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無邪気な二人

「お兄さんとはどこかで会っているような気がするんだけど、私達に見覚えとかあったりします?」


僕はそう言われてしばらく考えてみたのだけれど、二人に会った記憶はなかった。


「ごめん、二人に会った事は無いと思うよ」


「そうなんですね、ちょっと似ているような気がしたから聞いてみました」

「僕もあった事ある人?」

「会ったってより、よく知っていると思うわよ」

「そんな人なんていたっけ?」

「あんたはそんな事を気にしなくてもいいのよ」

「そう言ういい方されたら気になっちゃうよ」

「私も少しってより雰囲気が似ているなって思っただけだからさ」

「お兄さんは優しそうだもんね」

「母様も優しかったけど、それとは違う優しさよね」

「うん、殺そうとしたのに僕達を生かしてくれているしね」

「でも、質問が終わったら殺されちゃうかもしれないわよ」

「そうなったら僕の剣技で何とか時間を稼ぐから逃げてよ」

「バカね。私一人で生きていけるわけないでしょ」

「そっか、それなら潔く二人で死んじゃおうか」


「あの、二人で盛り上がっているところ申し訳ないんですが、僕は二人を殺そうとは思っていないよ」


「「本当に?」」


「うん、ちょっと聞きたいことがあるって言うか、どうして攻撃してきたのか知りたかっただけなんだよね」


「どうしてって言われてもね」

「母様が生きているモノは皆殺しにしなさいって言ってたしね」

「お前の魔法ならほとんどの生き物を殺せるって言われたし」

「僕も生き延びたやつに止めを刺しなさいって言われたよ」

「でも、お兄さんには魔法効かなかったよね」

「僕もお兄さんが無傷過ぎて攻撃が出来なかったよ」


「それじゃあ、お母さんに言って攻撃しなくてもいいようにお願いすることは出来るかな?」


「「無理」」


「どうしても?」


「うん、母様はもうこの世界にはいないからね」

「僕達が殺しちゃったからいないもんね」


「お母さんを殺したの?」


「生きているモノは皆殺しにしなさいって言っていたから」

「母様も生きていたし」

「母様の言う事は絶対だもんね」

「僕が止めを刺したんだよ」

「でも、私の魔法が無かったら止めを刺すことも出来なかったけどね」

「リリンの魔法はやっぱり凄いよね」

「リリンの剣技だって凄いよ」

「母様もリリンの魔法を褒めていたよ」

「リリンの剣技の事も母様は褒めていたよ」

「母様も凄かったけど、リリンはやっぱり凄いよ」

「リリンだって母様の息の根を止めるなんてすごいよ」

「「でも、お兄さんの方がもっと凄いよ」」


再び僕を見た二人は怯えることもなく尊敬の眼差しを僕に向けていた。


「二人の名前はリリンなの?」


「そうだよ。僕はリリンです」

「私はリリンです」


「同じ名前なんだね。どっちが年上なの?」


「どっちかな?」

「どっちだろ?」

「わからないね」

「わからないよ」

「お兄さんはどっちだと思う?」

「私もお兄さんに決めてもらいたい」


「そう言われても困っちゃうな。そう言えば、生きているモノを皆殺しにするってのはやめにしないの?」


「母様の言いつけだから守らないといけないんだけど」

「母様でも瀕死になった魔法が聞かないお兄さんの言う事なら」

「そっちを守らないといけないのかな?」

「守らないといけないと思うよ」

「母様の事もあんまり覚えていないし」

「私も母様の事は覚えていないかも」


「それなら皆殺しにするのはやめにしようね。みんなと仲良くした方がいいと思うよ」


「みんな?」

「まだ誰か生き残っているのかな?」

「あのお姉さんかな?」

「でも、あのお姉さんはどこかに行ったよ?」

「お兄さんの知り合いの人がいるの?」

「私も会ってみたいかも」


「この近くにいる人達はみんな殺しちゃったのかな?」


僕は何となく聞かないようにしていたのだけれど、二人の会話を聞いていると答えを聞かなくてはいけないような気になってしまって、ついつい尋ねてしまった。


