女じゃないの?」

「皆が思う金髪の魔女だとしたらあってるんですけど、私は金髪の魔女ではなくて金髪の天使とかそういうものだと思ってたんですよ。それと、私の瞳は赤じゃなくて青ですよ」


 僕はその言葉を聞いてソフィアと見つめ合ったのだけれど、確かに瞳は青く澄んでいた。僕は何を勘違いしていたのだろうか。その疑問は解決しないだろうけれど、きっといつかわかる日が来るはずだ。


「ねえ、さっきの光のやってあなたのアビリティなの?」

「半分あたっているけど半分はハズレかな。私のアビリティってその辺にあるものなら何でもいいんだけど、威力を高めて必ず命中させるんです。ただ、それを一回でも使うとその武器は2度と使えません。大事に使わないといけないんです」


 ソフィアは少し悲しそうな顔で答えてくれたのだが、アリスと間違えた時の方が悲しさがあふれ出てたような気がしていた。


「あのさ、お願いがあるんだけど良いかな?」

「ルシフェルが失礼な事しちゃったから大抵の事はいいと思うけど、何かな?」

「私も一緒に連れて行ってもらえないかな?」

「それくらいならいいんだけど、次の町に家でもあるの?」

「家は無いんだけど、私って金髪の魔女とか言われてて恐れられてるんだよね。だから、誰もパーティーを組んでくれなくてさ、仲間にしてもらえないかな?」

「私は構わないんだけど、ルシフェルは二人きりの方がいいかな?」

「僕も構わないけど、とりあえずは馬車に乗って町を目指そうよ」


 僕達3人は馬車に乗って次の町まで向かうのであった。ソフィアはアリスではないらしいのだけれど、アリスは一体どんな人なのだろうか。僕の知り合いだと思うのだけれど、顔も声も思い出せないでいた。アリスっていったい誰なんだろう?

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