ルイーズの過去
中々難産で進みません、、、
それからの事はよく覚えていない。
気がつくとルイーズとジャン様のいる小高い丘に到着していた。
グレン様が馬から下ろしてくれたが私は思わず彼の手を振り払って背を向けた。
「オリヴィア!?どうしたの?」
私の顔を覗き込んだルイーズが思わず声を上げる。
「何のこと?」
「オリヴィア、何故泣いているの?」
ルイーズに言われて初めて自分の頬が濡れていることに気がついた。
あぁ…気にしていないと思っていたのに。
私あの人のこと、好きだったのね。
「何でもないの。ごめんなさいルイーズ…今日はもう、帰っても良いかしら?」
このままではグレン様が何かしたと思われてしまう。
違うと伝えたいのに、上手く言葉が出てこない。
「分かったわ。グレン様、ジャン、私達これで失礼しますわ。ちょうどうちの者が到着したようだし」
小高い丘でピクニックよろしくランチをしようと思っていたので馬車で荷物を持ってくるように伝えていたのだ。
侍女のシェリーからサンドイッチの入ったバスケットを受け取るとジャンに手渡した。
「これはみんなで食べようと思っていたの。これは二人で食べてちょうだい。私達は先に帰るわ。行きましょう、オリヴィア」
そう言い終わるとルイーズは私の手を引きさっさと自分の家の馬車に乗り込んでしまった。
「じゃあね!…グレン様、ごきげんよう?」
形ばかりは挨拶をしたがルイーズの眼は全く笑っていなかった。
「…兄上、一体何をしたんだよ?」
ふたりの令嬢においていかれたジャンは隣の兄を恨みがましく見やった。
「少し、攻めすぎたのかもしれないな」
―――――――――――
馬車に揺られる事、数分。
段々と恥ずかしさで冷静になってきた。
「ルイーズ、グレン様は何も悪くないのよ?」
「オリヴィアが泣いている時点で悪いに決まってるでしょう?何かした、してないの問題じゃないわ!」
頭に血が上ってしまったルイーズは聞く耳を持ってくれない。
「…私が弱いせいね。あのことを思い出してしまって」
オリヴィアのいうあのことにルイーズの心当たりはひとつしかなかった。
以前オリヴィアはある伯爵令息と恋人同士であった。
ルイーズから見てもふたりは仲睦まじく、ふたりは結婚の約束もしていたのだ。
ルイーズはそんなふたりに憧れていた。
自分とジャンもふたりのようになりたいとー。
しかし突然伯爵令息はオリヴィアを裏切って侯爵令嬢と結婚してしまったのだ。
その時のオリヴィアの様子は思い出したくない。
感情をあらわにし悲しみを、苦しみを叫んでいたのなら消化も出来たのではないかと思う。
オリヴィアはまるで人形のように表情が抜け落ちてしまったのだ。
泣きもせず笑いもせず。
ただ生きているだけ。
ようやくオリヴィアが穏やかな日々を送れるまでになったのに。
オリヴィアを害するものはたとえグレン様であろうと許すことは出来ない。
何だかんだで従姉妹にシスコンを拗らせているルイーズは斜め上の方向に解釈をし、それに従って行動しようと決意していた。
続きます。