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魔女と僕と金髪少女

僕の視界がゆがんでいるのか、見える景色が水の中から空を見ているような感じになっていた。


「ちょっと、私が出てこれないからってあんな奴と関わってちゃ駄目じゃない。もう、あんたは私が思っている事と違う道に進まなきゃ気が済まないわけ?」


ずいぶんと久しぶりに声を聞いたような気がするのだけれど、最後に会った時と全く変わらない姿のリンネが僕の後ろに浮いていた。


「本来なら出てきたくなかったんだけど、これ以上あいつに関わられると面倒なことになりそうだから出てきちゃったわよ。本当に、あんたは色んな意味で凄い人よ」


「ちょっと待ってよ、リンネはどうしてここにいるわけ?」


「はあ、あんたが余計な事をしそうだから忠告しに来たのよ。今は結界を張っているんで他の人は私とあんたを認識できていないんだけど、いつまで持つかもわからないから手短に話すわね」


「いつの間にここに結界を張っていたんだい?」


「もう、私があんたに質問していいなんて一言も言っていないじゃない。この結界の持続時間も限られているんだし、あんまり長く展開しているとあいつにバレちゃうんだって。ってか、この結界はあんたが今いる魔法陣の魔力を拝借しているんだから確実に気付かれるんだって。だから、私の話が終わるまで黙って聞いていてね」


僕はいつもより緊張感があるリンネの気迫に押されてそれに従うことにした。


「あんたが魔女と仲良くなるのはこっちも大歓迎なのよ。

だって、魔女と仲良くなればこの世界の魔王を根絶やしに出来る確率が上がりそうじゃない。

でもね、あの金髪の女はちょっとやばいかもしれないのよ。

私達が知らない存在なんだけど、私達が知っていないってことは本来あり得ないわけ。

私達はアッサムって女が何か企んでいるのは知っていたんだけど、私達が知らない存在を誕生させることが出来るなんて思ってもみなかったわけ。

それで気になって調べてみたんだけど、どんな方法を使ってもアッサムがあの金髪を呼び出すことなんて不可能なのよ。

この世界の住人が召喚出来るのはこの世界に存在しているモノだけだし、あの金髪は明らかに別の世界から来ているんだもの。

どうしてわかるかって?

私達の創造主様がこの世界を全て監視しているからわかるのよ。

あの金髪女は創造主様も知らない別の世界からやって来たってことになるんだけど、この世界はあんた達が何度でも転生出来るようにバランスが保たれているの。

そのバランスが崩れないように他の世界から隔離しているのよ。

あんたも気付いていると思うんだけど、あんたが転生している時代は選んだスキルによって多少変わっているのよ。

この世界をあんたがいた世界で例えると、あんたが見ていた宇宙がこの世界の海みたいなもんで、あんたが見ていた星がこの世界の国だと思っていいんじゃないかしら。

そんな世界の外からやって来たあの金髪が何者なのかわからないけれど、あんたが宇宙人に抱くような感情を私達があの金髪に抱いているって思ってくれてかまわないわ。

ああ、もうすぐこの結界の存在も見つかってしまいそうだし、要点だけ言うわ。


『絶対にあの金髪と繋がってはダメよ』


それだけはわかってちょうだいね。

あんたは特別は存在になると思うんだから、それだけは気を付けてね」


リンネがいつもとは違ってそのままゆっくり消えていったのだけれど、僕を包んでいる結界は残されたままだった。


相変わらず水中にいるような視界の中で何度かアスカと目が合っているような気がしていたけれど、こちらからは見えているのに向こう側からは僕が見えていないようで、手を振ってみても何の反応も得られなかった。


そのままアスカの行動を見ていたのだけれど、魔法陣の中をウロウロしているだけで、魔法陣の中から外へと出ることは無かった。


しばらく待っていると、突然結界が崩れて僕の視界も水中から地上に戻った時のようにクリアな物になっていた。


結界が解けて僕の存在を認識したアスカは一目散に駆け寄ってくると、僕の手を握って上下に激しく振っていた。


「お兄さんが急に消えたから死んじゃったかと思ったよ。転生者の人って死んだら消えてどこかに行くって魔法使いの人が言っていたから心配しちゃったよ。特に死ぬようなこともしてないのにそうなったら悲しいからさ」


