【安堵の日々は突然に血に染まる】 五章
自分が記憶を失う立場になった。
なんの違和感もないし、失ったという自覚もない。
俺が知らないうちに消え、二人がいなかったら記憶が失われていると分からないかった。
でも、二人がいても俺は記憶を失っていないとずっと心の中で思っていた。
だが、エノの反応を見ると自分が知らないうちに何かがあったと思う。
今まで俺に対して、ゴキブリを見る目で見ていたエノ。だが、一緒に食器を洗っている時、俺を見る目が変わっていた。ーー今までゴキブリ、腐った魚とか言っていたが、もうそんな目で彼女が俺を見ることはなくなった。
変わった点というと、そこだけだろう。
問題はそれ以外の日常。ーー俺の場合、殺され生き返っての日常が変わる事がないということだ。
あの食器洗いを終えたあと、実は俺、
死んだんだ。
首に剣を一振り。
一と言う字を書くように剣を振られ、首が跳ねて、俺は死んだ。
今回は犯人の目を見ていた俺は、エノではないと確信した。彼女は違う。それにこの城の中にいる人物ではない。ってか、この城には俺とエノとアリアだけしかいないのだから。
ということは、侵入者が俺達のいる城にいたということだ。
となると、死んでいる俺でも、二人が心配でしょうがなかった。
でも、俺は…また…。
俺は、暗闇の世界から、光の世界へと引っ張られ、
「ーーひっ!」
しゃっくりをしたかのような声を上げる俺。だが、俺は…いつもとは違う風景を目の当たりにし、声にならない驚きしていた。
「一体…どういうことだ…?」
俺は、殺される数分前に戻されていたのだ。
廊下は静寂に包まれ、四月後半ぐらいなのに少し寒気がしていた。
「…はやく…逃げないと…」
俺は、もうすぐ殺されるかもしれない。でも、もしかしたら夢かもしれないし、時間はそのまま動いているかもしれない。
「あっ、スマホ!」
スマホの電波は、一本も立っていない。でも、スマホの時間はそのまま動きっぱなしだ。
殺される前に一度確認しているから、時間が戻ったか、進んでいたかは分かる。
そして、俺はポケットに入れ居ていたスマホを取り、電源を付ける。
「ーー嘘だろ」
俺が目にしたのは、数分だけ戻ったスマホの時計だった。
「このスマホ、壊れているのか?」
でも、そんなこと今考えていても。…一度ここから逃げよう。たとえ夢でも、正夢になるかもしれない。
そんなことを思った俺は走って、自分が死んだと思われる場所を後にした。
「こんな所で死んでたまるかっ!」
そう言って、俺は走って逃げた。
息を切らし、できるだけ死んだ所から離れて、一度足を止める。
「さすがにここまでこれば大丈夫だろう」
俺は膝に手を当て、息を整える。
苦しくて吐きそうにもなるし、胸も痛い。だけど、息を整えているうちに、苦しさ、嘔吐間に胸の痛みも薄れていく。そして、痛みと嘔吐間と交換するように、体の重さがぐっときた。
そして、俺は廊下の真ん中で倒れた。
意識はしっかりとしている。でも、足に痛み、そして、腕も上がらない。ーーまるで全身が麻痺しているようだった。
俺は、一度深呼吸をして、再び息を整える。
「一体何をしていらっしゃるのですか瑠璃様?」
冷たくて、透き通ったような声。少しでも、この声を聞くと、誰がしゃべっているかなんてすぐに分かる。
「まっ、ちょっとした運動だよ。すまないなエノ。仕事の邪魔しちゃって」
そう言って、俺は立ち上がる。
「いいえ。邪魔にもなっていませんし、いるだけで少し邪魔だと思っているほどなので」
「いやどっちだよっ!?」
ツッコミを入れるように俺はエノにそう言う。
「それよりも、ここらへんでお客様を見ていませんか?」
エノは首をかしげて、俺にそう問う。
「お客様?」
俺も、同じように首をかしげ、エノに聞く。
「実はですね。今日は王都の労働について、王都で働いている人がお一人、城に招待をして、アリア様が労働について話し合いを行う日なんですが、城に招待したお客様の様子が見当たらず、時間になっても部屋に入ってこられないので探していた所です。…おっと、話が長すぎました。それでは」
エノはそう長々と説明して、頭を下げて俺を通り越す。
「ーーエノ」
俺はエノを呼び止める。
「はいなんでしょうか瑠璃様」
俺は息をのんで、
「探している人には注意をして、一度眠らせて身体検査をしておけ」
俺は、自分を殺したのはその客ではないかと思い、そうエノに伝える。
「何をおっしゃっているかは分かりませんが、元々そうするつもりでいたので。それでは」
エノはそう言って、一度頭を下げて再び俺に背を向け歩き出す。
「元々そうするつもりだった…か」
もしかしたら、エノも客を怪しんでいたかもしれない。
そんなことを思いながら、俺は廊下を歩き始めた。
廊下にいていると、寒気がして、いつ殺されるかの心配で落ち着かない。
でも、エノを一人にしていいのかな?
