【平穏な日】 七章
深い海の底、俺はもうその底の方についていた。
水面から入ってくる光はない。完全に海の底だ。そう、俺は死んだ。
暗くて誰もいない海の底。そして、さっきから俺の周りをうろちょろうろちょろしている暗い煙。これがいつも、俺が死んだ時に俺を包み込む。
一体この黒い物体の正体は? そして、なぜ水中に煙みたいなのが…?
そんなことどうでもいい。今は、これからどうするかだ。
俺を殺した相手はもう死んでいる。だから、ナイフを投げてきた奴に殺されることはないだろう。
俺は生き返る前提で、そう安堵していた。
嘘、俺に安堵なんてできるわけがない。そう、俺を狙っている奴はまだまだいる。だから…。
もちろん。何人も俺を狙っている奴がいるということはこの時の俺は知る由もない。
もうすぐだ…もうすぐ俺は生き返れない死の淵に落ちてしまう。だから、その前に。
「ーーっ」
目を覚ました俺は、いつもと同じ天井を見て深呼吸をする。
「大丈夫ですか? 結構重傷を負われたそうでしたが」
そう俺の方を見ながら、リアは問う。
「あぁ、どうにか…生きている」
今回はどうだったか…。ーーいつもなら、光に包まれて生き返りができるのだがな。
「不思議だ…」
そう俺はつぶやく。すると、リアは首をかしげる。
「何がですか?」
「…何でもない」
いや、俺はなんで間を開けたんだ?
「そうですか」
そう言って、不思議の話は終わり…何だが、もう一つ不思議に思うことがあった。
「それで、なんでリアさんは俺が寝ているベッドで寝ていらっしゃる? それになぜ手までつないでんだ?」
そう俺が問うと、リアは少し頬を赤らめる。
「最近瑠璃様を狙ったように起こる殺しを防ぐためです」
「…でも殺しなら」
「ーー警備です」
そして、沈黙。
「で、本当は?」
「もっと近くで瑠璃様を見ていたくて! かわいいお顔に男らしい手っ! すごいですっ!」
「いや、そんなに鼻息荒くして言わないでっ! 別の意味でとらえそうだからっ!」
それになんか俺に対する態度が変わっているっ!?
俺は漫才のツッコミ程度の声で言うが…ツッコミ程度の声って言っても、冷たい系のツッコミだけどね。
だけど、やっと訪れた安堵の日々。
正直恋しかったぜまったく…。
でも、本当に安堵の日々に戻ってこれたのか? 本当に俺は安堵していいのか?
そんなことを疑問に思っていた。せっかく取り戻した安堵の日々だが、すぐに絶対と断言できるほど早く戦慄の日々は戻ってくるだろう。
そして、今の俺はこれがほんの少しの安堵ノ日々だとは知らない。
「ん? …どうしたのですか、そんなに難しい顔をして?」
リアにそう問われ、顔の力を抜く。
「いや、何でもない。…ただ、そろそろ手を離してくれはくれませんか?」
もうすぐ手汗が出始める。できればこのリアの白くて小さい手を俺の汚い手汗で汚したくないっ!
「瑠璃様の手汗が汚いなど、全く関係ありませんのですよっ!」
おいおい、最後~ってか、なんで俺の気持ちを読んだ?
「リアは超能力者か?」
「いいえ。ただ瑠璃様が小さく口にぶつぶつと言っていただけです。私はそれを聞いただけですよ」
そう言われて、俺は開いている方の手で口を防ぐ。
「すみません。俺の癖がつい…」
でも、俺が考えを口に出すことなんてあったかな?
「まっ、嘘はここまでにしておきます。実際には、私が今まで他者と手を合わせる時に気にしていたことですから」
そう言って、にこっと笑うリアだが…。
「俺にとって、心臓に悪い嘘だよっ!」
この世界に心を読む魔法とかあったら、これから対処していく敵の作戦を読まれたら終わりだっ!