アスカが僕の手を握ったままなのは、また僕が消えてしまわないようにとの願いも込められているのかもしれない。


「さあ、さっそく始めようか。

って言っても、お兄さんはそこに居てくれればいいんだよね。

お兄さんはこれから何をするのか気になっていると思うんで、教えて上げるんだけど、とりあえずはここに立っていてもらってもいいかな?」


僕は魔法陣の中心に立たされていた。


何をしたらいいのかわからないので立っているだけなのだけれど、結界の外にいる愛華さんが無事なのは確認することが出来た。


ただ、結界の中にいるミコさんとミズキさんと帝国の魔法使いたちは魔法陣の中でピクリとも動かずに横になっているのが気になっていた。


「あれ? お兄さんはあの魔女たちと魔法使いたちが気になるのかな?」


「ああ、さっきから動きが無いんで気になっているんだけど、大丈夫なんだよね?」


「私がここに呼ばれた時に魔法陣の中に蓄えられていた魔力のほとんどは使っちゃったけど、魔女とあの鉱石の魔力である程度回復したから問題ないと思うよ。

それに、あれだけの魔法使いがいるんだからよっぽど何かで魔力が減らされていなければ誰も死なないからさ」


ミコさんとミズキさんと帝国の魔法使いたちは今は無事だという事なので安心していたのだけれど、アスカが気になる事を言っていたような気がする。


「なあ、例えばだけどさ、誰かがこの魔法陣から魔力を拝借して何かに使っていたとしたらどうなるのかな?」


「そうだね、少しくらいならあの人たちの魔力が多めに取られるだけだと思うんだけど、もしも何か大規模な魔法に使われていたとしたら、魔力だけじゃなくて生命力も吸い尽くされてしまうかもしれないね」


アスカはそう言ってケラケラと笑っていたのだけれど、僕はその大規模な魔法にあの結界が含まれるのかが気になっていた。


「これから行う儀式の目的は二つだけだし、そんなに魔力は必要無いかもしれないんだよね。

一つは、お兄さんが私の魔法に耐えられるように魔力を身につける事。

もう一つは、私の魔力を回復する事だよ。

お兄さんは魔法耐性はある程度あるみたいだけど、その程度じゃ私の魔法を受け切れないと思うんだよね。

そんなわけで、人並みになるようにゆっくりと魔力を注いでいくよ。

それで余ったので私の魔力を回復しましょうね」


アスカが僕の横に座ると、魔法陣の中央部分に何か模様なのか特殊な文字なのかわからないものを描いていた。


その模様に手のひらを重ねると、魔法陣の外周から結界のようなものが出てきて、僕の頭上付近で一つになっていた。


結界に包まれた僕達は特に変わった様子もなかったのだけれど、外にいるアイカさんは水の中から見ているようにゆがんでいた。


「へえ、お兄さんって結構慣れているんだね。

まるでつい最近も結界の中にいたような落ち着きっぷりだよ。

やっぱり転生者ってこの国の人とは違うんだろうね。

じゃあ、始めることにしますか」


アスカは一度も僕と目を合わせないまま儀式は続いて行った。


「まずは、この魔法陣の中にある魔力の総量を確かめないとね。

うーん、思っていたよりも貯まっていなかったのかな?

まあ、その辺は後からどうにかするとして、お兄さんが罪悪感を感じないように魔法使いの人達から搾り取る事にするよ」


アスカは僕の方は一度も向かずに魔法使いの人達がいる場所に向かって一本の光線を伸ばしていた。


その光線が魔法使いの人達に届くと、横たわっていた魔法使いたちが一斉に立ち上がって僕達の方に向かって手のひらを突き出してきた。


そこから何かが出ているのだとは思うのだけれど、僕には認識することが出来なかった。


「うん、このままだとお兄さんの魔力にも足りなそうだし、魔女の人にも協力してもらおうかな。

じゃあ、お兄さんと一緒に居なかった方の魔女に協力してもらうことにしようね。

思い入れの少ない人の方が罪悪感もないでしょ?」


「いやいや、あそこにいる魔法使いの人達だって初対面だけど罪悪感はあるよ」


「そう言うもんなのかな?

