【君のためなら、死の一つや二つ】 三章
結局、俺は一人では何もできないと分かった。
でも、そんなことぐらい、わかっていたさ。ーーいつも一人で苦労して、苦しんで、もがいて、泣いて、全部一人だった。家族は俺に話そうともしなかった。
俺はそんな家族にものすごい憤りを感じた。
家族なんて、くそくらえ。
毎日、他人を否定し、家族にも否定し、自分のにも否定する。
何を? んなこと簡単だ。
生きていることにだよ。
「寒い…寒い…寒い…」
そんなことをつぶやきながら、吹雪で先が見えない道を歩いていた。
さすがに制服だけだと、この真冬のような寒さには耐えられなかった。
全てを失い。仲間まで失い、精神も身も心もズタボロになった俺は…凍え死ぬしかなかった。
「君は…もっと苦しむべきだ…」
聞き覚えのない声。その声の正体はきっと目の前に立っているこの人型の煙のような物体だろう。
手を伸ばし、つかもうと試みるがつかめない。手を取ろうにも握れない。だって、その物体は煙だから。
「いつか、君は私を殺しに来る。それは確実だ。でも、未来が変わるなら、君は私をこの暗闇の世界から助けてくれるだろう。その日まで待っている」
「誰だ?」
「だから、私を助けるか、殺すまでは君が生き続けることを保証しよう…」
「なんのことだっ!?」
だんだんとこの暗闇の世界で、朦朧としていた意識が活性化し始め、強い口調で俺は黒い煙の物体に怒鳴る。するとーー、
「いずれわかるさ。君はまた、きっとここに来る。最後の時は、私を…」
物体が話している途中、俺は黒い煙に包まれる。ーーそして、何も聞こえなくなった。
「重たい…苦しい…」
体が自由に動かせない。
鎖のようなもので、足から首までぐるぐる巻きにされているような感覚だった。
そして、うっすらと意識が回復し、少し目を開ける。するとーー、
「嘘…だろ…」
俺の腹部には何本もの剣が刺さっていた。今この状況を見て、少しでも意識が回復したことが運のいいことなのか悪いことなのか…。
そして、後から込み上げてきたものすごい激痛。声にならない…。ってか、出せないっ! 助けを呼ばないと…。誰か…誰か…。
そう心の中で叫び続けるが、だれも来ない。まぁ、当たり前だろう。声に出していないのだから。
このままでは絶対に死ぬ。本当は抜いてはいけないが、抜くしかっ!
刹那、俺の足元に、見覚えのある女の子がいた。そしてーー、
「あなたは危ない人だと感じました。そして、私の家族を殺した精霊殺しと同じ瞳をしていました。…私はもう家族を失いたくない。だからっ! 私の唯一の家族を守るためにあなたを殺します…」
そして、自分を殺した犯人が近づいてくる。
「…っ!」
俺は、今まで自分を殺してきた犯人の姿をしっかりと目に焼き付けた。
前と同じ、瑠璃色の瞳、そして窓から差してくる月明かりで照らされた黒い髪の少女。
今まで俺を殺してきたのは…ーー、
「それでは、死んでください…」
俺を殺したのは、アリアの城のメイド…エノだった。
再び死の世界に導かれた俺は、目を閉じ、暗闇の中ずっと突っ立っていた。
今まであったことが走馬灯のように脳裏を過る。
「あぁ…結局、また、死んでしまった…」
そう小さくつぶやく。
死んで、生き返ってすぐ、死んだ。…情けない。
俺を殺した人物が物凄く近くにいた。しかも知っている人がいた。さらに、近いうちに殺されるかもしれないと警戒したのにも関わらず。隙を見せてしまった。
本当に、情けない。…学習しない。…本当に俺は馬鹿だな…。
「まぁ、あなたが後悔しようが、私には関係ないけど…ないけど…これからのことに関係してくるからそのマエノス思考をどうにかしてもらわないといけないのよね」
黒い煙が急に出てきて、俺にそう話しかけてきた。
「一体お前は誰なんだ?」
そう問うがーー、