「まっ…そのことはおいといて、手汗も気になるからそろそろ手を離してくれない?」
「いやですよ~。それじゃあ、もう片方の手で私をなでてくださったら、色々と惜しいですが話してあげます」
「本当に俺に対する扱いが変わっているっ!」
そんな話をしていると、本当に俺に対する信頼感というやつが変わったんだなと思う。
でも、これが本当に信頼されているのかは、俺も分からない。俺はリアじゃない。だからリアの心は読めない。それだけだ。
俺はリアの信頼の全てを得る。それがリアルートでの目的だ。
ギャルゲーだか、なんだかしらねぇーが、俺は必ずリアとアリアと…。
「るり、入るね」
ドアのノックと同時に、アリアの声が聞こえる。そして、俺はーー、
「…あぁーアリア待て、まだ入ってきてはいけないっ!」
刹那、アリアはドアを開けた。俺は、あちゃーと頭を手で叩き、終わったと思う。
「るり今日の朝食…………」
沈黙が続き、そしてーー、
「ごめんね。取り込み中だったのねっ! 失礼するわっ!」
アリアは慌てた様子で部屋を出ていった。
「ん~瑠璃様ぁ~」
なんでこいつはこんな猫みたいな正確になったっ!?
「なんだ…このライトノベル的な展開は…?」
その後、アリアの誤解を解くのに苦労することは、俺は思ってもいたし思っていもいないだろう。
少しアリアを馬鹿にしすぎた。
「でも、瑠璃様。これからは当分忙しくなります。今、我が国は精霊殺しから宣戦布告されています。前の剣聖団が来なかったことも、途中で精霊殺しにばったりと会ってしまい、戦うことになったせいで、この城にはこれなかったらしいです」
宣戦布告。俺はこの言葉を聞いた時、俺たちの命の危険もあるということだ。
その精霊殺しが明らかに強い軍団と言うことはわかる。
さすがに、あの城襲撃の後だと体が震えるほどわかる。
「まっ、それでこの国はどう戦うつもりなんだ?」
そう俺がリアに問う。
「剣聖団の中から一人、作戦を立てながらですがアリア様が作戦に必要な精霊使いを選びます。あの軍団の中には上級魔法ばっか使うくさい男どもがいますからね」
いや、くさい男どもって、口悪いなおい。
「それでも強い奴なんだろう?」
「はい。実力は確かです。でも、たとえ強くても、この城全体を守れるわけでもありません。戦争時はこの城が国民の避難所ですから。人々の一部は他国へ預かってもらうことになりますが…」
リアは急に難しい顔になる。
「たとえ守れるものが大きくても、守りのどこかには隙間があり、そこから敵が侵入してきて人々を無差別殺人していくということか?」
そう俺が言うと、リアはうなずく。
「すべては守れません。それに、敵の人数は目を疑うほど多いです。本当に厄介な人たちですよ。精霊殺しの奴らは…」
そう言って、リアは難しい顔になる。
この時、俺はリアの過去に何があったのかなと疑問に思った。
「リア、一体過去に何があったのですか?」
俺はそうリアに問う。だが、リアは答えようとしない。
「まぁあ…言いたくなかったり、過去のことを思い出したりしたくないなら言わなくてもいいよ」
そう言って、俺はリアの頭をなでる。
「でも、隠している事とか言ったりすると少しは気が楽になるぜ。だから、苦しくなったりしたら、いつでも頼ってくれ」
そう言って、俺はウィンクをする。
「…はい、頼らせてもらいますねっ!」
リアは満面の笑みを作って、一粒の涙を零す。
これが平和な時間と言うやつかな…。もうすぐ精霊殺しというやつらとの戦争が始まる。
きっと血戦になるはずだ。死ぬ覚悟で挑まないとな…。
そんなことを思っている俺だが、心のどこかでは、少し余裕を持っていていた。それはなぜか、生き返ることができるからだ。
もし、この生き返りの力を持っていなかったら、今頃俺はどうなっていた…?
