【君の本当の名前】 六章
俺は死んだ。
エノを起こそうとした時、背後から何かされて、殺された。
最後に見たのは、自分の血とエノの血が混ざりあってできた血だまり。そして、エノの死体。
俺がエノの冷たい手を握ったところで意識は途切れた。
「エノの手…冷たかったな…小さかったな…まっ、そりゃそっか、エノ。女の子だもんな…………」
そして、俺は暗闇に包まれ始めていることに気付いて、危険だと思っているのに、その場で怖がらず、無意識に笑っていた。
何が面白い、何が俺を笑わせる…。
そんなことが脳裏を過っていた。
「ーー瑠璃様っ! …瑠璃様っ!」
あぁ…誰かの声が聞こえる。
俺を様をつけて呼ぶ、確か…エノだよな…。
声だけが聞こえる。それ以外は何もない。俺はこのまま死んでしまうのか? アニメや小説、漫画のような最強な主人公にはなれないのか…? ってか、なに中二病的なことを考えていたんだ俺?
そもそも、この異世界転生という時点で、夢を見ているのじゃないかとなぜ自分は疑問に思わなかったんだ?
なに? 金髪の少女が美人で、俺と話している。俺には話し相手がいないから、話を聞いてもらえるだけでも嬉しかった? 何をあまったるいことを考えてんだ俺。
この世界は完全にクソだ。死んで死んで死んで、それで何度も生き返ってって。
本当に、体から血をドバドバ出すのはもう勘弁だ。
さっさと、目覚めていつも通り、学校にいじめられに行こう。
また始まる。苦しみ、絶望、あがき、叫び続け、血を流す日々に…。
「この…クソ世界め…」
そして、俺は暗闇の世界から、光のある眩しい世界へと導かれた。
「ーー瑠璃様っ! …瑠璃様っ!」
あぁ、誰かの声が聞こえる。さっき聞いていた女の子の声。さっきまで思い出せたあの子の声…ってか、
あの子って、誰だっけ?
聞き覚えのある声、知っている少女なのに、思い出せない。
俺がなぜ記憶を失う羽目になる? 俺は誰も殺していない。殺せてもいない。何もできず役立たずの男でしかない。
でも、少しぐらい活躍させてくれよ。…そこにいる黒い煙の誰かさんよ。
「ーー瑠璃様っ!」
と、叫ぶ声と同時に俺の腹に強い衝撃と激痛が走る。そして、痛みが走った直後ーー、
「ぶはぁっ!!」
俺は息を思いっきり吐いた。その後数分のどが痛むような咳をする。
「ってか、あともうちょっとで胃の中のもんでそうだったぜ…」
俺は息を荒げながら、そうつぶやく。
これ以上喋ると余計に胸が苦しくなるかもしれないから、一度呼吸を整える。。
「大丈夫…ですか…?」
リアは驚いた表情で俺を見る。
「あぁ…どうにかな。でも、アリアを追いかけるのは待ってくれ…少し呼吸を整える…」
窓から差し込んでくる月明かりの下、瞳をうるうるさせて、涙を流しているエノと、俺が座っている。
「よかった…よかった…」
エノはそう言って、あふれ出てくる涙を何度も手で拭った。
「よかった…それは俺の台詞だ。来るのが遅くて、おまけにエノに嘘をついて、足びくびくさせて、エノがやられる姿を壁の陰に隠れてみていた俺は…………」
俺は歯を食いしばり、こぶしを強く握っていた。
「はい…。あなたが嘘をついていたことぐらいわかりますよ…。だって、あの時に壁に隠れていた瑠璃様の姿が少し見えていましたし…でも、アリア様が生きていらっしゃるか確認できない今の状況では、私は落ち着けないのですよ」
そう言って、止まらない涙を拭い続けるエノ。
俺はその姿を見て、苦しくて、胸が張り裂けそうだった。女の子が涙を出す姿って、本当に胸が痛くなる。見ている俺も泣けてきた…。
「なぁ、少し…安心できるおまじないをしてあげよう」