「いつか分かること。それじゃあ…」
「…っ!」
俺が話そうとすると、急に首に激痛が走る。ーーまるで首を閉められているような感覚だ。いや、それ以上だ。
痛い…痛い…苦しい…。
やがて痛みは薄れていったが、それと同時に目が覚める。
白い布団には自分のと思われる血が大量にしみ込んでいた。
「また…。一体、だれがこんなことを…」
涙を零し、そうつぶやくのはーー、
「アリア…」
俺はそうつぶやき、視界が暗くなったり明るくなったりする中で、アリアの姿を眼球に入れた。ーー彼女は金髪の少女のため、たとえ視界が曖昧状態でも髪を見たらすぐに分かる。
「あっ! 起きたのっ! 本当に最近災難よね。あなた」
アリアにそう言われ、俺は、苦笑いをする。ーーアリアは頬を赤らめ、人指しゆびで涙を取る。
そして、アリアは苦笑いした俺を見て、赤らめた頬を少し膨らませる。
「本当に笑い事じゃないんだからっ!」
まだ少し朦朧とする意識の中、俺は必死に起きようとする。
「あまり無理しちゃダメっ!」
と、アリアに言われ押し倒される。
「痛っ!」
「ーーあっ! ごめんなさいっ!」
そう言ってアリアは俺の肩から慌てて手を離す。
「大丈夫!? 痛くない?」
アリアは顔を近づけて、俺にそう聞いてくる。
「あぁ、大丈夫だ。それに、目が覚めたしっ」
そう言って、語尾を強調し、勢い良く起き上がる。
「ーーダメだって! ついさっきまで死んでいたのですよっ!」
「大丈夫だ。でも、少し腹部のあたりが痛いな…」
俺は一度腹部に手を当てて、手を見る。
「さすがにもうついていないか…」
「当り前よ。出血量は少し酷かったけど、すぐに気付いて止めたし…なんで朝からこんなことが…」
アリアはそう言って、目の涙を拭う。
「悪いな…でも、もうそんな地獄は、終わらせる」
さすがに今日とは言えないが、近いうちに。
すると、誰かが部屋のドアにノックしてきた。
「主様。少し失礼します」
そう言って、誰かがドアを開けて入ってきた。
「お客様の状態はどうでしょうか?」
部屋に入ってきたのは、何度も俺を殺してきたエノだった。
「うん。大丈夫。どうにか一命はとりとめたわ」
そう言って、アリアは胸をなでおろす。
「そうですか。まぁ、良かったですね。でも、一体その方はどこからやってきたのですか?」
エノは眉間にしわを寄せ、俺の方を見る。
「やってきたと言われても、君は俺を知っているはずでは…?」
そう俺が言うと、エノは首をかしげる。そしてーー、
「いいえ。私はあなたにあったことなど記憶にございません。それか、どこかで会ったとでも?」
そうエノが言う。
「いや…でも…」
俺はうつむいて、考え始める。
「でも、私はるりにエノが合うところを何度も目撃しているのだけど…」
「ってことは、やはり俺とエノと出会っている…」
さらに考え込む俺。頭の中はごっちゃになり始めて、悩み、悩みつくした。
「まぁ、アリアもそう言っているということだし、きっと会っているのだろう」
と言っている俺は、何度か殺されたのだがな…。
「主さっ、アリア様。もう名前を知られているのですね」
「いやっ、無視って…あぁ、もういいや。どうぞ話を続けてください」
エノは俺をサラッと無視して、アリアの方に視線を向ける。
「あぁ…うん。でも、この人は信頼できる人だと分かっているから大丈夫っ! …たぶんっ!」
「いや最後の必要だったっ!? 俺はそこまで信頼されていない系?」
俺はそう言って、一度深呼吸をする。
「でも、まっ。初めて出会って人が信頼できるかできないかと聞かれると、そこは皆できないと答えるだろう」
俺も学校生活では、全員を否定している時点で信頼していないと自分に語り掛けていたっけ? …ってか、なんで語り掛けていたんだ俺? 中二病の時期でもあったかな?