そんなことが俺の脳裏を過る。
女の子を一人にしていいのか?
俺は立ち止まり、振り返る。
振り返ったが、もうエノの姿はない。でも、うっすらと足音がする。
エノの所まで走って一緒に見回るか? でも、俺がいると手間かけさせるだけかもしれない。俺は、ただのお荷物か…。
そして、俺は再び振り返り、エノと別方向に歩いていく。
その後。
エノは客を見つけるが、アリアには会うことはなかった。
「やっぱり、何か持っていたんだな」
俺は、城の庭のベンチに座りながら、ほうきをもって作業をするエノに俺はそう話しかける。
「はい。剣二本とナイフを一個所持しておりました。回収はしました」
エノはそう言って、ほうきで落ち葉を掃いていく。
「やっぱりか…そういや、アリアが労働人にあっていないと首をかしげて探していたぞ。一体、武器を取り上げてから、何をした?」
俺はそうエノに問うと、
「今頃、服一つも着用せずどこかの牢獄にでも入っているかもしれませんね」
そうエノが言うと、俺は、背もたれがないベンチだったため、後ろに倒れた。
「大丈夫ですか? 瑠璃様」
エノは作業をしながら、目線すらこっちにやらず俺に「大丈夫ですか?」と聞く。
「絶対心配していないよねっ!? …でも、まさかあの労働人はこの城の下に…あ~気味が悪い」
俺はそう言って、立ち上がり、地面を見て、体を震わせる。
「瑠璃様がこの城にいる時点で気味が悪いです」
「それ酷くねっ!?」
そう俺が叫ぶも、エノは黙々と作業をしていた。沈黙の時間が少し経ち、俺は再びエノの掃除をしている前でベンチに座り、真っ青な空を見上げていた。
にしても、やはりエノには俺の助けなんかいらないのか…。
なんでも一人でできて、超絶完璧で戦闘力も俺より倍に強い。いや、俺よりもはるかに強い。
エノにこれ以上の武器を持たせると、まさに鬼に金棒だ。でも、俺が今一番気にしていることはそれじゃない。あの、死んで、その死んだ後の時間に戻っていた時のことが一番気になっていた。
異世界ファンタジーって、もっとすごいような力をもって転生されるはずでは? いや、生き返るだけでも、ほぼチートだろう。だけど、時間ごと戻るなんてこと…。
「何を難しそうな顔をしているのですか?」
エノは掃除を黙々と続けていたが、首をかしげて空を見上げて考え事をしている俺を見て、そう問いかける。
「いや、何でもない」
俺はそう言って、立ち上がる。
「さっ、俺も手伝いを…って、もう終わっている…」
そう俺がつぶやくと、エノはほうきとちりとりを右手に持ち替えて、視線を俺の目と合わせる。
「大丈夫ですよ。この家のメイドとして、一人でできないといけませんので」
城の使用人って、結構大変なんだな…。
「まっ、なんでも一人で無理をせず、たまには俺にも頼ってくれよな。家事ぐらいは俺、得意なもんだから」
そう言って、親指を立てて自分の方に指先を向ける。
「そうですか、それは助かります。でも、今は大丈夫です。ありがとうございます」
エノは頭を下げる。
「それじゃあ、中に戻りますか」
「はい、そうですね。戻りましょうか」
俺とエノは城の方に体を向け、歩き始める。
すると、城の出入り口からアリアが出てきた。
「あっ、るりとエノ。おはよう」
アリアはそう言って、早歩きでこちらに向かってくる。
「アリア様、おはようございます」
「おはよう、アリア。いい朝だな」
二人はそう言って、アリアと朝の挨拶を交わす。
「うん、おはよう。今日は二人で庭になんか出てどうしたの?」
アリアはそう言って、首をかしげる。
あれ、俺のいい朝は無必要だった?
