【記憶の雪と幻の砂時計】 八章
ベラトリックスさんは、俺との挨拶を終えた後、リアの案内によって俺たちがいつも朝食をとっている大部屋に案内された。
俺とリアは大部屋の出入り口の前に立っていた。アリアとの会話を、俺たちも聞く権利があるらしいので、部屋の中で、ドアの前で待機している最中だ。
「それでは、アリア様。精霊殺しが襲撃した時のことを聞かせてください」
そうベラトリックスさんが言うと、アリアはうなずき、説明を始めた。
数時間に渡る説明。ーー俺はもう立っていられなくなりそうなほどに足が限界に来ていた。リアは大丈夫っぽいけど。
「そうでしたか、そんなことが…」
説明を終えたのか、アリアは少し背もたれにもたれかかり、ベラトリックスさんは机に両肘を付けて下を向いていた。
「それで、何度も死にかけていた瑠璃様は何度も立ち上がって精霊殺しに向かったと…」
「えぇ」
そうアリアはうなずく。
「アリア様。もしかすると、彼は『リフレイン』生き返りの力の持ち主かもしれません」
そうベラトリックスが言うと、アリアはもたれかかっていた背もたれから背を離し、立ち上がって机を叩く。
「リフレインの持ち主なんて…そんなことはないはずです」
「ですがね…精霊殺しに凍らされたり、ナイフで切られたりという話を聞いていると、普通の人間では今頃死んでいると思いますが?」
そう言うと、アリアの口が止まった。ーーすると、リアがアリアの方へと駆け寄った。
「昔の精霊殺しが使っていた力を、瑠璃様がお持ちだと言いたいのですか?」
リアがそう言うと、ベラトリックスさんはうなずく。
「あなたの目は、本当にスターによって作られた目ですか?」
「えぇ、そうですよ。それに、精霊をスターと呼ぶのは少し古くはないですか?」
ベラトリックスさんが立ち上がり、俺の方に歩いて寄ってくる。
「もし、彼がリフレインの持ち主なら、いつか効果が切れるであろうと思います。『リフレイン』の力は、幻の砂時計によって、期限というものが決められていますからね。それに、記憶の雪、いつかは全て溶けて、記憶そのものを失うであろう。失ったら、話すこともだってできなくなる。アリア様はもう少し、考えてはどうでしょうか。…ま、今はいいです。とりあえず、ここには我らの団の中でも強いイルを派遣しよう。それでは」
そう言って、俺の横を通り抜ける時に、少し笑みを浮かべ、ベラトリックスさんは自分でドアを開けて出ていった。
ドアの閉まる音がなった後、部屋は静寂に包まれていた。
そして、静寂を切り裂くかのようにリアがーー
「なんなんですかね。あのポンコツ!」
「いやポンコツって、きょうび聞かないな。いや、今でも言うか」
そう言って、俺はベラトリックスの座っていた椅子を机に寄せた。
「でも、俺も今なんであんな戦慄な時を生き抜いてきたのかも良く解らない」
だけど、俺は何度か死んでいるはずなんだ。生き返っていることについては自分でもわかっている。わかっているんだが…。
「俺…少しベラトリックスさんの見送りに行ってくるっ!」
俺は部屋を飛び出し、ベラトリックスを探した。ーーそして、部屋に残された二人はうつむく。
「もしかすると…ですね…」