「そっ、そうよねっ!」
と、アリアは言うが…。
「でも、出会って間もない人に名前を教えるなど、少し気が緩んでいるのでは?」
やばい。エノがアリアの心に釘を刺した。
「まぁ、俺は誰にも名前を言ったり、流出させたりしないし、安心してくれ」
と、言っている俺だが、エノの信頼はつかめていないため、まだ怪しまれていた。
「まっ、名前が広まった時はすぐにわかりますので…あとは分かっていますよね」
「何をされるか…だよな。そんなの、何度も経験してきたし、わかっている」
俺はエノに真剣な眼差しで見つめ、そう言う。
「そうですか。なら、大丈夫だと思います」
だと、思います…か…。ーーまだ信頼されてない…。
「そっ、そうよねっ! …うん良かった…」
そう言って、安堵したアリアは一度深呼吸する。
「一つ…さっきお客様が言っていたことが少し、ほんの少し、ミリ単位に気になるのですが、何度も経験してきたし、とはどういうことですか?」
早速ややこしくなりそうなルートに突入したような。
「まっ、昔色々とあって…」
そんなことを言って、俺はうつむき、場の雰囲気を暗くする。
ってか、この世界にもミリ単位とかあったんだ。
「そうですか。それでは、私は仕事が少し余っておりますので、失礼します」
エノは目を閉じ、アリアにそう告げ、部屋を出て行った。
「にしても、本当に不思議よね。エノとるりは何度もあっているのに、エノは記憶にないって…」
アリアは首を傾げ、そう言う。
「一度寝て、記憶が全て消去されるという人もいる。エノはそういう病を持っているかもしれない」
記憶って、失われると、本当につらいよな。悲しいよな。苦しいよな。それを乗り越えないといけない関係者と本人の気持ちを考えると、非常に胸が痛む。
「…」
俺は、胸のあたりに手を当て、唇を曲げる。
沈黙の続く中、急にアリアはでも…と声を出す。
「どうした?」
「一度寝て記憶がリセットされる。それじゃあ私のことも忘れているはずだよね…?」
アリアの言葉は正しかった。
「まっ、確かにそうだな」
アリアが何か思いついたのかと、少し期待してしまったな…。ってか、あまり信頼されていないほどの関係なのに、なんで俺は呼び捨てで…。
「はぁ~。もう少し考えてみるか…」
俺は胸から手をおろし、再び考える。
今思えば、なんで一度殺した相手を、もう一度殺しに来るんだ? もう敵は始末していると認識しているはずなのに、何度出会っても驚く様子もないし、ただただ、同じことを繰り返して時間が進んでいくだけだ。
このまま、このことが解決しないと、エノにまた殺されて、生き返って記憶がないと言われる。これをどうにか解決しないと。
「このクソみたいなループ。これをどうやったら覆せる。覆すカギは…」
すると、俺は手で顔を隠し、うつむく。
「どうしたのるり? 体調でも悪いの?」
そう聞いて、背中をさすってくれるアリア。でも、俺は今、アリアに背中などさすってなんてほしくない。俺の願いは…ーー、
「ーーエノっ! 来いっ! アリア逃げろっ!」
俺がそう叫んだ刹那、部屋の窓ガラスが全て割れると同時に、ドアを蹴り、勢いよくエノが入ってきて、アリアは頭を手で隠してしゃがむ。
「アリア様っ! 大丈夫ですかっ!」
エノは部屋に入ってきて、すぐにアリアの方に駆け付ける。そして、俺は手を顔から離す。するとーー、
「一体…どういうことだ…?」
今、自分がいる部屋全体に、人の姿があった。
「これはまずい…。アリア様、逃げてください。ここは私がっ!」
エノはアリアの前に立ち、腕をクロスさせた。
「この城に入ってきたこと後悔させてやる…」
すると、エノの後頭部に、獣耳みたいなのが出てきて、食いしばった歯の端っこのが牙のようになる。そして、瞳が瑠璃色に変色した。
「…っ」
俺は再び胸に手を当てて、苦しみ始めた。
「お前らを…殺すっ!」
エノはそう言って、両手に剣を出した。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
声を荒げ、剣を素早く振り、人の骨を牙で噛み砕き、侵入者たちを殺していく。