「はい。今日は私は庭の掃除をやっておりました。瑠璃様はベンチに座って空を見上げていました。何もないのに、謎ですね。瑠璃様はやっぱり変な方では?」
「なんかすげぇー変な人だと思われているような…。じゃなくて、考え事をしている時は空を眺めてしまうんだよっ! それが俺の癖なんですよエノさん」
俺はそう言って、『とほほ~』と声を出してガクリと頭を下げる。
「でも、エノ。考えたいときは空を見るといいと私のお父さんも言っていたわ。だから、るりがやっていることに変などないのよ?」
なんか色々と説明があれだが、なぜかアリアに助けられたような…。
「そうですか、それは申し訳ありません瑠璃様」
エノに謝られても、なんかあれだな…。
でも、この城に住んでいる二人から、少しでも信頼を得られたのなら、俺はそれでいい。 最初の目標は達成されたということになる。次の目標は、エノの信頼を完全に得ることだ。今の状態を見ると、確実に信頼されているとは感じられない。しっかりとこの城のメイドに信頼をを得ないと。
まっ、理由はないのだけどな。ーー嘘、本当は殺されるのが怖いからです。
「うんっよしっ!」
と、アリアはエノの頭をなでる。
俺はそれをうらやましそうに見るが、アリアとの目線があったため、すぐにそらした。
「ん? あっ、ごめん。エノ、これから一人、お客様が来るらしいの。だから準備をお願いっ!」
アリアは手を合わせて、「このとーり」と言わんばかりに頭を下げて頼む。
「承知いたしましたアリア様。即急に準備に取り掛からせていただきます」
エノはそう言って、早歩きで城の方へ戻って行った。
「にしても、本当に城に住んでいる人って、毎日忙しいんだな。それよりアリア」
「ん? …なに?」
アリアは首をかしげる。
「この城にお客様がって、つい最近来たところだろう。一体誰が来るんだ?」
そう俺が問うと、アリアは腕を組む。
「剣聖団の人たちよ。まったく、別にここは安全だから来なくていいって言ってあるのに」
いやいや、つい最近この城で何度か殺されたような気がするのだけど、決して安全ではないはずだ…。
「それで、剣聖団が来て何をするんだ?」
そう俺が問うと、
「城の牢獄地下、そして、周辺と城の中全部の点検よ」
そうアリアが言った刹那、俺は汗がどっと流し始めた。
「どっ、どうしたのっ!? 急に汗がどばーって急に出て! なにっ、病気っ!?」
病気でもなんでもない。ただ、エノの隠した労働人が見つかった時のことを考えると、話を聞いた俺も何かされそう。
「まっ、大丈夫だから…アリアはアリアで何かやることないのか? それと俺が手伝えることがあれば何なりと…」
俺は体を少し震わせ、そうアリアに問う。
「あっ、ごめん。少しだけ手伝ってもらっていい?」
アリアはそう言ってまた手を合わせて、頭を下げる。
「おうぅっ! なんでもやりますよっと!」
俺は腰に手を当て、そう胸を張ってその胸にこぶしを当てて言う。
そして、そのあとやらされた作業は、お客が座るであろう椅子の点検と、机の雑巾がけを何度か繰り返してやった。
あとでアリアから聞いた話なのだが、剣聖団と一緒に、一人お客が来るようだ。アリアにエノ、もちろん俺は客が誰の事かはわからない。
この城に俺が来て、二人目ぐらいの来客。頼むから死ぬ関係の来客は勘弁してくれ…。
「瑠璃様、もう大丈夫ですよ。休憩に入りましょうか、私の方も終わりましたので。休憩が終わったら、出入り口の方へお客様お迎えに行きますよ。ここにいる限り、使用人としていてください。あの人たち、結構厄介なので」
剣聖団、一体どんな奴らなのだ?