そうリアが言うと、アリアはうなずく。
「だけど、あの少年に限ってありえないことよ。きっとね…きっと」
そして、俺はベラトリックスさんが馬車に乗る直前に呼び止めることができた。
「それで…アリア様の使用人が私に何の用ですか?」
ベラトリックスは、眉尻を上げてそう俺に問う。ーー俺は何度も怒っているのかな、と思っていたが、そんなことは気にせず話を始めようとした。
「少し…さっきの生き返りのことについてお伺いしたいと思いまして」
俺は何度も殺された。だが、生き返って今こうやっている。ーーなぜ、俺が死んだと分かったか、それはあの黒い煙が教えてくれたようなものだ。それか、俺の勝手な思い込みかもしれない。
「生き返り…『リフレイン』のことについてですか…」
ベラトリックスはため息をついて、一度目を閉じてそれからまた開いて俺を見た。
「その力のことについては、使用者、つまりあなたがよく知っているはずです。それに、この話はこういうところでするものではございません。あなたでもわからないことがあるのなら、派遣されてくるイルにお聞きください」
ベラトリックスはそう言って、馬車に乗り込んだ。ーー乗り込んだ後、なぜかベラトリックスさんは俺を睨んでいた。
「さっ、出してくれ」
ベラトリックスがそう言うと、馬車が動き出した。
「なぜ、そこまで話したがらない。…すべてお前の顔が離したくないと語ってんぞ」
俺はそうつぶやいて、ベラトリックスさんの馬車に背を向けた。
そして、背を向けた俺は強く眉間に眉を寄せて、顔に怒りの表情を表せる。ーーベラトリックスがさん馬車を乗る時、俺が持っていたハンカチを地面に捨てていった。
いつ取ったのかはわからない。だが、これは俺に対する侮辱だと良く解った。
「覚えてけよあの野郎…」
俺のハンカチは、今日一番の強風に吹かれどこかへと飛んで行った。
その頃、アリアとリアは椅子に座って下を向いていた。
静寂が続く中、リアは顔を上げる。
「もし…瑠璃様にあのリフレインの力が本当にあったとしたら、どうします…?」
リアは心配そうな顔をして、そうアリアに問う。
「そうね…。引き続き保護の方をするわ。精霊殺しになんかに連れ去られたり、体を乗っ取られたりしたら、この世界は崩壊するからね」
「牛の背を切った精霊殺したちには渡してはいけないのがリフレイン、別名スバル」
「牛の星の背中あたりを切ったということからなぜ急に日本に…」
俺は暗い空気に包まれていたリアとアリアがいる部屋の扉を開けてそう言う。ーー最初は普通にドアを開けて部屋に入ろうと思ったが、ドアの外まで感じたダークなオーラが漏れていたので、何度か入ろうかと迷った。
「あぁ、瑠璃様。おかえりなさいませ」
リアはころっと表情を変え満面の笑みに。それに続きアリアも。
「瑠璃様、さっき言っていたことは一体何ですか?」
「リアたちにとってはスバルは違う意味でとらえられているだろう。俺たちの国では、星団の名前なんだ。プレアデス星団の別名なんだ。それが、おうし座という牛の星の背中あたりなのかな? そこにスバルという星団があるんだ。そして、スバルは牛の首のあたりにあるのだよ」
でも、スバルはおうし座の肩部分じゃなかったっけ?
