表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/79

二人の想い

誰もいない部屋の中に僕は一人佇んでいた。


その部屋の中は窓があるのだけれど、雨戸が閉まっているためか外の景色は一つも見えやしなかった。


時々窓に打ち付けられる強風で雨戸が軋んでいる音が聞こえていたけれど、それ以外の音は一切聞こえてこなかったのだ。


僕は外に出て見たいと思って部屋の中を見回していたのだけれど、窓があるだけの部屋は入り口もなく、どうやってこの中に入ったのか見当もつかない状態であった。


そのような状態でも変化は起きるもので、僕の目の前がわずかに光っているような気がしていると、その光が次第に大きくなっていき、最終的にはその光の中からリンネが飛び出してきた。


「ちょっと、あんたは今までどこに消えていたのよ? どこに居たってあんたの事を見つけられるようになっているのに、なんで私の知らない場所に行っちゃうわけ?」


僕はその質問の返答に困っていたのだけれど、リンネはお構いなしに続けていた。


「そうそう、あっちにいた二人の兄妹がいたでしょ? あの子たちは何だか怪しいわよ。それに、あの子たち以外に誰もいないような感じなのよね。あっちに戻ったらちょっと確かめたいんだけど、あんたは気にせず好きなようにしていていいからね」


そう言いながら僕の周りを楽しそうに飛んでいるリンネではあったけれど、僕の発した言葉でその様子は一変した。


「ちょっと待って、あんたが会ってたって誰に? 私たち以外にあんたを自分のところに呼び出せる人がいるなんて聞いていないわよ。詳しく聞きたいから洗いざらい話してもらうわよ。そもそも、助言者なんて聞いたこと無いわね。助言するくらいなら預言でも予言でも勝手にしてればいいじゃない。それを助言だなんて自分で責任取るつもりないじゃない」


リンネはそう言いながらも本気で怒っているようで、リンネのこのような姿を見ることが出来て僕は少しだけ嬉しかった。


僕は助言者から言われたことは覚えている範囲で伝えてみたのだけれど、リンネは話の内容ではなく助言者クエリアの事の方が気になっているようだった。


「何だか胡散臭いわね。もしかしたた、あんたの力を奪おうとしているんじゃないかしら? あんたは人が良いから気を付けた方がいいわよ」


クエリアは誰も信じるなと言っていたけれど、それはクエリア本人の事も信じるなという事なのだろうか?


僕はクエリアの事をほとんど知らないので全面的に信じる事なんて出来ないけれど、その言葉だけは信じていてもいいような気がしていた。


たとえ自分自身を信じていなかったとしても、戦っている時くらいは自分を信じてみてもいいように思っていたのだけれど、最近は何かと戦う事も少なくなっているし、僕以外の優秀な戦闘要員が活躍することも多かったので、僕自身の戦闘は結構昔のようにも思えていた。


誰かが言っていたけれど、僕の戦い方は守るよりも攻めることに特化した方がいいと言われていた。


もっとも、そのあたりはスキルの構成によって大きく変わっていく事になるのだけれど、どちらかと言えば守りながら戦うよりも、戦った結果で守っている方が楽だし多いような気がしてならなかった。


「あんたが強くなっていく分には問題ないんだけど、あんたが強くなればその分だけ変なのも寄ってきちゃうのよね。それも、今回は私が感知できない場所にあんたを引っ張ってっちゃうんだから気持ち悪いわよね。馬鹿みたいにホイホイついて行っちゃだめだからね」


「リンネもあの光の人もそうだけど、僕は誰が何なのかもわかっていないんだよね。どうしたいいかな?」


「どうしたらいいって何よ。あんたは私達の言う事を守って頑張っていけばいいのよ。ま、そればっかりじゃ退屈な時もあるだろうし、そんなときは私を呼んでくれてもいいのよ。でも、呼ぶ時はちゃんと結界を張っておくか私の用意した結界を使いなさいよ」