「わかった。そこんとこは、まかせてくれ」
そう言って、俺は真顔で胸にこぶしをぽんっと当てる。ーー二回目、そろそろ痛くなってきた。
「お手数をおかけして、申し訳ございません。それと、頼みましたよ」
エノはそう言って、少し笑みを見せて頭を下げる。
「おうよっ!」
俺は親指を立てて見せつけるように前に出す。
「エノっ! そろそろお見えになる頃よっ!」
城の出入り口の方からだと思われる所から、アリアの声が聞こえてくる。
「はいっ! アリア様、今行きます! それでは瑠璃様、頼みます」
そう言って、エノが出入り口の方向へと向かって歩き始めた。俺はそのあとをついていった。
「そういや、剣聖団がこの城の隅から隅まで点検するらしいな」
「はい」
「労働人は?」
そう俺が問うと、エノは一度止まる。
「わいろでも渡しておけば、労働人なんて…」
そう言って、エノは再び歩き出す。
「本当に少しの言葉で何をやったかがわかってしまうな」
そう言って、俺はエノの後を追う。
そして、俺とエノはドアの前に並んで立ち、両手を重ねる。
「にしてもるり。結構使用人の仕事に慣れているのね」
アリアがそう言うと、俺は目を閉じながら、
「まっ、家族は色々とあって、ばらばらになったけれど、元々は仲良くて、でかい家に住んでいたんだ。その家にお客を入れる時は、いつも使用人のようにふるまって、実際にいろいろとやった事があるんでな」
「瑠璃様。アリア様は主様です。少し口を気をつけては?」
「あぁ、すみません。ということで、もうそろそろ到着されるようなので、アリア様、真ん中にどうぞ」
そう言って、俺はアリアを出入り口と向かい合うようにアリアを立たせて、剣聖団を待つようにアリアに言う。
そして、エノがドアに駆け寄って、耳を当てる。
「馬車の音…もうご到着されましたか。瑠璃様、こちらに戻って、ドアを開ける準備をしてください」
エノにそう言われ、俺はアリアに一回ウィンクをして、ドアに手をかける。
俺のウィンクを見たアリアは、少しにこっとしていた。
「それでは、客様の入場で…いや、開けてはいけませんっ!」
エノはそう言って、急にドアを抑え始める。
「瑠璃様、ドアを押さえつけていてくださいっ! 本当に、私たちは騒ぎに巻き込まれやすいですねまったく」
俺はエノの命令され、ドアを押さえつける。
「エノ。一体どうしたんだ」
「剣聖団のご到着は少し遅れるかもしれません。氷壁っ!」
「ひょうへき? 何ですかそれは?」
俺はドアを抑えながらそうエノに問う。
「氷の結界? そんな感じのです。とりあえず、ここは防いどかなければと思いまして、氷の壁を作らず、このドア自体を凍らせました」
そう言った時、俺は不満な顔をした。
「どうしたんですか瑠璃様?」
「いや、この状態でいていたら、俺まで凍ってしまうのではエノさん?」
そう俺が聞くと、少し間を開けてエノが目をそらした。
「ほらやっぱりぃっ!」
でも、今ここを抑えておかなければならない。この二人の怪我を心配するようなことはしたくねぇ。だから、ドアが完全に凍りきる少し前に手を離せばっ!
「とりあえず、エノ。誰が攻めてきているかは分からないが、他に侵入経路がないか、城を見回ってこい。それと、アリアを死ぬ気でじゃなくて、エノ自身もケガしない程度にアリアを守り抜けぇ!」
俺がそう言うと、エノは頭を下げて、
「承りました」
アリアの手を引いて、城の奥へ行こうとしたが、アリアが立ち止まって、振り返る。
「るりはどうするのっ!?」
なぜか、口調が怒っているように聞こえるのだが? まぁあ、急に起きたことだ、アリアも混乱している。
「あとから行くっから、先に行っててくれっ!」
そう言って、俺はドアの温度が急激に下がっているのを手で感じ取り、ドアから手を離すタイミングをうかがう。
これまで、あがきもがいてきたんだ、ここで死んでたまるかよ、ここで誰かを死なせてたまるかよ。
ぜってぇここをとぉさせねぇっ!