「この近くがどの範囲なのかはわからないけれど、私達が行ける範囲では誰も残っていないと思うよ」

「とりあえずで魔法たくさん使ったもんね」

「僕だって少しは殺したよ」

「そうだけど、お兄さんみたいに魔法に耐えられる人ほとんどいなかったよね」

「リリンの魔法が強すぎるんだよ」

「リリンが守ってくれなかったら魔法も使えないんだけどね」

「僕の仲間がリリンで良かったって思うよ」

「私もリリンが仲間で良かったよ」


二人が行ける範囲がどれくらい広いのかわからないけれど、この近くには誰もいないようなので結界の中の街についてはもう少しの間黙っておくことにした。


「君達はどうやって生活していたのかな?」


「どうって言われても、普通に生活しているよね?」

「うん、普通に暮らしていると思うよ」


「ご飯とかはどうしているのかな?」


「ごはん?」

「初めて聞いた言葉かも」

「なんだろうね?」

「想像もつかないよ」


「二人だけで何を食べていたのかな?」


「私達は何も食べないよ」

「そう言えば母様は何か食べてたような気がする」

「私もそれを見たと思う」

「僕達には必要ないって言ってたと思う」

「私もそれを覚えてる」

「僕達は食べなくても平気だって言ってたよ」

「一つ食べたけど何ともなかったしね」

「いつまでたっても口の中から消えなかったしね」


二人から感じていた違和感の一つが人間らしさが無い事だったのだけれど、二人の話を聞いているとそれがより実感できた。


人間が生きていくうえで食べる事と寝ることは欠かすことが出来ないだろう。


どちらも我慢が出来たとしても限界は来るだろうし、それを幼い子供が耐えられるはずもない。


ところで、この二人はいったい何歳なんだろうか?


見た目だけだと小学生にも見えるのだが、話の内容や今までの行動を見ているとそうではないようにしか思えない。


「二人は何歳なの?」


「それはわからないけど、昔遊んでいた子が大きくなって白くなってたよね」

「あんなに変わるんなら毎日会っていないとわからないよね」

「毎日は会ってなかったけどね」

「匂いは変わらないから気付いたよね」

「人間って見た目が変わるから面白いよね」

「リリンはずっと変わらないのにね」

「リリンもずっと変わってないよ」


笑い合っている二人を見てると少しずつ頭の中が混乱してくる。


いくら整理しようと思っていても、僕の中で答えが出ないでいた。


そのまま悩んでいると二人の視線が僕の後ろへと注目しているのが気になった。


僕が振り返って見た先にはアスカが木陰から覗いている様子が見て取れた。


僕がアスカを手招きすると、アスカは恐る恐る木の間を移動しながら近づいてきた。


「ちょっと、あの二人から危険な感じが漂っているんだけど、近付いて大丈夫なの?」


「あの二人には攻撃しないように言ってあるから大丈夫だよ」


「そうじゃなくて、あの二人ってお兄さん以上に人を殺していると思うよ」


「なんでそんなことがわかるの?」


「背負っている負のオーラがお兄さんよりも強くて濃いからさ」


「アスカはそんなのもわかるの?」


「魔女の力だと思うけど、私も今まではそれっぽいのを感じている程度だったのよ。でも、お兄さんとあの二人を見比べたらハッキリと違いが分かったのよ」


「僕も結構殺してきたとは思うけど、それよりも多いってことなの?」


「多分ね。ちょっと二人と話してきてみてもいいかな?」


僕は二人にアスカを紹介すると、二人はアスカに興味を示していなかったためなのか少しも乗り気になっていなかった。


「お兄さんの紹介だから話してみるよ」

「お兄さんの紹介じゃなかったら殺してたよね」

「殺してたと思うけど、お兄さんと約束したから殺さないよ」

「お兄さんとの約束守らないとね」


「ははは、それはありがとう」


アスカも魔女の力を手にしていることからもわかる通り、決して弱いわけではないのだけれど、この二人はそれ以上に魔力を持っているようで、アスカもいつものように強気な感じ出ないようだった。