僕がリンネの方を向いて力強く頷くと、リンネは安心したのか少しだけ笑顔をのぞかせながらも、僕をしっかりと見つめていた。


「あんたの話を聞いてもよくわからないわね。そいつは一体何が目的なのよ?」


「そう言うリンネたちは何が目標なのかな?」


「あんたも知っているとは思うけれど、私達の最終目的はこの世界から魔王を葬り去って平和な世界を作る事よ」


その言葉は真実なのだろうけれど、僕はどうしてもクエリアの最後の言葉が引っかかってしまっていた。


「いつまでもこんなところに居たって面白くないでしょ? さっきまでいた場所に戻してあげるわね」


僕の体が柔らかい光で包まれると、意識が少しだけ遠くなっていったような気がした。


特に何かが変わった様子はなかったのだけれど、気が付いた時にはリンネの姿はなく、その代わりにリリンとリリンが心配そうに僕を見つめていた。


「やあ、二人ともおはよう」


僕がそう話しかけると、二人とも嬉しかったのだろう、満面の笑みで僕の腰に力強く抱き着いてきた。


「お兄さんが急に動かなくなったから焦ったよ」

「お友達の人も戻ってこないし、心配したんだよ」


「心配をかけてしまってごめんなさい。君達はこれからどうするの?」


「僕は何も決めていないからリリンが決めてよ」

「私は何も考えていないからリリンが決めなよ」


お互いに譲り合っていたリリンとリリンではあったけれど、二人の意見が全く合わなかったためか、二人は僕の後をついてくることになっていた。


このまま二人を連れて怪物の住む場所に連れていってもいいものなのかと悩んでいると、アスカが急に僕達の前に現れた。


「まずい事になっているかもしれないわ。そこの二人に聞きたいことがあるんだけど良いかな?」


「なんでお姉さんの言う事を聞かないといけないのかな?」

「私はお姉さんに話すことなんて特にないんだけどさ」


「まあまあ、そう言わずに一つだけ教えてもらってもいいかな?」


「お兄さんがこのお姉さんのお願いを聞けって言っているんなら仕方ないかも」

「お兄さんがこのお姉さんのために何かしろって言うんなら仕方ないよね」


「ねえ、お兄さんからもこの二人にお願いしてよ」


僕は二人にそれとなくお願いをしてみると、二人は快く二つ返事で答えてくれた。


「で、質問って何かな?」

「お兄さんの事だったら教えないよ」


「質問って言っても答えがすぐ出せるような物じゃないんだけど良いかな?」


「よくわからないけど、早く質問しなよ」

「お姉さんって頼み事とか苦手なタイプなの?」


「もう、質問に質問で返さないでよ」


「だったら早く質問してよね」

「お兄さんと話せる時間減っちゃうじゃん」


「ごめんごめん、この世界に来て気になってたことがあるんだけど、植物以外の生物がいないような気がしているのよね。軽く世界を回ってみたんだけど、時々怪物の姿を見かけるくらいで、人間が一人もいないのよ」


「ああ、そんな事か」

「それは答えられるよ」


「人間はどこに行ったの?」


「僕達が全部殺したよ」

「私達が全部殺したよ」


そう言い切ったリリンたちは自慢をしている子供のように勝ち誇った顔で僕達を見ていた。


「ちょっとどういうことなのよ? なんで人間を殺しちゃうのよ?」


「僕達だって仲良くしたかったよ」

「私達だって仲良くしたかったよ」


そう言った二人の表情は先ほどとは打って変わって悲しいものになっていた。


「どうして全員殺したのかな?」


「殺せって言われたからだよね?」

「生き物は殺せって言われたよ」


「誰に言われたのかな?」


「誰だっけ?」

「お兄さんかな?」


その言葉が出た時に三人とも僕を見つめていたのだけれど、もちろん僕はそのような命令を出したことは無かった。


「僕がそんな命令を出したりなんかしないって、それに今日あったのが初めてでしょ?」


「お兄さんと会ったのは今日が初めてかな?」

「お兄さんに似ている人だったのかな?」


世の中に似ている人は何人かいると言われているけれど、僕が暮らしていた世界と違う世界を含めていいのだとしたら、似ている人なんて相当な数で存在しているのではないかと思ってしまった。