「クソがぁぁぁぁっ!」
俺は声を張って、誰かが押してくるドアを必死こいて押さえ続けた。
エノの出した氷のおかげか、押される力にはどうにか耐えられている。それに、俺はここで一人、ドアを押しているが、向こうは何人かで押しているだろう。さすがに力が強すぎる。
「まだ凍らないのかっ!?」
俺は歯を食いしばり、ドアを抑え続けた。
そして、ドアの温度が急激に下がり始め、手が痛くなった時、俺はドアから手を離す。それからはドアを突き破ろうと体当たりしてくるような音もならず、出入り口付近は静寂に包まれた。
「やっと落ち着いた環境になった。…でも、今落ち着いたらいつ殺されるかわからない。用心しながら、さっさとアリアとエノの所へと向かうか」
そう言って、俺は城の奥の方へと走って行った。
「にしても、エノ…これはだめだろう」
道中、何度か二人が通った後が残ってあり、そこに向かうと、一つの廊下だけが、急激な寒さに包まれていた。
地面は凍っており、とても歩けるような状態ではない。
そして窓、ここも全面凍っていた。外の景色はぐにゃぐにゃになって見える。そして、誰かがずっと窓を割ろうと必死に叩いている。
「一体何をしたんだエノは…? ってか、うるさいから窓を叩くのやめろっ!」
そんなことも言いながら、俺は氷の上を滑りながら一つの廊下を通って、後にした。
「にしても、本当に広い城だぜ。でも、氷の道ができている時点で、もうどこに向かっているか、まるわかりなんだけどな」
そして、走り続けていると、城の裏にある広い広場についた。その広場には、何かを話し合っているアリアとエノの姿があった。
俺は声をかけようと、右足を一歩、踏み出そうとした。
「おっーー」
俺が声を出して二人を呼ぼうとした時、ドアが急に開いて俺の声をかき消すかのようにドアは大きい音を立てた。
そして、俺は音を聞いた瞬間に、壁に隠れてしまった。
「アリア様っ、早く逃げてくださいっ!」
俺は壁から少し顔を出し、状況をうかがう。
俺が見た時は、エノが自分の背後の方にアリアを押して、守ろうとした姿があった。
城のドアを勢いよく壊して入ってきたのは、変な服装をした男の軍団だった。
そして、その軍団に応戦するかの様に魔法を使い始め攻撃をしたエノは、何十発の光の玉、たぶん魔法だと思われるものに攻撃され、その場に倒れこむ。
「この女は始末した。次はあの金髪の女だ。さっさと殺して、目的のものを持って帰るぞ」
一人の男がそう言って、後ろにいた軍団たちは声を揃えて、
「はっ、承知いたしました」
と、言う。
異様な光景だった。
俺はその軍団がエノを踏みつけて通り過ぎた後、俺はエノのそばに駆け寄った。そして、
「おそ…い…」
「ごめん。少し向こうの方が手間取って…」
俺は嘘をついてしまった。怖くて、壁に隠れて、遅くなったのに、一瞬でボロボロになったエノの心に傷を入れてしまったような気がする。
「はやく…あり…あ…様の…ところ…へ…………」
エノは何もしゃべらなくなった。
「おい…エノっ! 目を覚ませよ…何か言ってくれよっ! エノっ!」
全部俺のせいだ…全部…。
「このクソ世界がっ! ーーっ!?」
俺が叫んだ刹那、俺の背中に何か熱いものと、背中の一部から激痛を感じた。
そして、俺の意識は朦朧としている状態にされた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
聞いてるだけでも、苦しんでいると分かるような叫びが城内に響いた。
「クソ…またこれかよ…」
俺はそう苦しそうにつぶやき、最後の力を振り絞って、手を動かす。
そして、エノの手を握った。
「次だ…次こそお前ら二人まとめて救ってやるっ! それまでーーっ」
俺が何かを言いかけた刹那、殺された。
「生き残りがいる…。全員、あの金髪女の捜索をやめ、城内に生き残っている奴がいないか捜索しろっ! 見つけ次第殺せ」
そう、俺の死体を見ながら男は仲間だと思われる人たちに言う。
その後城の中で何が起こったかは分からない。そして、俺の命はどうなったのかも。
城の裏広場に残されたのは、頭に獣耳があって、黒い髪でメイド服を着たエノと、ブレザーを着て、自称何も力を持たない男、瑠璃、つまり俺とエノの死体だけが残されていた。
その俺とエノの死体は、手をつないでうつむけのまま動かず、暗い夜を迎える。
俺とエノの死体は、窓から差し込んでくる月明かりによって照らされていた。
そして、死んだはずのエノの手が、死んだ俺の手を強く握った。
「瑠璃…様…」