そんなこと、考えても居なかったな。
「それじゃあリア」
そう俺はリアの名を呼ぶ。すると、犬が名前を呼ばれて反応するかのように勢いよく、『はいっ!』と言って反応する。
そして、俺はリアとつながれた手を少し上にあげてーー、
「そろそろ手を放してくれない?」
そして、リアは、俺の部屋を出た瞬間にアリアにどこかへと連れ去られていった。
本当にアリアはお母さん属性の持ち主だな。
そんなことをつぶやきながらほのぼのとした顔をする自分。
目つきの悪い俺も、少しは優しそうな笑顔をする。
「…よしっ! それじゃあ今日も頑張るかっ!」
俺は頬を強く二回叩き、一息吐く。
そして、二人がいる所へと朝食を食べに行く。
大きい部屋に大きい机、そして、その机の上に並べられている二人分の食事。
メイドのリアは別で朝食をとるようだ。
「にしても、るりの目は何度寝ても治らないわね」
そう言われ、持っていたフォークを置いて俺はーー、
「まっ、しょうがない。このクマも、目を細めているのも、もう固定されているからな」
意味が解らないが、いつも死の淵のきわどい所に立っていると、夜も寝れなくなってしまっている。このクマも、目を細めて目つきが悪いのも、当分治らないだろう。
「心配してくれたんだな。ありがとう、アリア」
俺は目を閉じ、少し笑みを浮かべながらアリアに礼を言う。
「べっ、別にるりを心配したんじゃないからっ! 本当にるりはちゃんちゃらおかしいし!」
顔を赤く染め、慌てた様子。それに、ちゃんちゃらおかしいって…きょうびきかないな。
「瑠璃様っ! 私も瑠璃様のこと本当に心配しているんですよっ! 目つきが悪いとか腐っている顔とかっ! もー本当に誰かに絡まれないか心配ですっ!」
「なんか地味に傷つくんだけどっ! ってか、逆に近寄られなくて寂しい方だよっ!」
そして、アリアは少し笑っていた。
「本当に、二人はいつもおかしい」
「いつもっ!? 俺そんなにいつもおかしい人物としてとらえられてんのか?」
少し落ち込むよ…でも、この二人が笑っていられるなら俺は別に…。
「それよりるり。…宣戦布告の話は聞いている?」
そう俺は問われ、うなずいた。
「あぁ、精霊殺しとの…だろ」
俺はそう言って、腕を組む。
「できる限り、協力させてもらいたい。それが今、俺が願うことだ」
俺はそう言うが、足は今ガクガク震えてんのが止まらん。
「でもね、大丈夫だと思うからあなたは城の中に居て」
そうアリアが言ったと同時に、リアがこっちに来て、口を俺の耳に近づけ、手で口と俺の耳を隠すように壁を作る。
「実は、城の中は私だけでは少し手間取ってしまうので、そっちのご協力をお願いしたいとアリア様は思っています」
リアは俺の耳から口を離し、俺が振り向くとニコッと笑みを浮かべる。
「ん…アリアがそう言うなら、俺はそうさせていただこう。お言葉に甘えさせていただくってやつかな」
と、俺も少し笑みを浮かべて、任せておけっ! というオーラを放つ。
「そう、良かった。それじゃあ、朝食の続きを」
そう言って、アリアは少し笑みを浮かべてスプーンでスープをすくって飲んでいるが、内心はものすごく心配なんだろうなと思っているはずだ。
完全に動揺を隠しきれていないのが、このポンコツアリアだからな。
「はくちょんっ!」
あら、かわいいくしゃみ。…ってか、なんで俺は今オネェになった?
