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近い未来に何をするか

「さあ、今回はちゃんと成長しているんでしょうかね?」


僕は今まで以上にスキルを使っていたと思うので、今回は大きな成長がみられるような予感がしていた。


「今回はちゃんとスキルが強化されていますね。

えっと、『死者を呼び出す』スキルが『生命を与える』になっていますし、『魔力を与える』スキルが『魔力を与える』スキルになっていますよ。

人間のあなたが生命を与えることが出来るようになるなんて、あなたは神にでもなるんですか?

でも、生命を与えるなんてどれくらいあなたに代償を求めるかわかったもんじゃないですよね。

あんまり調子に乗って与え過ぎたらあっさり死んじゃうかもしれないですよね。

って、『魔力を与える』スキルは何も変わってないように見えるのに強化リストに載ってるってどういう事なんでしょう?

『隠されている罠を見つける』スキルは変化していないから載っていないんですけど、『魔力を与える』スキルは変化していないように見えるのにリストに載っているのっておかしくないですか?

あなたに聞いてもわからないと思うので聞きませんけど、もしかしたら私にはわからない違いでもあるんでしょうかね?

じゃあ、次のスキルを選んで次の世界へ行ってみましょうか」


今までもスキルが成長しなかったことは何度もあるのだけれど、成長しているのに変わっていないのは今回が初めてだったので、僕もどういうことなのか気にはなっていたけれどわからないのは仕方ない。


「次のスキルはどんな構成にします?やっぱり魔王を殺す系のスキルがいいんじゃないですか?その方があなたもこれから先は楽だと思いますよ」


「魔王を殲滅させることが僕に与えられた使命だとは思うんですけど、魔王も僕と一緒で何度でも生き返れるんですよね?それだったら何度殺しても意味ないと思うし、他の解決策を探した方がいいんじゃないですかね?」


「うーん、あなたの言う事はもっともだと思うんだけど、魔王もあなたと同じ人間種なのよね。だから、生き返られるとしてもその度に殺され続けたら心が折れてしまって、生き返るのを拒否する人も出てくるんじゃないかしら?あなただって生き返りたくないって思ったことあるんじゃないの?」


「何度蘇っても殺され続けるのって辛いかもしれないですけど、生き返る時に違うスキルを選びなおせるのは結構気休めになると思うんですけど」


「それはあなたが特別だからよ」


「でも、違う場所で生き返ってやり直せるのって辛い気持ちも紛れますよ?」


「だから、それはあなたが特別なんだって。他の人は一度選んだスキルや武器を変更することは出来ないのよ。最初に選んだものを変えられるのなんて特別な事なんだよ」


「じゃあ、サクラやアリスに前と違う場所で会っていたのはどうして?」


「違う場所で会っていたのだって本人じゃないんだし、あなたの事を覚えていると思っているのだって、あなたの記憶の中にあるその人の情報を組み立てただけでしょ?私たち以外にも転生させている勢力はあるんだし、敵対勢力の戦力を削ぐためならなんだってするんじゃないかしら?」


「それなら、僕が一緒に過ごしたサクラはあの場所で蘇っているかもしれないってことなの?」


「あの子を召喚したのが誰かわからないけれど、あなたみたいな特別な力でもない限りはそうなると思うわよ。あなた以外にも金髪の子みたいに時間と空間を超越して移動出来る人もいるみたいだけれど、サクラにそんな能力あるのかしら?」


「それだったら、最初と同じスキル構成にしたらサクラのもとに帰れるってことだよね? よし、最初のスキルを選ばなきゃ」


目の前の女は心底呆れたような目で僕を見下ろしながら深くため息をついていた。


「最初に選んだスキルなんてもう変化して無くなっているでしょ。何回か言ったと思うけれど、あなたが行く場所は私もわからないのよ。もっとも、あなたが選んだスキルが有効活用できる場所が選ばれているみたいだけど、だからと言ってあの子がいた場所に戻れる確率なんてほどんどないんじゃないかしらね」