中学生の頃、俺は毎晩星を見ていた。
ずっと輝き続けている。見ていると心が落ち着く。そして、綺麗だったから。
あの世界で一番輝いて、綺麗なものは星ぐらいだっただろう。
ずっと一人で見ていた、この世界でも星があるのかな…。ーーこの世界にやってきて、俺は星を見る時間がなかったから、一度も夜の空を見上げられていない。
「せめて、今日こそは…」
すると、俺の目の前にやってきたリアが首をかしげる。
「今日こそは…?」
「あぁいや、なんでもない。それじゃあ、片付けを始めるかリアっ! アリアは部屋に戻って休憩でもしておいたら」
そう言うと、アリアは椅子から立ちあがる。
「うん、そうさせてもらおうと思っていたけど、今日は少しやることができた。ちょっと出かけてくるねっ!」
アリアはそう言って、部屋を飛び出ていった。
「今日のアリアはどこか変だな?」
そう俺は少し唖然としながら言う。
「アリア様がおかしいのはいつもの事では?」
「いや、それは使用人として言っちゃいけないことでは?」
俺はそう言うが、リアはなぜかニコッとして食器をまとめて、キッチンに向かった。
「ってか、なぜ笑ったんだリアは…?」
そんなことを疑問に思いながら俺は食器をキッチンに持って行く。
そして、キッチンにて。
「にしても、この世界にも洗剤というものが存在していたんだな。しかも固形石鹸の形」
俺はこの世界で洗剤と言われている固形石鹸の形をしている洗剤を手に持ちながら言う。
「いまさら何を? この世界では昔からこの洗剤で洗っていますよ。その石鹸本体で汚れている所を良くこすると汚れが落ちるんです~」
なんでこの人ほんわかしたような笑顔でそう俺に説明してんだ? ってか、俺の国でそんな石鹸どっかで聞いたことがあったような…。
「それじゃあ、これを洗濯する時、あの水に何を入れているんだ?」
つい最近はよく自分で洗濯するようになった自分は、リアに洗濯方法を教わった。
これもまた、昔の日本であった洗い方だった。なんか、木の凸凹した板があって、リアが何かを溶かした水を集めたたらいに洗う対象の物を付けてそれからごしごしと洗っていたような。
そっからなんだよな。魔法とか使ってすべてを整えるリアさんが登場するのが。
一体何なんだろうな、この異世界ファンタジー。
「それで、洗濯する時にいつも水に何か混ざっているけどあれは何なんだ?」
俺はそうリアに問う。
「あれはこの洗剤を細かく切り刻んで、見ずに溶かしたものです。いつも作るのに腰を痛めてしまいますが」
いや、この人年寄りか?
「そうなんだ。なら、洗濯用の水を作る時も手伝うからさ、いつでも頼ってくれ」
俺は食器を洗うのを再開して、そうリアに問う。
「瑠璃様…はいっ!」
そう言って、俺とリアは少し笑みを見せながら食器洗いを再開した。
そして、数分後。
俺はリアと城内の見回りに出ていた。
アリアがいない今、俺もアリア一人で出かけさせたのは少し少し心配なんだが。この城を一人で動かしているリアの方も心配だ。だから、一緒に城に侵入者がいないか探索しているのだ。
「にしても、改めてこの城を回っていると、本当に広いのだな」
「まぁ、この城も歴史あるものの一つ。それに昔、この城は王族が住む所でしたから」
そう言って、リアは少しドヤ顔をする。
「そうか…歴史ある所ね…あっ、こんなところにベランダっ!」
そう言って、俺ベランダに駆け寄る。
「ここは前の持ち主、アリア様のお父様が夜空を見るためによく来られていた場所です」
「俺?」
と、ちょっとした冗談を言う。
「それはないと思いますが、瑠璃様を見ていられる場所があるなら宝石をつぎ込んでまででも行きますっ!」
「ーーいやいや、そんな場所ねーからなっ! それに俺のためだけに宝石つぎ込むなっ!」
そして、俺とリアはベランダに出て、王都を見渡す。
「にしても、本当に気持ちいい風が吹くんだな」
俺はそうつぶやき、風を感じた。ーー自分がいた世界では熱い風が吹くころなのにこの世界では冷たい風が吹いていた。ーー入学して少し経った、夏に変わる少し前の日だったというのか?
「そうですか。確かにここの風は気持ちいので、アリア様が外出している時、仕事の合間によく来る場所なんです」
リアはそう言って、ベランダの柵の前に立つ。俺と肩を並べて、風を感じながら王都を見渡す。
「なぁあ、一つ聞いていいか?」
「はい、なんでしょう?」
リアは俺の方を向いて、首をかしげる。
「『雪の記憶』『幻の砂時計』とは一体何なんだ? 答えられなかったら答えなくていい」
俺はそうリアに問う。
「まぁ、いずれか話さないといけないことかもしれないことですものね。瑠璃様には知っておいてもらわないといけないかもしれませんし」
そう言って、リアは遠くを眺め沈黙が続く。そして、リアは一度深呼吸をして、話し始めた。
「昔、この世界に一人の女性がいました。その女性は謎の力を持っていて、一躍この王都では人気者になりました」
リアは王都の方を指をさし、その後手を腹部の前に戻し、片方の手で握った。
「その女性は死刑、ギロチンにかけられ、首を切り落とされました。その後、首なしの死体を片づけている人が…ん? 瑠璃様、大丈夫ですか?」
話を聞いてた俺は、自分が首を切り落とされている映像が頭に浮かび、唖然としていた。
その映像の中の俺が言った言葉ーー
「首を洗って待ってろ、いつかお前らを殺しに行く」
と、言っていた…。
なぜ、俺が首を切られている? なぜ…?