「私から見ても二人が強いのはわかるんだけど、どこでその力を手に入れたの?」


「そんなの最初からに決まってるだろ」

「お姉さんも強そうだけど違うの?」

「今まで殺した人の中ではお兄さんと母様の次くらいに強そうだね」

「でも、母様よりはずっと弱そうだよ」

「強そうだけど弱いって事なんだな」

「弱いのに強そうって面白いね」

「母様は強いのに弱かったね」

「お兄さんは強くて強いね」


「ちょっと確かめたいことがあるんで待っててもらってもいいかな?」


アスカは二人の返事を待つことなく『空間』を展開すると、そのままどこかへ行ってしまった。


「お姉さんがまた消えたよ」

「お姉さんは弱いのに不思議なことが出来るんだね」

「お兄さんの知り合いだからかな?」

「お兄さんの知り合いだから凄いこと出来るのかも」

「やっぱりお兄さんは凄いね」

「お兄さんがいればお姉さんはいらないね」


アスカが戻ってくるまでの間に二人から色々と聞いてみようと尋ねたものの、要領を得ない回答ばかりで新しくわかる事は何もなかった。


しばらく待ってみてもアスカが戻ってこなかったので暇になった僕達は、リリンの魔法にどれくらい耐えられるかという物騒な遊びをして時間を潰していた。


さすがのリリンも連続で三回以上の魔法は難しいらしく、魔力が回復するまで待って欲しいと頼まれたのだけれど、僕は少しだけ魔力を分け与えることにした。


「おお、お兄さんの魔力が私の中に入ってくるよ」

「リリンだけずるいな。でも、僕が魔力貰っても意味ないけどさ」

「今までよりも凄い魔法になるかも」

「もしかしたらお兄さんより強くなってたりして」

「お兄さんの魔力を貰ったら強くなったと思うからそうかも」

「お兄さんは今度は耐えられないかもね」


二人の盛り上がりもむなしく、おそらく今までの魔法の中でも最高威力の魔法が発動したようではあったけれど、僕には何のダメージにもならなかった。


それを見てがっかりしているのかと思っていたのだけれど、二人は今まで以上に興奮した様子で喜びを爆発させていた。


「やっぱりお兄さんは凄いよ」

「どうして平気なのかわからないけど凄い」


僕も今の魔法は危険な感じがしていたのだけれど、いざ体に触れると大丈夫だとわかって安心していた。


「お兄さんのその体ってどんな仕組みなんだろ?」

「私も気になるけど、わかったところでどうしようもないね」


そう言いながらも僕の周りを駆けている二人は心底楽しそうにはしゃいでいた。


「ちょっと大変なことが分かったわよ」


アスカが急に目の前に現れたことに三人で驚いてしまったけれど、アスカはそんなことはお構いなしに話を続けていた。


「ちょっと気になってこの大陸中にある魔力反応を辿ってみたんだけど、どこに行っても人間はおろか怪物すら発見できなかったのよ。

それも、昨日今日いなくなったってわけじゃないみたいで、長い間放置されて遺跡みたいになっている町もあったの。

そんな町にもあの時の魔法陣で使った鉱石みたいなのがあったんだけど、それを使っている人が誰もいなかったのよ。

気になったんでこの星の他の大陸も探してみたんだけど、どこにも誰も何もいないのよ。

結界の中には生きている怪物もいたんだけど、それ以外の知的生命体は存在しないみたいなのよ」


アスカの言葉を聞いて二人のリリンを見ると、自慢げに笑っていた。


「僕達がみんな殺したもんね」

「隠れている人は見つけられなかったけどね」

「隠れているのは仕方ないよ」

「自分から出てくることほとんどないもんね」


「ちょっと待って、二人が行ける範囲って言ってたけど、海はどうやって超えたの?」