俺はそう言って、エノの肩に手を当てる。
「大丈夫。…お前も、アリアも、まとめて救ってやるからさ…だから、今は俺の近くで安心していてくれ。それじゃないと、俺まで心配になって、敵に立ち向かえないからさ」
俺はそうエノに言う。そして、頭をなでる。
「本当に…任せてもいいのですか?」
エノはもうボロボロだ。俺も生き返ったのが幸運だったが、たぶん今動くとエノについた傷が痛むだろう。だから、今は男として、彼女を守り、安心させて、アリアを救わないといけない。
それが、今俺に託された、やるべきことってやつだから。
「あぁ、エノ。…大丈夫だから。二度目だが、ちゃんとお前とアリアを救ってやる。今ここで誓うよ。…約束するよ」
そう言って、ゆっくり、優しくエノの頭をなで続ける俺。
これから先、何が待っているかわからない。今こうやって二人、生きているのが奇跡だし、まだこの城内にエノ、俺を殺した奴らがいるかもしれない。
これ以上、女の子が泣く姿なんて見ていられない。
笑っている姿なら、何時間、何ヶ月だって見ていれる。
二人が笑っていてくれている。二人が幸せそうにしている。二人が俺を頼ってくれる。
これだけのことが、俺にとってどれだけの救いになったか…。
本当に二人には感謝している。俺は二人とも大好きだ。だから、二人のうち一人を失うなんて、考えられない。絶対に離すもんか、俺はこの二人を守りたい。一緒にいたい。
だから…だから、戦い続ける。この二人のためなら、俺はなんでもできるような気がする。
何もできなかった昔の頃の俺とは違う。今は、何でもできる俺になりたい。
何も力を持たない、何もできなく、頼りない俺だけど、少しぐらいは、
誰かの力になりたい…。
「さぁあ、行こうか。アリアを救いに…」
そう言って、俺はエノの肩からを離す。
そして、エノは頬を赤らめ、最後の涙を手で拭う。
「はいっ! 行きましょうか!」
俺は立ち上がって、エノに手を差し伸べる。
「さて、この先何があるかわからない。何が来ても俺が必ず守って見せるけどな」
「それは無理でしょう」
「えぇっ!」
「だって、相手は魔法を使ってきます。さすがにそこの鎧の横に置いてあった剣で戦おうなんて、少し無理があると思います」
そう言われ、少しガクリと来た俺だがーー、
「まっ、できるところまでやって見せるさ。必ず、二人は死なせない。それだけだ」
そう言って、俺は足を一歩、踏み出す。
「さぁあ、行くぞエノっ!」
「はいっ! 瑠璃様っ!」
いつの間にか生まれたエノの信頼。俺はその信頼を得ただけでも、うれしかった。何もできなくて、びくびくしていた俺の足の震えを、彼女の信頼を得たことだけで止められたんだ。
何も力もない信頼。でも、そこには人の何かを変えるものがある。だけど、本当に変わったのかな?
俺は変わったと思う。守るものが前からあったが、さらに守らないと思って、俺を強くしていく。俺の変化といえば、それだけだろう。
まっ、俺が変わった点は、守りたいという気持ちがさらに強くなったことだろう。
これから先の事、もう少し深く考えた方がよさそうだな。
俺は、少し笑みを浮かべ、どすどすと歩いていく。そのあとにエノがナイフを持って続く。
「首を洗って待ってろよ。俺を殺したクソ野郎どもめ」
必ず、この手で殺してやるから…。
そして、俺たちがアリアの捜索を開始した時、アリアはーー、
「まずい…一人になっちゃった…」
このままだと、あの軍団の人たちにも応戦できないし。今いる所が本棚の後ろの隠し部屋だし。ってか、この部屋の先に階段とか出口とかないわけ?
これじゃあ、見つかったら即死じゃないっ!?