「そんな、僕はサクラにもう一度会うために頑張っているのにどうしたらいいのさ?」


「そんなの知らないわよ。私達はあなたが他の魔王を殲滅してくれたらそれだけでいいのよ。そんなに会いたいなら金髪の子に頼めばいいじゃない」


そうか、アスカならサクラのいる場所まで『空間』を使って移動出来るだろう。


さっそくアスカに頼もうと思ったけど、どうやってアスカに連絡を取ればいいかわからなかった。


確か、前回は結界を弱めてもらってアスカと交信できるようになったと思うので、今回も交信できるように結界を弱めてもらうようにお願いしてみよう。


「あの、スキルを選ぶ前にお願いがあるんですけど」


「ごめんなさい、その願いは叶えることが出来ません」


「まだ何も言ってないんですけど、どうしてでしょうか?」


「金髪の子と連絡を取りたいから結界を解除してほしいとかそう言う話でしょ?」


「解除まではしなくていいので一部だけでも解いてもらえませんかね?」


「無理ですね。前回の事はやむを得ない事情があったので仕方なくの特例措置で解除しただけです。それに、あなたが転生先で行動している間に私達も場所を変えていたんですよ。一度決めた場所から移動することは良くない事なんですけど、敵対勢力かもしれない人に私達の場所を知られるのは危険ですからね」


「アスカは敵対勢力ではないと思いますよ。現地の魔女に召喚されたみたいですし」


「その魔女が本当は魔女じゃなくて敵対勢力の人間だって可能性もありますよね? それに、私が結界を解いた事で他の勢力の魔導士が私達の居場所を探し当てた可能性だって否定出来ませんからね。現に、ここに移動した三日後には元の場所に偵察隊が来てましたからね」


いつもと感じが違うような気がしていたのは、目の前の彼女が実は怒っていたからなのだろうか?


その心当たりは大いにあったのだけれど、それを差し引いても僕はよくやっているような気がしているので心外だった。


「さあ、さっさとスキルを選んで転生しちゃってくださいね。結界の外に出たらあの金髪の子もあなたを簡単に見つけられると思いますよ。それとも、金髪の子が見つけられないこの場所に留まっていたいですか?」


魔王を殺すってことは僕みたいに転生された人を殺しているという事なのだけど、いつの間にかその事に罪悪感を感じなくなっているような気がしていた。


だからと言って、最初の頃のように実感のないままに多くの人を殺しているのは違うような気がしていた。


言葉にするのは難しいけれど、人の命を奪うのはそれなりに責任を取りたいのだと思う。


せめて、この手で命を奪った実感を味わった方が相手のために生きようと思えるのではないかと思う。


人の命を奪うことが前提の間違った考えだとは思うけれど、今の僕に出来る事はこれしかないのだから仕方ないはずだ。


「どうしました? スキルを選ばないで転生してみますか?」


「そんな事も出来るんですか?」


「一応できると思いますけど、その際は世界から必要とされないと思うので海の底か火山の火口の真上にでも転生するんじゃないですかね?」


そう言って上品に笑っているけれど、時々我慢しきれないような感じで笑いをこらえているようにも感じてしまった。


「じゃあ、今回は戦闘に役立ちそうなスキルを選んで頑張ってみます。

まずは、『武器の力を引き出す』スキルにします。

これは結構使えると思うので、次にどんな感じになるのか楽しみですし、応用も聞くと思うんですよね」


「なるほど、そのスキルですともう少しで強化されそうですし、凄い武器とか手に入れたら無敵になれるんじゃないですかね。次はどうしましょう?」


「そうですね、割と我慢できる方ではあると思うんですけど、空腹には勝てないことが多いと思うので、『水と酸素で生きていける』スキルにしようと思います」


「素晴らしいです、それを取っておけば睡眠時間さえ確保出来たら活動時間も凄い事になりますよ。さあ、最後は何にしましょう?」


最後はどうしようか迷っていると、リストの最後に新しいスキルがいくつか追加されているのが気になった。


追加されたスキルはどれも有能そうではあったけれど、全てその中から選ぶほど僕は勇敢な男ではなかった。


最後の一つは僕があまり意識していなかった部分があって、それをフォローしてくれそうなものがあったのでスキルはそれにすることに決めた。


「じゃあ、最後の一つは『即死攻撃を無効化する』スキルにします」


「ふふ、そんなスキルあるわけないじゃないですか。願望で決めちゃだめですよ」


「いやいやいや、ちゃんとリストの最後にあるじゃないですか。ここをちゃんと見てくださいよ」


そう言って僕が指をさした場所にはしっかりと追加されたスキルが載っていた。


「ちょっと待ってくださいね。確かに書いてありますけど、そんなスキルは私達の計画書になかったと思うんですよ。もしかして、勝手に加えませんでした?」


「そんなことが出来るならもっと楽に目標を達成できそうなのに変えますよ。例えば。『この世に存在する魔王を駆逐する』スキルとか」


「そんな反則的なスキルはあなたにも反動でとんでもない災いが降りかかってくると思いますよ。間違っても自分の力を超えたスキルは使用を控えてくださいね。『生命を与える』ってのも反則的だと思いますけど、魔法を自由に使えないあなたは選ばない方がいいと思いますよ」