でも、あの石を使っちゃうとこの街の結界が維持出来なくて大変なことになるかもしれないよ。

ここには一般市民が住んでいないかもしれないけど、この街が陥落したら他の町も崩壊しちゃうかもしれないしね。

そんなわけで、少しでも石の魔力を残せるように皆さんは頑張ってくださいね」


アスカの言葉を聞いたからなのかはわからないけれど、魔法使いの人達は先ほどよりも気迫がこもっているように感じていた。


「お兄さんには教えて上げるけれど、あの魔法使いの人達はあんまり役に立ちそうもないね。

魔女の人達は生き残るかもしれないけれど、あの幽霊は全部私が貰っちゃうね」


そんなことを言っていると、魔法使いの人が一人二人と力尽きて倒れていった。


「そろそろお兄さんも他の人の魔力を感じられるようになってきたんじゃないかな?」


「感じるってどうやって感じたらいいのさ」


「そうだね、コツなんてないけれど、何となく見えてくるもんだと思うよ。私は生まれつき見えていたから、何の参考にもならないと思うんだけどさ」


そう言われて注意深く見てみると、ミコさんの体から玉虫色に光る靄のようなものが湧いていて、それが魔法陣の光線を伝って僕のもとへと進んでいた。


魔法使いの人達の方を見てみると、人によって色は異なるのだけれど、それぞれの体から出ている靄が僕のもとへと集まっていた。


不思議なことに倒れている人からも僕に向かっている靄が出ていた。


「倒れていても何か出ているようなんだけど大丈夫なのかな?」


「大丈夫じゃないから倒れているんだと思うよ」


「それなら早く助けないと」


「助けなくても問題ないよ。どっちにしろ倒れちゃったら再起不能だからね」


その言葉を聞いてアスカを凝視してしまった。


先ほどまでは何も感じていなかったのだけれど、アスカを覆う不気味な靄は見ているだけで恐怖を感じてしまった。


「あらあら、あの魔女でも感じ取れなかった私の魔力を見ることが出来るようになったんだね。

お兄さんって転生者なのに魔法が使えるようになるかもしれないんだね。

普通は魔法かスキルか選ばなきゃいけないのに、どっちも選べるなんてずるいな。

私をここに呼んだやつだってスキルを捨ててまで魔法を選んだのに、お兄さんってやっぱり特別な存在なんだね」


アスカの言葉を聞いた後に周りを見渡すと、魔法使いの人達は全員その場に倒れていた。


「思っているよりもお兄さんの魔力は貯まるのに時間がかかりそうだし、もう一人の魔女の力も使おうね」


その言葉を合図にしたように、ミズキさんも僕の方へと手を向けるとそこから玉虫色の靄が出てきていた。


「この二人で足りるといいんだけど、お兄さんって本当に何者なのかな?」


「僕も知りたいくらいだよ」


言葉では冷静を装ってはいたのだけれど、一刻も早く僕の魔力が満たされてこの状況を終わらせたくて仕方がなかった。


「うーん、お兄さんの器がいっぱいにならないと私の方に集中できないんだよね。私の時まで魔女の魔力が持たないかもしれないね。ちょっと面倒だけど何か考えなくちゃいけないかも」


腕を組んで何か考え事をしているアスカを見ていても、僕に出来る事が何もない事だけはわかっていたので、今は何もしないでただ黙ってこの儀式が終わるのを待つことしか出来なかった。


「そうだ、いい事思い付いちゃった」


アスカは僕の隣からアイカさんの方へと移動すると、二人だ何かを話しているようだった。


しばらく話が続いたようで、結構時間が経った後に僕のところへ戻ってくると、なんだかうれしそうな表情を浮かべていた。


「あのね、お姉さんが私にも『空間』の使い方を教えてくれるのに同意してくれたんだよ。

お兄さんの魔力が貯まってから一旦休憩を取る事にしたんだけど、その時に私とお姉さんの魔力を繋いで使えるようになると思うんだよね。

それで、その『空間』を使って私の知ってる魔力の高い奴らを捕まえてくるんだけど、お兄さんはその間に魔力に慣れておいてね。

たぶん、今までそれほどなかった魔力が大量に注がれていると思うので、注入が終わってしばらく経つと酔っている感覚になるかもしれないからさ。

普通の人は段階を踏んで魔力の値を上げていくんで大丈夫なんだけど、お兄さんみたいに一気に器を埋めちゃうとその反動で気持ち悪くなっちゃいそうだしね。

私が最初に見た感じだとこんなに魔力を蓄えられるって感じなかったんだけど、やっぱりお兄さんは凄い人だね」


僕は割と乗り物でも酔わない方だし、お酒を飲んでもそれほど飲まないので酔う感覚があまりわからないのだけれど、急に動いたりせずに大人しくしておこうと心に決めた。


「それにしても、お兄さんの魔力量ってもしかしたら魔女の人達より遥かに多いのかもしれないね。

でも、そんなに多くても魔法は使えないんだし意味なさそうだけど、魔法耐性はかなりついてそうだね。

次の転生からはお兄さんの事を魔法で殺すのも無理になりそうだ」


魔法に耐性が付くのはいい事のように思えているけど、全ての魔法が効かなくなると回復や転生にも支障をきたさないのかが心配だった。


「お兄さんは心配してそうだから教えて上げるけど、この場合の魔法耐性は全ての魔法に対してじゃなくて、お兄さんに悪意ある行動の結果で向かってくる魔法に対する耐性だと思うといいよ。