「風邪ですかアリア様?」
リアはアリアに駆け寄り、そう問う。
「ううん。違うと思う。けど、なぜか誰かに私のことを…なんでもないっか。ごめんねリア、心配させちゃって」
そう言って、苦笑いに顔を変えるアリア。今日だけで表情がどんなけ変わった…。
「いいえ。謝ることなんてないんですよ。もし、体調がすぐれない場合は言ってください。今、アリア様のお体の方が大事なんですから」
リアはそう言い、頭を下げる。
「あぁ、アリア。俺にも何かあったら頼れよな。ここに泊めてもらったりしておきながら、こっちは何もしないのは、気が引ける」
俺はそう言う。俺が来てからというもの、明らかにこの城でのトラブルも多くなってきている。不幸運の神がここに降臨してしまっているからな。
不幸運の神は俺のことだがな。
「うん、ありがと。るりっ!」
アリアはそう言って、笑みを浮かべながら少し顔を横に倒し、俺に礼を言う。
そんな笑顔をされると、見ているこっちが照れてしまう…。
「ん? どうしたの、るり?」
照れてると言えない。だけど、何にもないというと、少しでも長く続けたい平穏な時の会話が終わってしまうかもしれない。
「あぁうん…いや、今日はアリアの服装が変わっているなと思って…」
いつもはドレスを着ていた彼女だが、今日はドレスではなく、プリーツスカートに二ーソックス。そして、フリル付きブラウスに紫のリボン。靴は、ハイヒールのようなものではなく、ブーツだった。
「そうかな? まぁあ、ずっと城にいたわけじゃないるりにはあまり普段の姿はみたことないものね」
「あぁ、そうだ。まぁ、髪型まで変わっているとなると、言わないのもマナー的な、女性の心とか何とかでいろいろ…って、俺は何を言ってんだ? まぁあ、とりあえず、髪のサイドからバックにかけての三つ編み、似合っているよっ!」
そう言って、俺は親指を立てて前に出す。
「あっ、ありがとう」
アリアは少し頬を赤くして、もじもじしながらうつむく。
「瑠璃様っ! いつもと変わらない私はどうなんでしょうかっ!」
急に横から現れて、そう俺に言ってくるのはリアだ。
「もちろんリアだって、そのショートカットに、左目の上で分けられている前髪も素敵だよ。それに、メイド服は結構似合っているし」
まぁあ、少し露出している部分が多くて目のやりどころと寒くないのか疑問だけど…。
「そんな、私を美人でお嫁さんにしたいなんて、照れます」
「ーーいや、そこまで言ってねぇーよっ! それに、前と今の性格が色々と矛盾しているけどっ!?」
そして、俺は一度深呼吸をして背もたれにもたれかかる。
「まっ、これから忙しくなるんだ。今のうちに少しでも…」
とりあえず、今を楽しんでおかないと。
これから先、俺はどれだけの苦しみを乗り越えなければならないか、まだ未来のことだからわからないが、きっと、絶望や恨み、そして苦しみの日々に浸っているであろうと俺は思う。
「とりあえず。もうそろそろ剣聖団の人たちが来ると思うわ。…今度は前みたいなことにならないことを願いましょう」
アリアはそう言って、うつむく。
「そうですね。私もそう願っています。それでは瑠璃様、使用人の服にお着換えください」
リアは手に服をもって、俺の近くに駆け寄る。
「ーーおぉう。今日こそ頑張らないとな」
そう言って、俺はリアから服を受け取る。
そして、朝食を食べ終えた俺は、一度自分の部屋に戻って、使用人の服に着替える。
「にしても、あのブレザーよりもこっちの方が着心地いいな」
そう言って、俺は袖に手を通す。
「しかもサイズもピッタリだしっ!」
そう言って、着崩れがないか何度かチェックし、俺は自分の部屋のドアを開けるとーー
「あいたっ!」
「って、うわぁっリアっ! 一体ここで何してんのっ!」
そう言って、俺はドアを内側に戻す。
「いえいえ、少し瑠璃様が遅かったため様子を見にしていたら、独り言を…」
「それで?」
「盗み聞きをしていました…たぶん…」
「いや、たぶんじゃねぇーよっ! しかもそのたぶんいらねぇーよ!」
そう俺は言うが、リアがなぜか両頬に両手を当てている。
「ん?」
俺はなぜ、リアが頬を隠して、もじもじしているのか…。
「なんでそんな照れているんだ?」
俺は、リアにそう問う。
「いえ、やはりこんなことをするなんて、恋人らしいかと思いまして」