「…はぁ~。何を言っても、変わらないよね」
エノが私を押した後、エノは魔法とナイフによって殺されたし、るりは行方不明。
もう終わった。終わったんだな私…。誰も守ることができなかった。役立たず。自分のおたんこなす。
ここに避難して、何時間が立ったんだろう。太陽の光も浴びられないし、月の光も浴びられない。
頭がおかしくなりそう。精神的にきつくなってきそう。
「エノ…るり…助けてよ…私を…助けて…………」
暗闇の中、アリアは自分の太ももに顔をうずめて、一人でしくしく泣いていた。
一方、瑠璃とエノはーー、
「ーー瑠璃様っ! 右から敵です!」
「おうよっ!」
俺はエノから受けた指示で、敵の来る方向に走り恐ろしいほど鋭い刃を持った剣のレプリカで次々と殺していった。
「今まで人を殺したことがなかったから吐き気をしていたが、今は少しずつなれてきたぜ」
「そんなことに慣れないでください。ってか、慣れてはいけません。ここはもっと吐いちゃいましょう!」
エノはそう言って、こっちに視線を向ける。
「ーーんなこと言われて、吐くやつがいるかっ!」
俺はそう言って、エノと共に廊下を走り回り、敵を倒していった。
エノは怪我で少し戦える状態でない。だが、魔法による攻撃の防御は、エノの作った氷壁で守っている。
氷の壁だけで、どんなけの魔法を防いだか…。
「エノの魔法恐るべし…」
「何か言いました?」
さっきの俺の言葉がエノに聞こえたか、何か言いましたとよくあるラブコメ主人公、
『えっ? なんか言ったか?』を言う。
「いや、何でもありません」
俺は少し息を切らしながら走っていた。
「ーー瑠璃様右っ!」
「よっしゃぁっ! 行くぜっ!」
そう言って、俺は風を感じながら走る。
アリアの場所を目指し走っている。だが、俺はアリアの居場所がわからない。でも、今エノの鼻を頼りにアリアの場所を特定している。
「にしても、敵の数をしりてぇっ!」
俺はそう言って、目の前の敵が振り落としてくるナイフをロングソードで防いでいる。
「そうですか、ならその敵を倒して、少しの間私を守っていてください」
エノはそう言って急にうつむく。
「って、おいっ!」
俺は敵の抑えていたナイフを押しはらい、敵の胸を一突きしてからエノに近寄った。
「今少し、大気中の酸素を吸っています。少し呼吸が苦しくなるかもしれません。我慢してください。でも、私の所に一斉に酸素が集まるので、少しは大丈夫だと思います」
「少しはって…でも、エノの考えた作戦なら、俺は乗るぜ。今から必死こいてお前を守ってやる、エノっ!」
そう俺が言うと、エノが急に俺の袖口をつまんでーー、
「実はエノっていう名前じゃないのですよ」
俺はその発言に驚きを隠せない状態に…。
「一体それは?」
「私の名前はリア。これからはリアと呼んでくださいまし」
いや、ましって…。
「まっ、それでいいか。じゃあ…これからよろしくなリア。そして、この危機的状況を打破するぞリアっ!」
「ーーはいっ!」
すると、俺は急に少し呼吸が苦しくなり、強風が起き始めた。
「まさか、ここまでの力の持ち主だったとは…」
そして、リアは酸素を吸いつくしたのか、一度静止した。その直後だった。
リアから、心臓の音みたいなのが城中に響き渡った。
その時俺は、胸を押さえ、リアが出す心臓音を聞いていた。
その心臓の音は数回にわたり城内に響き渡り、やがて止まった。
「敵の数は…役十人ぐらい? でも、今まで倒してきた敵の死体を見る限り、私たち百人は殺しています」
そう言って、リアが目を開いた。
「…やっぱり、瑠璃色だ」
そう言って、俺は走ってこっそりと近づいてきていた敵を切り殺す。
「瑠璃色ですか…そんなに私の目って…いや、何でもありません。今はアリア様の捜索を優先」
そう言って、リアは鎖鎌を出す。
「なんで、ここで忍者が使いそうな武器を…」
しかも、鎖も鎖の先についている小さい鎌に血が付着しているし、これぜってぇー俺の血だろう。
「にんじゃ…とは何でしょうか瑠璃様?」
リアは首をかしげて、そう俺の問う。
「俺の故郷のかっこいい黒し集団のことだ」
「そうですか…でも、この武器、最近使用していないのになぜ血がついているのでしょうか?」
そうリアが言うと、俺はビクッと体が反応した。
「さっ、さぁあなんでしょうかね…?」
俺はそう言って、苦笑い。
「そんなことより瑠璃様。前にいると危ないので、少し、いや、私の後ろまでさがってください」
そう言いながら、リアは鎖鎌を振り回し始めた。
「こぇ~。でも、あの時リアが俺を殺した時にはナイフだったはずじゃあ…」