「お兄さんに似ている人かな?」

「魔力は見間違えないと思うよ」

「でも、お兄さんに会ったのは今日が初めてだよ」

「じゃあ、違うお兄さんなのかな?」

「似てる魔力だけど違う人かな?」

「魔力が似てたら同じ人じゃない?」

「同じ人だけど違う人だよ」

「違う人だけど同じ人じゃない?」

「お兄さんは何人もいるのかな?」

「お兄さんが二人いたらわけあえるね」


出来る事なら分け合ってもらわずに仲良くしていたいのだけれど、そう上手くはいかないような予感はいつもしていた。


「お兄さんはどこの世界でも種族を越えてモテモテだね」


「その話詳しく聞きたいな」

「お姉さんを初めて凄いって思ったよ」


「君達の私に対する評価ってお兄さんの事を教えることでしか上がらないわけ?」


「そりゃそうでしょ、お姉さんの事あんまり知りたくないし」

「私もお姉さんの事は深く知りたくないかも」


「なんでそんな悲しいこと言うのかな?」


「だって」

「ねえ」

「お姉さんって、人間じゃないでしょ?」

「お姉さんは人間とは違う感じだもんね」


アスカはアッサムさんが作り出した兵器だったことを忘れてしまうくらい人間生活に溶け込んでいたと思うのだけれど、多くの人を殺してきた二人の目にはそのような事ではごまかされないようであった。


「お兄さんも何となく人間じゃないような気もしているんだけど、僕が知っている人間とは少しだけ違う感じなんだよね」

「お兄さんはお姉さんより人間だと思うんだけど、私が見てきた人間とは少し違う感じがしてるんだよ」


僕は自分自身の事もろくに思い出すことが出来なかったので、二人の言葉を否定することはもちろん、肯定することも出来ないでいた。


「ま、お兄さんは僕にとってもリリンにとっても必要な人だと思うし」

「お兄さんが生きていてくれたらそれだけで満足だと思うよ」


「お兄さんじゃなくて私の場合はどうかな?」


「何回も言わせないでよ」

「お姉さんはいてもいなくても変わらないからイラナイ」


そう言いながらも、三人の目の奥は熱く燃えているように思えていた。


「そう言えば、お兄さんが言ってた怪物の街なんだけどさ」

「私達がそこに行ったら迷惑じゃないかな?」


「それくらいなら大丈夫なんじゃないかな? 町の中に入っても無暗矢鱈に攻撃を仕掛けたりしたらダメだよ。僕だって最初は戦おうとしたんだけど、いつの間にか囲まれてそれどころではなくなっていたんだよね。君達もきっとみんなと仲良くなれると思うよ」


「ありがとうお兄さん。でも、ずっと気になっていたんだけれど」

「お兄さんはどうしてリリンの武器を持っているの?」


そう言われて僕は今思い出したような感覚で右手を見てみると、今まで見たことが無いような形状の武器をしっかりと持っていた。


その武器は持っているだけでも疲れるような重さでいて、およそ刀身と呼べるようなものは備わっていないようだった。


まるで風雪に耐えている松の木に似ているような形状なのだけれども、持っている感触は金属のようで金属ではないような感じで、軽く振りまわしただけではあるのだけれど、僕が今まで使用してきた武器の中では一番重量感が凄かった。


「ちょっと待ってよ、なんでお兄さんはそんな簡単に持てるわけ?」

「リリンだって両手じゃなきゃ持てないのに、片手で持てるなんて凄いよ」


そう言われて驚いたのだけれど、武器を扱うのが上手くなるという中に重さに左右されないという項目も含まれていたようだった。


リリンに返すつもりで武器を軽く投げて渡したのだけれど、リリンはその武器を受け取る事もなく避けていて、その武器は地面に落ちた時の衝撃なのか、割と地面にすっぽり隠れているような感じでめり込んでいた。


「お兄さんって不思議な人だよね」

「そこもお兄さんの魅力だよね」


地面にめり込んでしまって武器を見ている二人に遅れて、アスカも何か言いたげな感じで僕を見ていたのだけれど、それを遮るかのように二人が僕の周りをクルクルと駆けまわっていた。


