サクラと二人
サクラと一緒に暮らすようになってからの生活は余裕も出来てきて、以前のように無理をして失敗する事も無くなっていた。家事も分担しているし、戦闘に関しても基本は二人一組で行う事が多くなっていたので命の危険も大きく減っていた。それよりも大きい事は、パーティーの勧誘がほとんどなくなった事だ。
僕は魔王相手なら確実に殺す魔法を覚えているのだが、魔王以外の相手は苦手であった。サクラは僕と逆で、魔王に効果的な技は習得していないのだけれど、3体くらいまでなら苦も無く倒すことが出来るのだ。それに、サクラの技は魔力消費が激しいものが多いので、僕が持っている任意の相手に魔力を分け与える技があれば2日くらいならどこでも戦えると思う。
今住んでいる町は割と大きいのだけれど、大きいとそれだけ冒険者が増えてしまうので仕事の取り合いになる事が多いのだけれど、僕達は魔王狩り専門でやっているので他の冒険者とはあまり依頼がバッティングする事も無い。あったとしても協力してこなせばいいだけだし、人類共通の敵である魔王を倒すことは人間だけではなくこの辺りの野生動物の生活環境を守る事でもあるのだ。
「ルシフェルの魔王殺しの魔法ってもう少し詠唱短くならないのかな?」
「僕が作った魔法じゃないからどれを削っても平気なのかがわからないんだけど、これでも事前準備とかしてるから相当短くなってるんだよ」
「その努力はわかるけどさ、私の攻撃が魔王に一切通じないのってルシフェルの陰謀なんじゃないかって思ってきたんだよね」
「それは僕のせいじゃないと思うんだけど、その分魔王以外の敵には絶対負けないじゃん」
「負けはしないけどさ、攻撃されたとしても致命傷にならないだけで普通に痛いんだからね。私に与えられたアビリティが致命傷はくらわないけど魔王族には攻撃が効かないっておかしいじゃん。ルシフェルのアビリティもおかしいけど、魔王以外にも攻撃通じてるもんね」
「魔王以外にも通じてるって言っても普通に殴った方がダメージでかいからあんまり意味ないと思うんだよね」
「金髪の魔女みたいに万能系の攻撃魔法とか使えたらいいんだけどね」
「確かに、あの人は凄いよね」
「ああ、ルシフェルの憧れの魔法使いだもんね。私達がこの世界に来た時にはもうすでに有名になってたみたいだし、何歳なんだって気になる金髪の魔女だよね」
「あの人の魔法があればもっと楽になると思うよね」
「それって、私の火力が低いって事かな?」
「そんなことは言ってないじゃないか。それに、サクラってどうして金髪の魔女の話題になると不機嫌になるのさ?」
「別に不機嫌になってませんけど。誰かさんが私よりも金髪の魔女を褒めてるのなんて気にしてないしね」
「金髪の魔女の話題を出してきたのはサクラだろ。それで僕に文句を言ってくる意味が分からないよ」
サクラはなぜか金髪の魔女とか銀翼の狩人の話をすると不機嫌になってしまう。僕はその事を知っているので自分から話題に出したりはしないんだけど、サクラは仕事が終わった後の食事の場では必ずどちらかの話題を出して決まって不機嫌になってしまう。
いっそのこと二人も仲間に入れてしまえばサクラの誤解も解けると思うんだけど、二人はそれぞれチームを組んでいるから難しい話だと思う。それに、姿は何度かしか見かけたことが無いし、活動範囲も大きく異なっているので一緒に戦う事も無いだろう。
「私達も何か素敵な通り名が欲しいわよね」
「サクラって意外と他人の目を気にするとこがあるよね。僕はそう言うの気にしたこと無いけどさ」
「まあ、気にしないと言ったらうそになるけど、こういうのって誰が決めてるんだろうね?」
「金髪の魔女とか銀翼の狩人は見た目から来てるんだと思うけど、乳神とか女巨人とかはちょっと気の毒よね」
「僕達にもちょっとした通り名がついてるんだけど、サクラは本当に聞いたことが無かったの?」
「無いと思うけど、どんなやつ?」
「雑魚専と魔王専って呼ばれてたよ」
「ちょっと、魔王専はまだ恵まれていると思うけど、雑魚専ってつけたやつ誰なのよ。見つけたらそいつと戦ってそいつが雑魚だって証明してやるわ」
サクラが雑魚専なのは僕にとっては嬉しい事なのだけれど、本人からしてみたら誹謗中傷に近いものを感じていても仕方ないのではないだろうか。実際問題、サクラがいなければ僕はそうそうに死んでいたと思う。
「じゃあ、ご飯も食べたし部屋に戻って体を休めることにしようかな。ルシフェルはもう少しゆっくり食べてていいよ」
「それなら僕も一緒に戻るよ。残ったのは持って帰って明日の朝にでも食べることにしようかな」
「あら、全部食べてからでもいいのに」
ここでサクラの言う通りに全部食べ終わってから帰ると後でブツブツ文句を言われることになるのだから、ここではこうするのが最適解なのだ。甘いものも食べたかったけど、明日のお昼まで我慢することにしよう。
僕達二人はコンビを組んでいるけれど、結婚しているわけでも付き合っているわけでもないので一緒の部屋で暮らすのは少し抵抗があったけれど、これも節約のためだと思っていると抵抗感は次第に薄れていった。もっとも、プライベートな部分ではちゃんと線を引いているのでそれほどストレスもたまらないのだ。
「そうだ、この辺りの魔王ってもうほとんどいないから来月からは拠点を違う町に移す?」
「それでもいいけど、サクラはこの町を気に入ってたんじゃないの?」
「この町は住みやすくて良いところだと思うけど、魔王がいないんじゃルシフェルが役に立たない木偶の坊だとバレちゃうからさ。ミナミの方に行けば金髪の魔女に会えるかもしれないしね」
この感じのサクラはあまり不機嫌ではない時なので良いのだけれど、朝になったら急に期限が変わっているかもしれないので気を付けなくちゃ。僕が気を付けてもサクラが自分で爆弾を爆発させることもあるのでその時は諦めるしかないのだけれどね。
さあ、明日は今日よりもいい日になるように頑張らないとな。
僕は最近になって同じ夢を毎晩見ている。
出てくる人は毎回違うのだけれど、夢の中で何度も僕に呼び掛けてくるのだ。
“惑わされずに本当の自分を取り戻せ”
何度も何度もその言葉を言われているのだけれど、夢に出てくる人は毎回違う。
本当の自分とは何を意味しているのかわからないけれど、自分の気持ちに素直になろうと固く心に誓うのだった。