助言者と八人の仲間
『神』と呼ばれる存在が本当にいたとして、僕をこの世界に呼んだのは何の意味があったのだろうか?
僕は少しその事が気になっていたのだけれど、クエリアは僕の気持ちを知ってか知らずか奇妙なことを言い出した。
「私はあなた様にとって味方なのか敵なのかわからないと感じていると思いますが、私はどのお方の味方にも敵にもなりえると思いますし、その逆もあると思います。
ですが、私が助言いたしますことは全て真実をもとにお伝えしていると思っていただいて間違いございません。
そうは言いましても、私も真実を知っているからと言って真実をそのまま伝えているかは補償いたしかねますがね。
ところで、あなた様の願いであるサクラ様を呼び戻した後はどのようにこの世界で過ごしていくかお考えでしょうか?
あなた様はきっと何もお考えになっていないと思いますが、転生者であるお二方が長期間同じ世界で過ごすことが出来るとお思いでしょうか?
ええ、方法はございますとも。
それは簡単なように見えてとても難しい事ではあるのですが、あなた様ならきっと成し遂げることが出来ると信じております。
もっとも、今のあなた様では悲しい事に力不足にございまして、それを成し遂げるにはいくつかのスキルを発展させなければなりません。
今までいくつものスキルを強化させて発展させてきたあなた様なら可能な事でしょう。
私も多くを語ることは出来ないのですが、サクラ様と一緒にいつまでも過ごすためには与えられた『あなた様の世界』ではなくご自身で作り出した『あなた様の世界』が必要だと思います。
あなた様を呼び出している神がそうしたように、あなた様もご自身で新しい世界を作ってしまえばよいのです。
もっとも、『神』ではないあなた様が一から世界を作り出すのはどんなスキルを使ったとしても不可能だと思いますので、別の方法で自分が全てのルールを作れるように世界を奪ってしまえばよいのです。
その為にも、あなた様が『神』を滅ぼしてその世界を手に入れてしまえばよいのです。
今のあなた様では『神』に会う事はおろか、その存在に気付くことも無いでしょう。
では、どうすれば『神』に近付けるのでしょうか?
答えは簡単です。
力の差が大きくてその存在が感じられないのでしたら、あなた様は今よりも強くなっていき、『神』の力を弱めればいいのです。
言うは易く行うは難しとの言葉もあるように、あなた様にはピンとこない話かもしれませんが、今のように行動を取り続けることがその一歩になりますし、その一歩が目標へ近づく最善の一手となるのです。
はい、『神』の力を弱める方法を知りたいですよね。
その方法も簡単な事なのですが、実際に行うのはとても難しい事だと思います。
ズバリ、民衆から『神』を信じる心を奪いあなた様が『神』と讃えられれば良いのです。
ですが、あなた様も感じている通り、あの世界では『神』の存在を信じているモノはほとんどおりません。
いたとしても、人間種ではなく亜人種であったり獣人や精霊種などになるでしょう。
人間種は一体一体は弱くもろい存在でありますし、大して影響力も無いのですが、数だけはどの種族よりも圧倒的に多いのでして、その民衆にあなた様を『神』と思わせてしまえば今の『神』に近付くことも出来ますでしょうし、人間種のほとんどから支持を得られましたら、今の『神』を圧倒する力を手に入れるかもしれませんよ。
それくらい信仰心という者はあちらの世界では影響力が大きいのですからね。
では、その方法はどうしたらよいでしょうか?