侵入者はただ寄ってたかってエノに攻撃をしている。無表情で、人を倒そうと必死になっているのが手の動きだけでわかる。
「アリアっ! 逃げろっ!」
俺は苦しみに絶する中、声を荒げてアリアそう言う。
さすがにこの人数はエノでも…。
そして、俺は侵入者の顔を見た。
「…っ!」
侵入者の顔を見た時、俺の息が一瞬、止まった。
俺が見たのは、侵入者の瞳だ。エノみたいに瑠璃色になっているとかじゃない。瞳の色は赤だ。でも、その同じ目をしている奴がいた。それがこの侵入している奴ら全員だった。
「このクソ異世界ファンタジーがっ!」
俺は人の瞳の恐怖のせいか、少し混乱状態の中でそう叫び、胸元で手を強く握る。
「アリア様っ! 早くっ!」
エノは敵の攻撃を剣をクロスさせ止めている。でも、敵はまだ数人残っている。
でもこいつらは、一人に体を支配されている。到底一人で数人を同時に倒すのは不可に近いだろう。エノは怪我を負っているから一気に倒せる力は出せない。俺との役割分担は難しいだろ。ーー襲撃者のガタイを見る限り、力を強い奴をあえて選ばれている。これははっきりと言ってまずい…。
俺は汗をたらし、呼吸を荒くする。
「アリア様っ! はやく…早くにげぇ…てぇ…」
エノの体力はだんだんと削られていく。
「ーーエノっ! あとは体力勝負だっ! もう少し耐えてくれっ!」
俺はエノの意識が朦朧とする中そう言い、眠らせないようにする。ーーそんな中、俺は空っぽの頭の中で何かを探し続けた。
「そんな…耐えろって…」
いや、私ならまだやれる。
エノはそう心の中で自分に言い聞かせる。
「くっ…」
エノは歯を食いしばり、耐え続ける。そんな中、頭を抱えてずっと小さな声でごちゃごちゃ言っている俺は、何もしゃべらないアリアのことを心配になりながらも、ずっと頭の中で何かを探していた。
「何を頭を抱え込んでいるのですかっ! このままじゃぁ…」
エノはそう言って、防ぎ続けている敵の剣を押し飛ばそうとするが、短時間で敵をなん十人と倒したので、体力、魔力も底につきそうな状態だった。
「…いやがったな」
俺はベッドから飛び起き、エノに襲い掛かっている男の頬に思いっきり拳をぶつけた。
「エノっ! アリアっ! 俺を思いっきり攻撃してあの窓の外に投げ出してくれっ!」
俺はそう言って、目標の窓に向かって、走る。ーー命が無くなるかもしれない。だけど、何もしなくて死ぬより、何かをして死んだ方がマシだ。当たって砕けろだ!
「城の横にある建物とは少し距離がある…」
でもこの世界が異世界ならーー、
「ーー俺を殺してもいいっ! だからっ! さっさとしろっ!」
すると、ベッドの下に隠れていたアリアが急に出てきて、俺の方に手の平を向けた。
そしてーー
「ごめんなさいっ! アイスストーンっ!」
アリアの手から大きな氷の石が出てきて、俺の方一直線に向かっていく。
「何がなんだか知りませんが。アリア様がやるなら私もっ!」
エノは腕を後ろにして、アリアの攻撃が俺に当たる前に背中を思いっきり蹴り飛ばした。そして、俺は声を出す間もなく、一つ割れていない窓を突き破って隣の建物に飛び移った。
「マジ感謝するぜ二人ともっ!」
俺は空中に舞いながら、そうつぶやく。
「精霊かなんか知らねぇけど、居てて本当に良かった。アリアにまた礼ぇ行っとかないといけないな」
俺は癖のあるしゃべり方で独り言。
二人の攻撃を受ける時を予測し、アリアから受け取った精霊に結界を作るように願っていた。もちろん。背中で起こっていたことだ。しっかりと結界ができていたかはよくわからない。
「いけぇぇぇぇっ!!」
でも今は生きている。だから、俺はこの操り人形を操っている人物を殺す!
そして、俺は隣の建物の屋根に背中を強打したが、移ることができた。
「痛たたた…まさか本当に計算通りになるとは思ってもいなかったぜ…でも、ここに来たらやることは一つ」
ついさっきまで頭の中の記憶を忘れないようにし、俺は頭に手を当てながら走った。
「ついさっきまで見た、頭の中で流れていた映像通りだったらっ!」
この先に…あの野郎がっ!