善意の結果が悪い事になる場合もあるだろうし、その逆もあると思うから難しいとは思うんだけど、お兄さんの場合は自分で魔法を使うことが出来ないんだから仕方ないよね」


そんな説明を聞いていると、僕に向かっていた靄の様なものが薄くなっていって、そのまま見守っていると完全に消えていた。


「やっと終わったね。

みんなもご苦労様でした。

ちゃんと生き残ったのは魔女の二人と何もしていない幽霊の人と石ころだね。

魔法使いの人達はみんな出がらしみたいになっているし、魔女の人達は二人で一人分あるか怪しい感じになってしまったね。

でも、あなた達の魔力はこのお兄さんがこれからうまく活用してくれるから安心して旅立っていいからね。

魔女の二人はもう少し頑張ってもらうけど、さっきよりは楽になると思うよ。

じゃあ、私はお姉さんと魔力を繋げてくるんでお兄さんは皇帝さんの近くで休んでていいよ。

そこまでたどり着けるといいけど、皇帝さんもきっと迎えに来てくれているはずだからね」


僕自身は魔力を注がれた実感はない上に、何かが変わっているのかも全くわからないでいた。


魔法陣も何事もなかったかのように最初の状態に戻っているのだけれど、最初と違うのは魔法使いの人達がミイラのように干からびて動かなくなっている事だった。


そんな中、アスカはアイカさんの方へと歩いて行くと、アイカさんもアスカの方へと駆け寄っていて、二人が接近したと同時に手を繋いで何かをやっているようだった。


以前の僕だと何も感じなかったとは思うのだけれど、今の僕の目にはアイカさんから玉虫色のオーラが出ていて、アスカからは赤紫色のオーラが出ているのが見えていた。


そのオーラがお互いの手を通じて相手のオーラに触れると、少しずつオーラが相手のオーラと混ざっているのが見えた。


アイカさんの綺麗なオーラがアスカの澱んでいるオーラに侵食されているようで、アイカさんの体を覆っている玉虫色のオーラは次第に赤紫へと変化していた。


一方のアスカの方はというと、アイカさんのオーラを完全に飲み込むような形で少し明るく感じる赤紫になっているだけだった。


僕は自分のオーラが何色なのか気になってはいたけれど、自分の体のどこからオーラが出ているのかもわからないし、魔法の使い方もわからないので自分の色を見ることは出来なかった。


アスカとアイカさんが手を離すと、アイカさんはその場に座り込んでしまっていたが、アスカは先ほどと何も変わらないようすで、『空間』を展開してどこかへ消えていった。


僕はその様子を見終えると、皇帝陛下のもとへと移動するために足に力を入れたのだけれど、思うように体を動かせなくてよろけてしまった。


そのまま倒れそうになってしまったので手をついてしまったのだけれど、それも上手く力を入れることが出来ずに倒れてしまった。


皇帝陛下が僕に駆け寄ると心配そうな顔で見つめていた。


「なあ、外からは何が起こっているのかわからなかったんだけど、どうしてあの魔法使いたちはあんな感じになっているんだ?」


僕は魔法使いと魔女の魔力を抽出されたことを説明すると、皇帝陛下は驚いていた。


「魔力を繋げる方法は知らなかったんだけど、あの金髪の少女と魔女がやっていたのが繋げる儀式なんだろう?

君にやったのは繋げるための前段階ってことなのか?」


僕は詳しくわかっていなかったけれど、たぶんそうだと思う事を伝えると、皇帝陛下は深刻な顔で考え込んでいるようだった。


僕は小型の船の上に立っているような感じで体の中から揺れを感じていて、その場に座り込んでしまっていたのだけれど、座っていても揺れている感覚はおさまらなかった。


「魔法陣の中にいる二人の魔女は大丈夫なのか?」


「詳しくはわからないのですが、魔法使いの人達みたいになってしまうと無理なようです」


僕は一言一言をゆっくり伝えることが精一杯で、何も考えられなくなってしまっていた。


「『時間と空間の魔女』は大丈夫なのか?」


皇帝陛下はそう言うとアイカさんのもとへと駆け寄っていったのだけれど、僕はそれに続くことが出来ずにいた。


何とか少しずつ近づこうと努力はしていたのだけれど、立ち上がる事も出来ないくらい体に力が入らないせいで、少しも近付くことが出来ないでいた。


皇帝陛下と話をしていた位置から半分くらい進んだところで、アリスはこの部屋へと戻ってきた。


「ねえ、お姉さんの『空間』ってどこでも行けるんだね。

私が認識している場所ならどこでも行けそうな感じだし、思っているよりも魔力消費も少ないし、いいことづくめだね。

でも、お姉さんってこれを連続で使えないくらい魔力が少なかったのかな?