「瑠璃様? 大丈夫ですか?」
すると、俺は思考の世界からリアに引っ張り出される。
「あぁ、ごめん。話を続けてくれ」
リアは少し心配そうに、話を再開する。
「…そして、その女性の遺体だけの首が戻っていて、息もしていました。それを聞いた王族の人たちは、その女性を何度も何度も殺害しましたが、何度も生き返ってき、王族は殺すのをやめ、その女性を仲間にしようと考えました」
俺は、リアの話を聞きながら、頭で想像して映像を作っていた。
「それで、その女性は王族の仲間に加わったのか?」
すると、リアは首を横に振る。
「いいえ。その女性は何度も王族達に痛い罰を受けていたので、仲間に入る事すら考えていなかったでしょう。だから、王族の戦力の元、精霊を殺すために女性は精霊殺しを作ったのです」
精霊殺しのできた原因は、その女性にあったということか。
「その精霊殺しはなぜ王族の手で仕留められなかったんだ?」
俺はそうリアに問う。
「女性が、まるで未来を見ているかのように対策をし、攻撃は正確にしてきて、王族が滅んでしまったからです。それに、死なないのがあれでしたから」
その話を聞くと、まるで俺みたいだった。
「そして、精霊殺しは完全に勝利した。王族の人々は皆ギロチンにかけられました。生き返るものは居ず。全員が死にました。ですが、精霊殺しの中に、王族の内通者がいました」
スパイみたいなものか…。
「それで、なぜ内通者が精霊殺しに入っていたんだ?」
俺はなぜかは大体わかっていたが、一応リアに問う。
「王族の一人が、情報を得るために入れと言ったのです。それのおかげで、昔も今も精霊殺しの情報がわかっているのです。ですがある日突然、生き返りの女性が病死しました。生き返りの力も、さすがに衰えた体と病気には勝てなかったようです」
つまり、俺がその力を持っていても、病死と年を取ってしまえば死ぬということかもしれない。
「突然の彼女の病死によって、精霊殺しは王都の作った剣聖団には勝てなく、敗北に終わったのです。ですが、森の奥深くに、精霊殺しの予備団がいました。その予備団によって、女性と同じ力を持つものを探し続けました」
話を聞いていると、俺は一つ疑問に思ったことがあった。
「それじゃあ、『リフレイン』『雪の記憶』『幻の砂時計』という名はどこから来たんだ?」
俺がそう問うと、リアは答えてくれた。
「力の名は、剣聖団が精霊殺しに勝利し、アジトをあさっている時に生き返りの力を持った女性の遺体を見つけてつけられた名前です」
リアは一度話を止めて、ベランダの端に置いてあった椅子二つを俺の近くに持ってきた。
「話は長くなります。良ければ座ってお聞きください」
そう言って、リアはニコッと笑う。
「あぁ、ありがとう」
俺はお言葉に甘えて、座らせてもらった。そして、リアも椅子に座る。
「それでは名前の話をしましょう」
そう言って、リアは話を再開する。
「まずは『リフレイン』。これは音楽では、最後の部分を繰り返すという意味でしたよね?」
そう俺は問われ、うなずく。ーー一応俺も音楽に携わることを良くしていたからある程度のことは知っていた。
「人生は息をしている限り終わりません。だが、女性、彼女は何度も死んで生き返ってを繰り返しました。死は人生の最後。何度も死んで生き返る。それで、一人の剣聖団が、音楽の言葉から『リフレイン』と名付けました」
俺は何となく理解していった。
「それで、『雪の記憶』はどこから?」
そう俺は首をかしげて問う。
「『雪の記憶』の話をする前に、『幻の砂時計』の話を先にした方がいいと思うので、砂時計の所から話しますね」
リアはそう言って、話を進めていってくれる。
「生き返りの女性の死体が発見された時、近くに砂時計が落ちていました。死体が発見されたのは、吹雪が吹き荒れる日でした。死体の横に落ちていた砂時計は砂が無くなっていました。割られた後もなく、どこを探しても砂もありませんでした。偶然、その砂時計を見つけたのが、生き返りの力『リフレイン』を名付けた方でした」