そして、俺は目的地に到着。ーー俺の目の先には、変な動きをしている人がいた。
「ここはアリアの城の敷地、さすがに襲撃する以外こんな所に来るはずもない」
俺はそう言って、手を強く握り、走り出す。
「俺の予想が正しければ、記憶が正しければっ!」
そして、俺は声を荒げ、一人で変な動きをしている男の頬に自分のこぶしを勢いよくぶつけた。
「あぁぁぁぁっ!」
見知らぬ男は俺の拳の衝突によって、声を上げて地面に倒れこんだ。
それと同時に、アリアとエノの居る部屋の襲撃者が一斉に倒れた。
「エノっ、一体何が起こっているの!?」
「そんなことを言われましても…」
もしかしたら、お客様が…。
「アリア様っ! 今すぐここから逃げてくださいっ!」
エノは割れた窓の枠に足を乗り上げ、城のもう一つの建物にジャンプして移った。
「まさかだと思いますが…何かお客様がこの襲撃事件のことについて何かを…」
建物の屋根をひたすら走り、エノは瑠璃を探す。
「さすがに、あの普通の人間には魔法使う者には勝てないはず。それに、こいつら完全に精霊殺しの匂い…」
でも、そこらへんに匂いの原因だらけでわからない。
「…ん?」
この匂いは、お客様の…。
「…血っ!?」
エノは全速力で、瑠璃の匂いをたどった。その頃瑠璃はーー、
「がぁあっ!」
殴った男に殴り飛ばされていた。
「いてぇなクソが。…本当にこいつ強いな。まさか、ナイフで頬に傷を入れられることになるとは…あぁ、血が止まんねぇ」
俺は頬に付いている血を手で拭うが、まだまだとどんどんと血が出てくる。
「もうあきらめては? あなたは所詮普通の人間。私には勝てない」
男は、俺を見て、笑う。
「あぁ、俺だけじゃ…な…」
そろそろ匂いに気づいてくるだろうに。後は俺の体力勝負。…頼んだぞ…エノ。
「それじゃあ、ここで死んでくれないかなっ! 元々お前などに用はないっ!」
そう言って、男は俺にナイフの先を向け、走ってきた。
俺は少し笑みを浮かべ、目を閉じる。
「んじゃあ、殺せ」
俺は腕を広げ、目を開けて、笑った。
さすがにブレザーではナイフの刃は防ぐことができない。でも、そんな防御などいらない。攻撃できる人が一人いればなっ!
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
俺が笑った刹那だった。ーー俺の後方から声を荒げ、全身血だらけになって走ってきたのはエノだった。
「本当に、今日だけでどんなけの奴が声を荒げ、怪我をし、人を殺したり殴ったりしたのだろうかな…」
エノが男に攻撃する前に、俺の腹部に思いっきりナイフが刺さった。ーーぐちゃっと音を立てて、ナイフが俺の肉を貫通する。
「エノは今だぞっ!」
俺は男がナイフを刺した直前に、ナイフを思っていた方の手首を思いっきり握った。
「どうだ? こうやって、攻撃しても、デメリットがあるということがわかったろう」
男は戸惑った顔でーー、
「なっ、何をっ!?」
俺は握っていた男の手首を思いっきりひねった。
「ーー痛いっ! でも、これで終わりだ!」
少しの間、短い間に俺は男の腹に自分の背中をぶつけ、背負い投げをした後の状態になるが、男の背後からエノは持っていた剣を男と同時に俺も串刺しにした。
「さらにきやがったぜ…」
これで、刃物が刺さったのが二回目。
今…こうやって意識が続いているのが奇跡だ。
「だが、これで攻撃は終わりだと思うなよっ!」
俺は男の腹に自分の指先を付け、斜めに一直線に傷を入れた。
「精霊なめんなよっ!」
そう言って、俺は笑みを浮かべる。
精霊は使用者が願えば武器にもなる。でも、戦う用じゃない。本当ならな。でも、今は違う。自分の身を守るために必死なんだ。だから、今はごめん、アリア、少し借りるぞ。
「燃え盛れ炎…今こそ見せろ精霊の力をっ!」
俺がそう言った刹那、俺と一緒に串刺しになっている男の体が燃え始めた。
「てめぇ、の心臓部に片手当ててんだっ! 死んだふりなど今の状態するお前は馬鹿だな」
そして、俺の服まで炎が燃え移ってきた。
「おっ、お客さまっ!」
刺さった剣を抜こうとしたのか、エノは剣の持ち手の所を握った。
「ーー剣を抜くなっ! 剣を抜いてしまったらこいつが逃げてしまう」
そう言って、自分にも貫通している剣の刃を俺は握った。
「どうしてそこまでっ?」
「どうせお前に殺される命だ。こんな何度も殺される命を持っていても…」
そして、瞬く間に炎は俺の体を包んだ。
「あぁぁぁぁぁっ!!!」
俺は声を上げる。
熱い…熱い…でも、この心臓が止まるまで耐え続けてやる。
これが俺に残された試練だっ! 最後まで耐え抜くか死んでやるっ!
俺はそう決めたんだ…。