今思えば、鎌の先でも殺すことは可能…か…。
「はぁぁぁぁっ!」
リアはそう声を荒げ、鎖を操るようにして、鎌を敵に当てていく。
先にいる敵は小さく見えるが、切れ味は最高なんだろう。敵の腹がぱっくりと割れて血がだらだらと垂れている。…やっぱり吐きそうだ。
「敵を倒すゲームだったら今頃三連コンボ…ゲームをやっていたら、武器として身に着けたいほどだ…」
でも、スマホゲーム…一つもダウンロードしていない…。
なんで、こういう時っ! …はぁ~でも、今後悔しても遅いな、今は前を向いて進もう…。
「もっと…もっとっ!」
そう言って、勢いよく鎖鎌を振り回し、まるで呼び出しているかのように敵が俺たちの方向に向かってきて、リアにやられていく。
「一体、どこのゾンビゲームだ…」
敵は少し距離を縮めないと魔法も攻撃も届かない。でも、今その攻撃できる範囲に入ると、リアの鎖鎌の餌食。そして、何連コンボしたかは数えていないが、さすがに敵は近づくのをやめる。
歯を食いしばって、俺たちの方を見る敵の集団。でも、集団と言えるような数ではない。もう結構殺しているから、敵の仲間も少ないであろう。
「さて…敵がどう出てくるか、見ものだな」
リアが敵をどんどんと倒していく時、敵の苦しむ姿は俺にとっては滑稽だった。
だんだんと自分がサイコパスになりかけていることに少し悲しみも胸に持ちながら、俺は敵が次に繰り出してくる攻撃法を目で確認しようと、ずっと敵の方をすごい目力で睨んでいた。
「にしても、本当に攻撃をやめてしまうなんて。…でも、おかしいです。何か、嫌な予感がします」
そうリアが発した言葉を聞いて、俺は片方の眉尻を上げる。
「どうしてだ?」
そう俺が問うと、リアは指を差してーー、
「奴らが私たち以外の所を見ています。よそ見をするなら、今のうちに…」
そして、リアは一度深呼吸をして、
「ーーアイスストームっ!」
そう言って、リアは氷の塊を作って、嵐のように敵の方向に向かって強風を魔法で作り、敵の方向へと氷の塊を送っていく。
敵は次々と倒れていき、見える範囲の敵は全員倒した。
「これで全員か、リア」
すると、リアは首を振る。
「いいえ。まだ勝負は終わっていません。私の感ですが、あと一人、敵の気配がします」
そう言って、リアは鎖鎌を構ええる。
「にしても、本当に奇妙だな。最後の一人の気配はしてるのに、出てきやがらないなんて」
「そりゃあ、最後の一人になったら、勇気ある戦士以外誰も攻めてきたりはしないでしょう。たとえ勇気のある戦士も、一気に人々を倒すことなんて無理です」
リアはそう言って、眉間にしわを寄せる。
「何か分かったか?」
そう、俺が問うと彼女は首を振る。
「いいえ、なにもわからないのが今の現状です。先にアリア様の所に行って保護しないと、あとが厄介です」
そう言って、歩き始めるリア。その刹那だったーー、
「リア危ないっ!」
リアが一歩踏み出したとたん、リアの足元に魔法陣みたいなのが出てきて、間一髪、俺はリアを押すことができ、魔法陣から話すことができたが、俺は押し飛ばしたせいか、前に行く勢いがなくなって、魔法陣の上にそのまま落ちてしまった。
そしてーー、
「瑠璃様ぁぁぁぁっ!」
と、俺の名前を叫ぶリアの声を耳にし、その瞬間に俺は氷漬けになった。
そっからは俺の記憶、そして、意識はなかった。
「誰だっ! こんなところに魔法をっ!」
リアは瑠璃色の目をワインレッドに色を変え、周りを見渡す。
そして、行く先の角に人間の気配がする。そして、リアは鎖鎌を振り回す。
「瑠璃様を氷漬けにした返しっ! はぁぁぁぁっ!」
リアは鎖鎌を操り、角の影に隠れていた敵を排除した。リアは一度その角に近寄って、顔を確認してから、凍った俺の所に向かった。
「瑠璃様、今すぐ氷を溶かし、温め、回復魔法をかけますので」
そう言って、リアは運がよく、近くにあった暖炉の近くに俺を置きに行った。
少しでもひびが入ると俺の復活は難しくなるだろう。だから、リアは慎重に俺を運び出したのだ。
そして、暖炉の前に置いた氷漬けになった俺の体は、徐々に動かせるようになった。だが、俺自身の意識がないため、自分では動けない状態に。
「お願い…間に合ってっ!」
リアは必死にヒールをかけ続けた。
そして、俺は目を覚ます。
「ーーっ…リア…」
目を覚まし、第一声がそれだった。
「そうです。大丈夫ですか? 痛いところは…?」
リアはそう俺に問う。
「あぁ、どうにか…大丈夫だ。ただ、少し寒いけど…」
そう言って、俺は立ち上がろうとする。
