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助言者という者

扉の中の世界は今まで見たことが無いような不思議な空間になっていた。


目の前にある壁はどこまでも高くなっていていくら見上げても天井が見えなかった。


その部屋の中央にいる不思議な人が僕を手招きしていたのだけれど、その人は青年のようにも見えていたのだけれど、よくよく見てみると老人のようにも見えていて、男性かと思っていたら女性のようにも見える不思議な人であった。


「始めまして、私は助言者のクリエアと申します。簡単に申し上げますと、あなた様が何かに迷いました際にお手伝いと申しますか、ちょっとした提案をさせていただく者であります。今までも何度か接触を試みてみたのですが、私の力不足故妨害に屈しておりまして、申し訳ないのですが今回まで時間がかかってしまいました。あなた様の前に頻繁に出られたら良かったのですが、あなた様を呼び出したあの方の力は我々よりも強大な力を持っていますゆえ、接触するにもあなた様の力と環境が必要だったのであります」


僕に頭を下げたままクエリアという助言者がそう言っていたのだけれど、イマイチぴんと来ていなかった。


「助言者というのは初めて聞いたのですけど、そんな仕事があるんですか?」


「ええ、大変失礼いたしました。助言者というのは仕事でも役職でもございません。私の生きざまとでも申しましょうか? 今までも数多くの方に助言を行っておりましたので、そう名乗らせていただいております。もっとも、助言を与えるだけなので結果までの責任は持てませんので、最終的な判断はあなた様にお任せいたします。私が逆の立場だとしましたら、信じられないとは思いますがね。では、あなた様が疑問に思っている事の手助けをいたしましょうか」


クエリアはそう言いながら持っていた本のページを捲っていると、初めて僕の目を見ながら笑顔を見せていた。


「そうそう、私が与えられるのはあくまでも助言にすぎません。お手伝いをするだけで正しい答えが見つけられるかもわからないですが、お一人で悩まれるよりは多少は正しい道に近付けるのではないかと思いますよ。初めに断っておきますが、私に出来る事はあなた様が体験してきた記憶や体験をもとに助言を与える事ですので、未来を予知することも出来ませんしあなた様が体験していない事についても助言を与えることは出来ません。あなた様方の流儀で申し上げますと、スキルに制限がかかっているとお思いくださいませ」


「僕の本当の名前とかもわからないんですか?」


「あなた様のお名前は大変有名ですのでもちろん存じております。が、それをお伝えいたしますと我々の存在そのものが無くなってしまう恐れがございますので、今すぐにお伝えすることは控えさせていただきます。あなた様個人でも大いなる力に対抗出来うるようになりましたら、おのずとその答えに辿り着くことが出来ると思いますよ。それか、あなた様が私を心から信頼していただけるのでしたら、お伝えいたしますがいかがでしょう?」


僕の本当の名前が何なのかは気になるし、それを教えてもらったからと言ってこの人達が消されてしまうのだろうか?


待てよ、クエリアは我々と言っていたけれど目の前には一人しかいない。


「君の仲間は他にもいるのかい?」


「ええ、私の同胞は他にも多くおりますよ。ただ、私もなんですが皆臆病な性格でして、私と同じく各自が結界の世界内に住んでおります。ここの中では肉体的な時間が止まっておりまして、新陳代謝も停止しておりますゆえ、成長も老化も起こらないのであります。よって、空腹になる事も睡魔に襲われることもございませんのでいくら居ていただいても構いませんよ。あなた様はスキルのお陰でここから出ても空腹にはならないみたいですがね」


「君はなんでも知っているのかい?」


「私は何も知りませんよ。ですが、この空間にあなた様がお入りになられた事である程度の記憶の共有は出来るようになっております。この力が私個人の物なのか、結界の副作用なのか、この部屋特有のシステムなのかはわかりかねますが、少なくともあなた様が体験して経験してこられたことの一部はハッキリと見えます。あなた様も私の体験したことがわかると思うのですが、私はこの部屋から出たことがございませんので、何も面白いことなどないでしょう。何年かに一度のごく短い時間ではございますが、同胞と会話をする以外は何の変化もないこの場所であなた様のような方のご来訪をお待ちしているだけなのでございます」


「そんな人生で満足なのかい?」


「そうでございますね。私はこれ以外の生き方が出来ないと思いますし、あなた様が体験してきた当たり前の社会生活もこなせないと思いますので、何もしなくても生きていられるこの中が一番幸せだとは思いますよ。あなた様の幸せとはサクラ様と過ごしていた時間でしょうか?」