それとも、お姉さんの属性と相性が悪いだけだったりして。

苦手分野なのに自分の物にするのって凄いと思うけど、違う能力だったらもっと活躍してたかもね。

今更そんなこと言っても仕方ないけどさ」


そう言って右手を『空間』に入れたアスカが何かを引きずり出すと、それを持ったまま魔法使いたちが倒れている場所に移動していた。


『空間』から見たことのない生物を取り出すと、無造作に魔法使いたちの上に置いていたのだけれど、その数は両手で数えても足りないくらい多かった。


その後はミコさんをミズキさんの位置へと移動させたアスカが再び『空間』に手を入れると、ミコさんがいた場所に大きな石像を三体並べていた。


「多分、これで大丈夫かな」


そう言ってアスカが手を掃うと、僕達のもとへと歩いてきた。


「お兄さんはもう少しすると魔力に慣れると思うし、お姉さんも私の魔力になれると思うよ。じゃあ、始めてくるね」


そのまま魔法陣の中央にアスカが移動すると、魔法陣が青白く輝いていき、五芒星の頂点にいるモノ達からアスカの方へと魔力が抽出されているようだった。


僕の時とは違って大きな渦を形成して進んでいる魔力だったので、五芒星の頂点にいるモノ達は見る見る間に枯れ果てていっていた。


石像はいつの間にか朽ち果てていて、見たこともない生物は魔法使いの人達以上に干からびていて、幽霊のアリスはその存在そのものが消えていた。


あっという間に終わったようで、アスカは嬉しそうに飛び跳ねていた。


その様子を見ていると何かをプレゼントされた子供のように無邪気に感じていたけれど、その奥には今にも死にそうなミコさんとミズキさんの姿が見えた。


「大変だ、この皇都の結界を維持していた鉱石の魔力まで無くなっている」


皇帝陛下の発言を聞いてから初めて気付いたのだけれど、石像と違って鉱石は原形をとどめていたのだけれど、最初に見た時に感じた温かさとほのかな発光は消えていた。


「一気に貰っちゃったから加減が出来なかったんでごめんなさい。でも、石像の代わりに余ったのがあるからそれを使ってね」


アスカが『空間』に手を入れると、もともとあった鉱石と似たようなものをそこに設置していた。


「さっきまであった奴は魔力を出すだけだったと思うんだけど、これは魔力を増幅してくれるんで使い勝手はいいと思うよ。

同じような使い方をしてもある程度は大丈夫だと思うけど、魔力が無くなる前に誰かが注いでくれたら何倍も大きな魔力として結界の維持に役立つと思うよ。

最初はサービスで私の魔力を少しだけ分けてあげとくね」


「結界が維持できるなら嬉しいんだけど、肝心の魔力を注げるものがほとんどいなくなってしまったのはどうしたらいいかな?」


「そんなのは知らないけど、また新しい魔女を探せばいいんじゃないかな?」


「そう簡単に言われても、これからの帝国はどうなってしまうんだ」


皇帝陛下がその場に崩れ落ちると、アイカさんが皇帝陛下に寄り添っていた。


「ある程度の魔法使いが見つかるまでは私が魔力を注いで結界の維持に努めます。毎日やらなくても平気だといいんだけど」


「お姉さんは無理しない方がいいと思うよ。慣れてきているとはいえ、私の魔力を使うのは苦労すると思うからさ」


アスカが僕のもとに近付きながらそう言うと、僕の顔を両手で包み込みながら見つめてきた。


「お兄さんと魔力を繋げようと思うんだけど、お姉さんみたいに自分の意志で魔力を出せないと思うし、お兄さんから魔力を貰う事も出来なそうだから私の魔力をお兄さんの中に注ぐことにするね」


そのまま顔を近付けると、僕の唇にアスカの唇を重ねようとしていた。


「私の魔力に耐えられなくて死んじゃったらごめんね」


アスカの柔らかい唇が僕の唇に触れたのだけど、柔らかくて温かい感覚はあったのだけれど、それ以降の記憶は何も残っていなかった。


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