誰が三つの名前を付けたか、大体先が読めた。
「その名付け親が、色々と試行錯誤をしていると、女性の力の期限を表しているのではという所にたどり着きました。そして、その砂時計は砂となり、風に吹かれどこかへと消えて行ってしましました。それから『幻の砂時計』と名付けられました。今でも、その砂時計らしきものが発見されますが、すぐに消えてなくなってしまうのです」
砂時計が幻なんじゃないか、というところからかなと俺は思った。
「それで、『雪の記憶』はどこから?」
「はい、今から説明します」
リアは一度笑顔を作って、再び語り始めた。
「ついさっきの話では、吹雪が強く吹き荒れる日に女性の死体が発見されたと言いました。実は、二つを名付けた剣聖団の人は、その女性の元交際相手でした」
「急に驚く新事実が来た!」
俺はそう言って、少し驚いた様子を見せる。
「えぇ、私も話を聞いた時には驚きました。そして名付け親、男性は彼女と付き合っている時、女性の記憶が無くなっていることに気付きました。時には少しだけの記憶が消えていて、いろんなことに気付きました。時には喋ることすらできなくなるほどの記憶が消えていたりしていたと語ったらしいです。そして、たまたまその記憶が消えていた時期が冬で、死体の発見も冬だったので、まるで雪が解けるように記憶が消えるという意味の解らない発想からその名がつけられました」
最後に限っては、俺も意味がよくわからないかった。
「そんなことがあって、あの三つの名がつけられたのか」
俺は少し考えさせられた。
「恋人だったとは、名付け親が死んでから判明したことですが、生きている時に判明していたら、彼の人生はもう終わっていた…かもしれませんね」
そうリアが言うと、二人はうつむき、考えていた。ーーすると、俺は一つ疑問に思ったことがあった。
「それじゃあ、生き返りの力が精霊殺しに奪われた場合、世界が滅びるとはどういうことなんだ?」
そう俺がリアに問うと、彼女は答えてくれた。
「それはですね。…一度、『リフレイン』の力を持った女性は人々が持っている精霊を殺しに回って、もうすぐ精霊がいなくなるという時に、世界が滅びかけました。それからです、世界が崩壊しかけた時の経験者は精霊殺しのせいだと分かり、生き返りの力を精霊殺しが持ってはいけないと言いました」
そして、俺はなぜ精霊がいなくなっただけでこの世界が滅びるのかを疑問に思っていた。
「精霊がこの世界がいなくなると、環境が悪くなり、やがてこの世界は生命が立たれます。この世界では精霊が命の元ですからね」
精霊がこの世界からいなくなるとのところは良く分かった。だが、もう一つ疑問に思ったことがあった。
「それじゃ、なぜ世界は崩壊しなかったんだ?」
そう俺が問う。
「それはですね。生き返りの力を持った女性が世界が崩壊すると恨み返しができなくなってしまうからと言われています」
なんじゃそらと思った自分がいる。
「まっ、大体のことは分かった。長い話と、あまり話したくない話をさせてしまって悪かったな。それと、ありがとう」
俺はそう言って、立ち上がってリアに頭を下げた。
「いいえ。別に言いたくないわけではないとかありませんでしたから大丈夫ですよ。それに、この話は、アリア様からいつか話すようにと言われていましたので」
そう言って、リアは首をかしげると同時に笑みを浮かべる。ーー俺はその笑みを見て、少し頬を赤らめるが、すぐにそっぽ向く。
「さっ、仕事の続きに行くか」
そう言って、俺は城内に入る。
「えぇ。行きましょうか」
俺とリアは城の警備を再び始めた。
俺は新しく疑問に思うことができた。ーーそれは、なぜベラトリックスさんが何も語らなかったのか…?