「そう言うもんなんですかね? あんまりそう言う代償とか考えてこともなかったし、今までも平気だったと思うんですよね」


「今までは誰でも使えそうなスキルが多かったですからね。今回からは少しずつ人の領域を超えだしてきているようなので、次回からは選ぶのも慎重にした方がいいですよ。では、あなたの選んだスキルを確認しますね」


そう言って持っていた本を捲ると、僕の顔を真っすぐに見て微笑んでくれた。


「あなたが選んだスキルは

『武器の力を引き出す』

『水と酸素で生きていける』

『即死攻撃を無効化する』

『魔力を与える』

の四つで間違いありませんね?

って、四つ?

どういうことですか?」


彼女の言葉を聞いて僕は驚いていたけれど、僕以上に彼女の方が驚いているようだった。


「え? え? え? 『交渉が成功しやすい』スキルがあなたの固有スキルになった時はこのように四つ目として選ばらなかったのに、今回はどういう事でしょう? 何かずるい事してました? でも、そんなわけないですよね?」


「今回はサービスで四つなんですか?」


「そんなことは無いと思いますし、一人で四つもスキルを抱えてしまうと体も精神も無事だとは思わないんですけど、もしかしたらあなたはその膨大な魔力のお陰で無事になったんですかね? でも、それだと強化リストに載っていた事の説明にはならないし、いいでしょう。今回はこのまま行っていいですよ。四つのスキルの負荷に耐えられなくて死んだとしても、今みたいにここに戻ってくるだけですしね」


僕はその言葉で少しだけ寂しい気持ちになったけれど、実際死んでも何とかなるとは思っているので多少は耐えることが出来た。


「さあ、さっさと転生して少しでも多くの魔王を倒してきてくださいね」


僕が光の柱に包まれる前に見た彼女の笑顔は今までで一番悲しそうな笑顔だったように思えた。



僕が目を開けるとそこにはレンガで出来た大きな建物の裏手だと思われる場所に立っていた。


珍しく建物の近くにいることに驚いていたけれど、ここは冷静に今の状況を整理して情報を集めることにしよう。


レンガ造りの建物沿いに歩いていると、突然後ろから肩を叩かれて身構えてしまった。


ゆっくり後ろを振り向くと、そこには見慣れた顔の人物が笑顔で立っていた。


「やあ、今回はどんなスキルを選んできたのかな? お兄さんが転生する場所ってスキルの影響を受けるらしいから大体は察しが付くけれどね」


転成した直後の僕を見つけられる知り合いはアスカしかいないとは思っていたけれど、もしも見回りの兵士などに見つかっていたらと考えるとぞっとしていた。


「アスカは僕を見つけるのが上手いよね」


「上手いって言うか、お兄さんの中に私の魔力がたくさんあるからそれを辿っているだけなんだよね。それが無かったらこんなに早く見つけられないよ」


そう言って誇らしそうにしているアスカにお願いがあった事を思い出した。


「そうだ、お願いがあるんだけど良いかな?」


「お兄さんが私にお願いって珍しいね。どんな事かな?」


「ある人を探して僕をそこに連れていってほしいんだけど」


アスカは僕の言葉を遮るようにして人差し指を僕の口に当ててきた。


「お兄さんのお願いでもそれはちょっと難しいかな。ある人ってことは私の知らない人だろうし、私は知らない人を探し出せないからね」


その言葉に僕はがっくりと肩を落としてしまった。


「でもね、私が見つけられなくてもお兄さんが見つけられるようになればいいと思うよ。次のスキルでそう言うの選べたら私が協力してあげてもいいよ」


アスカは僕の口から人差し指を話すと後ろを向いていた。


顔だけ此方を振り返ったアスカの顔は嬉しそうな表情を浮かべていた。

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