あなた様がそのように讃えられるためにも、奇跡をたくさん見せて差し上げればよいのです。
今のあなた様に無理なのはそれをやり遂げる力が無いからですが、未来のあなた様ならそれをやり遂げるだけの力を手に入れられると信じております。
その為にも、多くの事をやり遂げてから死んで強くなることをお勧めいたします。
今のあなた様を殺せるものがどれだけいるのか想像もつきませんが、自殺ではあなた様の力が成長しないと思いますので、私がそんなあなた様に一つプレゼントいたしましょう」
クエリアが僕に向かって手招きしていると、僕の後ろからいくつもの足音が聞こえてきた。
「この者たちはあなた様を殺すためだけに誕生したものであります。あなた様を殺すことがどんなに難しいかは存じ上げておりますゆえ、この者たちはその命を賭したとしてもその使命を全うするでしょう。それぞれの力はそこまで大きくないのであなた様の『神』やその使徒たちとて不審に思う者はおりますまい。ですが、この者たちにも数に限りがございます。時間さえ頂ければあなた様を殺す者を増やすことも出来ますが、それには時間も資源もあまりにも少なすぎると思いますので、今いる数よりも大幅に増えることは無いと思っていただいて結構でございます。それぞれの力は一撃必殺であり必中必死でありますが、あなた様が何か対策を行いますと何も出来ずに散るのみとなります。ですので、あなた様が死にたいと思った時にでも呼んでいただけるとこの者たちも安心して旅立てると思いますよ」
僕の後ろに立っている人数は八人であったけれど、僕はこの人達に頼らないで死なないといけない時も来るだろう。
自分が何度も死ぬことを考えてしまうのは一歩間違えると精神が病んでしまいそうではあったけれど、僕は今まで何度も死んでいる事だし、その点は普通の人よりも精神的には頑丈なのかもしれない。
僕を簡単に殺してくれる存在がそんなに多くないとしても、アスカはどうだろうか?
簡単ではないにしても僕を殺すことは出来るのではないだろうか?
「あの、この人達が僕を殺すには命を落とす可能性もあるってことですよね?」
「そうですね。可能性というには死ぬ確率が高すぎるとは思いますが」
そのクエリアの言葉にも動揺しているようなものは一人もいなかったのは意外なような気がしていたけれど、それは当然の事と受け止めているらしいので当たり前の事なのかもしれない。
「もしも、もしもですよ。僕を殺すのがこの人達じゃなくてアスカでもいいんですよね?」
「それは問題ないと思いますが、あの女性があなた様を殺すことが出来ますでしょうか? 少なくともこれから先の未来にその選択を彼女が選ぶことは無いように思いますよ」
僕もその点はクエリアに同意ではあったけれど、僕の事を理解しているアスカならばその提案に乗ってくれるのではないだろうか?
「あなた様のお考えはわかりますが、この者たちはあなた様を殺すためだけに生み出されて鍛えられたものですので、あなた様の命を奪うことが至上の喜びとなっておりますし、それ以外には何も希望を持っておりません。もっとも、あなた様が強くなることでこの者たちの犠牲に意味も出てくるのだと思いますがね」
ニヤリと笑って僕を見ていたクエリアではあったけれど、その表情の奥が悲しそうに見えたのは僕の気のせいだったのかもしれない。
「あなた様があちらの世界に戻って再びこちらの世界に来ることが出来るかはわかりませんが、あなた様が十分に成長を期待できる状態になりましたらこの者たちの誰かがその命を頂きにまいりますので、その点はご安心くださいませ。あなた様は何度も生き返れるので実感はないでしょうが、この者たちはその一瞬で全てが終わります。その瞬間を無駄にしないためにもあなた様は出来れば一緒に死を受け入れていただけるとありがたいです」
僕の命の重さは確かに誰よりも軽いだろうし、同じ転生者と比べても重くないのかもしれない。
他の転生者は死んでやり直したとしても、手に入れたスキルや武器が変わるわけでもないのだから、その点でも僕は他の転生者よりも気楽に死ぬことが出来るのかもしれない。
気楽な自分の死と今まで奪ってきた多くの命の事もあって、ここにいる人達が僕を殺すために自分の命を懸けていたとしても、その重さがいまいち実感できないでいるのも事実ではあった。
僕が相手の命を奪う事に何の抵抗も無いように、この人達が僕を殺すことで命を落とすことにも何の感情も持っていなかった。
もしかしたら、最初から他人の命を奪う事に抵抗が無かったのかもしれないけれど、今となってはそれも覚えていない遠く昔の事のように思えて仕方なかった。
「そうそう、あなた様に最後にお一つだけ助言させていただきますが、あまり人を信じすぎない方がいいと思いますよ。例え、それが自分自身だったとしましても」