「サクラがどこに居るかわかったりするのかな?」


「申し訳ございません。それもわかりかねますが、サクラ様いる居場所を知っている方なら存じ上げます」


「本当に? いったい誰なんだ?」


「サクラ様のいる場所を知っている方は、あなた様をあなた様の世界に転生させたお方でございます」


「あの光の女の人が知っているのか?」


「いいえ、その御方ではございません。あなた様を転生させたのは別のお方でございます。一般的表現を利用させていただきますと、『神』とでも申し上げるのが妥当なお方だと思いますよ」


「その『神』にはどうやったら会えるの?」


「今のあなた様が直接会う事もその姿を見ることも、存在を感じることも不可能だと思いますよ。いきなり会う事は無理でも、その存在を感じられるくらいになら近いうちになれるとは思いますよ。あなた様の努力次第ではございますが、そう時間はかからないはずでございます。では、なぜその『神』がサクラ様の存在を知っているのにあなた様に教えないのか、その理由をお伝えいたします」


いつの間にか用意されていた椅子に腰を下ろすように促された僕はそこに腰かけると、これまたいつの間にかあらわれたテーブルの上にある紅茶を勧められた。


「ご安心くださいませ。その紅茶はあなた様の世界から取り寄せたものでございます。私はそれを頂けないのですが、毒などは入っておりませんのでお召し上がりくださいませ。では、これから少し長くなるかもしれませんがあなた様があの世界に転生させられた理由をお伝えいたすことにしましょう」


僕はカップを手に取って紅茶のにおいを楽しむと、思っていたよりも熱々だったようで湯気を一気に浴びてむせてしまった。


『神』がなぜサクラの存在を隠すのか、なぜ僕とサクラの距離を遠ざけようとするのか、自分の名前も自分の目的も自分の生まれた場所も自分の存在意義も何もかもがわからない。


そもそも、クエリアの話は本当に信用していいものなのだろうか?


聞くだけ聞いて駄目だった場合は他の方法でサクラの居場所を探すだけだ。


そう言えば、もう一つ引っかかる言い方があったように感じている。


あなた様の世界って何だろう?


僕がいた世界は僕の世界でもあるだろうけれど、他にも暮らしている人たちはたくさんいるし、僕だけの世界ではないはずなのだが。


「ちょっといいかな?」


「何でございましょう?」


「あなた様の世界ってのが少し気になってしまって、それって僕があの世界で中心となって動けって事の例えなのかな?」


「そうではございません。言葉通りに取っていただいて結構でございますよ。あなた様が過ごしている世界は紛れもなく、『あなた様のために創造された世界』でございますからね」


その言葉を聞いた僕は、人間は誰でも自分の人生の主役だし、世界の中心が自分なんだと思って頑張れと言う意味にしか取れなかった。


僕のために創造されたとしたのなら、僕が選んだスキルに都合がいいような展開が多かったのも納得できるように思えていたけれど、そこまで都合よく物事が進むだろうか?


それに、僕のために創造されたとしたのなら、今いるこの空間はいったい何なのだろう?


僕の人生とはおおよそ繋がりも感じられず、この空間ではスキルも使えなさそうに思えていたので、僕のために作られた世界というものが否定される根拠になりそうに思えていた。


「僕のために創造された世界って言っても、ここでは僕の力も発揮出来なさそうなんだけど、ここも僕のために創造されたって言うのかな?」


「私達のいる空間はあなた様の世界とは近くて遠い世界にございます。ご察しの通り、あなた様がどのようなスキルをお持ちだとしましても、この空間内で使用することは出来ません。もっとも、今は私達もあなた様の世界に関わることが出来ないのでありますが」


「今はってことは、いつかは関わるようになれるってことなのかな?」


「ええ、先に申し上げておきますが、今は結界を張る事によってかろうじて実態を保っている状況なのでございます。違う世界の私があなた様の世界に生身で行こうと思いますと、今のあなた様に内包されております魔力を全ていただいたとしても、実体化は到底行えないと思います。いくつか短時間でもよいとしたら方法はあるのですが、そのリスクに見合った成果を求められないのであります」


「もしも、僕の世界に関われるとしたら何をしたいのかな?」


「そうですね、あなた様が日夜体験なさっている食事というものを嗜んでみたいと思いますね。それと、我々の悲願であります『神』の存在そのものを抹殺したいとは思いますね。」

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