「ーーいやいや、人の独り言を聞くのはヤンデレだろっ!」
そんなこんなで、俺とリアは会話を続けているとーー、
「そろそろお客様を迎えるの準備をした方がいいのじゃないかな~」
アリアの声が城内に響き渡る。ーー俺たちはその声に反応し、急ぎ足で、一回の出入り口に向かう。
「にしても、あの時よく剣聖団じゃないと分かったな」
出入り口に向かう道中、俺はそうリアに問う。
「殺気…といったものでしょうか。ものすごく剣聖団らしくない雰囲気を醸し出していたため、いち早く気付くことができました」
リアはそう言って、ドヤ顔で俺の方を向く。
「まっ、そのドヤ顔に関しては俺は何も言わない。リア、このことについてはお前は胸張っていいんだぞ」
そう、俺も…アリアも、リアがいないと助からなかったはず。多分じゃなくて絶対にだ。そう断言できるほど俺たちはリアに助けられたんだ。だから…。
「瑠璃様。ストップですっ! そのまま行かれるとーー」
「ーーあがっすっ!」
俺は考え事をしながら走っていたせいか、厳重にロックされたドアにぶつかった。
「大丈夫っ! るりっ!」
「大丈夫ですか瑠璃様っ!」
二人は俺に駆け寄り、上から覗き込むように俺の様子をうかがう。
「あぁ、どうにか。とりあえず、さっさと向かえるの用意をしないと」
俺は頭をさすり、腰に激痛を覚えながら立ち上がった刹那ーー、
「ーーはっ!」
誰かに喉をパンチされたかのような痛み、そして再びあの黒い煙が俺を包む。するとーー
「やぁあやぁあ、君が死のうと思ったが転移された瑠璃君ですかぁ!」
暗闇の中、煙が俺に話しかけてくる。
「一体何のことだっ!?」
俺は吐き捨てるようにそう言う。
「う~ん君にはまだ名前を教える必要はありません。いつかあなたと殺しあうまでは名前を伏せましょうか…それでは、あなたとの血戦を楽しみに待っていましょう…」
性別は男性だと分かった。俺はその後、現実世界に戻された。
「大丈夫るり?」
いつの間にか、俺の目の前で座り、体を揺らすアリア。
「あぁ、ごめん。すぐにここどくわ」
そう言って、俺は立ち上がり、リアの横に向かう。
それと、あの煙の言っていた『死のうとしていたのに転移された』とはどういうことだろうか…。
俺は死んでいないということか…?
「大丈夫ですか瑠璃様?」
そう俺に心配そうな顔を見せるリア。ーーやはり、彼女もアリアも優しい性格の持ち主なんだなと改めて思った。
「大丈夫だ。二人とも心配させたな。俺はこの通り、元気だ!」
俺は肩を回しながら言う。
「でも、難しい顔をしてる…」
アリアはそう言って、俺に近寄るが、俺はなぜか一歩下がってしまった。
「大丈夫だから、気にしないで…」
実際は違う。俺はあの、『血戦をするまで』という言葉が自分の頭を駆け巡り、心配でしょうがなかった。血みどろになる戦い。できればもうやりたくないのだが…。
するとーー。
「すみません。入ってもよろしいでしょうか?」
ノックと共に、ドアの外側から男性らしき声が聞こえてきた。
「あぁっ! はいっ!」
と、アリアは慌てて返事をする。ーーそして、俺とリアはドアの前に立ち、ドアノブを握る。
「それでは、瑠璃様」
俺はうなずき、ドアをゆっくりと開ける。
「あぁ、ありがとうございます。リア様と…こちらは?」
開けた途端に入ってきた男性が、俺の方を向いてアリアに誰だと問う。
「その方は、新しく私の城の使用人として雇った、るりです」
アリアはそう笑顔で答える。
「そうですか、このお方が…」
俺は知らない男にずっと見られている。ーーとりあえず俺は頭を下げ、顔を上げると、真顔のままでいた。はっきり言って笑いそうになっているのだが…。
「お話はアリア様から聞いております。精霊殺しの襲撃を二度に渡ってアリア様たちと生き延びられたらしいですね」
鎧を着たガタイのいい男が、そう言うのに対して俺は慌てる。
「あぁ、はいっ! …剣の扱い方は少し知っていたもので」
ここで生き返りましたとか、実は死んでいましたとか言えない…。
「そうですか…あぁ、わたくしはベラトリックスと申します。どうかお見知りおきを」
そう言って、頭を下げるベラトリックス。ーー俺はベラトリックスに続き、頭を下げる。
今、俺の目の前にいる男が、これからのことについて深くかかわってくる人物であることを俺は知る由もなかった。
ーーあと、生き返りの秘密のことも…。




