ダブルデート?
その週末、私はグレン様、ジャン様、ルイーズと一緒に遠乗りに来ていた。
その道中でオリヴィアは馬に揺られながら数日前のやりとりを思い出していた。
「ねぇルイーズ、デートはさておき何故遠乗りなの?」
首をかしげながらルイーズに尋ねると笑顔でこう言われた。
それはそれは良い笑顔で。
「私がグレン様と一緒に馬に乗るのは良いけど、ジャンが他の誰かと一緒に馬に乗るなんて嫌なの。すると必然的にオリヴィアとグレン様の組み合わせになるでしょう?」
ルイーズはにんまりといたずらが成功した子供のように笑った。
だからどうして遠乗りなのか、答えになっていなかったのだけれども。
「オリヴィア嬢?」
頭上からグレン様に声をかけられて我に返る。
「申し訳ごさいません。少しぼぅっとしておりましたわ。もう一度おっしゃって頂けますか?」
「馬に乗ってからずっと黙ったままだっからもしかして恐いのかと思ったんだ。でも大丈夫そうだね」
馬上の為振り返ることは出来ないがオリヴィアは首を振って答えた。
「いいえ、乗馬は得意ですわ。本日はルイーズがジャン様と一緒に乗るのに私だけ一人で馬に乗るなどと言ったらルイーズが拗ねてしまいますでしょう?」
実際はそうではないのだが、従姉妹の性格を知っているグレン様はそう解釈してくれたようだ。
「ルイーズは一人で馬に乗れないからね。確かにオリヴィア嬢が一人で乗っていたら拗ねてしまうかもしれないね」
楽しそうに笑いながらグレン様はそう言った。
「グレン様!オリヴィアとばかり話してないで私とも話して下さいませ!」
隣を併走していた―正しくは併走していたジャン様の馬に一緒に乗っていたルイーズが拗ねたようにグレン様に話しかけた。
「せっかくジャンとの遠乗りなのに恋人同士の邪魔をするのは無粋というものだろう?これでもふたりに気を遣っているんだよ」
「まぁ!正直にオリヴィアを独り占めしたいからと仰って下さればよろしいのに。いつからグレン様は私にも本音を隠すようになったのです?もういいですわ。ジャン、ふたりを置いて先に行くわよ」
ジャン様はしょうがないなぁといった感じで困ったような笑みを浮かべると馬の速度を上げた。
「ルイーズが拗ねてしまったではありませんか」
「やれやれルイーズの機嫌をどうやって直すかな」
させて困ってなさそうにグレン様は呟いた。
困っているどころかとても楽しそうだ。
「さて、せっかくルイーズがお膳立てをしてくれた事だし俺も少し本気を出すかな」
何に本気を出すのだろうか?
馬の早さの競争だろうか?
グレン様は片手で手綱を引き馬の速度を上げるともう片方の手で私の腰を抱き寄せた。
「グ、グレン様?」
慌ててグレン様に声をかけると耳元でこう言われた。
「スピードを上げるからしばらくの間辛抱してくれ。俺の方に寄りかかってくれて構わないから」
ドキドキと胸の鼓動がグレン様に聞こえてしまいそうなほどだ。
実際には聞こえるはずがないのだが、何もかもを見透かしそうな、そんな風に思えて仕方がない。
「もしかして緊張している?」
突然そう声をかけられて思わずびくっとしてしまった。
「あぁ、驚かせてしまって申し訳ない。急に静かになってしまったから…少しは意識してくれてる、と思っても?」
耳元に口を近づけて囁いているのが振り向かなくても分かってしまう。
きっと私の耳どころか顔は真っ赤に違いない。
「…お戯れはおやめ下さいませ」
今ならまだ引き返せる。
お願いだから、揶揄っただけだと告げてほしい。
でないと、私は―――
「本気だと言ったら?」
その言葉に息をのんだ。
信じてはダメ
また裏切られてしまったら?
私はその後、ルイーズ達のいる所に到着するまで一言も発することが出来なかった。
がんばれ、ふたりとも!