「あまり無理しないでください。それにまだ骨が凍っているかもしれなません」
「骨が凍っていたら、今頃ピクリとも動かねーだろ。それにほら、大丈夫だし」
俺は肩を回し、腕を振る。
「でもっ!」
「でもじゃない。お前は早くアリアを助けたいんだろ。なら、そっちの方を優先だ」
どうせ、俺が死んでも…いや、今はアリアの安否もどうだかわかんない状況。俺が今できることとすれば、走って敵を切っていくだけの事しか…。
「行くぞ、リア」
「…………はい、瑠璃様」
そう言って、リアは不満そうに立つ。
「そういや、リアってアリアの名前と何か関係あるのか?」
アリア、最後の二文字だけを取ると、リア。そう、このメイドの名前になる。だから、俺は二人がどういう関係なのか、疑問に思っていた。
「私とアリア様の関係は、子供の頃から変わっていませんよ」
「ってことは、もう子供の頃からメイドだったということか?」
そう俺は首を傾げ、そうリアに問う。
「はい。私の先祖も両親も、アリア様の所の使いだったと聞いております。でも、私の家族とアリア様の家族は、精霊殺しの討伐に行ったのですが、帰らぬ人となりました」
そう言って、口をへの字に曲げるリア。俺はその姿を見て、少し心苦しかった。
ましてや、俺の家族は崩壊しただけで、死んではいない。だが、アリア、リアの家族はもうこの世に存在しない。俺よりも悲しい思いをしただろうな…。
アリアの家族は、忘れられた存在でもある。だから、本人も家族がいないことを知らない。リア、アリアの過去は複雑になっていて、生きているや生きていない。過去はこうだったとかもすべて、複雑になっていた。
「まっ、今を頑張って生きろよ。親の分までな…」
少し間が開いたが、リアはゆっくりと目を閉じ、うなずく。
「はい…頑張ってみます」
そう言って、リアは…鎖鎌を出す。
「さっきの所までいいシーンだったのにそれでだいなしだぁっ!」
「瑠璃様、少し後に下がってくださいっ! …はぁぁぁっ!」
そう言って、リアは鎖を操り、鎌を誰かに当てた。
「あ~もういいや。んで、一体誰に当てたんだ?」
暗くて少し寒い廊下の中、ネズミは仲間は一人もおらず、何してやがる。
ゲームでもなんでもそうだが、最後の一つっていうのが毎回ややこしくなってくるんだな。でも、これでアリアが捕まっていたら、歩いている場合じゃないよな。
「んで、リア。なんだったんだ?」
俺は鎖鎌で当てたもののしょうたいを見に行ったリアに何に当てたかを問う。
「盗賊ですね。まさか、この時を狙って侵入していたとは…」
そう言って、リアは鎌を盗賊の体から抜く。
「あぁ~気持ちわりぃ」
そう言って、俺は振り返る。
刹那、俺の方に向かって何か飛んでくる。
「これ、俺にも先が読めた。リアっ!」
俺はすぐに振り向いて、リアを強く抱きしめて守った。
「あぁぁぁぁっ!」
俺の叫び声は城内に鳴り響いた。
「瑠璃様何をっ!」
そう言って、リアが俺を引き離そうとする。だが、この何か物体が飛んできている間、俺は彼女を離さないと言わんばかりに強く、強くリアを抱きしめた。
そして、瑠璃の叫び声はアリアの耳にも入ってきていた。
「あれは…るりっ!」
アリアは慌てて隠れている場所を飛び出し、るりの居る所を探した。
道中、城の中にはたくさんの死体が置かれていて、アリアは手を震わしていた。
「一体、何があったの…?」
その時、私の頭に激痛が走った。
人の死んだあとはなんども見てきた。だけど、ここまで酷いことはなかった。
だけど、私はその死体を避けながら走った。
俺の叫び声、その声はどこか苦しそうで痛々しかった。
きっと無茶しているはず。こんな敵がいっぱい出てきている時に、立ち向かおうとするの、るりだけだから…。早くそばに行ってあげたい。早くっ!
そして私は、二人の寝転がっているのを見つけたが…。
「瑠璃様っ…瑠璃様っ…!」
リアの声にも反応しない、ピクリとも動かないるりの姿があった。
「なんで…私をかばってのですか…なんで…なんでっ!」
リアはるりの体を抱きしめながら泣き叫んだ。
そしてリアの武器、鎖鎌はるりの背の方から一人の死体の所まで伸びていた。
鎖鎌の鎌の部分の所には精霊殺しだと思われる死体。多分、リアが殺したんだろうと私は思っていた。非常事態だったのだろう。正当防衛。
「リア…………」
私は、リアの名を呼ぶ。すると、リアは私の方を見る。
「…アリア様、生きていらっしゃったのですか。良かったです」
そして、リアの胸に抱かれている、るりの顔が少し見えた。
「…」
るりは、顔と背中を血だらけにして。死んでいた…。