「お兄さんが良かったらなんだけれど、僕達と戦ってみようよ」

「私の魔法は効かないからサポートしかしないけれどね」

「この槍を片手で持てるならアレも使えそうだしね」

「リリンでも持てないあのハンマーとか剣とかね」


「僕は別に構わないけれど、二人はどうしたいのかな?」


「今まで手応えのある相手がいなかったから戦ってほしいだけかも」

「私の場合はお兄さんに何も出来ないからサポートするだけなんだけどね」


そのまま二人の後をつけて行くと、かつて誰かがそこに住んでいたのだろうと思われる街並みが見えてきた。


「この辺は早い段階で見つけたんだけれど、ずっと後回しにしていたんだよね」

「あんまり強そうな人もいなかったしね」

「他のところで戦っていたらいなくなっていたよね」

「戻ってきたら誰もいなかったよね」


二人の後についていくとそれなりに大きい建物の前に辿り着いた。


目の前の建物よりも大きくて立派な家は何軒もあったのだけれど、この建物を選んだ理由が気になった。


「他にも大きくて立派なところがあるのに、ここを選んだのは何か理由があるのかな?」


「理由は何かあったっけ?」

「最初から武器が多かったからだっけ?」

「そうかもしれない」

「ここは処刑場なのかもしれないよね」

「あそこに処刑のやり方の見本があるしね」

「アレをやる前にみんないなくなったけどね」


二人が揃って指をさした先には、十字架に人が磔にされている状態の物が飾られていた。


「お兄さんが死にそうになった時にアレみたいにしていいかな?」

「私もそれをやってみたい」


そう言っている二人の目は出会ってから一番輝いていると言っていいほどではあったけれど、僕はそれに答えるつもりはなかったのだ。


「多分だけどさ、君達は僕には勝てないと思うよ」


「お兄さんが強いって言っても僕達も強いよ」

「私の魔法が効かなかったとしても、リリンを限界まで強化するもん」


お互いに武器を選んでいるのだけれど、アスカは敷地の外から覗き込んでいるだけで入ってこないのが気になっていた。


「アスカもこっちにおいでよ」


僕が割と大きめの声で呼びかけると、アスカは困ったような表情を浮かべて悩んでいた。


少し間が空いて、アスカは僕達に大きな声で答えを返してきた。


「ここって教会でしょ? 私は教会とか入れないの」


「教会って言っても手入れもされていないし、無人だから気にしなくていいんじゃないかな?」


「私も一緒に入りたいとは思うんだけれど、入れない理由があるんです。神罰とかはここの宗教観とかを見る限りだともうないと思うんだけれど、教会に入ると私の存在が消えてしまうように感じているの」


「そう言うもんなのかな? この二人は平気な顔で走り回っているんだけれどね」


僕達二人がお互いに武器を選び終わると、入り口近くの庭に移動していった。


アスカにも戦いがわかるようにしているので、出来る事ならリリンの戦力を分析して強化できるようにしてもらえるとありがたい。



リリンは食事も睡眠もあまり必要とはしていないようで、僕もスキルのお陰か食事は摂らなくても睡眠以外は必要なさそうだった。


そんなことをきっかけにして、気付いたら使用できる武器が無くなるくらいまで戦いが続いてた。


僕はどの武器も片手で持って振り回しているのだけれど、リリンはそう言うわけにもいかずに両手でしっかりと持っていた。


「僕とお兄さんの戦いがこんなに長引くなんて意外だな」


「リリンのサポートが力に直接影響を与えているのかもね。次は二人だけで乗ってみたらいいんじゃないかな?」


「私の活躍する場を作ってくれるなら考えるわよ」


本気とも冗談とも取れないようなダジャレを聞いていたのだけれど、思わず吹き出してしまっていた。


最後の武器も使っている途中でお折れてしまっていたため、二人の戦いがこのような形で終わるのは申し訳ないのだけれど、それぞれの時間もある事なので、強くは言えないのだけれど、どんな武器でもいいのでもう少し二人と戦ってみたいような気分になっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