「海?」

「あれなら歩いて渡ったよね」

「どこでも歩いて行ったよね」

「リリンはどこでも歩けるもんね」

「僕はどこでも歩けるからね」


「隠れている人達もみんな殺したらどうするの?」


「それはどうするのかな?」

「みんな殺したらリリンだけになっちゃうね」

「それなら僕がリリンを殺してあげるよ」

「私がリリンを殺してあげるから」


僕が二人のやり取りを見守る事しか出来ないでいたのだけれど、そっとアスカが耳元で僕に話しかけてきた。


「この世界なんだけど、もしかしたら魔女のいる時間軸と同じ時間軸に存在しているかもしれないのよ」


「それって偶然なのかな?」


「それは知らないけど、お兄さんと縁のある人に助言を求めるのもいいんじゃないかしら?」


「それもいいかもしれないけど、ちょっと思い付いたことがあるんだけど聞いてもらってもいいかな?」


「何かしら?」


「僕の目的の一つに魔王を殲滅するってのがあるんだけど、この二人を魔女のいる世界に送り込むってのはどうかな?」


「それって冗談よね?」


「冗談だと思うかな?」


「冗談であってほしいとは思うけど、お兄さんは本気なのかな?」


「あっちの世界の魔王を殲滅出来るのならそれに越したことは無いんだけど、やっぱり楽したらダメなのかな?」


「それはわからないけど、お兄さんが全員殺す必要もないんでしょ?」


「僕が言われたのは魔王を全員殺せってだけだから、僕が殺さなくちゃいけないわけでもないと思うんだよね。そんなわけで、二人のリリンは戦うの好きなんでしょ?」


「うん、お兄さんみたいに強すぎる人はイヤだけど」

「弱い人と戦うのは楽しいよね」

「この星にはもう戦う相手もいないしね」

「お姉さんが案内してくれるのかな?」

「お姉さんは弱いけど良い人かも」

「弱いお姉さんは良い人だね」


「ちょっとひどい言われ様なんですけど。でも、お兄さんの計画が上手くいくといいね」


「うん、きっとうまくいくと思うから大丈夫。二人にお願いがあるんだけど、このお姉さんと同じような魔力の人は殺しちゃだめだよ」


「弱弱しくて区別付かないかもしれないけど気を付ける」

「私は区別つくから大丈夫」

「僕はリリンがダメって言う人以外殺しておく」

「私はリリンが殺す前にたくさん殺しておくね」


アスカが『空間』を開くと三人で仲良く手を繋いで中へと入っていった。


アスカが二人を連れて戻らなければこの星にある脅威は去ったことになるのかもしれない。


結界の中にいる怪物達にもそれを知らせてあげようと扉を探していると、久しぶりにリンネが僕の前に現れていた。


「あんたさ、魔王を殺してくれって頼んだけどね、ちょっとやり方がずるいと思わない?」


「そうかな?」


「私達は魔王を殺してくれたらそれでいいんだけど、あんたが活躍しなかったら楽しくないのよね。それに、あんまり他人を上手く使おうとするのはこれからの事を考えても推奨できないわね」


リンネとあの女が何を考えていてどんな計画を立てているのかはわからないけれど、他人を使って何かをする事が嫌なのだとしたらそれをどんどんやっていってみようかなと思った。


とりあえず、結界の中に入って怪物たちに今あった事を伝えておくことにしよう。


「ちょっと聞いているの?」


リンネの言葉を無視して歩いているとそこには虹色に輝く扉があった。


僕はその扉のノブに手をかけるとゆっくりと手前に引いてみた。

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