そして、城の中を隈なく見回った俺は、一息つくために自分のお部屋にて、自分のお部屋リアも休憩していた。…なんで俺はお部屋って心の中で言ったんだ? なんかガキくせぇな。
そんなことを思っていると、リアが俺の部屋にやってきた。
「瑠璃様」
リアが俺を呼ぶ。
「どうしたんだリア、何か困ったことでもあったのか?」
「いえ、お茶を入れたのでご一緒にと思いまして」
そうリアはお茶の入ったティーコップを見せてくる。
「あぁ、ちょうど俺も喉が渇いていたところだ。本当にリアは気が利く子だな。俺の妹と交換してほしい…」
「どうしたんですか?」
妹と口に出して、急に黙った俺を、リアは心配そうな目で俺を見る。
「いや、何でもない」
そう言って俺は椅子から立ち上がって、完全に開きっていなかったドアを完全に開けた。
「あぁ、ありがとうございます」
リアはそう言って、部屋に入った。
「男性にしては、お部屋が綺麗ですね」
お部屋で笑ってしまうので、できればその言葉をやめてほしいのですが?
「まぁあ、ここにきて少し暇な時が多くなったから、部屋を綺麗にする時間を設けている。だから、一日一回の掃除を欠かさず粉骨砕身してやっているのだっ!」
ドヤ顔でそう言う俺。ーー現実なら、『きっしょっ』『中二くさい』とか言われていた同級生を見たような。現実なら、そういうことを言ったら、いじめの対象になってしまう。 まぁあ、俺は元々友達が居なくて、ダークなオーラを出しまくっていたからなぜかいじめの対象になってしまったのだ。はっきり言って理不尽だ。
人は見た目によらずとか、そんなの俺の学校では一ミリたりとも思っていない奴しかいなかったぞ。
「すごいですっ!」
…は?
「毎日掃除をするなんて、私にはできないことですっ!」
リアは瞳を輝かせて、顔を寄せてくる。
「いや、頑張れば誰も出できるってっ!」
俺がいた世界では、勉強をやろうと思って机に向かうと、いつの間にか掃除を始めて、勉強から逃げていたしな。
「そうですか? 私でも週二のペースでやりますけど?」
「週二じゃあ…って、お前今なんて…?」
そう俺は問う。
「週二のペースとおっしゃいましたが…何か変でした?」
「この世界でも、週二とか使うんだ…」
しかも、なぜ急に略した。
「…やけに外が騒がしいですね」
そう言って、リアは眉間に眉を寄せて外を見るためか、窓の方に向かって歩き出した。その刹那だった。
「ーー伏せてくださいっ!」
急にガラスが割れ、破片が飛び散った。
リアは急に鎖鎌を出し、そして俺はリアの声をよく聞き取れなかったため、急に割れたガラスの破片が首、そして、腹と頭と足に刺さる。ーー俺はそのまま地面に倒れこんだ。
「クソ…いてぇーやこれは…一体何が起こったんだ…?」
すると、窓から一人の男が入ってきた。ーー俺はわずかな力でベッドの傍に行き、どうにか座る体勢にした。
「一体…てめぇは誰だ?」
そう俺が問うとーー
「わたくしは精霊殺し、大司教のカゲロウと申します」
そして、俺は意識を失った…。




